報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「事件後初の出勤」

2017-03-14 20:58:49 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月8日07:04.天候:晴 JR東北新幹線“なすの”252号1号車内→JR東京駅]

 朝一上りの新幹線が上野駅の地下深いホームを発車する。
 小山駅の留置線から出発した新幹線は、朝ラッシュ直前の静けさを表すかのように静粛としている。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 車内チャイムと放送が流れると、それが合図とするかのように仮眠を取っていた乗客達が起き出して、一気に空気が変わる。
 敷島は寝ていなかったが、それを合図にするかのように、脱いでいたコートを着始めた。

〔「……到着ホームは20番線、お出口は左側です。……」〕

 敷島:「少し早めに行くっつったって、結局は始発の新幹線じゃ、いつもの通りか」
 エミリー:「そうですね」
 敷島:「東京駅からバスだと……」
 エミリー:「いえ、駅からタクシーで向かわれることをお勧めします」
 敷島:「何で?」
 エミリー:「MEIKOの話によると、昨日、もしかして社長が夕方に現れるかもしれないと思ったマスコミ関係者がビルの入口で待っていたそうですから」
 敷島:「マジか。すると……」
 エミリー:「今朝は間違いなく社長が出勤されるので、記者さん達の人だかりができていると思われます」
 敷島:「俺はアリスを助けに行っただけだぞ?」
 エミリー:「アクション映画並みの活躍をされたのですから、騒がれもしますよ」
 敷島:「また記者会見やんなきゃいけないのか……。警察の記者会見が遅いんだよなぁ……」

 列車がホームに滑り込む。
 進行方向右手眼下には、東海道本線のホームが見えた。

〔ドアが開きます〕

 プシュー、ガチャ、ガラガラガラと随分大層な開扉音を立ててドアが開く為、アナウンスは必要無いような気がするのは、全盲経験が無いからか。

〔「おはようございます。ご乗車ありがとうございました。東京、東京、終点です。20番線に到着の電車は折り返し、7時16分発、“はやて”111号、盛岡行きとなります。……」〕

 ドアが開いてぞろぞろと降りる乗客達。
 その中に敷島とエミリーも混じる。
 ホームには、折り返し列車への乗車を待つ乗客達が長蛇の列を作っていた。
 列車内は静かなものだったが、駅構内はさすがに賑わっている。
 エミリーが先導するかのように進むと、敷島は駅の外へと向かった。

[同日07:30.天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル]

 東京駅八重洲口からタクシーに乗った敷島とエミリー。

 敷島:「あーあ……都営バスで通っていた頃が懐かしい。あそこ、Wi-Fi使い放題だったのに……」
 エミリー:「しょうがないですよ。本当は社長、既にハイヤーや役員車を導入されて、それで通勤されても良いくらいなんですよ」
 敷島:「そんな、成り金みたいなことはしたくないねぇ……」

 するとビルの入口には、既にマスコミの人だかりができていた。

 敷島:「げ……!?」
 エミリー:「すみません、地下駐車場に入って頂けますか?」
 運転手:「は、はい」

 アルカディアビルには地下駐車場がある。
 多くの企業が入居している為、役員車やハイヤーの発着もある。
 それを考慮したビル側は、地下駐車場に車寄せを設けている。
 その為、送迎による一時駐車(10分間)のみは無料になっている。
 入場の仕方は入口で駐車券を取り、10分以内に出口で駐車券を入れれば良い。
 尚、納品車などが発着する荷捌場はまた別にある。

 敷島:「うわっ、気づかれた!」

 地下駐車場に入る際、歩道を横切る必要がある為、タクシーはそこで一時停車する必要がある。
 敷島達が乗っていた法人タクシーにはプライバシーガラス(スモークガラス)が無い為、すぐに気づかれた。
 すぐにカメラのフラッシュが焚かれ、マイクなどが向けられる。

