[2月28日13:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区上落合 斉藤家]
斉藤家で昼食会を終えると、リサは絵恋さんの部屋に行き、私と高橋は斉藤社長と応接間に移動した。
斉藤秀樹:「そうですか……。ついに学校法人に捜査のメスがねぇ……」
斉藤社長はタバコを吹かすと、吐き出すように言った。
愛原:「卒業式を終えて決行されるところが、まだお情けといったところでしょうかね」
斉藤:「生徒達は何も悪くありませんから、なるべくそちらに影響が出ないよう配慮したのでしょう」
愛原:「デイライトは早くから学校法人ぐるみであることを見抜き、その捜査の足掛かりとする為にリサを使ったようです」
斉藤:「考えることは、皆同じでしたね」
愛原:「は?と、仰いますと?」
斉藤社長は再びタバコを燻らせた。
因みに銘柄は、明らかに高橋が吸っているものより高いものである。
何だか葉巻が似合いそうな感じもしたが、趣味ではないのだろう。
斉藤:「うちの娘が、どうして同じ学園に通っているのかですよ。私の知り合いの空手の師範の道場に通わせる為、というのは表向きです。本当は市内の中学校でも良かったのに、私はそうさせました。そして私は計画通り、PTA会長として学園の暗部を探っていたんですよ。愛原さんを使っていたのは、申し訳ないが、無名の小さな探偵事務所の方なら怪しまれないだろうと思ったのと、あのデイライトと繋がりがあるということで、是非ともそことパイプをという打算でした」
愛原:「あららら……」
高橋もまたタバコを手に持ちながら言った。
高橋:「善場の姉ちゃんが、社長のこと、怪しがってましたよ。うちの先生を使って、何か探っているんじゃないかってね」
斉藤:「さすがはプロフェッショナルだ。愛原さん越しにデイライトの動きを探っていたのですが、さすがにバレてしまいましたか。まあ、違法な事は特別していないので、私の手が後ろに回ることは無いですがね」
愛原:「学園側が日本アンブレラに協力していたのは何故なのでしょう?」
斉藤:「そりゃもちろん、そうした方が学園の為になると思ったからでしょうね。私立の学校法人というのは、国公立と違って、どうしてもお金の計算を優先にしてしまいがちです。そりゃもちろん、民間経営ですから当たり前と言えば当たり前ですが、昨今の少子化に伴い、どこの学校法人もその経営状態は薄氷を履むが如しです。少しでもお金が入って来る所と手を繋ぎたかったのでしょうね」
因みに斉藤社長が都合良くPTA会長になったのも、学園に多額の寄付金を出したからである。
斉藤:「そうでなきゃ、学校の中に秘密の実験室を造ることを黙認なんかしませんよ。黙認という名の公認ですね」
愛原:「なるほど……」
そういえば善場主任の大学も、どこかの私大だったと思う。
斉藤:「とにかく学園の暗部は、それで明らかにされるでしょう。ですが、あくまでも学園が日本アンブレラの悪事に加担したことが糾弾されるだけです。それだけで白井伝三郎やリサ・トレヴァー『1番』などの情報は入らないでしょう」
愛原:「参りましたね」
斉藤:「本当に旧校舎のあの壁の向こうが怪しいのですか?」
愛原:「私は何かあると思っているんですよね」
斉藤:「私が何とかしましょうか?娘も高等部に上がりますし、私も引き続きPTA会長をやることになりそうですから」
愛原:「あー……。じゃあ、お願いしてもよろしいですか?」
斉藤:「いいでしょう。私もあの壁のことは気になっていましたからね」
高橋:「呪われたりしませんかね?」
斉藤:「一応、お祓いしてから行きますか?」
