報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「地下鉄の攻防」

2020-05-16 21:30:04 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月6日10:30.天候:晴 アルカディアシティ6番街 アルカディアメトロ6番街駅→地下鉄トンネル]

 ノラン:「へえ~。人間界では疫病が蔓延してるんですか?」
 稲生:「外国なんかじゃ、都市封鎖が行われているくらいだよ。日本ではそこまでは行われていないけどね」
 ノラン:「ああ、それでですか」
 稲生:「ん?」
 ノラン:「いえね、稲生さん達が来る前に新聞に出てたんですが、『人間界からやってきた者は即拘束する』と政府発表があったんですよ」
 稲生:「えっ!?」
 ノラン:「でも、どうやら魔道士さん達は例外みたいですね。もしそうなら、さっきの乗り場の検問で拘束されてたはずです」
 稲生:「それ以前に僕達、魔王城に行って、宮廷魔導師のポーリン先生に面会を求めたからね。もし魔道士も対象内だったら、その時に拘束されてるよ」
 ノラン:「色々と魔道士さん達は特権があるみたいですね」
 稲生:「どうだろう?」
 マリア:「ま、あながち嘘ではない……かも」
 稲生:「はあ……」

 路面電車が6番街駅前に到着する。

 稲生:「どうやって工事現場まで行くの?」
 ノラン:「まずは駅の中に入りましょう」

 階段を下りてコンコースに向かう。
 改札口へは入らず、『関係者以外立入禁止』と書かれた鉄扉へと向かった。
 その入口には自警団員と思しき男が猟銃を持って立っていた。

 ノラン:「スターンさん、こんにちは」
 スターン:「ノランか」
 ノラン:「例の大蜘蛛、動きはどう?」
 スターン:「人間が恐れをなして立ち去ったと見るや、工事現場に居座ってやがる。このままでは、駅の方までやってくるかもしれん」
 ノラン:「じゃあ、早いとこ退治しないとね」
 スターン:「ああ。このお二方が、今回の助っ人かい?」
 ノラン:「素早い動きは魔法で封じ、あとは虫の弱点である炎の魔法で焼き殺す作戦よ」
 スターン:「そりゃいい。俺達も虫は火に弱いってことは知ってて、火炎放射器を用意したんだが、いかんせんすばしっこい動きと糸のせいで近づけないんだ」
 ノラン:「この人達がいれば、百人力ね」
 スターン:「だが1つ、不穏な動きがある」
 ノラン:「不穏な動き?」
 スターン:「ここ数日、親蜘蛛が巣の中に入ったまま出て来なくなったらしい。作業員の目撃情報によると、卵嚢を見つけたとのことだ」
 ノラン:「繁殖してる?」
 スターン:「可能性はある。昨日の今日だから、まだ生まれていないかもしれないし、もし生まれたとしても子グモの状態だ」
 稲生:「生まれる前に対処しましょう!今すぐに!」
 ノラン:「そうね。善は急げと言うわ」

 スターンは鉄扉の鍵を開けた。

 スターン:「現場はこの先から行ける。くれぐれも電車に気をつけてな」
 稲生:「運休はしてないんだ」

 そこが日本との大きな違いであろう。
 稲生達は鉄扉の中に入った。
 しばらく行くと黴臭いコンクリートの壁が現れ、下への階段が現れた。
 照明は所々にある蛍光灯が灯っているだけ。
 その蛍光灯にも蜘蛛の巣が張っていたが、これは普通の蜘蛛だ。
 別の蜘蛛の巣にはゴキブリが引っ掛かってしまい、それを蜘蛛が捕食している所を見ることができた。
 どうやらエサはちゃんとあるようだ。
 階段を下り切ると、もう1つドアがあった。
 それは内側に開いた。
 開けると、その先に線路があった。

