報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「イリーナと再会」

2022-08-25 20:29:03 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月18日10:30.天候:晴 アルカディアシティ アルカディアメトロ1番街駅→魔王城]

 稲生とマリアを乗せた6号線電車が、終点の1番街駅に到着する。
 こちらも、1面1線のホームだった。
 そういえば路線は単線で、途中に行き違い設備のある駅があったことを思い出した勇太だった。
 魔界高速電鉄の地下鉄線の中では、支線扱いのローカル線なのだろう。

 運転士:「着いたぜ。ここが1番街だ。気をつけて行けよ」
 勇太:「ありがとう」

 聞けばこのオーガも、勇者一行に負けて行き倒れていた所を、魔王軍の正規兵達に助けられたらしい。
 魔王軍の殆どは魔族で構成されている為、そのツテで今は魔界高速電鉄にいるという(電鉄では退役軍人も多く雇用している為)。
 地下鉄の改札口、出口はフリーである。
 ターンスロットルを回して出るだけ。
 紙のキップではなく、トークンというコインを買って、入口の改札口に入れて終わりだからである。
 この辺もニューヨーク式。
 まさかとは思うが、女王のルーシー・ブラッドプール一世がニューヨーク出身だからというのが関係しているのだろうか。
 今でも実家がそこにあり、母親の皇太后は大企業の上級役員でもある。
 王国を会社経営に見立て、辣腕を振るったことで、安倍春明首相の権限が殆ど無くなってしまったという逸話がある。

 勇太:「魔王城はあっちだ」

 バァル大帝が君臨していた頃、1番街駅はもっと小さかった。
 内戦中は営業が休止されていたくらいである。
 当時、『大勇者』だった安倍春明らの一行は南端村を拠点にし、休止中の地下鉄のトンネルを通って、魔王城への侵入を果たしている。
 そのトンネルは、今でも1号線で使われているという。
 但し、さすがに防犯上問題だとして、侵入経路としての非常口は閉鎖されているそうだが。

 マリア:「駅からのアクセスも良好。これじゃ、大魔王としては潰したくなるよなぁ……」
 勇太:「今は平和な立憲君主制だからいいけどね」

 バァル大帝の頃は帝政。
 魔界民主党の時は、社会主義共和制。
 現在は立憲君主制。

 勇太:「こんにちは」
 衛兵A:「どうも」

 城の正門も随分と変わった。
 衛兵が人間である。
 こちらは中世の騎士のような鎧を着ていた。

 衛兵B:「いらっしゃい。謁見受付ですか?」
 勇太:「いえ。安倍首相への面会希望です」
 衛兵B:「首相に?」
 勇太:「はい!」
 衛兵B:「……今、政府は緊急事態宣言を発出しており……」
 勇太:「分かっています。共和党幹部の推薦状が3つ必要なんですよね」
 衛兵B:「分かっているなら話は早い。推薦状を預かろうか」
 勇太:「はい、こちらです」
 衛兵B:「ほおほお。坂本理事と横田理事……ん?これは……」
 勇太:「後援会アルカディア東部地区長、クリスティーネ吉田さんの推薦状です。3人目は後援会の幹部でも、代用できるんですよね?」
 衛兵B:「それは昨日までだ」
 勇太:「……は?!」
 マリア:「Huh!?」
 衛兵B:「今日から3人目も、党幹部の推薦状でないとダメになったのだ。残念だが、3人目の幹部に推薦状をもらって来なさい」
 勇太:「は?は?はあああああああ!?」
 マリア:「聞いてないよ?!」
 衛兵B:「寝耳に水なのは仕方がない。我々も今朝、そのように申し伝えられたのだ。我々も命令なんだ。どうか、分かってくれ」

 検討検討ばかりでなかなか決まらない日本の自民党も問題だが、逆にコロコロ変わる魔界の共和党もどうかという話だ。

 横田:「クフフフフ……。横田です。昨晩の憲兵隊本部における尋問の苦痛は、未だ冷めやらぬものであります」
 勇太:「で、出たーっ!!」
 マリア:「もう釈放されたのか!?」
 横田:「クフフフフ……。保釈金をいっぱーい積んで、今朝には出てきました。功徳です」
 勇太:「この国にも保釈制度あるんだ!?」
 横田:「党幹部の特権です。それよりお2人さん、お困りのようですね?クフフフフ……」
 勇太:「日本の自民党にも困ったものだけど、この国の共和党にも困ったものだよ」
 横田:「クフフフフ……。それなら私が、3人目を紹介しましょう。クフフフフ……」
 勇太:「えっ、ホントに!?」
 横田:「但し、1つ条件があります」