 敷島:「やっぱ記者会見やろう。鷲田警視達には嫌味言われるだろうけど」
 エミリー:「しょうがないですよ」

 さすがに地下駐車場までは入って来れない報道陣。
 敷島達はそこの車寄せでタクシーを降りた。

 敷島:「ふぅ〜、びっくりした〜……」
 エミリー:「おはようございます。18階の敷島エージェンシーの者です」

 エミリー、警備員にテナント専用入館証を見せる。

 警備員:「はい、おはようございます。どうぞ」
 敷島:「どもども。地上にいるマスコミの人達、後で何とかしますんで」
 警備員:「はあ……」

 エレベーターに乗り込んで、すぐに事務所に向かった。

 敷島:「井辺君達にも迷惑掛けちゃったな。すぐに挽回しないと……」
 エミリー:「私もお手伝いします」

 エレベーターを降りると、すぐ目の前が事務所入口である。

 井辺:「社長、おはようございます」
 敷島:「おっ、井辺君。私より早いな」
 井辺:「申し訳ありません。本来でしたら、私が体を張ってでも社長をエントランスからお連れしないとと思っていたのですが……」
 敷島:「エミリーの機転で地下から来たよ」
 井辺:「あ、なるほど。車で来られたのですね」
 敷島:「そういうことだ。しばらくまたタクシー通勤が続くのか……。経費を無駄にして申し訳ない」
 井辺:「いえ、むしろ社長でしたら、タクシー会社とハイヤー契約をした方がよろしいかと思います」
 エミリー:「私も井辺プロデューサーと同意見です」
 敷島:「矢沢専務が、『キミの会社はそこまで儲かってるのかね?』と嫌味言ってきそうだ」
 井辺:「それなら大丈夫ですよ。今年度の決算報告書は、昨年度よりも明らかに高く記載できるくらいですし」
 敷島:「いずれにせよ、矢沢専務と敷島社長(※)に相談しないとダメだな」

 ※もちろんこれは、敷島孝夫の伯父で、親会社の四季ホールディングスの社長のことである。

 エミリー:「最高顧問より高い車に乗らなければ大丈夫ですよ」
 敷島:「センチュリーより高い車があるのか。……よし、ならば都営バス1台貸切で通勤してやろう」
 井辺:「そちらの方が明らかに経費を無駄にしているので、後で矢沢専務から叱責を頂くことになるかと」
 敷島:「ちぇっ……」
 井辺:「とにかく、社長室へ。目を通して頂きたいものが山ほどありますので」
 敷島:「足の踏み場も無いくらい?」
 井辺:「いえ、それほどではないです」

 社長室に入ると、机と椅子の上に山積みになった書類の数々が……。

 井辺:「お尻の座る場が無い程度です」
 敷島:「妙にリアルだな!」
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“Gynoid Multitype Cindy” 「本州上陸」

2017-03-13 20:59:16 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月7日12:00.天候:晴 商船三井フェリー“さんふらわあ さっぽろ”Aデッキ・レストラン]

 敷島:「船旅最後の飯だ。ゆっくり味わって……って、聞いちゃいねぇ……」
 アリス:(´~`)モグモグ

 敷島はビーフカレーを食べ、アリスはそれにプラスしてハヤシライスも食べていた。

 敷島:「明日から忙しくなるから、エミリー、頼むな?」
 エミリー:「はい、お任せください」
 アリス:「じゃあ、シンディが先に検査した方がいいね」
 敷島:「ん?」
 アリス:「北海道じゃ、簡易的な点検しかできなかったんだから」
 敷島:「それもそうか。エミリーも受けた方がいいな。シンディの後で」
 エミリー:「かしこまりました。最高顧問へのご挨拶は……私よりシンディが行った方がいいでしょう」
 シンディ:「私が?」
 エミリー:「最高顧問は、シンディがお気に入りだと聞きます」
 敷島:「いや、シンディだけじゃないだろ。マルチタイプそのものが気に入ったんだよ。その時、たまたまシンディがいただけだ。少しの間だけならレンタルしてもいいって言ってんのに、新品じゃなきゃ嫌だってさ」
 アリス:「映画のブルーレイもレンタルじゃなくて、新品で購入するタイプか……」
 敷島:「まあ、そういうことだから。今月中に9号機を完成させれば、最高顧問の爺さんも何も言わないだろう」

 因みに容貌はシンディのような感じを希望していたから、やはり見た目で選んだのではないかと思われる。
 エミリーもそれを知っていて、「最高顧問はシンディがお気に入り」だと言ったのだ。
 しかし、性能はだいぶメイドロイドに近いものになるから、素直にナンバリングにしていいのか迷うところ。

 アリス:「製作費は25億円だって」
 敷島:「エミリー達の半額か。それなら、性能も簡素化されて当然だな」

 敷島はコンソメスープを啜りながら言った。

[同日14:15.天候:晴 大洗港フェリーターミナル]

