[5月7日17:00.天候:晴 アルカディアシティ・サウスエンド地区(南端村) サウスエンド駅→南端村]
〔「まもなくサウスエンド、サウスエンド、南端村。お出口は、右側です。この電車は環状線外回り、普通電車です。当駅まで各駅に停車して参りましたが、この先も引き続き普通電車で参ります。環状線外回り、ドワーフバレー、インフェルノタウン、デビル・ピーターズ・バーグ方面行きです」〕
旧型のアナログ電車の為か、揺れはデジタル制御のそれよりも大きい。
ガックンガックンと揺れる感じだ。
それでもホームドアが無いだけ、停止目標の位置に止まれればいいらしい。
稲生:「東日本じゃ、もう103系に乗れないからなぁ……」
〔「8両です、8両。もっと前に行って」〕
稲生:「ん!?」
電車が再加速する。
この電車は8両編成なのだが、どうやら間違って、それよりもっと短い編成の停止位置に止まろうとしたらしい。
停止位置を行き過ぎるオーバーランなら、人間界の鉄道でもたまにあるが、逆に停止位置手前で止まろうとするのは珍しいかもしれない(但し、作者は過去に2回経験済み。西武池袋線と阿武隈急行線。どちらも車掌にツッコまれていた)。
1両分ほど前に進んで、それから停車した。
〔「ご乗車ありがとうございました。サウスエンド~、サウスエンド~、南端村です。1番線の電車は環状線外回り、各駅停車です。デビル・ピーターズ・バーグまで各駅に停車致します。発車まで2分ほどお待ちください」〕
電車を降りる。
様々な風体の乗客達。
スーツを着たサラリーマン風の者もいれば、妖狐の少年達のように着物を着た者もいる。
魔王軍(国防軍)の正規兵が帰還したのか、それを迎えに来た家族らしき姿も。
稲生:「ここからどうするの?威吹の神社まで、少し歩くでしょ?僕達はいいけど、うちの先生がなぁ……」
駅前には辻馬車が客待ちをしている。
アルカディアシティには自動車交通が無く、それに代わる交通手段が馬車なのである。
この部分は一気にファンタジーの世界に戻って来たといった感じだ。
銀髪:「稲生殿は、うちの神社の場所は御存知なんですよね?」
稲生:「まあ、何度か行ったことあるからね」
銀髪:「オレ達、一足先に行って、威吹先生に稲生殿方の御到着をお知らせしようかと思います」
稲生:「あ、なるほど。それはいいね」
茶髪:「それじゃ、皆さんはゆっくり来てください」
2人の妖狐少年は草鞋の紐を締め直すと、まるで短距離走の選手並みのスピードで走り去って行った。
イリーナ:「これで3人か。余裕で馬車に乗れるね」
マリア:「そうですね」
馬車は4人乗りである為。
中には6人乗りの大型馬車もあったり、日本人街であるが為に、妖怪・朧車が客待ちしていることもある。
さすがにいくら日本人街だからといって、籠や人力車までは存在しない。
ましてや、東南アジアで見かけるトゥクトゥクやオートリキシャーの類も存在しない。
稲生:「でも、料金交渉しないとな」
マリア:「高くても10ゴッズだな」
マリアはいざとなれば自分が料金交渉しようと思った。
そこはさすが欧米人。
相手の言い値の料金を払おうとした稲生を制止して、値切ったこともある。
ところが……。
御者:「初乗りは1キロで7ゴッズです。それから300メートルごとに1ゴッズずつ上がります」
稲生:「ありゃ!?メーターがある!」
いつの間にか辻馬車に料金メーターが導入されていた。
御者:「明朗会計です」
但し、日本のタクシーではデジタル表示が当たり前だが、こちらのメーターは反転フラッグ表示、いわゆる『パタパタ表示』とか『ベストテン表示』である。
さっき駅の発車標でそういうの見たような気がしたが。
イリーナ:「じゃあ、乗せてちょうだい」
御者:「どうぞ。どちらまで?」
稲生:「魔界稲荷神社まで!」
御者:「ありがとうございます」
稲生達は辻馬車に乗り込んだ。
こちらの馬車も6番街で乗ったのと同様、4人用ボックスシートである。
恐らく、6番街で乗ったのも辻馬車だったのだろう。
こっちは明確に、屋根に『TAXI』という表示がしてあるのだが。
稲生:「威吹にお土産買って行けなかったなぁ……」
マリア:「まさか、サウスエンドに行くとは思わなかったんだからしょうがない」
イリーナ:「もし何だったら、藤谷さんからもらった支援物資をそこで解放してもいいけどね」
