報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「サウスエンド、南端村、日本人街」

2020-05-28 20:15:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月7日17:00.天候:晴 アルカディアシティ・サウスエンド地区(南端村) サウスエンド駅→南端村]

〔「まもなくサウスエンド、サウスエンド、南端村。お出口は、右側です。この電車は環状線外回り、普通電車です。当駅まで各駅に停車して参りましたが、この先も引き続き普通電車で参ります。環状線外回り、ドワーフバレー、インフェルノタウン、デビル・ピーターズ・バーグ方面行きです」〕

 旧型のアナログ電車の為か、揺れはデジタル制御のそれよりも大きい。
 ガックンガックンと揺れる感じだ。
 それでもホームドアが無いだけ、停止目標の位置に止まれればいいらしい。

 稲生:「東日本じゃ、もう103系に乗れないからなぁ……」

〔「8両です、8両。もっと前に行って」〕

 稲生:「ん!?」

 電車が再加速する。
 この電車は8両編成なのだが、どうやら間違って、それよりもっと短い編成の停止位置に止まろうとしたらしい。
 停止位置を行き過ぎるオーバーランなら、人間界の鉄道でもたまにあるが、逆に停止位置手前で止まろうとするのは珍しいかもしれない(但し、作者は過去に2回経験済み。西武池袋線と阿武隈急行線。どちらも車掌にツッコまれていた)。
 1両分ほど前に進んで、それから停車した。

〔「ご乗車ありがとうございました。サウスエンド~、サウスエンド~、南端村です。1番線の電車は環状線外回り、各駅停車です。デビル・ピーターズ・バーグまで各駅に停車致します。発車まで2分ほどお待ちください」〕

 電車を降りる。
 様々な風体の乗客達。
 スーツを着たサラリーマン風の者もいれば、妖狐の少年達のように着物を着た者もいる。
 魔王軍(国防軍)の正規兵が帰還したのか、それを迎えに来た家族らしき姿も。

 稲生:「ここからどうするの?威吹の神社まで、少し歩くでしょ?僕達はいいけど、うちの先生がなぁ……」

 駅前には辻馬車が客待ちをしている。
 アルカディアシティには自動車交通が無く、それに代わる交通手段が馬車なのである。
 この部分は一気にファンタジーの世界に戻って来たといった感じだ。

 銀髪:「稲生殿は、うちの神社の場所は御存知なんですよね?」
 稲生:「まあ、何度か行ったことあるからね」
 銀髪:「オレ達、一足先に行って、威吹先生に稲生殿方の御到着をお知らせしようかと思います」
 稲生:「あ、なるほど。それはいいね」
 茶髪:「それじゃ、皆さんはゆっくり来てください」

 2人の妖狐少年は草鞋の紐を締め直すと、まるで短距離走の選手並みのスピードで走り去って行った。

 イリーナ:「これで3人か。余裕で馬車に乗れるね」
 マリア:「そうですね」

 馬車は4人乗りである為。
 中には6人乗りの大型馬車もあったり、日本人街であるが為に、妖怪・朧車が客待ちしていることもある。
 さすがにいくら日本人街だからといって、籠や人力車までは存在しない。
 ましてや、東南アジアで見かけるトゥクトゥクやオートリキシャーの類も存在しない。

 稲生:「でも、料金交渉しないとな」
 マリア:「高くても10ゴッズだな」

 マリアはいざとなれば自分が料金交渉しようと思った。
 そこはさすが欧米人。
 相手の言い値の料金を払おうとした稲生を制止して、値切ったこともある。
 ところが……。

 御者:「初乗りは1キロで7ゴッズです。それから300メートルごとに1ゴッズずつ上がります」
 稲生:「ありゃ!?メーターがある!」

 いつの間にか辻馬車に料金メーターが導入されていた。

 御者:「明朗会計です」

 但し、日本のタクシーではデジタル表示が当たり前だが、こちらのメーターは反転フラッグ表示、いわゆる『パタパタ表示』とか『ベストテン表示』である。
 さっき駅の発車標でそういうの見たような気がしたが。

 イリーナ:「じゃあ、乗せてちょうだい」
 御者:「どうぞ。どちらまで?」
 稲生:「魔界稲荷神社まで!」
 御者:「ありがとうございます」

 稲生達は辻馬車に乗り込んだ。
 こちらの馬車も6番街で乗ったのと同様、4人用ボックスシートである。
 恐らく、6番街で乗ったのも辻馬車だったのだろう。
 こっちは明確に、屋根に『TAXI』という表示がしてあるのだが。