 フェリーは途中、大きな事件に巻き込まれることもなく、無事に茨城県の大洗港に接岸した。
 そこからぞろぞろと下船する乗客達。

 敷島:「久しぶりに本州の地を踏んだって感じだなぁ……」
 アリス:「そうだね」
 敷島:「ここからの交通手段は?」
 エミリー:「水戸駅までバスがありますが、バスは14時57分発です」
 敷島:「なに?随分、待ち時間があるな」
 シンディ:「恐らく、遅着した場合も考慮しているのでしょう。今日はオンタイムでしたが」
 敷島:「しょうがない。タクシーで向かうか。荷物も多いしな。そこから電車で帰ればいいだろう」
 アリス:「そこは任せるよ」

 フェリーターミナルの外に出て、客待ちしていたタクシーに乗り換える。
 大きな荷物はトランクに乗せた。

 萌:「ボクもトランクですか?」
 シンディ:「遠慮しないで、一緒に乗りな」
 エミリー:「水戸駅までお願いします」
 運転手:「南口でいいですか?」
 エミリー:「はい」

 エミリーが助手席に座ってシートベルトを締めながら運転手に行き先を告げた。
 助手席の後ろに座っている敷島がスマホを手にしている。

 敷島:「ああ、井辺君、俺だ。今さっき、フェリーを降りたところだ。今、タクシーで水戸駅に向かってる。そこから常磐線の特急にでも乗れば、夕方には着けるだろう。ミクにも礼を言っておかないといけないしな。あと、矢沢専務に挨拶しておかないと……」
 井辺:「明日でも大丈夫ですよ、社長?皆さん、そのつもりでいますから」
 敷島:「でもなぁ、早く皆に顔を見せたいし……」
 井辺:「社長は御子息と再会してくださいと、最高顧問が仰ってましたよ」
 敷島:「えっ、あの爺さんが来てたの?」
 井辺:「専務と打ち合わせをされていましたが……」
 敷島:「そうか。じゃあ、申し訳無い。明日、早めに出勤するから」
 井辺:「ボーカロイドの皆にも伝えておきます」

[同日同時刻 天候:曇 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 井辺:「……ですので、社長は今日までごゆっくりお休みください。皆さんと専務には、私から伝えておきますので。……はい、失礼します」

 井辺は電話を切った。

 井辺:「ふう……」

 そして事務室内の自分の席を立って、ボーロカイドが控えている部屋に向かった。

 井辺:「失礼します」
 鏡音レン:「どうしました、プロデューサー?」
 KAITO:「急な仕事の依頼ですか?」
 井辺:「この時間帯、待機中なのはレン君とKAITOさんだけですか」
 KAITO:「ええ、そうですが、何かありましたか?」
 井辺:「先ほど社長から連絡がありました。先ほど下船されたそうです」
 レン:「社長がですか!?」
 KAITO:「どうやら無事だったようですね。何よりです」
 レン:「社長のことだから、フェリーの中でも何か戦いでもするのかと思った」
 KAITO:「さもありなんだね」
 井辺:「えー……ま、お二方は私よりも社長とのお付き合いが長いわけですが……取りあえず、期待外れのようです。明日にはこちらに顔を出されるとのことです」
 レン:「ミクやリンが喜びますよ」
 KAITO:「何だかんだ言って、あの2人も寂しがり屋だもんね」
 井辺:「そういうことですので、他のボーカロイドにも伝えておいてください」
 レン:「分かりました。……あの、プロデューサー」
 井辺:「何でしょう?」
 レン:「ボク、リンとは次、いつ一緒に仕事できますか?」
 井辺:「少々お待ちください」
 KAITO:「2人とも売れてから、ソロでの仕事が増えてきたよね」
 レン:「まあね。でもやっぱりボク、リンと一緒に仕事がしたい」
 KAITO:「ボクも昔はよくMEIKOと組んでたなぁ……」

 リンとレンは双子機であるが、KAITOとMEIKOはボーカロイド男性型の試作機、女性型の試作機という位置付けである為、姉弟とか兄妹という設定は無い。
 試作機である為、ナンバリングは元々無かったが、便宜上、MEIKOが0号機、KAITOが00号機ということになっている。
 試作機であっても、量産型(を意識した先行機)の初音ミク達とは何ら遜色の無い活躍をしている。

 井辺:「来週の日曜、旅番組のゲストとして出演する際と、グラビア撮影の際に一緒ということになってますね」
 レン:「ありがとうございます」
 井辺:「明日を楽しみに待ちましょう。社長も早くあなた達の顔を見たいそうです」
 KAITO:「実に光栄ですね」

 と、そこへKAITOの専属マネージャーがやってくる。

 マネージャー:「KAITO、そろそろラジオの収録に行くぞ」
 KAITO:「おっ、了解です。それじゃ、ボクはこれで」
 井辺:「よろしくお願いします」
 レン:「頑張ってー!」

