[2月27日10時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原学探偵事務所]
善場「帰省旅行より無事に帰京されたようで、まずは何よりです」
愛原「おかげさまで。本当は、お土産をお渡ししたいところなのですが……」
善場「お構いなく。利益供与の疑いを掛けられては、元も子もありませんので」
帰省から帰京して翌日、予定通りに善場主任達は事務所にやってきた。
月曜日である為、リサは学校に行っている。
善場「まずは大事な物をお渡ししましょう」
主任が目配せすると、隣にいる黒スーツの部下が頷いて、小さなジュラルミンケースを応接コーナーのテーブルの上に置いた。
そして、私達の方に向けてケースを開ける。
その中には、確かに奥日光の保養施設内のカジノからガメて……もとい、景品保管庫のような所からゲットした諭吉先生が何百人もそこにいた。
善場「所有者と思しき栗原家は、所有権を主張しませんでした。また、警察や私共の方で捜査しましたが、特にバイオテロや脱税などの証拠にもなりませんでした」
恐らくお札に書かれている番号を全て照会したのだろう。
しかしながら、全てのお札が何がしかの事件に関わっているという証拠が出てこなかった為、普通の遺失物という扱いになったようである。
そして、建物の所有者である栗原家に確認したものの、どうやら的を得なかったようだ。
今、栗原家は大変混乱しており、現金の管理すらままならない状態なのだろう。
だから警察やデイライトの確認にも、まともに答えられなかったようだ。
とにかく事件性が無いと判断した警察は、デイライトに全てを押し付け……もとい、委任し、デイライトとしても、特に権利があるわけでもないのに、こんな大金を押し付けられても困るので、拾得者の権利を主張している私達に引き渡したいというのが本音なのだろう。
愛原「そうでしたか」
本来は公示から3ヶ月以内に遺失者が現れない場合に限り、拾得者である私達に権利が委譲するというのが正式である。
私達がカジノからこの大金をゲットしたのは、今月上旬のことなので、実はまだ1ヶ月も経っていない。
ただ、拾得した場所や状況からして、元々の所有者が栗原家であることに間違いは無く、その本人達にはバイオテロ捜査中などで確認が取れず、かといって権利を主張しているわけでもない。
しかも、拾得者である私達が権利を主張しているということもあり、今回は早めの措置が取られたと思われる。
善場「因みに所長、これは私の独り言なのですが……」
愛原「な、何でしょう?」
善場「このお金が『カジノの景品』であることは、大きな声で言わない方がいいです。日本では賭博罪に問われる恐れがあります」
愛原「そ、それもそうですね」
カジノの景品が、直接この現金だったわけではない。
あくまで、メダルが景品だ。
しかしそのメダルを投入することにより、貴重品ボックスの扉が開き、その中にこの札束が入っていただけのことだ。
……まるで、パチンコの三店方式だな。
もしかしたら、金のメダルや銀のメダルって、実はメッキではなく、本物だったりして?
今から思えばね。
……もしかして栗原家、パチンコ店の経営とかやってたりして?
……まさかな。
とにかく、現金は全て私達の手に渡った。
高橋「す、凄いっスね」
愛原「全部で300万円近くある。すぐに金庫にしまうぞ」
高橋「は、はい。……んでねーちゃん、インゴットの方は……?」
善場「出所が、かつてバイオハザードの発生したスペイン製であったことから、バイオテロに何かしらの関係があるのではないかと見られ、しばらくは証拠品として預からせて頂きます」
高橋「うへー……」
愛原「スペインというと……プラーガとか、ガナードの発生した場所ですか」
善場「そうです」
2004年くらいに発生したバイオハザード事件だ。
地中海では宗教テロ組織ヴェルトロがバイオテロ事件を起こしていたが、その頃、スペインの片田舎では、別の宗教団体がバイオテロを起こしていた。
前者がウィルスであったのに対し、後者は寄生虫。
当時のアメリカ大統領の娘、アシュリー・グラハム氏が誘拐され、大統領のシークレットサービスの一員であったレオン・S・ケネディ氏が救助に向かった事件だ。
プラーガとは寄生虫の名前で、それに寄生されて化け物となったのがガナードという。
化け物と言っても、普段は人間の姿のままである。
今リサが使役している寄生虫とは全くタイプの違う物だが、システム上はとても似通っている為、リサが使役する寄生虫のことを便宜上、『日本式プラーガ』と呼んでいる。
善場「その村は宝石や金などが産出される村だったのですが、そこで採掘された金を使って精製されたインゴットであったようです。その為、しばらくお預かりさせて頂くことになります」
高橋「マジか……」
高橋は心底ガッカリした。
どうやら高橋、インゴットの売却経路を知っているようで、そこで売り払って大金に換え、それを結婚資金にしたいらしい。
愛原「あっ、高橋!」
高橋「はい?」
愛原「お前、婚姻届、うちの親父に送ったか!?」
高橋「あっ、しまった!まだでした!」