 稲生:「威吹にお土産買って行けなかったなぁ……」
 マリア:「まさか、サウスエンドに行くとは思わなかったんだからしょうがない」
 イリーナ:「もし何だったら、藤谷さんからもらった支援物資をそこで解放してもいいけどね」
 稲生:「あー……非常食の余り……」
 イリーナ:「妖狐達は大食漢が多いのでしょう?ちょうどいいんじゃない?宿代代わりってことで」
 稲生:「あ、なるほど。それはいいかもしれませんね」

[同日17:30.天候:晴 アルカディアシティ南端村 魔界稲荷神社]

 辻馬車が石段の下で泊まる。

 御者:「はい、着きました」
 稲生:「どうも。いくらですか?」
 御者:「10ゴッズです」
 稲生:「ちょうどマリアさんの想定内。はい」

 稲生はローブの中から10ゴッズ硬貨を差し出した。

 イリーナ:「チップ、チップ」
 御者:「こりゃどうもありがとうございます!」
 稲生:「あ、忘れてた」

 イリーナはローブの中から1ゴッズ硬貨を3枚御者に渡した。
 1人1ゴッズのチップということか。
 チップを払う習慣の無い日本人の稲生は、ここでしくじりをしてしまった。
 アルカディアメトロなどの公共交通機関の運賃にチップをプラスして払う必要は無いが、物価の安い国なだけに、その分チップを払うことは多い。
 6番街の三星亭でも、イリーナがジーナにチップを渡していた。
 日本では、まず財務省が日本国内のチップ習慣化を阻止するだろう。
 チップは『合法的な脱税』と言われ、そこから税金が取れないからである。
 何としてでも、国民から税金を取りたい財務省が許すわけがないだろう。

 マリア:「おー、日本の神社・仏閣にありがちな長い階段だ。師匠、頑張ってください」
 稲生:「そう考えると、大石寺は階段少なくていいよなぁ」
 イリーナ:「ん?何か言った?」
 マリア:「Huh!?」

 イリーナ、魔法の杖を片手に浮遊していた。
 そして、スーッと階段の上を滑るように上って行く。

 稲生:「魔法は便利ですねぇ!」
 マリア:「いや、全く!」

 そのような便利な魔法を使うにはまだ至らない若い魔道士達は、普通に階段を駆け上って行った。

 マリア:「この階段、魔法でエスカレーターに変えたくなる!」
 稲生:「手始めに池上本門寺からお願いします!」
 マリア:「宗派違うだろ!」
 稲生:「カントクとトチロ~さんの意向です!」

 稲生とマリアはそんなことを言い合いながら、息せき切って階段を上がって行った。
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“大魔道師の弟子” 「妖狐達に誘われて」

2020-05-28 15:09:35 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月7日16:30.天候:晴 アルカディアシティ1番街 1番街駅]

 アルカディアシティでも1番賑わう駅構内をイリーナ組は歩いている。
 その前を先導するは、着物に袴を穿いた少年が2人。
 人間ではない。
 1人は銀色の長い髪を沖田総司のように後ろに束ねており、もう1人は茶髪を短く切っている。
 そして、耳。
 人間のように短く丸くなく、長くて先端が尖っている。
 俗に言う、『エルフ耳』である。
 しかし、彼らはエルフではない。
 妖狐の第一形態である。
 更に妖力を解放し、変化をするとエルフ耳が消え、代わりに頭に狐耳が生える。
 そこでようやく妖狐だと分かるのだ。
 つまり、彼らは妖力を抑えて、一応あれでも正体を隠しているということだ。
 これは人間界にいた威吹もそうであった。
 稲生達を先導する妖狐2人は、1番街駅東口商店街で偶然会った。
 銀髪の方が稲生を知っており、声を掛けて来たのが始まりである。
 あいにくと稲生は知らなかったが。
 威吹は今や家族持ち、弟子持ちである。
 住み込みの弟子が1人いるが、どうやら彼らもその後に弟子入りしたらしく、つまり、弟子の数が増えているということだ。
 彼らの話では、結構な大所帯になったということだが、威吹は威吹で新たな流派を立ち上げたのだろうか。

〔「4番線、環状線外回り、各駅停車の到着です」〕

 威吹の住む町はサウスエンド、日本語で南端村という所である。
 文字通り、アルカディアシティの南端に位置する場所だ。
 もっとも、狭義におけるアルカディアシティが城壁の内側を指すのに対し、サウスエンドは外にある為、厳密にはアルカディアシティではない。