 敷島がいなくても、取りあえず会社は上手く回っているようだ。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「船旅2日目」

2017-03-12 22:52:41 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月7日08:00.天候:晴 商船三井フェリー“さんふらわあ さっぽろ”Aデッキ・レストラン内]

 アリス:(´~`)モグモグ
 敷島:「本当に二日酔いか?相変わらず食うなぁ……」

 スクランブルエッグにベーコンやソーセージが大盛りになっているアリスの皿。

 シンディ:「マスターのプロポーションは、この食欲もあるのですね。次は何をお持ちしますか?」
 アリス:「サラダとフライドポテト持ってきてー」
 シンディ:「かしこまりました」

 朝食もバイキング方式である。
 シンディはパタパタと料理が並んでいるテーブルに向かった。

 アリス:「シンディが暴走したのが、あの廃屋の中だけで良かったじゃない。確かにあのタンカー船だったら、本当に海に投げ込まれていたかもね」
 敷島:「ハハハハ……」
 アリス:「ん?どうしたの?急に蒼くなって……」
 敷島:「あ、いや、まあ、その……。『不死身の敷島』の異名を持つ俺でも、さすがにこんな真冬の太平洋に放り込まれたら死ぬだろうなって考えると、さすがに震えるよ」
 アリス:「それで生きてたら、もう化け物よ。でも、タカオはそれでも死ななそうな何かを持っているよね」
 敷島:「そ、そんなことは無いさ。モノには限度ってものがある」
 アリス:「その限度を何度も超越したから、あなたは不死身の異名を付けられてるの。試しに飛び込んでみる?」
 敷島:「カンベンしてくれよ!俺にもしものことがあったら、会社が心配だ」
 アリス:「年度末のクソ忙しい時期に、のんきに船旅させてくれるってことは、社長の代わりなんて他にもいるってことじゃないの」
 敷島:「そういう身も蓋も無いこと言うなぁっ!」

 四季エンタープライズ、四季ホールディングスとの共同出資で設立された敷島エージェンシー。
 書類上の経営責任者は敷島にはなっているのだが、その実態は……。

 アリス:「ねぇ、まだ到着まで時間があるんだよね?」
 敷島:「そうだな。大洗到着が14時ってことになってる」
 アリス:「それなら、映画観に行かない?」
 敷島:「映画だ?」
 アリス:「マリンシアターってのが船内にあるの」
 敷島:「で、何か観たい映画あるのか?」
 アリス:「“渚のガイノイド”」
 敷島:「ちょっと待て。それは確か、東北工科大学の学生達による自主制作映画だろ?確か本人出演でVシネマまではなったと聞いていたけども、いつの間に?」
 アリス:「いいじゃない。あの平賀教授が、如何にして日本初のメイドロイド七海を製作したのか興味があるわ」
 敷島:「一応、平賀先生の著作にそういうのがあるんだけどねぇ……」

 未だにエミリーやシンディを『メイド長』と呼ぶ七海だが、今では七海自身が他のメイドロイド達の長のようなものである。

 アリス:「ボーカロイドのことについても映画になるといいね」
 敷島:「一応、“初音ミクの消失”があるぞ。架空だけど」
 アリス:「架空じゃダメよ」
 敷島:「まあ、いいや。観に行くとするか」
 アリス:「ポップコーンとコーラでも買って行きましょう」
 敷島:「映画館じゃないんだから……」

 敷島は呆れた

[同日11:30.天候:晴 同船内Bデッキ・マリンシアター]

 平賀:「ほら、行くぞ!さっさと準備しろ」
 七海:「どこへ行かれるんですか?」
 平賀:「学会だよ。お前も来い」
 七海:「私も……ですか?」
 平賀:「お前をロボット工学会で発表する。日本初のメイドロボット……いや、メイドロイドだ」
 七海:「私が……」

 ナレーター:「こうして、七海は学会でその存在を発表され、正式に『日本初のメイドロイド』として認定された。しかし……」

 七海:「太一様、お茶が入りました」
 平賀:「おう」

 平賀、ティーカップを口に運ぶ。

 平賀:「ブボッ!」

 だが一口飲むなり、思いっ切り噴き出す。

 平賀:「な、何だこれ!?コーヒーじゃないぞ!?……少しコーヒーの味はするけど!」
 七海:「はい。太一様はブレンドコーヒーがお望みとのことですので、紅茶とブレンドしました。これが本当の紅ヒーなんちゃって❤」
 平賀:「このバカ!……あー、もうっ!コーヒーくらい自分で入れる。……あ、そうだ。確かこの前、南里先生からヨーカンを貰ったんだ。お前、ヨーカン切って持ってきてくれ。それならできるだろう?」
 七海:「かしこまりました」