 横田、イヤらしい目をマリアに向けた。

 横田:「ハァ、ハァ……。せ、先日はスパッツとパンティを頂きました。今度は、ブラジャーを頂ければと思います。も、もちろん、今ここで脱ぐのです。ハァ、ハァ……」
 勇太:「いい加減にしろよ、横田ぁ!!」
 横田:「い、いいのですか?ここで揉め事を起こしたら、収監の上、魔王城への出入りは禁止になりますよ?クフフフフ……」
 勇太:「衛兵さん、これはセクハラですよ!?犯罪でしょ!?」
 衛兵B:「ですが、横田理事は直接見たり触ったり、盗んだりしているわけではございませんので……」

 現実世界ではセクハラ発言も、自治体条例によっては逮捕案件になるのだが、アルカディア王国ではそこまで厳しくないらしい。
 だから横田、マリアに自分で脱がせようとしているのだろう。
 女性が自分で脱いで、下着を渡す分には、法律違反には問われない。

 横田:「クフフフフ!さあ、どうなさいますか!?あなたのブラジャー1つで、条件は満たされるのですよ!?」
 マリア:「くっ……!」

 マリア、屈辱的な顔をしてブラウスのボタンを外そうとした。

 横田:「ハァ、ハァ……。いっそのこと、あなたの着ているそのJK制服一式まるごと頂きたいくらいですねぇ……ハァ、ハァ……」

 だが!

 横田:「ぶっ……!?」

 横田、突然後ろから殴られ、そのままバタッと床に倒れた。

 イリーナ:「うちのかわいい弟子に、何してくれてるのかしら?」

 そして、うつ伏せに倒れた横田をロングブーツでグリグリと踏みつけた。

 横田:「嗚呼ッ!もっと強く踏みつけてください!女王様!……ガクッ」

 マリア:「し、師匠!?」
 勇太:「いいんですか!?こんなことして!?」
 イリーナ:「何言ってるの?アタシはここでは、元・宮廷魔導師よ?こんな下級理事なんかと比べれば……ね?」
 衛兵B:「ははっ!」

 衛兵B、イリーナに対して気をつけの姿勢を取り、敬礼した。

 イリーナ:「この不届き者を、衛兵本部へ連行しなさい。こいつの事は、アタシから安倍首相に話しておくわ」
 衛兵B:「か、かしこまりました!……おい、誰か手を貸してくれ!」
 衛兵C:「はっ!」

 衛兵達は横田を担架に乗せて、そのままどこかへ連れて行った。

 イリーナ:「色々と頑張ったようね」
 マリア:「師匠……」

 マリア、感極まってポロポロと涙を零す。

 イリーナ:「何も泣くことないじゃないの?」

 そう言いつつ、イリーナはマリアをハグした。
 尚、イリーナはマリアのよりも立派な装飾を着けた魔法の杖を持っていて、これで横田を殴りつけたようである。

 勇太:「先生、大丈夫だったんですか!?」
 イリーナ:「んー?アタシゃ大丈夫だよ?」
 勇太:「しかし、向こうでは全く応答が無かったじゃないですか!?」
 イリーナ:「あー……そうね。あれは色々あったからね。話せば長くなるけど、さすがに8人の狙撃兵に囲まれた時には少し焦ったわ」
 勇太:「どこにいたんですか?!」
 イリーナ:「ところがどっこい!……って、今こんな話をしてる場合じゃなかったわね。来なさい。安倍首相に会わせてあげる」
 勇太:「で、でも、3人目の幹部は……」
 イリーナ:「もう1度言うけど、ここでのアタシの立場は、国会議員よりも上なのよ?」

 イリーナはそう言って、ウインクした。
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“大魔道師の弟子” 「魔王城へ向かう」

2022-08-25 14:28:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月18日09:00.天候:晴 アルカディアシティ6番街カブキンシタウン]

