報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「秩父紀行」

2017-03-19 20:50:33 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月11日13:00.天候:晴 DCJ秩父営業所]

 デイジー:「オーナー様……私の……オーナー様……」
 アリス:「そう。オーナー様に対しては、基本的に『マスター』とお呼びすること。但し、オーナー様の御意向にもよるわ」

 アリスの仕事は基本的な『心得』を入力すること。
 率先してシンディもサポートに当たっている。
 シンディの妹として、8号機のアルエットもいるにはいるのだが、フルモデルチェンジの従妹という感じなのに対し、9号機は再び旧モデルで造られた実妹のようなものだ。
 シンディにとっては、7号機のレイチェル以来の実妹ということになる。
 尚、7号機のレイチェルの設計データもDCJで確保しているのだが、レイチェルがあんなに大暴れしてしまった以上、再製作はかなり不可能とされている。

 シンディ:「最高顧問、デイジーには何て呼ばれたいですか?」
 孝之亟:「そうじゃのう……。マスターで良い。うむ。実に懐かしい響きじゃ」
 シンディ:「懐かしい?」
 孝之亟:「まあ、ちと色々あってな……」
 シンディ:「? まあ、いいでしょう。デイジー、分かった?こちらのオーナー様はマスターとお呼びすること」
 デイジー:「はい、お姉様」

 デイジーはシンディをモデルにデザインされたということもあって、とてもよく似ている。
 違うのはシンディが金髪なのに対して、デイジーは黒髪であるという点、そしてやや肌が色黒になっているという点である。

 孝之亟:「ううーむ、素晴らしい。是非ともこのまま連れて帰りたいくらいじゃ」
 アリス:「お気に召して下さったようで何よりです。ただ、あいにくですが……」
 孝之亟:「うむ、分かっておる。テストがあるのじゃろう。楽しみにしておるでな」

[同日15:00.天候:晴 埼玉県秩父市・白久温泉]

 (BGM:がんばれゴエモン 〜ゆき姫救出絵巻〜より、ゴエモン音頭)

 敷島達の乗ったタクシーが旅館の前に到着する。
 尚、アリスも含めて5人となる為、タクシーはワゴンタイプのものを予約した。

 敷島:「こんな所まで来ちゃって……」
 孝之亟:「心配するでない。わしの奢りじゃ。わしの知り合いが経営している旅館でな、いつか来ようと思っていたのじゃ」

 その為か入店しようとした際、中居達がズラリと並んで出迎えし、そこから法被を着た老支配人が出て来た。
 歳の頃、孝之亟と同じくらいだ。

 支配人:「孝ちゃん、来てくれたんじゃな……」
 孝之亟:「梅ちゃんや、借りを返しに来たぞ……」

 この2人に何があったのかは知らないが、感動の再会であるらしい。

 孝之亟:「隠居しても尚、自由な行動が許されん。なかなか来れずに、悪かった……」
 支配人:「いいんじゃよ。孝ちゃんもこんなに偉くなって……」
 孝之亟:「いやいや、本来ならそこにいるのはわしで、梅ちゃんが社長をやるはずだったのじゃ」
 支配人:「……おっと。お客様もおるというに、立ち話はいかんな」
 孝之亟:「わしの遠い孫とその嫁、そして秘書達じゃ」
 支配人:「これは遠い所をようこそお越しくださいました。小さい旅館ですが、どうかごゆっくりお寛ぎください」
 敷島:「どうも、お世話になります」
 アリス:「確かに遠かったけど、でも同じ埼玉県……」
 敷島:「こらぁ!」

 そして部屋に入る。
 純和風の部屋であるが、孝之亟が予約しただけに、とても広い。
 二間続きの部屋である。

 孝之亟:「わしはこっちで寝るから、キミ達はそっちで休みなさい」
 孝夫:「いいんですか?」
 孝之亟:「その代わり、シンディを貸してくれ」
 孝夫:「夜伽の相手としてですか?」
 孝之亟:「いかんかの?」
 孝夫:「まあ、いいですけど……。いいよな、アリス?」
 アリス:「Yotogi?」
 孝夫:「シンディに添い寝を頼むってことだよ。色んな意味で」
 アリス:「Ah...」
 孝之亟:「何じゃい?色んな意味って」
 孝夫:「いや、何でも……」
 エミリー:「私は外で見張りをしていましょうか」
 孝夫:「いや、いいよ。お前も一緒に休んでくれ」