 七海、恭しくお辞儀して出て行く。
 だが、何故かしばらくしてチェーンソーの音が聞こえてそれが遠ざかってしまう。

 平賀:「何だ今の音は?」

 そこへ平賀のゼミ生が血相を変えて飛び込んで来た。

 ゼミ生:「先生、大変です!七海さんがチェーンソー持って、外に出て行きました!何を命令したんですか!?」
 平賀:「はあ?自分はヨーカン切って持って来いって言っただけだぞ?」
 ゼミ生:「それですよ!『太一様に洋館を切って持って来るように言われた』と言って、どこかの洋風の家を切るつもりですよ!」
 平賀:「あ、あのバカ!」

 ナレーター:「生みの親を身を挺して守った七海であったが、実際に主人の命令に忠実に行動できるのはまだまだ先なのであった」

 敷島:「こ、これで終わりか……」
 アリス:「エンディングに初音ミクの歌が入ってるけど、あんたもちょっと絡んでるのね」
 敷島:「平賀先生本人出演の映画とあらば、俺も協力するさ。それにしても、確かに昔の七海はあんな感じだったかなぁ……」
 アリス:「確かにあれじゃ、まだ一般販売はできないわねぇ……」
 敷島:「だが主人に対する忠誠心は本物だろう。でなきゃ、暴走トラックに轢かれそうになった平賀先生を庇ったり、東京決戦で前期型のシンディの前に立ちはだかったりしないさ。なあ、シンディ?お前もそう思うだろ?」

 敷島は後ろの席に座っているシンディの方を向いた。 

 エミリー:「申し訳ありません。シンディ、笑いのツボに入ったみたいで……」
 シンディ:「くくくくく……(笑)!こ、コーヒーと紅茶で紅ヒーって……はははははははははははは!!(笑)」
 アリス:「……今度、タカオの秘書やった時にやってみたら?」
 敷島:「おい、カンベンしろよ!ていうかアリス、お前、シンディの笑いの沸点設定、低くし過ぎ!もっと高めに設定し直せよ!」
 アリス:「いいじゃないの、別に」
 エミリー:「シンディ、一度再起動した方が……」
 シンディ:「だ、大丈夫……ふひっ!ふひひひひひひ……!」
 敷島:「ま、今の七海はさすがにそんなボケをしないようにはなったがな」

 敷島達はマリンシアターを出た。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「フェリーでの一夜」 3

2017-03-11 21:24:50 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月6日23:00.天候:晴 商船三井フェリー“さんふらわあ さっぽろ”船内Cデッキ客室エリア]

 敷島は部屋に戻ると、エミリーからマッサージを受けた。
 といっても、性的な意味ではない。
 エミリーは求められればそれも行うつもりでいたが、さすがにアリスが同室しているとあらば、それはできなかった。
 そんなアリスも、今は酒が入ったのと疲労で熟睡している。
 シンディもマスターが眠っているので、充電コンセントを繋ぎ、スリープモードに入っていた。
 萌はシンディの枕のすぐ隣に横になっている。

 エミリー:「この辺……この辺なんですけどね、鼠径リンパという大きなリンパ節があるので、こちらの方刺激していきますね」
 敷島:「うう……効く……」

 しかもマルチタイプは耳かきもできる。
 右目のサーチライトをしぼめて、耳の穴だけを明るく照らすように調整する。
 左目のカメラでズームやアウトをしながら、耳穴の耳垢を取ることができるのである。
 で、その映像は彼女を監視している端末のモニタに出てくるのだが、今は見ることができない。
 端末が黒いロボット達に壊されてしまったからだ。
 エミリーとしては自分を縛る端末が無くなったのだから、ここぞとばかりに敷島達の命令を無視して暴走することも可能なのだが、それをしなかった。
 エミリーにとってそんなことをするメリットが無ければ、後で捕まって破壊処分されるというデメリットの方が大きいことを自覚しているからだ。
 少なくとも敷島をアンドロイドマスターと認め、一生仕えて行く覚悟を見せるのが最高の選択であると彼女のAIは計算したのだ。
 敷島はエミリーに膝枕をされている。
 感触は人間の女性の足並みに柔らかい。
 どんな材質を使っているのだろうか。
 以前に聞いたことがあるのだが、難しい用語だったので忘れてしまった。