 

 やってきたのはスカイブルーの103系。
 時折、急行運転も行う高架鉄道だが、発車標を見るに、しばらく各駅停車しか無いようだ。

 銀髪:「どうぞ、この電車で行けますから」
 稲生:「ありがとう」
 マリア:「というか、知ってる」

 先頭車に乗り込むと、車内は人間の方が多かった。
 アルカディアメトロの高架鉄道は明るい場所を走るからか、魔族よりも人間の乗員・乗客が多い。
 また、地下鉄と違って1番後ろに車掌が乗務するツーマン運転である。
 同じ鉄道会社なのに、運行形態がとても違う。

 銀髪:「おい、威吹先生に連絡したか?」
 茶髪:「もちろん!」
 稲生:「まさか、ここに来て威吹に会えるなんてねぇ……」
 銀髪:「威吹先生も稲生殿との再会を楽しみにしておられます」
 茶髪:「さすが、あの南光坊天海僧正の生まれ変わりとされるだけあって、凄い霊力ですね!」
 稲生:「やめてくれよ。僕は日蓮正宗の信徒だよ。天台宗の僧侶じゃない」
 茶髪:「も、申し訳ありません!」

 3人の魔道士達は連結器横の3人席に座ったが、妖狐の少年2人はその横と前に立って、がっちりガードしている。
 まるで、サウスエンド駅に着くまで逃がさないといった感じに。

〔「お待たせ致しました。環状線普通電車外回り、まもなく発車致します」〕

 地下鉄は昔の営団地下鉄のようなブザーがホームに鳴り響いていたが、こちらは電子電鈴と呼ばれるベルである。
 微かに最後尾にいる車掌が笛を吹く音が聞こえる。
 そして、ドアが閉まるとすぐに発車した。
 どうやらJR東日本のように、車掌からの発車合図のブザーは省略されているらしい(新幹線はともかく、何故か気動車も除く)。

〔「環状線外回り、サウスエンド方面行きの普通電車です。次は1番街南、1番街南、お出口は右側です。運転士は山田、車掌は安倍です。サウスエンドまでご案内致します。次は、1番街南です」〕

 ノリはどちらかというと東京の山手線というより、大阪環状線に近い。
 何しろ、頑なに各駅停車しか走らせない山手線と違い、大阪環状線はそれだけでなく、快速から特急まで走っている。

 稲生:「窓が開いて扇風機回ってるけど、別に新型コロナウィルス関係無いよね?」
 銀髪:「……と、思いますが」

 103系みたいな旧型電車の特徴は、天井に設置された扇風機。
 現在ならエアコンの送風か、或いは空気清浄機であろう。
 しかし、常春の国アルカディアにはそれは無く、扇風機が回っている。
 真ん中に座るマリアの金髪や、妖狐の銀髪少年の髪が扇風機の風が当たる度に揺れる。

 イリーナ:「私の占い、当たったわね」

 イリーナは妖狐達には内緒話なのか、自動通訳魔法具をOFFにして英語で話しかけた。

 マリア:「あのバザールを歩いていれば、新たな展開が訪れるってヤツですか?」
 イリーナ:「サウスエンド。どうやら、新しいクエストができそうじゃないの。宿泊先もそこにすれば安心ね」
 マリア:「はあ……。ぶっちゃけ、シルバーフォックス達に囲まれた所で寝泊まりするのはどうかと……」
 イリーナ:「勇太君がいるから、邪険にはされないわよ、きっと」
 稲生:「大丈夫だと思います」

 ところが意外にも、銀髪の少年が英語を話して来た。

 銀髪:「威吹先生からは、皆さんを丁重にお連れするように言われております。だから、どうか御心配無く」
 稲生:「! 英語上手いね!?」
 銀髪:「この国の第2公用語ですから」
 茶髪:「いやいや、上手く話せるのオマエくらいだから」
 稲生:「何だ、そうか」
 茶髪:「逆に英語しか通じない者もいるので、街で買い物する時とかの通訳用です」
 銀髪:「オマエも勉強しろよ!」

 この国には日本の妖怪も在住しているが、やはり日本語しか話せない者が大多数だそうだ。
 そのような者達が人魔一体となって形成しているのが、南端村ことサウスエンド地区なのである。
 日本人街であり、安倍春明率いる魔界共和党がバァル大帝に対して蜂起した場所でもある。

 稲生:「はは、仲いいね」
 銀髪:「稲生殿と先生との間柄には負けます」
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“大魔道師の弟子” 「次なるクエストは?」