 稲生:「おっと!」

 ゴォッ!と強い風と眩いヘッドライトがやってきて、電車が通過していった。
 線路が見えたので電車が来る方向を確認したつもりだったが、反対側からやってきた。
 それもそのはず。
 アルカディアメトロの地下鉄は右側通行だからだ。
 高架鉄道が左側通行なのとは対照的である。

 ノラン:「工事現場は向こうよ」
 マリア:「よし、行こう」

 線路に降りて、駅とは反対方向に歩く。
 今度は対向電車が通過していった。
 そして途中に分岐があり、バリケードがされている。

 ノラン:「工事現場は向こうよ」
 稲生:「分かった」

 バリケードを乗り越えると、左にカーブしている。
 この辺りはもう新しいレールが敷かれていた。

 稲生:「あれ?何か工事の音がする」
 マリア:「本当だ」
 ノラン:「例の大蜘蛛がいるのは特定の場所だからね。そうでない場所だけでも作業を進めようとしているのね」
 稲生:「ふーん……」

 地下トンネルは薄暗かったが、工事現場は明るかった。
 重機などを見ていると、とてもここが剣と魔法のファンタジーの世界ではなく、現実世界のどこかの地下鉄だと思うくらいだ。

 現場監督:「ん?あなた達は……」
 ノラン:「自警団の者です。大蜘蛛を退治しに来ました」
 現場監督:「おお、そうか。それは助かる。奴らはこの壁の向こうにいる。本当はあそこに出入口があったんだが、最近凶暴化してそのドアをぶち破ろうとしてきてね。コンクリートで固めてしまったんだ」
 稲生:「え?それじゃ……」
 現場監督:「別の入口がある。悪いが、そこから入ってくれないか。本線の線路沿いを少し歩いた先にある。これがそのドアの鍵だ。今のところ電車の運行に支障は無いが、いずれきっと事故を起こす。事故が起きてからじゃ遅いんだ」
 マリア:「だからこそ、魔王軍が出張ればいいのに、体たらく」
 ノラン:「ま、私達で頑張りましょう」

 3人は来た道を引き返した。

 稲生:「おっと!また電車だ!」

 電車をやり過ごしてから線路に出る。

 大ネズミ:「チュー!チュー!」
 モンスターラットA:「チューチュー!」
 モンスターラットB:「チュー!」
 モンスターラットC:「ピ○チュー!」

 マリア:「ネズミのモンスター!?」
 ノラン:「地下鉄のトンネルには、たまにこういうヤツがいるって話だからね!」
 稲生:「今、なんか違うネズミの鳴き声あげたヤツいなかった!?」

 3人にとってはザコ同然。
 しかし、ノランが1人で退治してしまった。

 ノラン:「魔法使いさん達には魔力を温存してもらいたいですからね。ザコは私にお任せあれ」
 マリア:「助かる」

 テラ○フォーマーズA:「じょうじ?」
 テラフォーマー○B:「じょうじじょうじ」
 テラフォー○ーズC:「じょうじ!」

 マリア:「今度は人型ゴキブリの化け物か!」
 ノラン:「私に任せて!」
 稲生:「いや、何か別の意味でヤバいモンスターばっかり出てるぞ!?」

 稲生達は無事に大蜘蛛の場所まで辿り着けるのであろうか。
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“大魔道師の弟子” 「地下鉄の大クモ」

2020-05-16 16:03:06 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月6日09:00.天候:晴 アルカディアシティ6番街カブキンシタウン エリックス・ジム]

 宿屋を出発した稲生とマリアは、同じ地区内にあるジムに向かった。
 夜はあんなに艶やかな雰囲気を出していたこの街も、朝になれば静かなものだ。
 それでも、エリックス・ジムに関しては朝でも営業している。