 エミリー:「それでは反対向きになってください」

 敷島の左耳が終わり、今度は右耳を行う。
 敷島がくるんと回ると、エミリーの体の方を向く形になる。
 ロングスカートとはいえ、深いスリットの間から覗く白い太ももが人間の女性並みに精巧に造られているので、とても艶めかしい。

 エミリー:「耳垢は少し残してあります」
 敷島:「全部取らないのか?」
 エミリー:「はい。全部取ってしまうと、却って耳に悪いので」
 敷島:「シンディは全部取ってくれたんだがな」
 エミリー:「そこがシンディの詰めの甘さなのですよ」
 敷島:「ふーん……」
 エミリー:「私を使って下さると決めて頂いたからには、シンディ以上の働きをご覧に入れます」
 敷島:「分かったよ」

 とはいえ、もうシンディを使う機会が無くなるのかと言えばそうとも限らない。
 彼女らも所詮は精密機械だ。
 調子が悪くなることもあるだろう。
 あと、定期的なオーバーホールもある。
 エミリーが休止中の間、再びシンディが敷島の為に働くことも十分に考えられる。
 それに、シンディのユーザー登録が解除されたわけではない。
 正式にはシンディのユーザーは、未だに敷島のままであり、エミリーのユーザーは平賀のままなのである。

 敷島:「気持ち良かったよ」
 エミリー:「では、最後に肩もみをします」

 耳かきと耳ツボ押しをした後、エミリーは敷島をベッドに座らせ、自分はその後ろに回って敷島の肩を揉んだ。

 敷島:「……うん。気持ち良かったよ。ありがとう」
 エミリー:「お役に立てて何よりです」
 敷島:「じゃあ、俺はそろそろ寝るよ。明日は7時に起こしてくれないか?」
 エミリー:「かしこまりました。お休みなさいませ」

 敷島は上段に上がると、早速ベッドに潜り込んだ。

[2月7日?時刻不明 天候:不明 敷島達の部屋]

 ロイドは充電が完了しても、セットされたタイマーの時刻になるまではスリープモードに入っている。
 しかし何か異常が発生すれば、即座に起動する。
 例えば……。

 エミリー:「ん……?」

 エミリーはすぐ横に何かの感触がしてスリープモードが解除された。
 目を開けると、すぐ横にいたのは……。

 敷島:「シッ」
 エミリー:「敷島さん?どうかなさったのですか?」
 敷島:「どうもこうも無ェよ。浴衣脱げよ。セクサロイドになってもらうぞ」
 エミリー:「だっ、ダメですよ……こんなところで……」
 敷島:「俺の命令なら何でも聞くんだろ?青姦くらいできなきゃ、アンドロイドマスターに使われるロイドじゃないぞ」
 エミリー:「そ、そんな……」
 敷島:「お前は50億円のダッチワイフだ!」
 エミリー:「いやです!そんなこと言わないでください!……あんっ❤」

 翌朝……。

 シンディ:「社長、朝ですよ。起きてください。……あれ?いないし。……んんっ?」

 シンディは下段のカーテンを開けた。

 シンディ:「なっ……なっ……何やってんのーっ!?」
 アリス:「とうとうやってくれたわね……!エミリーやシンディをダッチワイフ代わりに使っていいのは、単身赴任中の時だけって言ったでしょ!」
 敷島:「ち、違う!これはほんの……あ、アレだ!だ、抱き枕だよ!エミリーに抱き枕代わりになるように頼んだんだ!な、エミリー!?」
 エミリー:「私はロボット三原則第3条に基づいて拒否したのですが、社長が『言う事聞かないと廃棄処分だ!』と無理やり……」
 敷島:「違うだろ!?」
 シンディ:「社長、姉さんをレイプなんてサイテー……!」
 アリス:「シンディ!タカオを海の中に放り込んでおやり!」
 シンディ:「かしこまりました」
 敷島:「わぁっ!?何をするんだ!?やめろ!真冬の太平洋に飛び込んだら死ぬぞ!」

 敷島、抵抗する間もなくシンディに捕まり、海に放り込まれた。

[2月7日07:00.天候:晴 敷島達の客室内]