2020-05-26 21:00:25 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月7日16:00.天候:晴 アルカディアシティ1番街 1番街駅東口商店街・防具屋]

 武器屋でクリスの剣を新調した後、稲生達は同じ商店街にある防具屋に向かった。
 英語表記は『First Avenue Guild Bazaar』であるが、RPGの世界だと露店が立ち並んだものというのがベタな法則である。
 日本で言えば終戦直後の闇市のようなものか。
 しかし、ここの商店街は本当に商店が立ち並んだものであった。
 もちろん、中には露店もある。

 稲生:「ここが防具屋ですね」
 防具屋店主:「いらっしゃいませ。お似合いのローブがございますよ」
 クリス:「私ゃ戦士だ!そんなの着れるか!ローブなら、そっちの魔法使いさん達に売りな!ところで、魔界共和党の本部事務所で、こういうチケットをもらったんだけど?」

 クリスはクーポン券を店主に渡した。

 防具屋店主:「こ、これは……!?なるほど。あの横田理事の知人の方でしたか」
 稲生:「知人というか、腐れ縁というか……」

 稲生は『顕正会員は死ぬまで顕正会員』という言葉を思い出した。
 顕正会活動に一瞬でも身を投じた者は、例え脱会しようが、他の宗教に移籍しようが、その臭いは絶対に落ちないのだと。
 その現実を受け入れられず、ただ抗うことしかできないガチ勢が更にその傷口に塩を塗り込んでいるのだと。

 防具屋店主:「これは失礼致しました。もっとお勧めの防具がございます。どうぞ、こちらへ」

 店主は店の奥へ稲生達を誘(いざな)った。

 防具屋:「新作のビキニアーマーです。露出は少ないですが、強い魔力が付与されており、その防御力は近衛騎士団の団員達が纏う鎧よりも強いものです」
 稲生:「で、でも殆ど裸じゃん、これ!」

 RPGの世界ではしばしば女騎士であっても露出の多い防具を着させられていたりするが、それは本来間違い。
 騎士と兵士ではまるで身分が違う。
 そして、鎧は洋の東西問わず高い物だ。
 武器や防具に多くの予算を投じられる騎士が、そんな露出の高い防具を着用するわけが無く、やはり全身を固める鎧を着用するのが普通である。
 一方、正規兵など、国から武器や防具が支給される兵士はともかく、それらも自費で用意しなければならない傭兵のそれは貧弱なものだ。
 その為、少ない予算で強い武器と防具を揃えなくてはならない。
 その結果、女戦士は少ない予算で強い防御力を得られるビキニアーマーが流行ったのだろうと推測される。

 クリス:「いや、鎧ならまだ十分これで行ける。もっと別の防具は無いか?」
 防具屋店主:「その下に着るスポブラとショーツのセットならお安く……」
 クリス:「もっと他の!」
 防具屋店主:「DQシリーズでも大人気!『エッチな下着』もございますよ!」

 クリス、僅かに鞘から剣を抜く。

 クリス:「てめ、フザけてんのか?」
 防具屋店主:「よ、横田理事からのお勧めで……」
 マリア:「!」

 その時、マリアは見た。
 このコーナーの頭上に、『魔界共和党総務理事Y氏のオススメ!』と書かれたポップがぶら下がっているのを。

 イリーナ:「ねぇ、店長さん」
 防具屋店主:「な、何ですか?」
 イリーナ:「このままじゃ収まりが付きそうにも無いから、もっと別なの売ってもらおうかしら?」
 防具屋店主:「な、何がよろしいでしょうか?」
 イリーナ:「さっきねぇ、武器屋さんでミスリルソードを購入したの。で、ここにもあるでしょう?ビキニタイプながら、ミスリルタイプの鎧が」
 防具屋店主:「そ、それはもちろん!ですが、このクーポン券はお使いになれませんが……」
 クリス:「あぁ?券面には『3000ゴッズ以内なら何でも交換可』って書いてあんだろーが?フザけんじゃねーぞ!」

 クリスは苛立っている為か、口調が荒っぽくなっている。

 防具屋店主:「よ、よーくご覧ください。『※但し、横田理事のオススメ品に限る』と書いてありますよ?」
 稲生:「ものすっごく小っちゃく書いてある……」

 稲生は飽きれた。

 稲生:「日本でもたまにこうした詐欺事件が発生してるけどね。詐欺してる側は、『字は小さいかもしれないが、ここにちゃんと書いてある』って主張するヤツ」

 ジャキッ!(クリス、剣を半分以上、鞘から抜く)