稲生:「あー……非常食の余り……」
イリーナ:「妖狐達は大食漢が多いのでしょう?ちょうどいいんじゃない?宿代代わりってことで」
稲生:「あ、なるほど。それはいいかもしれませんね」
[同日17:30.天候:晴 アルカディアシティ南端村 魔界稲荷神社]
辻馬車が石段の下で泊まる。
御者:「はい、着きました」
稲生:「どうも。いくらですか?」
御者:「10ゴッズです」
稲生:「ちょうどマリアさんの想定内。はい」
稲生はローブの中から10ゴッズ硬貨を差し出した。
イリーナ:「チップ、チップ」
御者:「こりゃどうもありがとうございます!」
稲生:「あ、忘れてた」
イリーナはローブの中から1ゴッズ硬貨を3枚御者に渡した。
1人1ゴッズのチップということか。
チップを払う習慣の無い日本人の稲生は、ここでしくじりをしてしまった。
アルカディアメトロなどの公共交通機関の運賃にチップをプラスして払う必要は無いが、物価の安い国なだけに、その分チップを払うことは多い。
6番街の三星亭でも、イリーナがジーナにチップを渡していた。
日本では、まず財務省が日本国内のチップ習慣化を阻止するだろう。
チップは『合法的な脱税』と言われ、そこから税金が取れないからである。
何としてでも、国民から税金を取りたい財務省が許すわけがないだろう。
マリア:「おー、日本の神社・仏閣にありがちな長い階段だ。師匠、頑張ってください」
稲生:「そう考えると、大石寺は階段少なくていいよなぁ」
イリーナ:「ん?何か言った?」
マリア:「Huh!?」
イリーナ、魔法の杖を片手に浮遊していた。
そして、スーッと階段の上を滑るように上って行く。
稲生:「魔法は便利ですねぇ!」
マリア:「いや、全く!」
そのような便利な魔法を使うにはまだ至らない若い魔道士達は、普通に階段を駆け上って行った。
マリア:「この階段、魔法でエスカレーターに変えたくなる!」
稲生:「手始めに池上本門寺からお願いします!」
マリア:「宗派違うだろ!」
稲生:「カントクとトチロ~さんの意向です!」
稲生とマリアはそんなことを言い合いながら、息せき切って階段を上がって行った。
〔「まもなくサウスエンド、サウスエンド、南端村。お出口は、右側です。この電車は環状線外回り、普通電車です。当駅まで各駅に停車して参りましたが、この先も引き続き普通電車で参ります。環状線外回り、ドワーフバレー、インフェルノタウン、デビル・ピーターズ・バーグ方面行きです」〕
旧型のアナログ電車の為か、揺れはデジタル制御のそれよりも大きい。
ガックンガックンと揺れる感じだ。
それでもホームドアが無いだけ、停止目標の位置に止まれればいいらしい。
稲生:「東日本じゃ、もう103系に乗れないからなぁ……」
〔「8両です、8両。もっと前に行って」〕
稲生:「ん!?」
電車が再加速する。
この電車は8両編成なのだが、どうやら間違って、それよりもっと短い編成の停止位置に止まろうとしたらしい。
停止位置を行き過ぎるオーバーランなら、人間界の鉄道でもたまにあるが、逆に停止位置手前で止まろうとするのは珍しいかもしれない(但し、作者は過去に2回経験済み。西武池袋線と阿武隈急行線。どちらも車掌にツッコまれていた)。
1両分ほど前に進んで、それから停車した。
〔「ご乗車ありがとうございました。サウスエンド~、サウスエンド~、南端村です。1番線の電車は環状線外回り、各駅停車です。デビル・ピーターズ・バーグまで各駅に停車致します。発車まで2分ほどお待ちください」〕
電車を降りる。
様々な風体の乗客達。
スーツを着たサラリーマン風の者もいれば、妖狐の少年達のように着物を着た者もいる。
魔王軍(国防軍)の正規兵が帰還したのか、それを迎えに来た家族らしき姿も。
稲生:「ここからどうするの?威吹の神社まで、少し歩くでしょ?僕達はいいけど、うちの先生がなぁ……」
駅前には辻馬車が客待ちをしている。
アルカディアシティには自動車交通が無く、それに代わる交通手段が馬車なのである。
この部分は一気にファンタジーの世界に戻って来たといった感じだ。
銀髪:「稲生殿は、うちの神社の場所は御存知なんですよね?」
稲生:「まあ、何度か行ったことあるからね」