 敷島:「わあーっ!」

 敷島は飛び起きた。

 エミリー:「社長!?大丈夫ですか?」
 アリス:「なに朝から騒いでんの?うー……頭痛て……。昨夜飲み過ぎた……」
 敷島:「あ、あれ……?!」
 シンディ:「悪い夢でもご覧になったのですか?」
 敷島:「そ、そうか。夢だったのか……。いや〜、助かった……!」
 萌:「あの戦いから間もないですもんね。人間は大変ですね」
 エミリー:「そうだな。社長、ご気分は大丈夫ですか?」
 敷島:「ああ。シンディに海に投げ込まれて死ぬところだった」
 シンディ:「えっ!?」
 萌:「シンディが暴走したのが、そんなにトラウマだったんですか、社長さん?」
 シンディ:「最初のうちは本当にマークに遠隔操作されていたんですが、その後は操作されたフリをしていただけで……」
 エミリー:「シンディ。お前、やり過ぎた感があるぞ?」
 シンディ:「そんな……!」
 敷島:「あ、いや、シンディのせいじゃない。シンディ、お前は何も気にしなくていい」
 アリス:「いいから、早く着替えてレストランに行こう」
 敷島:「お前、二日酔いで具合悪いんじゃないのか?」
 エミリー:「萌、そこの洗面台を空けろ。社長がお使いになるぞ」
 萌:「えー?せっかく朝風呂入ろうと思ったのにぃ!」
 シンディ:「いいからどきな。その後で社長達、朝食を取りに行かれるんだから、その時に入ればいいじゃない」
 萌:「はーい……」

 敷島はベッドから出ると、洗面台に向かった。

 敷島:(夢で良かった……)
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“Gynoid Multitype Cindy” 「フェリーでの一夜」 2

2017-03-10 22:46:53 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月6日21:00.天候:晴 商船三井フェリー“さんふらわあ さっぽろ”号船内Bデッキ]

 大浴場から出て来た敷島を待ち受けていたのはエミリーだった。

 敷島:「あれ?エミリー、どうした?」
 エミリー:「社長をお待ち申し上げていたのですよ」
 敷島:「そうじゃなくて、アリスはどうした?」
 エミリー:「アリス博士でしたら、先にお休みになられるとのことです。だいぶ、お疲れでしたので」
 敷島:「そう、か……」
 エミリー:「シンディが一緒でなければ、浴槽の底に沈むところでした」
 敷島:「だから、あんな酔っぱらった状態で風呂入っちゃダメだって。本当に大丈夫なのか?」
 エミリー:「大丈夫ですよ。社長はどうされますか?」
 敷島:「神経が高ぶって、まだ眠くないからいいや。取りあえず、タオルだけ部屋に置いてこよう」

 今度はエレベーターではなく、階段を使ってCデッキに下りる。
 部屋に入ると、既に室内は暗くなっていた。

 シンディ:「あ、社長。お帰りなさい」
 敷島:「アリスはもう寝てるんだって?」
 シンディ:「はい」

 シンディが指さした所は窓側の上段。
 既にそこだけカーテンが引かれていた。

 敷島:「よくアリスを上段に寝かせられたな」
 シンディ:「力ならお任せください」
 敷島:「まあ、自重の重いお前達が下で寝ろと言ったのは俺だけどな」
 シンディ:「社長もお休みになります?」
 敷島:「いや、まだ眠くないからいい。ちょっと展望スペースで寛いでくるよ」
 シンディ:「分かりました」
 敷島:「シンディはもう充電してていいんじゃないか?アリスはもう朝まで起きんだろう?」
 シンディ:「だと思いますけど……。いつものように、23時になりましたら充電します」

 個室なので、室内にも電源コンセントがある。

 敷島:「まあ、どっちでもいいけど……。ちょっと出てくる」
 シンディ:「行ってらっしゃいませ」

[同日21:30.天候:晴 同船内Aデッキ・展望スペース]

 テーブルを挟んで向かい合って座る敷島とエミリー。

 エミリー:「缶チューハイとおつまみでよろしければどうぞ」
 敷島:「おっ、悪いな」

 どちらも船内の自販機で販売しているものである。

 エミリー:「私も御一緒してよろしいですか?」
 敷島:「ん?……ああ、そういうことか」

 浴衣からいつもの服に着替えたエミリーは、自分の左足の腿の中からオイル缶を出した。
 それにストローを差す。

 エミリー:「貨物船とはいえ船の中で命懸けの戦いをしたというのに、帰りも船旅とは洒落たものです」
 敷島:「あの爺さんにも困ったもんだ。ま、おかげでいい経験ではあるけどな」
 エミリー:「そうですね」
 敷島:「お前達は防水、防潮加工がされていて良かったよ。じゃなかったら、帰りは船ってわけにも行かないだろう」
 エミリー:「そうですね。前期型の私が正にそうでした。前期型より高性能のボディを造って頂いて、平賀博士には本当に感謝しております」
 敷島:「だったら……」
 エミリー:「ですが、平賀博士はとても優れた科学者でしょう。さすが南里博士が見込まれただけのことはあると思います。それについては、私は心から平伏します。ですが、オーナーやユーザーとして見た場合は申し訳無いですが、優れているとは思えません。非礼千万ですけど」
 敷島:「俺の方が優れていると言いたいのか?」
 エミリー:「はい。私を使いこなせる本当のマスターは、あなたしかいない。そう思っております。……ナイフを受け取って頂けますか?」