呪いなんて迷信だと一蹴したいところだが、何しろ私達はあそこで“トイレの花子さん”に遭遇している。
最後まで対峙したリサの話では、イジメで自殺した当時の女子生徒の幽霊であるということだ。
愛原:「そうですねぇ……」
私が思案していると、応接間のドアがノックされた。
斉藤:「どうぞ」
新庄:「失礼致します」
そこへ社長のお抱え運転手で執事を兼務している新庄さんが入って来た。
本来、執事は上級使用人で運転手は下級使用人だから兼務はできないのだが、そもそも家事使用人自体が珍しくなった現代においては兼務も珍しくはない。
新庄:「旦那様宛てにお電話でございます」
新庄さんは斉藤社長に、コードレス電話機の子機を渡した。
保留になっていて、社長はそれを解除した。
斉藤:「はい、斉藤です。……ええ、そうですが。……は?」
見る見るうちに斉藤社長の顔が狼狽して行った。
斉藤:「いや、しかしそれは……!ええっ!?……わ、分かりました。では……」
斉藤社長は電話を切って、新庄さんに返した。
新庄:「失礼致します」
新庄さんはそう言って、応接間を出て行った。
愛原:「どうかなさったんですか?」
斉藤:「PTA役員からの電話だったんですが、先ほど、高等部の旧校舎の裏で焼死体が見つかったそうです」
愛原:「ええっ!?誰ですか、それは!?」
斉藤:「まだ分かりません。死体の傍に灯油の入った携行缶があって、それを被って自殺したのだろうということでした」
愛原:「何だってそんな所で!?」
斉藤:「分かりません。ただ、頭にガスマスクのような物を付けていた痕があったと……」
愛原:「ガスマスク!?ヴェルトロか!?」
その時、また応接間のドアがノックされた。
斉藤:「どうぞ」
ドアを開けると、入って来たのはリサと絵恋さんだった。
リサは少し緊張した顔になっていて、絵恋さんは泣いている。
愛原:「どうしたんだ?」
リサ:「たまたまサイトーとテレビを観ていたら、上野高校の旧校舎の裏で焼死体が見つかったってニュースが流れてた」
愛原:「ああ。今しがた俺達も知ったよ。まあ、中等部では何も無いだろうから心配しなくていい……」
リサ:「そうじゃなくて、私に電話があったの」
愛原:「誰から?」
リサ:「元祖・日本版リサ・トレヴァー、“トイレの花子さん”から」
愛原:「ええっ!?」
絵恋さんが泣いているのは、白昼堂々幽霊から電話が掛かって来たことに恐怖しているからだという。
しかし緊張しているとはいえ、それを冷静に受けるリサもリサだ。
まあ、鬼娘が幽霊からの電話を受けたといった感じか。
リサ:「“花子さん”にとっては、あの旧校舎自体がテリトリー。それを放火しようしたヤツがいたから、逆に放火してやったんだって」
愛原:「あれは焼身自殺じゃなくて、他殺か!」
とはいえ、幽霊に焼き殺されたなんて警察は信じるわけが無いから、ガスマスクを被った男がわざわざ東京中央学園上野高校に侵入して、旧校舎の裏手で焼身自殺を図ったとするだろう。
愛原:「で、“花子さん”はその放火魔の正体を知ってるのか?」
リサ:「何も知らないっぽい。それだけ言って電話が切れたから。私もつい、『それってアンブレラ?』って聞いちゃったんだけど、『知らない』って」
幽霊に普通に質問する鬼。
それを即座に返す幽霊。
愛原:「アンブレラじゃなくて、ヴェルトロだろうなぁ……。でも、何でだ?」
斉藤:「旧校舎を捜索されては困る物があって、今のうちに焼き払ってしまおうと思ったのかもしれませんね」
高橋:「ていうか、地中海のテロ組織がフツーに日本にいるんスか?」
栃木で見たガスマスクの男だろうか?