銀髪:「オレ達、一足先に行って、威吹先生に稲生殿方の御到着をお知らせしようかと思います」
稲生:「あ、なるほど。それはいいね」
茶髪:「それじゃ、皆さんはゆっくり来てください」
2人の妖狐少年は草鞋の紐を締め直すと、まるで短距離走の選手並みのスピードで走り去って行った。
イリーナ:「これで3人か。余裕で馬車に乗れるね」
マリア:「そうですね」
馬車は4人乗りである為。
中には6人乗りの大型馬車もあったり、日本人街であるが為に、妖怪・朧車が客待ちしていることもある。
さすがにいくら日本人街だからといって、籠や人力車までは存在しない。
ましてや、東南アジアで見かけるトゥクトゥクやオートリキシャーの類も存在しない。
稲生:「でも、料金交渉しないとな」
マリア:「高くても10ゴッズだな」
マリアはいざとなれば自分が料金交渉しようと思った。
そこはさすが欧米人。
相手の言い値の料金を払おうとした稲生を制止して、値切ったこともある。
ところが……。
御者:「初乗りは1キロで7ゴッズです。それから300メートルごとに1ゴッズずつ上がります」
稲生:「ありゃ!?メーターがある!」
いつの間にか辻馬車に料金メーターが導入されていた。
御者:「明朗会計です」
但し、日本のタクシーではデジタル表示が当たり前だが、こちらのメーターは反転フラッグ表示、いわゆる『パタパタ表示』とか『ベストテン表示』である。
さっき駅の発車標でそういうの見たような気がしたが。
イリーナ:「じゃあ、乗せてちょうだい」
御者:「どうぞ。どちらまで?」
稲生:「魔界稲荷神社まで!」
御者:「ありがとうございます」
稲生達は辻馬車に乗り込んだ。
こちらの馬車も6番街で乗ったのと同様、4人用ボックスシートである。
恐らく、6番街で乗ったのも辻馬車だったのだろう。
こっちは明確に、屋根に『TAXI』という表示がしてあるのだが。
稲生:「威吹にお土産買って行けなかったなぁ……」
マリア:「まさか、サウスエンドに行くとは思わなかったんだからしょうがない」
イリーナ:「もし何だったら、藤谷さんからもらった支援物資をそこで解放してもいいけどね」
稲生:「あー……非常食の余り……」
イリーナ:「妖狐達は大食漢が多いのでしょう?ちょうどいいんじゃない?宿代代わりってことで」
稲生:「あ、なるほど。それはいいかもしれませんね」
[同日17:30.天候:晴 アルカディアシティ南端村 魔界稲荷神社]
辻馬車が石段の下で泊まる。
御者:「はい、着きました」
稲生:「どうも。いくらですか?」
御者:「10ゴッズです」
稲生:「ちょうどマリアさんの想定内。はい」
稲生はローブの中から10ゴッズ硬貨を差し出した。
イリーナ:「チップ、チップ」
御者:「こりゃどうもありがとうございます!」
稲生:「あ、忘れてた」
イリーナはローブの中から1ゴッズ硬貨を3枚御者に渡した。
1人1ゴッズのチップということか。
チップを払う習慣の無い日本人の稲生は、ここでしくじりをしてしまった。
アルカディアメトロなどの公共交通機関の運賃にチップをプラスして払う必要は無いが、物価の安い国なだけに、その分チップを払うことは多い。
6番街の三星亭でも、イリーナがジーナにチップを渡していた。
日本では、まず財務省が日本国内のチップ習慣化を阻止するだろう。
チップは『合法的な脱税』と言われ、そこから税金が取れないからである。
何としてでも、国民から税金を取りたい財務省が許すわけがないだろう。
マリア:「おー、日本の神社・仏閣にありがちな長い階段だ。師匠、頑張ってください」
稲生:「そう考えると、大石寺は階段少なくていいよなぁ」
イリーナ:「ん?何か言った?」
マリア:「Huh!?」
イリーナ、魔法の杖を片手に浮遊していた。
そして、スーッと階段の上を滑るように上って行く。
稲生:「魔法は便利ですねぇ!」
マリア:「いや、全く!」
そのような便利な魔法を使うにはまだ至らない若い魔道士達は、普通に階段を駆け上って行った。
マリア:「この階段、魔法でエスカレーターに変えたくなる!」
稲生:「手始めに池上本門寺からお願いします!」
マリア:「宗派違うだろ!」
稲生:「カントクとトチロ~さんの意向です!」
稲生とマリアはそんなことを言い合いながら、息せき切って階段を上がって行った。