報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「早朝の事件」

2024-11-04 11:21:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月10日06時00分 天候:晴 静岡県富士宮市ひばりが丘 スーパーホテル富士宮]

 翌朝、早くに目が覚めた私は、朝風呂に行こうと部屋を出た。
 その前に外の様子を見ようと、縦引きカーテンを開けたら、外はカラッと晴れていた。
 どうやら、無事に台風は通り過ぎて行ったようだ。
 6月の台風だから、そんなに勢力も強くなかったのだろう。
 ただ、まだ風は強い。
 やっぱり風台風だったのだろう。
 もっとも、台風通過中は、窓ガラスに雨粒がバチバチと当たる音は響いていたので、けして雨は弱かったというわけではない。
 タオルなどを持って、エレベーターホールに向かう。
 エレベーターに乗って1階まで下りたが……。

 愛原「ん?」

 大浴場はエレベーターを降りて左だ。
 ところが、エントランスの方が何やら騒がしい。
 スーパーホテルは24時間フロントやエントランスが開いているわけではない。
 確か、午前0時から7時までは閉鎖されているはずだ。
 なので、その時間帯、既に宿泊している宿泊客以外は出入りできない。
 客室の鍵が暗証番号なのは、実はそのエントランスを開ける為でもある。
 時間外に宿泊客が出入りする場合、外側にあるテンキーを宿泊客が自分の部屋の暗証番号を打ち込むことで解錠できる。
 私が様子を見に行くと、どうやら宿泊客以外の外部の者が入ろうとしてドアが開かず、外で騒いでいるらしい。
 因みに宿泊客が暗証番号を忘れた場合、コールセンターか何かに問い合わせて確認することができるとのこと。
 逆を言えば、それ以外の者は出入りができない。

 男A「いや、だから愛原って人に用があるんだよ!」
 男B「今じゃねぇとヤベェんだって!!」

 どうやらコールセンターに繋いでいるらしいが、コールセンターもおいそれと宿泊客以外の者を入れるわけにはいかないようだ。
 この辺は、セキュリティはしっかりしているな。
 だが、話しぶりからして私に用があるようだが、あいにくと私は、この2人の男の顔を知らない。
 それどころか、高橋よりもずっと若い男達だ。
 高橋の知り合いかとも思ったが、新潟出身の彼は、そこと首都圏に知り合いは大勢いても、静岡に知り合いがいるとは聞いたことがない。
 それとも、私の記憶違いか。
 だからといって、どうも彼の切羽詰まり過ぎる態度に、私は彼らと会う気は無かった。

 愛原「愛原は私だ!だが、お前達は不審者過ぎる!これから警察を呼ぶが、いいか!?」

 私はエントランスのドア越しに彼らに叫ぶと、自分のスマホを取り出した。
 そして、110番する。

 男A「ヤベッ!」

 1人の男が逃げ出した。

 男B「おい、逃げんのかよ!?」
 男A「ケーサツはヤベェだろ!!」
 男B「いや、でも……!」
 愛原「あー、もしもし。警察ですか?ホテルのエントラスで騒いでいる男達がいるんで、来てもらいたいんですけど?……はい。場所がですね、富士宮市ひばりが丘の……」
 男B「クソがッ!」

 ついに男Bも逃げ出した。
 私はドアを開けて、外の様子を確認する。
 すると、仲間が他にもいたのか、車の後部座席に乗って、慌てて走り出す所であった。

 愛原「……なーんてな」

 私は電話を切った。
 実は掛けるフリをしただけだ。
 実際に掛けたのは、117番。
 0の左上にある7番だな。
 今の若い人は掛けたことがない、つまり彼らも若かった故に掛けたことがないのだろう。
 117番は時報だ。
 掛けたところで、向こうから現在の時刻を教えてくれるだけで、通話ができるわけじゃない。
 0を押したフリして、7を押したのだ。
 あとは、警察に繋がったフリをして演技するだけ。
 とはいうものの、このままではいいわけではない。
 私は素早く先ほどの車のナンバーと車種、色をメモすると、直ちにそれで持って善場係長に通報した。

 善場「……はい、善場です」
 愛原「善場係長、愛原です!」

 私はすぐに先ほどの出来事を係長に話した。
 電話越しに、係長の血の気が引いたのが分かった気がした。

 善場「かしこまりました!愛原所長に、ケガはありませんね!?」
 愛原「私は大丈夫です」
 善場「すぐにこちらで対処致します。20代前半くらいの男が2人ですね?」
 愛原「はい。見た目は高橋ほどヤンキーってわけでもないですが、かといって真面目に生きているっていう感じでもなかったです。あと、逃走用の車を用意していたみたいで、運転役の者もいたと思われます。車の特徴とナンバーですが……」

 車はやや離れた位置にいた為、私の視力では、4桁のナンバーがせいぜいだ。

 善場「ナンバーが……で、白のホンダ・フィットですね。かしこまりました。すぐに、うちの静岡事務所と静岡県警に連絡しておきます」
 愛原「“コネクション”には、あんな若いメンバーもいるのでしょうか?」
 善場「現時点ではまだ何とも言えません。が、その男達は外国人ではなく、日本人だったのですね?」
 愛原「在日朝鮮人の可能性もありますが、見た目はそうで、日本語も流暢でした」
 善場「……分かりました。私も国家機関の人間ですから、あまり迂闊なことは言えませんが、その若者達は、正規メンバーではないかもしれません」
 愛原「そうですか」
 善場「もしも正規メンバーが愛原所長を襲撃に来たというのなら、あまりにも計画がお粗末過ぎます。恐らく早朝の、人が少ない時間帯にホテルに忍び込み、そこで愛原所長の部屋を特定して襲撃する計画だったのでしょう。ところが、スーパーホテルは朝の7時まではエントランスが閉鎖されている。そこに気づかなかったのが、そもそもの過ちです」
 愛原「では彼らは一体……?」
 善場「愛原所長の襲撃だけの為に雇われた非正規メンバー……いや、もはやメンバーですらないかもしれませんね。ただのアルバイト、今どき流行りの言い方ですと、闇バイトの連中だったのではないでしょうか?」
 愛原「闇バイト!?」
 善場「私の、一個人の見解です。もちろん、警察が彼らを逮捕して取り調べないことには、何とも言えません。すぐにこちらから手配しますので、あとはお任せください」
 愛原「私達はこれからどうすれば良いでしょうか?」
 善場「警察にホテル周辺、バスの営業所周辺の警備を強化してもらいます。所長方は予定通りのルートで帰京してください」
 愛原「分かりました」

 何だか、朝から大変なことになった。
 私は気持ちを落ち着かせる為、善場係長の電話を切ると、大浴場に向かった。

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