よく分からなかった。
明日は高等部の卒業式だというのに、こんなことがあっては、影響があるだろう。
捜査機関の心遣いも、1人の放火未遂犯のせいでパーになってしまったというわけだ。
斉藤家で昼食会を終えると、リサは絵恋さんの部屋に行き、私と高橋は斉藤社長と応接間に移動した。
斉藤秀樹:「そうですか……。ついに学校法人に捜査のメスがねぇ……」
斉藤社長はタバコを吹かすと、吐き出すように言った。
愛原:「卒業式を終えて決行されるところが、まだお情けといったところでしょうかね」
斉藤:「生徒達は何も悪くありませんから、なるべくそちらに影響が出ないよう配慮したのでしょう」
愛原:「デイライトは早くから学校法人ぐるみであることを見抜き、その捜査の足掛かりとする為にリサを使ったようです」
斉藤:「考えることは、皆同じでしたね」
愛原:「は?と、仰いますと?」
斉藤社長は再びタバコを燻らせた。
因みに銘柄は、明らかに高橋が吸っているものより高いものである。
何だか葉巻が似合いそうな感じもしたが、趣味ではないのだろう。
斉藤:「うちの娘が、どうして同じ学園に通っているのかですよ。私の知り合いの空手の師範の道場に通わせる為、というのは表向きです。本当は市内の中学校でも良かったのに、私はそうさせました。そして私は計画通り、PTA会長として学園の暗部を探っていたんですよ。愛原さんを使っていたのは、申し訳ないが、無名の小さな探偵事務所の方なら怪しまれないだろうと思ったのと、あのデイライトと繋がりがあるということで、是非ともそことパイプをという打算でした」
愛原:「あららら……」
高橋もまたタバコを手に持ちながら言った。
高橋:「善場の姉ちゃんが、社長のこと、怪しがってましたよ。うちの先生を使って、何か探っているんじゃないかってね」
斉藤:「さすがはプロフェッショナルだ。愛原さん越しにデイライトの動きを探っていたのですが、さすがにバレてしまいましたか。まあ、違法な事は特別していないので、私の手が後ろに回ることは無いですがね」
愛原:「学園側が日本アンブレラに協力していたのは何故なのでしょう?」
斉藤:「そりゃもちろん、そうした方が学園の為になると思ったからでしょうね。私立の学校法人というのは、国公立と違って、どうしてもお金の計算を優先にしてしまいがちです。そりゃもちろん、民間経営ですから当たり前と言えば当たり前ですが、昨今の少子化に伴い、どこの学校法人もその経営状態は薄氷を履むが如しです。少しでもお金が入って来る所と手を繋ぎたかったのでしょうね」
因みに斉藤社長が都合良くPTA会長になったのも、学園に多額の寄付金を出したからである。
斉藤:「そうでなきゃ、学校の中に秘密の実験室を造ることを黙認なんかしませんよ。黙認という名の公認ですね」
愛原:「なるほど……」
そういえば善場主任の大学も、どこかの私大だったと思う。
斉藤:「とにかく学園の暗部は、それで明らかにされるでしょう。ですが、あくまでも学園が日本アンブレラの悪事に加担したことが糾弾されるだけです。それだけで白井伝三郎やリサ・トレヴァー『1番』などの情報は入らないでしょう」
愛原:「参りましたね」
斉藤:「本当に旧校舎のあの壁の向こうが怪しいのですか?」
愛原:「私は何かあると思っているんですよね」
斉藤:「私が何とかしましょうか?娘も高等部に上がりますし、私も引き続きPTA会長をやることになりそうですから」
愛原:「あー……。じゃあ、お願いしてもよろしいですか?」
斉藤:「いいでしょう。私もあの壁のことは気になっていましたからね」
高橋:「呪われたりしませんかね?」
斉藤:「一応、お祓いしてから行きますか?」
呪いなんて迷信だと一蹴したいところだが、何しろ私達はあそこで“トイレの花子さん”に遭遇している。