 朝食を食べた後は、宿屋をチェックアウトした。

 勇太:「じゃあ、この後は6号線に……」
 マリア:「うん、その前にちょっと待って」
 勇太:「えっ?」
 マリア:「せっかく魔界に来たんだから、買い物して行きたい」
 勇太:「なるほど。魔王城から先は忙しくなるかもしれないもんね」
 マリア:「そういうこと」

 夜は歓楽街であるカブキンシタウンであるが、昼間は普通の中心街といった感じである。
 夜の店は閉まっているが、アイテム屋や武器屋などは営業している。

 薬屋:「いらっしゃい。薬屋だが、アイテムも取り扱ってるよ」
 勇太:「どうするの?」
 マリア:「余ってる金でエリクサーやら、ハイポーションやら買って行く」
 勇太:「なるほど」

 生理中は体力ゲージが下がって行くので。

 マリア:「MPを数値化すると、絶対に0になってるから」
 勇太:「“魔女の宅急便”がゲームになったら、絶対そうなるよね?」

 勇太は大きく頷いた。

 勇太:「あれ?でも、薬で抑えられるんじゃないの?」
 マリア:「辛い症状が緩和されるというだけで、MPガタ落ちなのは間違いない。これだ。これもちょうだい」
 薬屋:「毎度。この薬は、生理痛に悩む女性の冒険者達にも大好評だよ」
 マリア:「だろうな」
 勇太:(日本の薬事法的にはアウトなんだろうなぁ……)

 それから、次の店に移動する。
 今度は年配の女性が経営する、魔法具屋だった。

 魔法具屋:「いらっしゃい。魔法具は、何でもあるよ」
 マリア:「杖の先端に取り付ける装飾品を新調したい」
 勇太:(杖の先端の装飾品って、こういう所で調達するんだ!?)
 マリア:「他にオススメはある?」
 魔法具屋:「この高性能通信機はどうだい?相手の通話だけでなく、文字通信や天気占い、地図情報から翻訳機まで、何でも使えるよ?」
 勇太:「それ、僕のスマホで十分じゃない?」
 魔法具屋:「何と!?」

 現実世界では当たり前のアイテム、スマホも魔界では高級魔法具である。
 色々と買い物して、再び三星亭に戻った。

 女将:「おや?色々と回って来たみたいですねぇ。あなた達は、夜の街より、普通に昼の街を楽しむタイプかしら?」
 勇太:「そうかもしれません」
 マリア:「向こうの世界に送りたいものがあるので、お願いします」

 この街で買い物した物のうち、今は使わないものだ。

 マリア:「後でエレーナが取りに来るでしょう?」
 女将:「そうですね。午前便はもう取りに来たので、午後便になります」
 勇太:「午前と午後に分けて取りに来てるんだ!?」
 女将:「そうなんです。それと、これは稲生さん宛ての手紙です」
 勇太:「えっ?それもエレーナから?」
 女将:「はい」

 それは封筒であった。
 差出人を見ると、何と藤谷春人からであった。

 勇太:「藤谷班長から!?」

 勇太が封筒を開けると、書類と手紙が入っていた。

 勇太:「あっ、添書だ……」

 添書を見ると、藤谷班長が申込者の添書が入っていた。
 これは大石寺の奉安堂で毎週、土・日・月・火曜日に行われる『御開扉』に参加する為の申込書である。
 手紙も同封されていて、藤谷班長から、『たまには御登山しなさいよ』といった内容の事が書かれていた。
 返信用封筒も入っていて、これに添書を入れてエレーナに渡すと、エレーナから藤谷班長に送られる仕組みになっているらしい。
 そして藤谷から正証寺の御住職に渡され、そこから大石寺に提出する分を渡されるのだ。
 しかも、他にも書類が入っていた。

 勇太:「入信願書?まさか、魔界で街頭折伏でもしろってんじゃ……?」

 そんなことは無かった。
 既にマリアの名前が記入されており、『マリアさんも入信したら、一緒に御登山できるよ?』とのことだ。

 マリア:「Fire.」

 マリアは1番弱い火炎魔法で、その入信願書を焼き捨てた。

 女将:「ちょいと。店内で燃やさんといてもらえます?」
 マリア:「ごめんなさい」
 勇太:「マリアさんの折伏、失敗か……w」
 マリア:「なに笑ってんだ!」
 勇太:「手紙には、『正証寺では結婚式も執り行っています』と書かれてたけど?」
 マリア:「うちの屋敷でやるからいいでしょ」
 勇太:「はは、それは残念」