 そんなことを話していると、支配人が入って来た。

 支配人:「孝ちゃん、ちょっといいかね?」
 孝之亟:「何じゃい、梅ちゃん?」
 支配人:「今日の宿泊なんじゃけど、孝ちゃん入れて5名じゃよな?」
 孝之亟:「それがどうした?」
 支配人:「食事が3人分しか予約されとらんのじゃが、これは一体……」
 孝之亟:「ああ、それなんじゃが、事情があって、このコ達は食事をせんのじゃ。このコ達だけ素泊まりで頼む」
 支配人:「コンパニオンを連れて来たのかね?さすが孝ちゃんじゃ」
 孝之亟:「違う違う。秘書じゃと言ったじゃろう。コンパニオンを頼みたかったら、ちゃんと置き屋に頼むわい」
 支配人:「まあいいや。じゃ、食事は3人前でいいんじゃな?」
 孝之亟:「うむ。複雑な料金計算になって申し訳無いが、よろしく頼むぞ」
 支配人:「もちろん。それで夕食の時間は……」

 何十年もの付き合いである支配人と孝之亟の間ではざっくばらんな会話になっているが、それ以外の敷島達に対しては……。

 支配人:「4名様まででしたら、こちらのお部屋にお食事を運ばせて頂きます」
 敷島:「どうも。あ、それで食事の人数を確認したんですね」

 支配人はその後、大浴場の案内とか館内の案内とかをした。

 孝之亟:「なかなか立派な旅館じゃないか。全然小さくないぞ。さすがのわしも、こういう宿泊の経営はできんのぅ……」
 支配人:「それではどうぞごゆっくり」
 敷島:「どうも」
 エミリー:「お世話になります」
 シンディ:「お世話になります」
 アリス:「いいねぇ、これがKotatsu?うちにも欲しいわぁ」
 敷島:「俺らんとこのマンション、炬燵を設置できる和室が無いだろ」

 さすがに掘り炬燵ではないようだ。

 敷島:「では“ベタな温泉旅館の法則”と致しまして……」

 敷島は立ち上がると、クロゼットを開けた。
 その中には浴衣が入っている。

 敷島:「早速、温泉入ってきましょうか」
 孝之亟:「おお、そうじゃの」
 アリス:「もう入っていいんだ?」
 敷島:「もちろん」
 シンディ:「マスター、お隣の部屋で着付けを」
 敷島:「おいおい、浴衣くらい1人で着ろよ」
 アリス:「うるさいわね」
 孝之亟:「わしも手伝ってもらいたいのじゃが……?」
 シンディ:「あー、えっと……」
 エミリー:「僭越ながら、私でよろしければ……」
 孝之亟:「おっ、すまんの。孝夫は1人で着れるんじゃったな?」
 敷島:「当たり前じゃないっスか!」
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“Gynoid Multitype Cindy” 「マルチタイプ9号機」

2017-03-18 20:44:19 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月11日11:10.天候:晴 DCJ(デイライトコーポレーション・ジャパン)秩父営業所]

 タクシーが秩父市街のとある小さなビルの前に止まる。
 極秘の研究開発が行われる地下研究所がある割には随分と市街地にあるが、町自体が小さなものと、逆にこんな街中にまさか秘密の研究所が……という裏をかいたものなのだろう。
 尚、本当にヤバいものについては、アメリカ本体のド田舎に研究施設を構えるもよう。

 孝之亟:「なるほど。確かに見た目に地方都市に構えている営業所そのものじゃな」
 敷島:「ですよねぇ……」

 それでも正面入口から入ると、ちゃんと入口にはPepperが配置されている辺り、そういった会社なのだと分かる。

 Pepper:「いらしゃいませ。御用件は何でしょうか?」
 エミリー:「ここの研究施設に用がある。分かるか?」

 エミリーはPepperの持っているタブレットに手を当てた。
 手袋を外して、右手を当てている。
 右掌には赤外線通信のレンズが付いており、ここから何かを送信している。

 Pepper:「お待ち申し上げておりました。すぐにお取り次ぎ致します」
 孝之亟:「一体、何をしたのかね?」
 シンディ:「御心配いりませんわ。姉とPepperの、無言の会話ですよ」
 孝之亟:「そうなのか。随分とハイテクじゃのぅ……」
 敷島:「ていうか、来ることは事前に伝えていたんだから、アリスのヤツ、出迎えに来いってんだ」

 すると、受付奥のガラス戸が開いた。
 擦りガラスになっていて、奥を見ることはできない。

 所長:「これはこれは、遠い所をようこそお越しくださいました。私、こちらの営業所長を務めております山野辺と申します」
 孝之亟:「突然押し掛けてしまい、申し訳ない。どうしても、まもなく完成するという私の新しい宝物を見たくなってしまいましてな……」
 山野辺:「はい。ご準備の方はできております。どうぞ、こちちへ」

 敷島達は山野辺所長の案内で、営業所の奥へと向かった。
 ガラス戸の向こう側はまだ秘密部分では無く、社員や約束を取ってやってきた来訪者なら入れるエリアのようだ。
 それでもセキュリティロボットが稼働していて、敷島達が来ると、壁際に寄って、ビシッと敬礼するのだった。
 ただ、その相手は敷島や孝之亟というより、最上位機種であるエミリーとシンディの姉妹に対してという感じだ。