最後まで対峙したリサの話では、イジメで自殺した当時の女子生徒の幽霊であるということだ。
愛原:「そうですねぇ……」
私が思案していると、応接間のドアがノックされた。
斉藤:「どうぞ」
新庄:「失礼致します」
そこへ社長のお抱え運転手で執事を兼務している新庄さんが入って来た。
本来、執事は上級使用人で運転手は下級使用人だから兼務はできないのだが、そもそも家事使用人自体が珍しくなった現代においては兼務も珍しくはない。
新庄:「旦那様宛てにお電話でございます」
新庄さんは斉藤社長に、コードレス電話機の子機を渡した。
保留になっていて、社長はそれを解除した。
斉藤:「はい、斉藤です。……ええ、そうですが。……は?」
見る見るうちに斉藤社長の顔が狼狽して行った。
斉藤:「いや、しかしそれは……!ええっ!?……わ、分かりました。では……」
斉藤社長は電話を切って、新庄さんに返した。
新庄:「失礼致します」
新庄さんはそう言って、応接間を出て行った。
愛原:「どうかなさったんですか?」
斉藤:「PTA役員からの電話だったんですが、先ほど、高等部の旧校舎の裏で焼死体が見つかったそうです」
愛原:「ええっ!?誰ですか、それは!?」
斉藤:「まだ分かりません。死体の傍に灯油の入った携行缶があって、それを被って自殺したのだろうということでした」
愛原:「何だってそんな所で!?」
斉藤:「分かりません。ただ、頭にガスマスクのような物を付けていた痕があったと……」
愛原:「ガスマスク!?ヴェルトロか!?」
その時、また応接間のドアがノックされた。
斉藤:「どうぞ」
ドアを開けると、入って来たのはリサと絵恋さんだった。
リサは少し緊張した顔になっていて、絵恋さんは泣いている。
愛原:「どうしたんだ?」
リサ:「たまたまサイトーとテレビを観ていたら、上野高校の旧校舎の裏で焼死体が見つかったってニュースが流れてた」
愛原:「ああ。今しがた俺達も知ったよ。まあ、中等部では何も無いだろうから心配しなくていい……」
リサ:「そうじゃなくて、私に電話があったの」
愛原:「誰から?」
リサ:「元祖・日本版リサ・トレヴァー、“トイレの花子さん”から」
愛原:「ええっ!?」
絵恋さんが泣いているのは、白昼堂々幽霊から電話が掛かって来たことに恐怖しているからだという。
しかし緊張しているとはいえ、それを冷静に受けるリサもリサだ。
まあ、鬼娘が幽霊からの電話を受けたといった感じか。
リサ:「“花子さん”にとっては、あの旧校舎自体がテリトリー。それを放火しようしたヤツがいたから、逆に放火してやったんだって」
愛原:「あれは焼身自殺じゃなくて、他殺か!」
とはいえ、幽霊に焼き殺されたなんて警察は信じるわけが無いから、ガスマスクを被った男がわざわざ東京中央学園上野高校に侵入して、旧校舎の裏手で焼身自殺を図ったとするだろう。
愛原:「で、“花子さん”はその放火魔の正体を知ってるのか?」
リサ:「何も知らないっぽい。それだけ言って電話が切れたから。私もつい、『それってアンブレラ?』って聞いちゃったんだけど、『知らない』って」
幽霊に普通に質問する鬼。
それを即座に返す幽霊。
愛原:「アンブレラじゃなくて、ヴェルトロだろうなぁ……。でも、何でだ?」
斉藤:「旧校舎を捜索されては困る物があって、今のうちに焼き払ってしまおうと思ったのかもしれませんね」
高橋:「ていうか、地中海のテロ組織がフツーに日本にいるんスか?」
栃木で見たガスマスクの男だろうか?
よく分からなかった。
明日は高等部の卒業式だというのに、こんなことがあっては、影響があるだろう。
捜査機関の心遣いも、1人の放火未遂犯のせいでパーになってしまったというわけだ。