 エミリーはスリットの深いロングスカートを捲り上げると、今度は右足の脛をパカッと開けた。

 敷島:「ここでは受け取れんよ。さすがに見た目は大型のジャックナイフだ。周りの人に見られたら大騒ぎになっちゃう」
 エミリー:「これは失礼しました。では、他の場所では受け取ってくださるのですね?」
 敷島:「ああ。今回の戦いで、だいぶお前に助けられたからな。俺にどこまでできるか分からんが、少なくとも俺には最低でも1機のマルチタイプが必要だと分かったよ。シンディでも十分、俺の役には立ってくれてるんだが……」
 エミリー:「シンディも私とは同型の姉妹機ですが、あいにくとこう言っては何ですが、詰めが甘いところがあります。未だKR団の脅威が完全に消えていない以上、その甘さは命取りになるでしょう」
 敷島:「そうかな。ま、とにかく、エミリーが俺の為に働いてくれるという気持ちは分かったよ。お前と俺とはシンディ以上に長い付き合いだもんな」
 エミリー:「はい。……付き合いの長さで決められるのですか?」
 敷島:「それが日本人ってもんよ。何でも契約社会に生きる欧米人には所詮分からんだろうけどな。俺達には、世間の付き合いを大事にする習慣がある。それに則って考えるとするならば、確かにシンディよりもお前を選択肢として選ぶことになるんだよ」
 エミリー:「そういうものですか」
 敷島:「なあ、エミリー。俺とお前とは、出会ってどのくらいになる?」
 エミリー:「概算で10年を少し超えます」
 敷島:「だろう?」

 一部しか公表していない“ボーカロイドマスター”からの時系列。

 敷島:「ボーカロイドのプロデューサーとして駆け出した頃は、まだ俺も20代半ばだったもんな。よくやったもんだ。今じゃ、俺もアラフォーだ」
 エミリー:「大変優秀です。ボーカロイド達は皆、社長に感謝しております。ボーカロイドの本領を十分に発揮させることができたプロデューサーは、あなたしかいないと……」
 敷島:「いやいや、俺はただ単に売り出しただけに過ぎない。まずは、あいつらの核となる楽曲を提供して下さった音楽家さんがいてこそさ。俺は売り出すことはできても、作詞・作曲はてんでダメだから」

 敷島はそう言って缶チューハイをグイッと飲んだ。

 敷島:「あいつらもトップアイドルを張るようになって、専属のマネージャーが必要になった。まさか、人を雇うまでの会社になるとは思わなかったよ」
 エミリー:「シンディは秘書としては優秀でしょうが、私も遜色無く務めさせて頂きます」
 敷島:「ああ、頼むよ。……本当はな、もしもお前が人間だったらの話なんだが……」
 エミリー:「はい?」
 敷島:「俺はお前に結婚を申し込んでいたと思う」
 エミリー:「……はい?」
 敷島:「それだけ俺もお前を信用……いや、信頼してるってことさ」
 エミリー:「セクサロイド・モードをご希望で?……ですが、今はアリス博士が御一緒です。今夜の所は御自重なさいますよう……」

 セクサロイドとは人間に性的サービスを行うアンドロイドのことである。
 今現在のところ、専門的にそれを行うロイドは製造されていない。
 代わりに、マルチタイプにモードの1つとして搭載されているくらいだ。
 ん?ボーカロイドにその機能は搭載されてるのかって?それは【お察しください】。

 敷島:「どれ、そろそろ俺も部屋に戻って寝るか」
 エミリー:「はい。どうぞ、お手を」

 エミリーは敷島の手を取った。

 エミリー:「一部を除き、メイドロイドにもセクサロイドとしての機能が搭載されております。私やシンディで、彼女達に召集を掛け、ハーレムを形成して差し上げることは可能です。いつでもお申し付けくださいませ」
 敷島:「おい、何言ってんだw その前にシンディがアリスに御注進して、とんでもないことになるぞ」
 エミリー:「それもそうですね」

 エミリーは笑みを浮かべた。
 それまでロボットで在り続けた頃と比べれば、劇的に表情は豊かになっていた。
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