 エミリー:「ご苦労」
 シンディ:「ご苦労様、299号」

 マルチタイプ姉妹もそう認識しているか、軽く挙手して答礼する。
 セキュリティロボットからすれば、エミリー達は総隊長扱いなのである。
 メイドロイドから見れば、メイド長だが。
 奥にあるエレベーター、通常は上に上がるのだが、カードキーとパスコードの打ち込みで、地下研究所に行ける。
 それで地下に下りると、地上階の営業所とは雰囲気が一変した。
 それまでは近代的なオフィスといった感じだったのが、ここではメタリックな造りになっている。
 ここにもセキュリティロボットは配置されていて、エミリーやシンディに敬礼してきた。
 普段はビシッと稼働しているセキュリティロボットだが、ボーカロイドのファンクラブを勝手にネットワーク形成しているらしく、ボーカロイドがやって来たら、プログラムそっちのけでサインや握手をねだりに来る。
 で、その度にエミリーやシンディにブン殴られるという……。

 山野辺:「こちらでございます」

 山野辺は更にカードキーとパスコードを打ち込んで、重厚な鉄扉を開けた。

 敷島:「アリス!」
 アリス:「タカオ、やっと来たのね」
 孝之亟:「急に押し掛けてすまんのぅ。ところで、ワシの曽孫、2人目はまだかの?」
 アリス:「タカオの子種が足りなくなっているようですので、シンディに電気ショックしてもらおうと思っていたところです」
 シンディ:「いつでも御命令を」
 敷島:「こらぁ!殺す気か!」
 エミリー:「いや、簡単にその命令を聞くなよ、シンディ」
 孝之亟:「それで、ワシの新しい宝物はどこじゃな?ん?場合によっては家宝に指定しても良い」
 アリス:「こちらですよ」

 アリスが更に研究室の奥へ案内する。

 孝之亟:「おっ、そうそう。お前達も我が敷島家の家宝に指定するでな」
 エミリー:「ありがとうございます」
 シンディ:「大変光栄ですわ」
 敷島:「一瞬俺もほっこりしかけたけど、エミリーのオーナーは平賀先生ですよ」

 しかし、孝之亟は遠い孫の話を聞いていなかった。

 孝之亟:「おおっ、あれがそうかね!?」
 アリス:「はい、そうです」

 ガラス越しにそれはあった。
 台の上に仰向けに寝そべり、目を閉じている。
 右腕の二の腕の部分には、ローマ数字でⅨの文字がペイントされていた(ボーカロイドは英数字、メイドロイドは“海シリーズ”と呼ばれる試作機が漢数字、それ以外の量産機は英数字)。

 アリス:「早速、起動しますので、少々お待ちください」

 アリス達、研究員達は直接中に入って機器を操作した。

 孝之亟:「私らは外で待たされておるが、これは何を意味しておるのですかな?」
 山野辺:「あってはならないことですが、起動に失敗した時の為です」
 孝之亟:「失敗……というと?爆発とかですかな?」
 山野辺:「それもありますし、万が一、暴走状態になる恐れがあります。このガラスは特注の超強化ガラスですので、マルチタイプの力を持ってしても、1回では壊れません」
 シンディ:「それなら私が護衛で中に入りましょうか?私もマルチタイプですので、あの『妹』が暴走しても取り押さえできると思います」
 山野辺:「あー……」
 孝之亟:「うむ。確かにその方がいいかもしれんな」
 山野辺:「では、どうぞ」

 シンディもまた研究室内に入る。
 入ると同時に、9号機が起動した。
 ゆっくりと目を開けて、ゆっくりと上半身を起こす。
 因みに服装は今、患者が着る手術着のようなものを着ていた。

 アリス:「数値の方はどう?」
 研究員A:「電力レベルはクリアです。通常起動に成功しました」
 研究員B:「ウィルススキャンをしていますが、ウィルスは検知されていません」
 アリス:「では2017年2月11日11時28分を以って、マルチタイプ9号機の完成を宣言します」
 シンディ:「生誕、おめでとう。私はシンディ・サード。あなたの姉よ。識別信号で同型機だって分かるでしょう?」
 研究員C:「言語認識、正常に作動しています」
 アリス:「OK」
 9号機:「初めまして。シンディ・お姉様」
 敷島:「よーし!起動に成功したぞ!」
 シンディ:「外を見てごらん。向かって左側にいる老紳士、あの御方があなたのオーナー様よ」
 9号機:「私の・オーナー様……」