 マリアの入信願書は燃やされたが、しかし勇太の添書は燃やさなかったマリアだった。

 勇太:「僕は参加していいんだね?」
 マリア:「どうぞ御勝手に」
 勇太:「それじゃあ、御言葉に甘えまして……」

 勇太はペンを走らせ、自分が記入する所を記入した。
 内容的には、藤谷も一緒に御登山することになりそうだ。
 しかし日付を見ると平日のようだが、藤谷は休みが取れるのだろうか?

 勇太:「これでよし」

 勇太は添書を入れて封をした。

 女将:「それじや、これは後でエレーナに渡しておきます」
 勇太:「よろしくお願いします。エレーナだと、高く取りそうですね」
 女将:「この手紙に関しては、稲生さんからは取らないみたいですよ。この……藤谷さん?という方から取るそうで……」

 どうやらエレーナは、勇太に請求するよりも、藤谷に請求した方が料金を高く取れると踏んだようである。

 マリア:「じゃあ、これもお願いします」

 マリアは自分の荷物も送った。

 女将:「イリーナ様宛てですか?」
 マリア:「師匠名義にした方が、あの守銭奴魔女もボりにくいはずなので」

 マリアはニヤッと笑った。

 勇太:「いやあ……あの守銭奴は、普通に目上の人からも高く請求しそうだけど……」

 “ゲゲゲの鬼太郎”のねずみ男等を見ると、守銭奴キャラはどうもそんな感じに思えてくるのだった。

[同日10:00.天候:晴 アルカディアメトロ6番街駅→6号線電車内]

 路面電車の乗り場は、カブキンシタウン南口にある。
 それに対して、新しくできた6号線の駅は北口にあった。

 

 駅は地下にあるが、ホームは1面1線であった。
 そこには、昔のニューヨーク地下鉄によく似た電車が停車していた。

 

 電車に乗り込むと、車内はセミクロスシート。
 日本の地下鉄では、あまり見られない構造である。

 運転士:「おっ、お2人さん!先日はどうもね」

 運転士は先日、1番街駅から事件現場付近まで回送電車に乗せてくれたオーガだった。
 オーガとは、中東アラブ地域で語られる人食い鬼のことである。
 但し、日本の鬼や西洋の鬼のように、生きている人間を殺して食うよりは、死体を貪り食う『死食鬼』である。
 もちろん、この王国の法律では禁止されている。
 改心したり、王権支持者は順法精神を持ち、このような公共機関で働いていることが多い。

 運転士:「俺も仕事を失わずに済んだよ」
 勇太:「そ、それは良かった」

 オーガも額に角を生やしている。
 その為、制帽は深く被れない。

 運転士:「1番街まで行くんだろ?好きな席に座って寛いでくれ」
 勇太:「ありがとう」

 勇太としては先頭車に被りつきたいところだが、半室構造の運転室の横はクロスシートでも、進行方向逆向きに設置されている。
 しょうがないので、進行方向向きのクロスシートに座った。
 日本の地下鉄では、なかなか進行方向向きのクロスシートに座る機会は無い(都営浅草線乗り入れの京急電車の一部とか、京都市地下鉄乗り入れの京阪電車とかくらいか?)。
 オーガは基本的に体がデカい。
 なので、元ニューヨーク地下鉄の半室構造の運転室は、窮屈そうだった。
 ホームからは、短い発車サイン音が響いてくる。
 ニューヨークの地下鉄は今でも車掌乗務のツーマン運転だが、このアルカディアメトロの地下鉄は基本的にワンマン運転である。
 なので、運転室の横にサイドミラーが付いていたりする。
 乗降ドアが勢い良く閉まると、電車はゆっくりと走り出した。
 思いっ切りバンと閉まるのは、古い電車ならではである。

〔この電車は6号線、各駅停車、1番街経由、2番街行きです。次は6番街北、6番街北です〕

 車内は蛍光灯が輝いているが、旧型車両ということもあり、トンネル内では少し薄暗い。
 それでも、サハギン達がいなくなったことで、電車は元気に走っているようだった。
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