愛原「全く。ここは俺に任せて、お前はそれをやってろ!」
高橋「は、はい!失礼します!」
高橋は慌てて応接コーナーから出て行った。
善場「何かあったのですか?」
愛原「あ、いえ、これはとんだ失礼を……」
私は事情を説明した。
善場「ああ、そうだったのですか。それなら、郵便局が開いているうちに行った方が良いですね。午前中に出せば、仙台なら、翌日には届くでしょう」
愛原「そうですね。普通郵便なら、今は2~3日掛かるようですが、書留でしたら、1日か2日で届くようで……」
善場「そんなことろでしょうね。それでは、話の続きですが……」
愛原「あ、はい。すいません」
レオン氏が駆けずり回った村やその地域には、ガナードでありながら、レオン氏に味方した集団がいたらしい。
それは通称“武器商人”。
当初はレオン氏やエイダ・ウォン相手に商売すれば儲かると踏んで近づいたらしいが、元々ガナードの支配種達に対して反感を持っていた武器商人達は、そんな彼らの活躍ぶりに、後半では明らかにサービス精神旺盛で、武器の強化改造などを喜んで引き受けたという。
そんな彼らは何もレオン氏達に武器や弾薬を売っただけではなく、逆にレオン氏達が探索途中で手に入れた貴重品や貴金属などの買い取りも行っていた。
その中に、大小様々にサイズの金塊もあったという。
善場「……栗原家がその武器商人達から、インゴットを買い取ったという証拠はありません。ですが、何らかの繫がりがあったと見て、BSAAでは捜査の最中にあります。最低でもその捜査が終わるまでは、お預かりさせて頂く形になると思いますね。せっかく拾得されたところ、まるで私共が没収したみたいで、心苦しいところではありますが……」
愛原「いえいえ。仕方ありませんよ」
元々この現金同様、証拠品の提出のつもりであったのだから。
あわよくば、現金だけでも戻って来ないかなと思っていたので、私にとっては計画通りなのである。
それにしてもあのインゴット、スペインのバイオハザードに繋がっていたとは……。
善場「それでは次に、昨夜、仙台市内で起きた事件についてのお話です」
愛原「はい」
善場主任の話は、まだまだ続きそうだった。
善場「帰省旅行より無事に帰京されたようで、まずは何よりです」
愛原「おかげさまで。本当は、お土産をお渡ししたいところなのですが……」
善場「お構いなく。利益供与の疑いを掛けられては、元も子もありませんので」
帰省から帰京して翌日、予定通りに善場主任達は事務所にやってきた。
月曜日である為、リサは学校に行っている。
善場「まずは大事な物をお渡ししましょう」
主任が目配せすると、隣にいる黒スーツの部下が頷いて、小さなジュラルミンケースを応接コーナーのテーブルの上に置いた。
そして、私達の方に向けてケースを開ける。
その中には、確かに奥日光の保養施設内のカジノからガメて……もとい、景品保管庫のような所からゲットした諭吉先生が何百人もそこにいた。
善場「所有者と思しき栗原家は、所有権を主張しませんでした。また、警察や私共の方で捜査しましたが、特にバイオテロや脱税などの証拠にもなりませんでした」
恐らくお札に書かれている番号を全て照会したのだろう。
しかしながら、全てのお札が何がしかの事件に関わっているという証拠が出てこなかった為、普通の遺失物という扱いになったようである。
そして、建物の所有者である栗原家に確認したものの、どうやら的を得なかったようだ。
今、栗原家は大変混乱しており、現金の管理すらままならない状態なのだろう。
だから警察やデイライトの確認にも、まともに答えられなかったようだ。
とにかく事件性が無いと判断した警察は、デイライトに全てを押し付け……もとい、委任し、デイライトとしても、特に権利があるわけでもないのに、こんな大金を押し付けられても困るので、拾得者の権利を主張している私達に引き渡したいというのが本音なのだろう。
愛原「そうでしたか」
本来は公示から3ヶ月以内に遺失者が現れない場合に限り、拾得者である私達に権利が委譲するというのが正式である。
私達がカジノからこの大金をゲットしたのは、今月上旬のことなので、実はまだ1ヶ月も経っていない。
ただ、拾得した場所や状況からして、元々の所有者が栗原家であることに間違いは無く、その本人達にはバイオテロ捜査中などで確認が取れず、かといって権利を主張しているわけでもない。
しかも、拾得者である私達が権利を主張しているということもあり、今回は早めの措置が取られたと思われる。
善場「因みに所長、これは私の独り言なのですが……」
愛原「な、何でしょう?」
善場「このお金が『カジノの景品』であることは、大きな声で言わない方がいいです。日本では賭博罪に問われる恐れがあります」
愛原「そ、それもそうですね」
カジノの景品が、直接この現金だったわけではない。
あくまで、メダルが景品だ。
しかしそのメダルを投入することにより、貴重品ボックスの扉が開き、その中にこの札束が入っていただけのことだ。
……まるで、パチンコの三店方式だな。
もしかしたら、金のメダルや銀のメダルって、実はメッキではなく、本物だったりして?