 シンディはガラスの外に向かって手招きした。

 孝之亟:「入っても大丈夫なのかね?」
 敷島:「シンディがいいって言ってるんですから大丈夫でしょう。アリスも何もしていませんし」

 敷島達も研究室の中に入った。

 敷島:「そう言えば、この9号機に名前を付けませんと。名前は決められてますか?」
 孝之亟:「案ずるな」

 孝之亟はエミリーに持たせている鞄の中から、封筒を取り出した。
 それを開けると、筆書きで書かれた1枚の半紙が出てくる。

 孝之亟:「命名!デイジーじゃ!お前の名前はデイジーじゃ!」
 シンディ:「あなたの名前はデイジー。9号機のデイジー。デイジー・ナインスよ」
 デイジー:「……分かりました。私の・名前は・デイジーです・ね。認証・しました」
 敷島:「何か、喋り方が前のエミリーに似てるな」
 アリス:「まだ、言語ソフトが完全にインストールされきっていないのよ。もう少し待ってて」
 敷島:「良かったですね、最高顧問。宝物が増えて」
 孝之亟:「うむうむ。小切手を持って来たのじゃが、どこに納めれば良いかね?」
 山野辺:「それはお引き渡しの時で結構です。今はあくまで起動実験の段階でして、動作テストはこれから行いますので……。起動テストは成功ですね」
 孝之亟:「なるほど。正式にワシの物になる日が楽しみじゃわい」
 シンディ:「そういうわけだから、テスト頑張って。くれぐれも私達に恥をかかせないで。特にそっちの1号機の姉さんは怖いから、怒らせるとビンタでは済まない……」

 ゴッ……!(エミリー、余計なことを言う妹にゲンコツを食らわす)

 シンディ:( ゚д゚)〜☆
 エミリー:「博士達やオーナー様方の求めることにお応えすることができれば合格だから頑張れ」
 デイジー:「は、はい」
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“Gynoid Multitype Cindy” 「秩父へ向かう」 2

2017-03-17 21:05:22 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月11日09:25.天候:晴 池袋駅西武線特急ホーム]

〔「お待たせ致しました。9時30分発、特急“ちちぶ”9号、西武秩父行き、まもなくドアが開きます」〕

 ドアが開いて、敷島達は列車に乗り込んだ。
 全車指定席なので、乗車風景は淡々としたものだ。
 但し、平日の通勤時間帯とは違い、当然だが行楽客の姿が多く目立っている。

 エミリー:「こちらです」
 孝之亟:「うむ。せっかくじゃ、座席を向かい合わせにしようではないか」

 エミリーが座席下のペダルを踏んで回している間、シンディは孝之亟から脱いだコートを預かって畳み、荷棚の上に置いた。
 被っていた山高帽は窓の横のフックに掛ける。
 因みにビジネスマナーにおける、電車の座席の上座と下座。
 最上位の者は進行方向向きの窓側、2番目はその向かい、3番目は最上位者の隣、そして最下位の者は3番目の隣になるという。
 杓子定規に行けば、孝之亟が進行方向向きの窓側、敷島がその向かい、孝之亟の隣にエミリーが座って敷島の隣がシンディになるはずだ。
 しかし今回の場合、孝之亟はシンディがお気に入りということもあり、シンディが孝之亟の隣に座ることにした。

〔「本日も西武鉄道の特急レッドアローにご乗車頂き、ありがとうございます。お客様にご案内致します。この電車は9時30分発、特急“ちちぶ”9号、西武秩父行きでございます。停車駅は所沢、入間市、飯能、横瀬、終点西武秩父の順でございます。……」〕

 敷島は窓際の桟にコーヒーの入った紙コップを置き、サンドイッチの入った箱を開けた。

 孝之亟:「お前だけこんなものを……」
 敷島:「さっき、売店に行って来たんですよ。最高顧問、いらないって言ったじゃないスか」
 孝之亟:「まあ、それはそうじゃが……。こういう行楽列車に乗ると、酒を口にしたくなるのぅ……」
 シンディ:「私が買って参りましょうか?」
 敷島:「やめとけ。もうすぐ発車時間だぞ」
 孝之亟:「うむ。車内販売が来るのを待つとしよう」
 敷島:「いや、確か車販無いっスよ?」
 孝之亟:「なにぃっ?」
 敷島:「自販機でジュースくらいしか無かったはずです」
 孝之亟:「何じゃ、あるんじゃないか。それに、状況を見に行くのに酒を入れるわけにはいかんじゃろう。お茶で十分じゃ」
 シンディ:「それでは行って参ります」

 シンディは席を立つとデッキにある自動販売機に向かった。

[同日09:40.天候:晴 西武池袋線特急“ちちぶ”9号1号車内]