 イリーナ:「しょうがない。ここは私の名前を使わせて頂くわ。ちょっと赤ペン貸してくださる?」
 防具屋店主:「ど、どうぞ」

 イリーナは赤ペンを受け取ると、券の裏面に何か書いた。
 こう書かれていた。
 『横田理事へ。但し書きは私の名前で削除させてもらいます。文句があるなら、安倍総理に【とある強制わいせつ事件】と【とある盗撮事件】の真相をお話しさせて頂くことになります』

 イリーナ:「これでよし。これでこの券は本当に3000ゴッズ以内なら、何でも引き換えられるようになったわ」
 マリア:「さすが師匠!」
 稲生:(横田理事、未だに強制わいせつ事件と盗撮事件やらかしてるのか……)

 それでもそれ以上の性犯罪、即ち強姦罪や準強姦罪までは1件も起こしていないことが確認されている。
 だからこそ、そんな犯罪は絶対に許さないマリアも、さすがに横田に『流血の惨』を見せることまではしていないのだろう。
 性犯罪は性犯罪なので、多少痛い目に遭わせてはいるが。

 防具屋店主:「か、かしこまりました」
 イリーナ:「せっかくミスリルソードが買えたんだから、鎧もミスリル製で揃えたいじゃない?」
 クリス:「イリーナ先生、ありがとうございます!」

 この中に『勇者』はおらず、『魔法使い』と『戦士』しかいないが、やはり最年長がリーダーを務めることになるのだろう。
 そしてイリーナは、それを遺憾無く発揮したというわけだ。

 防具屋店主:「ありがとうございましたー!」

 早速、鎧を換えるクリス。
 それまでは焦げ茶色が目立つ鎧だったが、今は白銀が目立つようになっている。
 それでもビキニアーマーの一種ではあるから、肌の露出は大きい。
 しかしながら魔力が付与されているので、防御力は前の鎧より格段に大きくなっている。

 クリス:「ありがとう。おかげで、前より強い武器と防具を揃えることができた。感謝する」
 稲生:「これからどうするの?」
 クリス:「私は6番街に戻るさ。ジムに戻って、早速会長達に報告したい」
 稲生:「そうか」
 クリス:「皆さんはどうする?」
 稲生:「先生?」
 イリーナ:「そうねぇ……。私の占いでは、このバザールに来れば、次のクエスト先が見つかるってあったから、もう少し歩いてみようかと思うよ」
 クリス:「了解。また何かあったら、うちのジムを訪ねてくれ。力押しの仕事なら、何でも協力できるはずだから」
 稲生:「うん、こっちこそありがとう」

 稲生達はクリスと握手を交わし、ここで別れた。
 クリスは駅の方に向かい、稲生達は更にバザールの奥へと進む。
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“大魔道師の弟子” 「ギルドのバザール」

2020-05-25 19:44:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月7日15:00.天候:晴 アルカディアシティ1番街 魔界共和党本部]

 応接室に通された稲生達は、勧められたソファに座った。
 背中に剣を背負っているクリスだけは立っている。

 坂本:「こちらが御約束の報奨金です。どうぞ、お納めください」

 坂本は布に包められた封筒を4つ出した。
 1人1袋ということか。
 金一封にしては、ある程度の厚みがある。
 しかも、それぞれ宛先が書いていた。
 人によって、額が違うのだろうか?
 見た目の厚みは皆一緒だが……。

 クリス:「おおっ!3000ゴッズもくれるのか!太っ腹だねぇ!」

 この国で流通している最高額紙幣は1000ゴッズ。
 それがまず3枚入っている。
 最高額紙幣に相応しく、紙幣に印刷されている人物はルーシー・ブラッドプール一世の横顔だった。
 他に入っているのは……。

 稲生:「日本の『温泉ペア宿泊券』だ。これも横田理事の肝煎りですか?」
 マリア:「うん、絶対そうだ!」

 マリアがムキッ歯して睨み付けているものは、人間界のとある下着店で使えるクーポン券だった。
 そしてそれは、イリーナも同じ。
 これで新しい下着を買ってくれという分かり易過ぎる無言のメッセージであった。
 ……いや、無言ではなかった。
 ちゃんと、添え状も入っていた。
 一応、6番街における活躍への謝辞が書かれていたが。
 『ささやかながら金一封と有価証券を贈呈させて頂きます。少ないですが、どうぞ御自由にお使い頂けると幸いです』
 と、書かれていた。
 御丁寧に稲生には日本語で、マリアとクリスには英語で、イリーナにはロシア語で書かれていた。

