報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「特急“リバティ会津”117号」

2021-03-11 20:22:32 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月6日12:39.天候:曇 栃木県日光市今市 東武日光駅]

〔♪♪♪♪。「下今市、下今市です。お出口は、左側です。下今市駅では、列車の切り離し作業を行います。前3両、1号車から3号車が会津田島行き、後ろ3両、4号車から6号車が東武日光行きです。お手持ちの特急券をお確かめの上、お乗り間違えの無いよう、ご注意ください。……」〕

 私達を乗せた列車は下今市駅に到着しようとしていた。
 ここは大観光地、日光と有名温泉地、鬼怒川温泉への分岐点である。
 先に発車するのは前3両であり、私達の乗っている会津田島行きである。
 しかしそれでも4分間停車するということで、ホームの自販機でジュースを買うくらいはできそうだ。

 

〔「ご乗車ありがとうございました。下今市、下今市です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕

 愛原:「ちょっと、ジュース買いに行って来る」
 高橋:「あ、先生。俺が行きますよ。先生はゆっくりなさっててください」
 愛原:「そうか」
 リサ:「私も行くー」
 愛原:「おっ、行ってこい」
 高橋:「姉ちゃん達は何かいるか?」
 善場:「私は結構です。まだお茶があるので」
 栗原:「私も降りよう。自分で買う」

 栗原さんも席を立つ。
 ホームへジュースを買いに行くだけなのだから、刀くらい置いて行けばいいのに、それでも栗原さんは持って行く。
 リサがまだ信用できないのか、或いは敵の襲撃に備えているだけなのか……。

 愛原:「俺は缶コーヒーな?ボトル缶入りの」
 高橋:「了解ッス」

 3人の若者達は列車を降りて行った。

 愛原:「栃木県内に入っていますが、エブリンとかの影は無いですね。ほら、何回か栃木県に来る度にそういった影がチラホラ出ていたものですが……」
 善場:「そうですね。実際、いたのでしょう。しかし今は死体になってしまいました。私達も栃木県内は怪しいと見ていますので、引き続き調査対象地域に指定しているのですよ」
 愛原:「栃木県内で昔、何件か小さい女の子が誘拐されて、今もなお未解決事件になっているのは……」
 善場:「ええ。日本アンブレラが絡んでいると思います。リサが日本アンブレラに連れ去られる前に入所していた児童養護施設も、栃木県に程近い埼玉県内でしたから」
 愛原:「なるほど。何か理由でもあるんですかね?」
 善場:「あるかもしれませんし、ただの偶然かもしれません。ただ、地方は治安が良い為に、逆に地元警察の捜査能力が弱く、組織犯罪を起こすには打ってつけだと言われています」
 愛原:「そうなんですか」
 善場:「かつて、オウム真理教が富士山麓の村に施設を建設したのも、そういう理由からなんですよ。あのサリンもそこで造られたわけですから」
 愛原:「なるほど……」

[同日12:43.天候:曇 東武鉄道鬼怒川線1117列車1号車内]

〔「お待たせ致しました。12時43分発、特急“リバティ会津”117号、会津田島行き、まもなく発車致します。次は、新高徳に止まります。また、列車発車後、ポイント通過の為、大きく揺れる場合がございます。お立ちのお客様は、ご注意ください」〕

 発車の時間が迫る頃、バタバタと高橋達が戻って来た。

 高橋:「お待たせしました!」
 愛原:「おー、ギリギリだったな」
 高橋:「サーセン!自販機、ホームの後ろにしか無くて!」
 愛原:「そうだったのか」

 私は高橋からボトル缶入りのホットコーヒーを受け取った。
 その直後、電車が走り出す。

〔♪♪♪♪。この電車は、特急“リバティ会津”117号、会津田島行きです。停車駅は新高徳、東武ワールドスクウェア、鬼怒川温泉、鬼怒川公園、新藤原の順に止まります。【中略】次は、新高徳です〕

 JRのとは違う女性声優による自動放送が車内に流れる。
 尚、東武鉄道線内では乗り入れ先の停車駅までは案内しない。
 乗り入れ先の野岩鉄道会津鬼怒川線や会津鉄道会津線内でも、通過駅はあるのだが……。
 下今市駅までは複線だった線路も、ここから先は単線となる。
 東武日光線の方は終点まで複線なのにだ。
 これは東武鬼怒川線の方が、後で東武鉄道に吸収された下野電鉄という別の鉄道会社だったからである。
 東武鉄道より小さい鉄道会社だった為に、線形が元祖東武鉄道である東武日光線よりも悪かったりする。

 愛原:「リサ。お前以外のBOWの気配とかあるか?」
 リサ:「今のところ無い」
 愛原:「そうか」
 リサ:「でも油断しない方がいい。『1番』も間違いなく霧生市に向かってる」
 愛原:「……だろうな」

 制御できない『1番』と、制御できている『2番』。
 年恰好は全く同じ、作り方も全く同じように造られたはずなのに、この差は一体何だったのか。
 前者は人を食い殺しまくり、後者は人食いに対する欲求はありつつも、それを抑えることができている。
 これについては今のところ明確な答えは出ていない。
 多分、本人達の性格の問題ではないかとされている。
 『2番』のリサは幼少の頃から児童養護施設にいたこともあり、我慢強い性格に育ったからとも言われているが、そもそも人体と一緒に人格も改造するような実験で、その理論は正しいのかと思う。
 栗原さんにあっては……。

 栗原:「どんな性格であれ、人を1人でも食べた鬼は斬る」

 という信条だ。
 家が剣術を使った退魔士の家系だったというのもある。
 かつては神道による退魔の術を応用していたらしいが、いつの頃からか、それが法華経に変わっている。

 愛原:「法華経というのは創価学会かい?」

 と私が聞くと、栗原さんは大きく首を横に振った。

 栗原:「お寺の方ですよ」

 と答えたので、私は池上本門寺をイメージした。
 後で、違う宗派と寺であったことを知ることになる。

 リサ:「雪が所々積もってる」
 愛原:「ああ。これからもっと山深い所に行くから、もっと雪が積もっているだろうな」

 何しろこの線路をスキーツアーの夜行列車が走行するくらいだ。
 その列車の終点は会津高原尾瀬口駅だが、名前からしても雪深いイメージだ。
 もっとも、コロナ禍による緊急事態宣言のせいで、その夜行列車は運休を余儀無くされているという。
 今その夜行列車は、私達が乗車している500系リバティの車両が使用されるとのことだ。
 かつては座席がリクライニングしない電車で運転されていたので、より寝やすくはなったと思う。

 栗原:「霧生市も冬は雪の凄い所です。今も多分、雪は積もっていると思います」
 愛原:「そうか……」

 廃墟の町だから、除雪なんて全くされていないだろう。
 そんな中を行っても大丈夫なのかと、私は別の不安を覚えた。
コメント (3)
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