 電車は定刻通りに池袋駅を発車した。

 敷島:「10時48分らしいですね。到着は」
 孝之亟:「1時間ちょっとの旅じゃな」

 孝之亟は大きく頷いた。

 敷島:「……最高顧問のことだから、9号機を見てすぐ帰るってわけじゃないですよね?」
 孝之亟:「当たり前じゃ。せっかく秩父まで行くのじゃから、観光の1つでもせんでどうする」
 敷島:「やっぱりねぇ……。あの、私、仕事がありますので……」
 孝之亟:「おいおい、たかだか1泊2日程度じゃぞ?今日と明日ならお前も休みじゃろう?」
 敷島:「ボカロ達がイベントとかに出ますので、たまには見に行ってやらないと……。ミクとか結構、寂しがり屋ですから」
 シンディ:「社長、ボーカロイド達には私から説明しておきますよ。『社長は社長で別の仕事が忙しい』って」
 エミリー:「社長、以前、十条達夫博士の所に行った際、『孤独な老人の相手をするのも人助けで、これは非常に重要なことだ』と仰っていたじゃありませんか」
 敷島:「そん時、お前いたっけ?ってか、よく覚えてるな、そんなこと」

 孝之亟はカラカラと笑った。

 孝之亟:「うむうむ。この娘らの言う通り、孤独な老人の相手をするのも敷島家の家訓じゃぞ。なぁに、宿泊先や帰りのルートは既に押さえてあるでな、何も心配は要らんぞ」

[同日10:48.天候:晴 埼玉県秩父市 西武秩父駅→DCJ秩父営業所]

 列車は飯能(はんのう)駅で進行方向が変わった。
 しかし席は交換せず、このままで行く。
 因みに進行方向が変わったり、電車の運転系統が分断されていることから、西武池袋線は池袋〜飯能までとよく誤解されているが、実際は更にその先の吾野(あがの)駅までである。
 但し、特急は止まらない。
 しかし、本格的に山岳路線に入り、トンネルもまた正丸トンネルという長いトンネルを通過する。
 このトンネル、隧道内に信号場が設けられているほどだ。

 
(正丸トンネル信号場。写真はウィキペディアから。尚、この信号場は“私立探偵 愛原学”の霧生電鉄のトンネル内のモデルになった)

 線路も単線になり、いよいよローカル線という感じがしてくる。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく西武秩父、西武秩父、終点です。お出口は、右側です。……〕

 敷島:「ようやく到着ですね」
 孝之亟:「よくこういう所に研究所を造ったのぅ……」 
 敷島:「秘密の研究所、ですからね。いいのかな……」

 敷島は首を傾げた。

 シンディ:「最高顧問、どうぞ」
 孝之亟:「うむ」

 シンディは荷棚からコートを出すと、孝之亟に着せた。
 敷島は自分で着る。
 孝之亟は山高帽を被ると、ステッキを右手に持った。
 尚、バッグはシンディが持っている。
 電車は定刻通りに西武秩父駅1番線に入線した。
 これは特急専用ホームである。

 敷島:「営業所兼研究所は西武秩父駅の方でなく、秩父鉄道の秩父駅の方にありますので、タクシーに乗り換えますよ」
 孝之亟:「構わんよ。その前にトイレに行きたい」
 敷島:「あ、はいはい。駅の中にありますからね」
 孝之亟:「歳取るとトイレが近くてかなわんわい」
 敷島:「まだ時間はありますから、どうぞごゆっくり」

 電車を降りて改札口に向かう途中にトイレがある。
 孝之亟はその中に入って行った。
 その間に敷島は自分のスマホを取り、それでアリスに電話を掛けた。

 敷島:「ああ、俺だ。今、西武秩父駅に着いたところだ。これからタクシーで向かう予定だけど、迎えの準備は大丈夫?何か今朝、慌てて出て行ったみたいだけど……」
 アリス:「大丈夫よ。いつでもいらっしゃいな。9号機の電源を入れる準備はできてるわよ!」
 敷島:「そうか。だけどあくまで試運転であって、すぐに引き渡しできるわけじゃないんだろう?……ま、そりゃそうだな。……ああ、分かった。じゃ、職員の皆さんにもよろしく。……ああ、それじゃ」

 敷島は電話を切った。

 敷島:「慌てず、ゆっくり来いってさ」
 エミリー:「了解しました」
 シンディ:「了解しました」
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“Gynoid Multitype Cindy” 「秩父へ向かう」

2017-03-16 22:46:18 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月11日08:21.天候:晴 JR大宮駅・埼京線ホーム]

〔おはようございます。22番線に停車中の電車は、8時21分発、りんかい線直通、各駅停車、新木場行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 祝日の埼京線電車で発車を待つ敷島達。
 ドア横の席に敷島は座るが、ロイド姉妹は着席せず、敷島の横に立っている。