 イリーナ:「この辺、几帳面なところが日本人って感じよね」
 稲生:「メンバーの殆どが在日確定しているケンショーレンジャーズの中で、グリーンは数少ない生粋の日本人なんですね」
 マリア:「クリスは何が入ってた?クリスは人間界に来れないだろう?」
 クリス:「私のはアルカディアシティの防具屋で使えるクーポン券が入ってた」
 稲生:「防具かぁ……。クリスの欲しいのは剣なのに、武器屋で使えるクーポンじゃないんだね」

 その時、イリーナはピンと来た。

 イリーナ:「いや、多分アレだよ。クリスのに関しても、ちゃんと横田理事の性癖が入ってるよ」
 稲生:「えっ?」
 イリーナ:「クリス。その金一封で新しい剣は買えそうかい?」
 クリス:「ああ。おかげさまで、これで新しい鋼の剣が買える」
 イリーナ:「勇太君。クリスに送られたクーポンの意味が知りたかったら、クリスの買い物に付き合ってみるといいよ」
 稲生:「ええっ?」
 マリア:「そんな時間は……」
 イリーナ:「あるさ。どうせ次のクエストの内容、決まってないんだし」
 マリア:「決まってないんですか!」
 イリーナ:「新型コロナウィルスが収束するまで、魔界に避難していようかとも思ったんだけどねぇ……」
 稲生:「でも、ミッドガード共和国が宣戦布告してくるかもしれないんでしょう?ここはここでちょっと不安ですねぇ……」
 イリーナ:「買い物に付き合うくらいならいいだろ。よし。貰う物は貰ったし、クリスの買い物に付き合ってみるか」

 イリーナの鶴の一声で、稲生達の次の行動が決まった。

[同日15:30.天候:晴 アルカディアシティ1番街 1番街駅東口商店街(First Avenue Guild Bazaar)]

 魔界共和党本部事務所をあとにした稲生達は、1番街駅の中を通り、東口に出た。
 西口は魔王城や共和党本部、その他銀行や企業の本社などもあるオフィス街だが、東口は冒険者が集まるギルドのバザールがある。
 昔は西口に集中していたのだが、内戦で魔王城が狙われたことによる飛び火で壊滅状態になった為、安全な東口へ移転した。

 クリス:「駅を挟んでいるだけだってのに、全然雰囲気が違うねぇ」
 稲生:「いや、全く」

 西口はスーツ姿の役人や護衛の銃を構えた警備兵が往来しているのに対し、東口は稲生達みたいに魔道士のローブを羽織った魔法使いの姿や、クリスみたいなビキニアーマーの女戦士、エリックやノランみたいに上半身裸で筋骨隆々とした重戦士も往来していた。

 イリーナ:「まず、武器を見てみようか」
 クリス:「ういっス」

 手近な武器屋に入ってみる。

 武器屋店主:「らっしゃいせー!」

 流行りのラーメン屋みたいなノリで元気良く客を迎える店主。

 武器屋店主:「何をお探しで?お客人!」

 不慣れだと店主の威勢に気圧されてしまいそうなものだが、クリスは慣れているのか、全く表情を変えることなく、自分が背負っている剣を抜いた。

 クリス:「これと同じくらいの鋼の剣が欲しいんだ。見ての通り、だいぶ使い古したもんでね」
 武器屋店主:「あー、確かに!でもお客人、これはだいぶ可愛がって使ってあげたクチですねぇ!女戦士さんはこの辺、扱いが繊細ですよね!ちょっと待ってください!……あ、そこの魔法使いさん達も、特価セールのミスリルロッドとかありますんで、見ていってください!」
 稲生:「ミスリルロッド……」
 マリア:「強い杖か?」
 稲生:「どうでしょう?RPGでは結構、序盤辺りで手に入るヤツなんで、僕は期待していませんけどね」

 武器屋ということもあり、魔法具屋で売っている魔法の杖と違って、攻撃に特化した杖を売っているようだ。

 武器屋店主:「これなんかどうでしょう?」
 クリス:「フム、見た目は悪くない。ちょっと素振りさせてくれ」
 武器屋店主:「どうぞ。それはこの国に在住するドワーフが打ったもので、刀身はミスリル。魔力は付与されてませんが、柄の所に魔法石を嵌め込む穴が開いてるんで、そこに魔法石を入れることで魔力を付与させることができます」