 トレーナー:「あーら、魔道士のお2人さん、いらっしゃい。ちょうど会長がお待ちですよ」

 筋骨隆々のトレーナーが口元に笑みを浮かべ、大きく頷きながら中へ促した。

 稲生:「おはようございます」

 稲生とマリアが中に入ると、エリックが大きく手を振っていた。

 エリック:「どうも、昨夜はご苦労様でした」
 稲生:「いやいや、無事に終わって良かったよ」
 エリック:「例の届け出は先ほど役人に渡して来ました。で、これが報酬です」

 稲生は1000ゴッズを手に入れた。

 エリック:「それで、次なる仕事の依頼があるんですがね、引き受けてみませんか?」
 稲生:「是非。一体、どんなの?」
 エリック:「実はこの近くに、地下鉄の工事現場があることは昨夜も言ったかと思います」
 稲生:「うん。何か、問題が発生しているんだって?」
 エリック:「そうです。何でも、大クモ……そのまんま土蜘蛛の化け物なんですが、その巣にぶち当たったらしくて……。それがなかなか手ごわいってんで、工事が中断してしまったんですよ」
 マリア:「それくらい、魔王軍の警備兵で対応できるだろう?」
 エリック:「普通はそうなんですが、ミッドガードへの国境警備に力を取られて、なかなか手を回してくれないんです」
 稲生:「軍隊と警察が一緒だと、そうなるんだよねぇ……」

 なので、アルカディア王国にはどの町にも自警団がいる。
 町によってはそれが公的化されて、保安官制度にまで発展させた所もあるらしいが、アルカディアシティではそこまでは行っていないようだ。
 で、この町の自警団では手に負えないらしい。

 エリック:「土蜘蛛の癖にすばしっこく、しかも蜘蛛なんで、糸を吐いて来るんですね。それに絡め取られて、一貫の終わりというパターンが繰り広げられているということです」
 稲生:「銃で遠くから攻撃するのもダメなのか?」
 エリック:「どうも何か最近繁殖しているらしく、駆除が追い付かないんです。親蜘蛛さえ退治してしまえば、あとは大丈夫だと思うんですが……」
 稲生:「まあ、とにかく行ってみよう」
 マリア:「取りあえず魔法で動きを止めて、あとは焼却すればいいだろう」

 マリアにはそのどちらの魔法を使えた。
 虫は火に弱い。

 エリック:「うちの者も連れて行ってやってください。自警団員で、実際に現場に行ったことがあるヤツです」
 トレーナー:「ハーイ。というわけで、よろしく~」

 先ほどのトレーナーが気さくに挨拶してきた。

 エリック:「こいつはうちのジムのトレーナーで、自警団員のノラン・ゴッツ。ちょっとオネェっぽくて変わったヤツだけど、腕は確かだよ」
 トレーナー改めノラン:「初めまして。ノランです。こう見えても、自警団では腕利き扱いされてるんですのよ」
 稲生:「稲生勇太です。よろしく」
 マリア:「マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット。Nice to meet you.」

 ノランはエリック同様、筋骨隆々で長身であった。
 肩まである黒い髪はウェーブのあるもので、ヘアバンドで留めている。
 既に簡素な鎧を着込み、バスターソードと呼ばれる両手持ちの大剣を背中に背負っていた。

 ノラン:「準備ができたら、声を掛けてちょうだい」
 マリア:「いや、大丈夫。もう行こう」
 エリック:「地下鉄工事現場は、6番街駅から行くといい。駅構内に工事現場の入口があるから、そこから行ける」
 稲生:「分かった。ありがとう」