〔「お待たせ致しました。8時21分発、埼京線、りんかい線直通の新木場行き、まもなく発車致します」〕

 地下ホームに発車メロディが鳴り響く。

〔22番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 ドアチャイムが3回鳴り、バン!とドアが閉まる。
 昔の電車は圧縮空気を使ったドアエンジンを使用していた為か、ドアごとに閉まる速度が微妙に違ったりしていた。
 埼京線だと旧型の205系辺りまでである。
 E233系などの最新式は完全に電気式のドアになった為、ほぼ全てのドアが寸分違わず開閉している。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、りんかい線直通各駅停車、新木場行きです。次は北与野、北与野。お出口は、右側です〕

 尚、この場にはアリスがいない。
 実は昨夜、単身赴任から帰った際、最高顧問が今日、製作状況を見に行くとアリスに話したら、どこかへ電話していた。
 恐らく、DCJの関係者で間違い無いだろう。
 そして今朝早く、迎えの車に飛び乗って行ってしまったのである。
 もちろん、行き先は科学館ではなく、秩父営業所(兼研究所)だ。
 シンディが再起動する間もなく行ってしまったから、シンディが置いてけぼり状態になったわけである。
 幼子に関してはいつもの通り、メイドロイドの二海に頼めば良いのだが、それにしてもどうして慌てて出て行ったのかが気になった。
 尚、アリスの護衛については、アリスが製作した最新型のバージョン5.0、マリオとルイージが一緒にいるから大丈夫とのこと。
 一応、全車指定席のレッドアローの乗車券については4人分取ってはいるのだが……。

 シンディ:「マリオとルイージが役に立つか分かりません。私、ジェットエンジンですぐにでも後を追いたいです」
 敷島:「まあ、確かに気持ちはよく分かる。だがシンディに関しては、特別だからな。最高顧問はお前がお気に入りなんだ。そのお前が一緒に来なくてどうする?」
 シンディ:「それはそうですが、マスターの護衛も私にとっては大事な使命の1つですので……」
 エミリー:「いいからシンディ、社長の仰る通りにするんだ」
 シンディ:「姉さん」
 エミリー:「確かにマリオとルイージのAI性能については、私も疑問が82.52%ほどある。しかし、お前はアリス博士をマスターとしているのと同時に、敷島社長からのユーザー登録もされているのだ。そのユーザーの御希望に沿うのも使命だと思うが?」
 シンディ:「そこは姉さんの仰る通り。だけど、物事には優先順位がある。オーナーとユーザー、優先されるのはオーナーの方よ?」
 エミリー:「関係無い」
 シンディ:「は?」
 エミリー:「どちらも優先されるべきもの。臨機応変な対応が求められる。杓子定規に捕らわれていては、それはロボットと同じ。私達は自分で考えて行動できるロイドなのだから、それではいけない」
 シンディ:「……そのロボットのフリして皆を騙していたのはどこの誰だっけ?」

 シンディの言動に、エミリーの眉間にシワが寄せられた。

 敷島:「おい、もうやめとけ。アリスだって想定済みさ。マリオとルイージについては、あくまでお前達と比べれば性能が劣るというだけであって、ロボットとしてはかなり優秀な部類に入るぞ。普通の護衛ロボットとしてなら十分さ。シンディ、今日は最高顧問に可愛がってもらうのが使命だ。25億円もポーンと出して、お前達の妹が欲しいということになったのも、シンディを気に入ったからなんだからな」
 シンディ:「はあ……それは光栄ですけどね」
 敷島:「お前がエミリーより勝った点じゃないか、そこは」
 シンディ:「そうですかねぇ……」
 エミリー:「DCJ様の売り上げだけでなく、敷島エージェンシーの株も上がったのだ。シンディの功績だぞ」
 シンディ:「そ、そうかしら?私の知らない形でお役に立てるなんて光栄ですわ」

 エミリーは敷島にウインクをした。

 敷島:(やっと機嫌が直ったな)

[同日08:55.天候:晴 JR池袋駅→西武鉄道池袋駅]

 各駅停車ながら快速の通過待ちなどは無かった為、比較的早く池袋駅に接近する。

〔「池袋でお降りのお客様、ご乗車ありがとうございました。まもなく池袋、池袋です。お出口は、右側です。池袋を出ますと、新宿、渋谷、恵比寿、大崎の順に止まります」〕

 池袋駅の北側は線形が悪い為、減速してホームに入線する形になる。

〔いけぶくろ〜、池袋〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、新宿に止まります〕

 ドア開扉の際もチャイムが3回鳴る。
 平日は朝ラッシュの時間帯で押し合いへし合いの状態なのだろうが、祝日の今日はそこまでではない。
 だがターミナル駅の1つである為か、多くの乗降客があるという事実は覆らない。
 敷島達は電車を降りた。