 クリスは新品の剣をスラッと抜くと、風を斬るように素振りした。

 クリス:「使い心地も悪くない。しかし、鋼ではなくミスリルか。少し値段が張るんじゃないか?」
 武器屋店主:「今なら特価の3000ゴッズでいいよ」
 クリス:「マジか!そんなに安くて大丈夫なのか?」
 武器屋店主:「それは型落ちなんでね。それに、今度起こるかもしれない戦争ってのは、飛空艇団を中心とする空中戦になるって話じゃねぇですか。何でもミッドガードの軍隊は、空軍が強化されてるとか……。なもんで、姉さんには悪いけど、もしかしたら剣を取って最前線で戦う機会は無ェかもですよ」
 クリス:「戦いは常に状況が変わる。それに、いくら空中戦が中心だからといって、地上部隊は王都を守らないといけない。その部隊の傭兵なら募集しているだろう」
 武器屋店主:「それはもちろん」
 クリス:「よし。これをもらおう」

 クリスは先ほど報奨金としてもらった3000ゴッズを店主に差し出した。

 武器屋店主:「毎度あり!」

 クリスが新しい剣を手に入れると、武器屋の外に出る。

 クリス:「まさか鋼ではなく、ミスリル製の剣が安く手に入るとはな」
 稲生:「良かったね!」
 イリーナ:「それじゃ、次は防具屋さんに行きましょう。クリス、浮いたお金で新しい防具が買えるわよ」
 クリス:「私ゃあまり重い鎧は着たくないんですとけどねぇ……」

 そう言いつつ、クリスは稲生達について防具屋に向かった。
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“大魔道師の弟子” 「魔界共和党」

2020-05-25 11:07:27 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月7日14:00.天候:晴 アルカディアシティ1番街 地下鉄1番街駅→魔界共和党本部]

 昔のニューヨークの地下鉄R1系電車に酷似した車両が1番街駅のホームに入線する。
 1番街駅は日本の東京駅に相当する駅なので、アルカディアメトロの中では一番規模が大きく、乗降客数も多い。

 稲生:「本来のスタート地点に戻って来ましたねー」
 マリア:「駅じゃなくて、魔王城でしょ」
 クリス:「さすが都会の駅は賑わってるねぇ。何だか、目が回っちまうよ。田舎者の私じゃね」
 稲生:「東京駅よりは空いてるから、そんなに心配無いよ」

 魔王城の方を向いた出口に向かう。
 丸の内口に相当する場所で、東京駅では歴史を感じさせるレンガ造りの構造になっているが、こちらも魔王城を模した雰囲気になっている。
 東京駅が赤レンガなのに対し、こちらはグレーの石積みの構造だと思えば良い。
 地上に出てコンコースに行くと、やはり東京駅のような吹き抜けがある。
 魔王城の大ホールを模したものである。
 稲生は不参加(一時的に死亡し、地獄界にいた)だったが、旧政府軍(バァル大帝派)と新政府軍(魔界共和党)の最終決戦地になったのがその魔王城大ホールである。

 クリス:「相変わらず魔王城はデッカいなぁ!」

 駅の外に出ると、魔王城が飛び込んで来る。
 大きな通りを挟んでいるのだが、丸の内と違って高層ビルが建っているわけではないので、すぐに目に飛び込んで来るのだ。

 クリス:「何か、工事してるよ?」
 稲生:「ああ。旧館の解体工事と改修工事ね。旧館の中で老朽化したり、この前の内戦で破壊された場所は取り壊すんだってさ。で、改修して使えるものは改修する」

 バァル大帝の玉座があったのは旧館の方。
 新館は工事中だったが、魔界民主党政権の時に工事は中断され、魔界共和党が立憲君主制を行うに当たり、工事は再開され、完成している。

 稲生:「で、党本部は魔王城の中ではなく、その隣の……こっちのビルの中にある」

 東京・丸の内で言うなら、新丸ビルに相当する場所。
 しかし、これといって高層ビルというわけではない。

 クリス:「私、こんな格好で行って大丈夫かねぇ?」
 稲生:「大丈夫だよ。魔王城に行けば、傭兵隊入隊受付でクリスみたいな戦士が大勢出入りしてるから」
 クリス:「ああ、ここでも傭兵隊の受付やってるのか。私もちょっと覗いてみようかな。報酬受け取ったら」
 稲生:「いいんじゃない」
 クリス:「あ、でも、先に剣を買ってからの方がいいかな~」
 稲生:「いいんじゃない」
 マリア:「いいから早く行こう」