 稲生とマリアはノランという重戦士をメンバーに加えた。

 稲生:「まずは6番街駅か……」

 稲生はそう呟くと、ジムを出た。
 そして向かった先は……。

 アイテム屋:「いらっしゃい。カブキンシタウン唯一のアイテム屋へようこそ」
 マリア:「エーテルが切れてた。買って行く」

 エーテルとは化学薬品の名前であるが、魔法薬の名前でもある。
 ここではMP(マジックパワー。魔力を行使する為の力)を回復する薬のことである。

 アイテム屋:「ノラン、今日も自警団の仕事?」
 ノラン:「まあ、そんな所ね。例の地下鉄工事の化け物、退治しに行くところよ」
 アイテム屋:「なるほど。それで今回は魔法使いさんを連れて……」
 稲生:「ポーションも買って行きますか?」
 マリア:「いや、ポーションはだいぶ持ってるから大丈夫だろう。それより、相手は毒蜘蛛だ。毒消しを持って行った方がいい」
 稲生:「なるほど。エーテルを3つと毒消しを3つ、それから……」
 アイテム屋:「お客さん。これから品出しをするところだったんだけど、エーテルターボが入ったよ。これはどうだい?」
 マリア:「ちょうど良かった。それも1つちょうだい」
 アイテム屋:「毎度!まとめ買いのお客さんには、サービスしとくよ!」

 エーテルターボ。
 だいたい分かると思うが、普通のエーテルよりも更に多くのMPを回復する。

 マリア:「よし、行こう」
 稲生:「はい」
 ノラン:「駅に着いたら、ほとんどお店は無いからね。必要なものは、この街で揃えるといいよ」
 マリア:「いや、これで大丈夫。早くトラムに乗ろう」

 3人は路面電車の乗り場へ向かった。
 ところが、何故か電停付近には長蛇の列ができていた。
 まさか、電車が止まってしまったのだろうか。

 稲生:「え?人身事故で止まった?」
 マリア:「無きにしも非ずだけど、何か違うっぽい」

 列は少しずつ進んでいる。
 しばらく進むと、その理由が分かった。

 警備兵A:「はい、次!身分証見せて!」
 警備兵B:「この街にミッドガードのスパイが潜入中との情報が入っております!その為、警備強化を行っております!身分証と手荷物検査を行っておりますので、ご協力をお願いしまーす!」
 警備兵C:「なに!?身分証が無いだと!?ちょっとこっちに来い!」
 稲生:「なにこれ?」
 ノラン:「随分と物騒になったわねぇ……」

 ついに稲生達の番になる。

 警備兵A:「身分証と手荷物を拝見します」
 稲生:「人間界から来た魔道士ですけど、これでいいですか?」

 稲生は日本国のパスポートを見せた。
 藤谷の心配、『パスポート持って行け』のアドバイスがここで役に立ったわけか。

 警備兵A:「うむ。首相と同郷の方か。それなら大丈夫。手荷物も……おや?色々とアイテムが入ってるな……。エーテルにポーション……」
 稲生:「魔道士の持ち物としては、何ら不自然は無いかと」
 警備兵A:「うむ。『日本人』なら大丈夫だろう」
 稲生:「(日本のパスポート、強ぇーっ!)スパイってどんなヤツなんですか?」
 警備兵A:「少なくとも人間であるようだ。魔族ではない。更にこれはまだ証拠を調査中だが、日本人でもないようだ。怪しい者を見つけたら報告を頼む」
 稲生:「分かりました」

 その為、マリアの方が時間が掛かった。
 ノランに関してはそもそも地元の人間である為、1番早く終わった。

 警備兵B:「どうだ?」
 警備兵C:「問題ない。本当に魔道士のようだ。銃の類も持っていない」
 警備兵B:「よし。ご協力ありがとうございました」
 ノラン:「物騒な世の中になったわねぇ……」

 3人はようやく検問を抜け、電停に停車している路面電車に乗り込んだ。

 運転士:「発車しまーす!」

 今度は東京都電で運転されていたものと思われる古い電車。
 稲生達を最後の乗客とすると、チンチーンとベルを鳴らし、発車した。

 稲生:「本当にスパイなんているんですねぇ……」
 マリア:「平和な国でさえいるくらいだ。ましてや、開戦前ともなれば尚更だな」
 ノラン:「ま、私達は私達の仕事をしましょう」
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