 敷島:「四季エンタープライズに行く時でも、JRは使わないからなぁ……」

 と、敷島。
 敷島エージェンシーのある豊洲からなら、東京メトロ有楽町線で行ける為である。

 エミリー:「御心配いりません。私達で待ち合わせ場所まで先導致します」
 敷島:「よろしく頼むぞ」

 エミリーやシンディのナビのおかげで、迷わずに西武鉄道の地上改札口まで行くことができた。

 孝之亟:「おっ、やっと来たか」
 敷島:「最高顧問」
 エミリー:「おはようございます」
 シンディ:「おはようございます」

 ロイド姉妹は寸分たがわぬタイミングで孝之亟に挨拶した。

 孝之亟:「うむ。今日はよろしく。……キミ、ちゃんと合流できたので、もう良いぞ」
 運転手:「はい。お気をつけて。失礼致します」

 孝之亟はお抱え運転手に言った。

 敷島:「それでは、こちらがキップです。まだ少し時間がありますが……」
 孝之亟:「構わんよ。ベンチくらいあるじゃろう。そこで少し休んでいることにしよう」
 敷島:「はい」

 敷島達は改札口を通ってホームの中に入った。
 特急専用ホームがあって、昔はそこに入るのに、もう1つ改札口を通らなくてはならなかったのだが、今はそれが無くなっている。
 チケットレスサービスが充実したからだろう。
 もっとも、敷島達は相変わらずの紙のキップだが。

 シンディ:「最高顧問、こちらでしばしお待ちを」
 孝之亟:「うむ、すまんの、デイジー」
 シンディ:「デイジー?」
 孝之亟:「はっ!おっと、いかん!……えーと……」
 シンディ:「私はシンディです」
 孝之亟:「おっ、そうじゃった。シンディじゃったな」
 敷島:「やだなぁ、最高顧問。シンディの名前を忘れるなんて、大丈夫ですか?」
 孝之亟:「う、うるさいのぅ。ちと、ど忘れしただけじゃ。まだ、耄碌はしとらんぞ」
 敷島:「それならいいんですがね……」

 特急レッドアローを待っている間にも、他のホームでは電車が到着する度に、多くの乗客がぞろぞろと吐き出されていた。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「孝夫と孝之亟の会談」

2017-03-15 20:22:35 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月10日11:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 敷島の会社に、四季グループの最高顧問である敷島孝之亟がやってきていた。

 孝之亟:「無事で何よりじゃったのぅ……」
 敷島:「色々とご迷惑をお掛けして、申し訳ありません」
 孝之亟:「いやいや、孝夫が謝ることはない。悪いのは全てギャング団じゃ。敷島家の男たる使命を果たし、ワシも鼻が高い。……おっ、キミも孝夫の使命に協力してくれたんじゃったな?礼を言うぞ」
 エミリー:「いえ、私はあまりお役に立てなくて……申し訳ありませんでした」
 敷島:「最後のタンカーの時なんて、1人で黒いロボット軍団に立ち向かっていたじゃないか。あれは普通の人間にはできないことだよ」
 孝之亟:「ワシも、もうまもなくそれを手にすることができるというわけじゃな」
 敷島:「そういうことになりますね。……もしここに来られることが分かっていれば、エミリーではなく、シンディを配置させていたのですが……」
 孝之亟:「構わんよ。姉妹だけあって、顔がよく似ておる」
 エミリー:「恐れ入ります」
 孝之亟:「ところで、ワシのはいつ出来上がるのかな?」
 敷島:「今月の半ばには完成しまして、動作確認などのテストを経て、月末にはお引き渡しができるだろうとのことです」
 孝之亟:「なるほど。このプロジェクトを秘密のベールに隠す理由は理解できるのじゃが、どうじゃろう?造っている所を見せてもらうことはできんかの?」
 敷島:「造っている所……ですか?」
 孝之亟:「うむ」
 敷島:「アリスに聞いてみませんと……。あ、いや、製作部門の方がいいかな……」
 孝之亟:「国内で造れるのじゃから、日本の技術は素晴らしい」
 敷島:「そうですね。ちょっと聞いてみましょう」

 敷島は社長室内の応接セットから立ち上がると、机の上の電話機を取った。

 敷島:「あ、もしもし。私、敷島エージェンシーの敷島と申します。いつもお世話になっております。実は……」

 敷島がDCJに連絡をしている間、エミリーは社長室のドアの所に向かった。
 そして……。

 エミリー:「何をしている?」
 鏡音リン:「わあっ!?」
 エミリー:「盗聴は大きな罪だぞ?」
 鏡音リン:「な、何でもないですYo〜!」

 ピューッと脱兎の如く逃げるリンだった。

 エミリー:「最高顧問、申し訳ありません」
 孝之亟:「なに、四季エンタープライズのジュニアアイドルよりも元気があって良いではないか」
 敷島:「……はい。というわけでありまして、製作依頼者の敷島孝之亟よりそのような希望がありまして……」
 孝之亟:「無理には言わんよ」
 敷島:「……そうですか。少々お待ちください」