今から思えばね。
……もしかして栗原家、パチンコ店の経営とかやってたりして?
……まさかな。
とにかく、現金は全て私達の手に渡った。
高橋「す、凄いっスね」
愛原「全部で300万円近くある。すぐに金庫にしまうぞ」
高橋「は、はい。……んでねーちゃん、インゴットの方は……?」
善場「出所が、かつてバイオハザードの発生したスペイン製であったことから、バイオテロに何かしらの関係があるのではないかと見られ、しばらくは証拠品として預からせて頂きます」
高橋「うへー……」
愛原「スペインというと……プラーガとか、ガナードの発生した場所ですか」
善場「そうです」
2004年くらいに発生したバイオハザード事件だ。
地中海では宗教テロ組織ヴェルトロがバイオテロ事件を起こしていたが、その頃、スペインの片田舎では、別の宗教団体がバイオテロを起こしていた。
前者がウィルスであったのに対し、後者は寄生虫。
当時のアメリカ大統領の娘、アシュリー・グラハム氏が誘拐され、大統領のシークレットサービスの一員であったレオン・S・ケネディ氏が救助に向かった事件だ。
プラーガとは寄生虫の名前で、それに寄生されて化け物となったのがガナードという。
化け物と言っても、普段は人間の姿のままである。
今リサが使役している寄生虫とは全くタイプの違う物だが、システム上はとても似通っている為、リサが使役する寄生虫のことを便宜上、『日本式プラーガ』と呼んでいる。
善場「その村は宝石や金などが産出される村だったのですが、そこで採掘された金を使って精製されたインゴットであったようです。その為、しばらくお預かりさせて頂くことになります」
高橋「マジか……」
高橋は心底ガッカリした。
どうやら高橋、インゴットの売却経路を知っているようで、そこで売り払って大金に換え、それを結婚資金にしたいらしい。
愛原「あっ、高橋!」
高橋「はい?」
愛原「お前、婚姻届、うちの親父に送ったか!?」
高橋「あっ、しまった!まだでした!」
愛原「全く。ここは俺に任せて、お前はそれをやってろ!」
高橋「は、はい!失礼します!」
高橋は慌てて応接コーナーから出て行った。
善場「何かあったのですか?」
愛原「あ、いえ、これはとんだ失礼を……」
私は事情を説明した。
善場「ああ、そうだったのですか。それなら、郵便局が開いているうちに行った方が良いですね。午前中に出せば、仙台なら、翌日には届くでしょう」
愛原「そうですね。普通郵便なら、今は2~3日掛かるようですが、書留でしたら、1日か2日で届くようで……」
善場「そんなことろでしょうね。それでは、話の続きですが……」
愛原「あ、はい。すいません」
レオン氏が駆けずり回った村やその地域には、ガナードでありながら、レオン氏に味方した集団がいたらしい。
それは通称“武器商人”。
当初はレオン氏やエイダ・ウォン相手に商売すれば儲かると踏んで近づいたらしいが、元々ガナードの支配種達に対して反感を持っていた武器商人達は、そんな彼らの活躍ぶりに、後半では明らかにサービス精神旺盛で、武器の強化改造などを喜んで引き受けたという。
そんな彼らは何もレオン氏達に武器や弾薬を売っただけではなく、逆にレオン氏達が探索途中で手に入れた貴重品や貴金属などの買い取りも行っていた。
その中に、大小様々にサイズの金塊もあったという。
善場「……栗原家がその武器商人達から、インゴットを買い取ったという証拠はありません。ですが、何らかの繫がりがあったと見て、BSAAでは捜査の最中にあります。最低でもその捜査が終わるまでは、お預かりさせて頂く形になると思いますね。せっかく拾得されたところ、まるで私共が没収したみたいで、心苦しいところではありますが……」
愛原「いえいえ。仕方ありませんよ」
元々この現金同様、証拠品の提出のつもりであったのだから。
あわよくば、現金だけでも戻って来ないかなと思っていたので、私にとっては計画通りなのである。
それにしてもあのインゴット、スペインのバイオハザードに繋がっていたとは……。
善場「それでは次に、昨夜、仙台市内で起きた事件についてのお話です」
愛原「はい」
善場主任の話は、まだまだ続きそうだった。