 東京駅……もとい、1番街駅でも『正規兵募集』の広告が大きく掲げられていた。
 アルカディア王国の軍事に関しては、特に徴兵制が敷かれていることはなく、志願制である。
 また、『アルカディア軍事学校、入校随時受付中!』という予備校的なノリの看板もあった。
 で、党本部ビルの入口には、『新規党員募集のお知らせ』『賛助会員募集のお知らせ』の貼り紙も。
 よく見ると、あちこちで人材募集の広告が貼られていて、いかにこの国が人材不足に悩まされているか分かるというものである。
 コロナ禍前の日本の求人広告並みである。

 受付:「いらっしゃいませ。アルカディア王国の政治の中枢、魔界共和党本部へようこそ」

 受付には若い男性の受付係がいた。
 立憲君主制とはいえ、議席を持っているのは今や魔界共和党1党だけだからこそ、今のようなセリフが出てくるのだろう。

 受付:「本日はどのような御用件でいらっしゃいますか?」
 稲生:「報奨金を受け取りに来ました。書類がこれです」
 受付:「これはこれは……。ご活躍の件、伺っております。我が党の治安維持業務への御協力、感謝致します。すぐに担当者にお繋ぎ致しますので、あちらにお掛けになってお待ちください。こちらの書類はお預かりします」
 稲生:「よろしくお願いします」

 稲生達、打ち合わせコーナーに移動する。
 クリスも背中に背負っている剣をずらして、長椅子に腰かけた。
 ロビーでは、これまでの魔界共和党の歴史について紹介するパネルなどが展示されていた。
 今ではスーツ姿の安倍春明首相が、まるでDQの勇者の恰好をしてアルカディアシティを歩く写真もある。
 魔界共和党の前身は、バァル大帝の人間冷遇政策に対する反乱組織であったことも紹介されていた。
 その中に一時期政権の座に就いて強硬な共和制を敷いたことで却って政治混乱を招き、共和党の蜂起によって国外追放された魔界民主党のことも紹介されている。
 人間だけの世界なら帝政からの共和制でも良いが、魔王を崇敬しながら動いていた魔族に、いきなり共和制を敷いてもダメなのである。
 魔王の代わりとなる魔族の王を用意し、それに沿って民主政治を行う為には立憲君主制が良いと判断し、今に至ることもパネルで紹介されていた。

 稲生:「魔王の代わりとなる魔族の王が、今のルーシー・ブラッドプール一世陛下だ」

 まだ魔王に即位する前、ニューヨークに住んでいた頃のラフな格好をしたルーシーの姿の写真も展示されている。
 この写真、展示するのにルーシーに相当頭下げたらしいが。
 白人の中でも特に色が白いということを除けば、ラフな格好をしたニューヨーカーという感じしかしない。

 稲生:「これで吸血鬼なんだから信じられないよね」
 マリア:「陛下は人間の血が混じっているんだろう?そのおかげで昼間でも活動できるって話だな。純血の吸血鬼をヴァンパイアと呼び、混血の吸血鬼をダンピアと言う」

 マリアはイギリス人なので英語発音したが、綴りはDhanpirと書き、英語発音だとマリアみたいな感じになるが、東欧の発音でダンピールと呼ぶことが普通。
 純血種の敵になることも多く、安倍はその性質を利用して、純血種の動きを抑えるべく(純血種は旧政権派が多かった)、混血のルーシーを女王に担ぎ上げたともされる。
 純血種は人間を捕食対象としか見ていないが、混血種は元々人間の血が混じっているからか、人間の味方になることが多い為。

 坂本:「お待たせしました。魔界共和党経理部参事の坂本と申します」

 そこへ担当者たる坂本参事がやってきた。

 坂本:「ここでは何ですので、応接室へご案内致します。どうぞ、こちらへ」
 稲生:「よろしくお願いします」
 坂本:「我が党の歴史、ご覧になっておられたのですね?」
 稲生:「はい。なかなかいいアイディアですね。いっそのこと、ワンフロア丸ごと、党の歴史を伝える展示ルームでも設けてみてはどうですか?」
 坂本:「あ、それはもうやってますよ。試行錯誤しながらですが」
 稲生:「あ、ホントですか」
 坂本:「ええ。ただ、監修が横田理事で、安倍総裁に何度も突っ込まれながらの展示なんですが……」
 稲生:「すいません、やっぱやめときますw」
 坂本:「ええ。島村幹事長辺りが担当してくれれば、安心なのですが……」
 マリア:(お笑い政党、魔界共和党……)
コメント
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