 敷島は一旦電話を保留にした。

 敷島:「最高顧問、どうやら可能らしいですよ」
 孝之亟:「本当かね?しかし、ムリをさせてはならんぞ?」
 敷島:「クライアントが様子を見に来られるのは当然とのことです」
 孝之亟:「なるほど。そういう考えか」
 敷島:「いつ見に行きますか?」
 孝之亟:「向こうさんの都合で良い。ワシは所詮、第一線からも二線からも退いた身じゃ。時間ならたっぷりある」
 敷島:「もしもし。お待たせしました。最高顧問のお話ですと……」
 エミリー:(引退されているはずなのに、グループ内では最高の発言権をお持ち。……まだ私はこのグループのことを、そして人間そのもののことを全て知っているわけではない……)
 敷島:「……そうですか、分かりました。では、その時に……」

 敷島は電話を切った。

 敷島:「お待たせしました。実はもう殆ど完成している状態ということらしいんです」
 孝之亟:「おおっ!?」
 敷島:「それで、動作確認のテストの方を来週の月曜日から行う予定だということらしいんですが……」
 孝之亟:「分かった。来週以降の予定を空けておこう」
 敷島:「最高顧問のご希望で、明日にでも電源を入れるとのことです」
 孝之亟:「いいのかね?いかに製作部門とはいえ、土日は本来休みではないのかね?」
 敷島:「元々急ピッチで製作していたようですので、休日出勤はよくやっていたとのことです」
 孝之亟:「ワシは無理させるつもりは毛頭無かったのじゃがな……」
 敷島:「25億円もポーンと出してくれるなんて、早々無いですから。DCJさんも最上客に張り切っているみたいですよ」
 孝之亟:「そうなのか」
 敷島:「ところが、問題が1つありまして……」
 孝之亟:「何かね?」
 敷島:「今、件の9号機は埼玉県の研究所で造っている最中なんです。それって、さいたま市の科学館じゃなくて、秩父市の営業所を兼ねている場所なんですよ。私も行ったことありますけど」
 孝之亟:「構わんよ。秩父だろうがチベットだろうが、どこにでも行くぞ。あの世だけはまだカンベンじゃがな」
 敷島:「まあ、最高顧問ならヘリコプターの1機でも簡単に……」
 孝之亟:「いやいや、何を言っておる。秘密の研究所なんじゃろ?ヘリなんぞで行ったら、目立ってしょうがないじゃろ」
 敷島:「表向きは、秩父営業所ということになっています。ヘリポートもありますよ」
 孝之亟:「じゃから、ワシがクライアントということがどこまで秘密にされておるか分からぬ以上、そんな目立った行き方をすれば向こうさんにも迷惑じゃろう。ただでさえ、無理を聞いてもらったようなものなんじゃから……」
 敷島:「車で行くんですか?センチュリーの方が目立つような……」
 孝之亟:「電車で行くに決まっておろう」
 敷島:「ええっ!?急行じゃ飯能で乗り換えありますよ!」
 孝之亟:「何故そこでレッドアローという選択肢を出さんのだ、オマエは……」

[同日12:00.天候:晴 豊洲アルカディアビルB2F・車寄せ]

 地下2階でエレベーターを降りる敷島達。
 エミリーは孝之亟が持っていた入館証を、警備員の立っている横の回収ボックスに入れた。
 無言でお辞儀をする警備員。

 孝之亟:「ちょうどお昼時じゃ。一緒に昼飯でも食いに行こう。なぁに、ちゃんと後でここまで送るわい」
 敷島:「すいません」
 孝之亟:「秘書のお嬢ちゃんや、キミも一緒に来い」
 エミリー:「かしこまりました」

 因みに、表向きは何の権限も持たない名誉職である最高顧問の孝之亟には特定の秘書が付いていない。
 あくまで、役員車と運転手がいるのみである。

 敷島:「エミリー、お前は助手席に乗ってくれ」
 エミリー:「かしこまりました」

 元より、エミリーはそうするつもりであった。
 SPは助手席に乗る。

 運転手:「どこまで参りましょう?」
 孝之亟:「同じ江東区内に、美味い鰻を食わせてくれる店があったじゃろう?確か、名前は……」
 運転手:「鰻遊さんですね。かしこまりました」
 孝之亟:「おお、そうじゃそうじゃ」

 車が走り出す。

 孝之亟:「この歳になると、物忘れが激しくってしょうがないわい」
 敷島:「ははは……」
 孝之亟:「その点、こういう者を抱えておると、こんな年寄りの物忘れなど簡単にカバーしてくれるのじゃろう?」
 敷島:「そうですね」
 孝之亟:「実に、楽しみじゃ」

 エミリーはリアシートの役員達の会話を聞きながら、自然と笑みが零れた。
 少し規格は変わるものの、新しく妹機として造られる者が多大な信用をされるということは、姉機として誇らしいことだからだ。
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