報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「1番街へ向かう」

2020-05-24 20:51:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月7日12:00.天候:晴 アルカディアシティ6番街カブキンシタウン 三星亭(Three Stars Inn)]

 ジムから宿屋へ戻って来た稲生達。

 イリーナ:「やあやあ。御苦労さんだったねぇ」

 1階の食堂ではイリーナが待っていた。

 稲生:「先生、戻りました」
 クリス:「ほらな?いくら何でも起きてるだろ」
 マリア:「く……」
 イリーナ:「ん、どうしたんだい?」
 クリス:「もう少し自分の師匠を信じた方が良いと……」
 マリア:「何でもありません!」
 イリーナ:「うんうん。クリス、いいこと言ってくれたねぇ。ジーナから話は聞いたよ。目録を受け取ってくれたんだって?」
 稲生:「はい。これです」
 イリーナ:「これを魔界共和党の本部事務所に持って行けってことだね」
 稲生:「そうです」
 イリーナ:「うん、分かった。早いとこ行きたいところだけど、朝食取らせて。さっき起きたばかりだから」
 マリア:「もう12時ですよ?」
 クリス:「私はランチにしたいね。私は普通に起きたから」
 稲生:「凄いね。あんまり寝てないんじゃないの?」
 クリス:「そうかい?それでも6時間くらい寝たけどね」
 イリーナ:「さすが傭兵さんは寝起きがいいねぇ」
 クリス:「アルカディアシティを出たら、野宿が当たり前でしたから」
 イリーナ:「なるほど。勇太君達は何食べる?私は白ローラム鳥のパエリア」
 稲生:「あいにくと、僕達はまだお腹空いてません」
 マリア:「朝食が遅かったもので」
 イリーナ:「あ、そう。クリスは何食べる?私が奢るよ」
 クリス:「ゴチです!私はフライドチキンの大盛りサンドで!」
 イリーナ:「あいよ」
 稲生:(KFCのチキンフィレサンドに似てるなぁ……)

 尚、この宿屋で飼っていたフレイム鳥は代官屋敷の騒動に乗じて単独で帰って来ていたという。
 この魔界に巣くう鳥は頭の良い鳥が多い。

 イリーナ:「私達が食べちゃったら、しばらく食事はナシよ?」
 稲生:「はあ……。フィッシュ&チップスくらい齧っておきましょうか」
 マリア:「あるんだ。フィッシュ&チップス」

 イギリス名物のファストフード。
 お昼時なのか、食堂が賑わい始めた。

 イリーナ:「食べたら1番街に行こうね」
 稲生:「はい」

[同日13:00.天候:晴 アルカディアメトロ6番街駅]

 朝食と昼食と間食をそれぞれ食べた4人は三星亭を引き払うと、路面電車に乗って6番街駅に向かった。
 それから地下鉄の6番街駅に入る。

 自警団員:「あんたらマジで最高だよ!トンネル内のモンスターを根こそぎ倒してくれたおかげで、工事がはかどるようになったってさ」

 工事現場の入口にいた自警団員が稲生達を見つけると駆け寄って来て、そう言って来た。

 稲生:「それは何よりです」
 クリス:「でもモンスターが暴れたせいで落盤が起きたんだろ?ノランが悔しがってたぞ」
 自警団員:「幸い重軽傷で済んだ。病院送りにはなったが、死んではいない」
 クリス:「おー、そりゃ良かった。後でノランに言っときなよ。あいつ、結構それでヘコんでたから」
 マリア:「大蜘蛛が暴れたのはノランのせいじゃないよ」
 稲生:「そうそう。ノランがヘコむ必要は無い」
 クリス:「ああ見えて、結構繊細なんだよ。マッスルマンってのは」
 自警団員:「分かった。ちょうど俺も、ここを離れるところだったんだ。これからノランの所に行ってくるよ」
 クリス:「よろしく」

 自警団員は地上への階段を駆け上って行った。

 イリーナ:「はい、お待たせ。トークン」
 稲生:「あ、どうもありがとうございます」

 アルカディアメトロは運賃定額制である。
 乗り継ぎ割引を利かせる場合はそのチケットを購入する必要があるが、一回乗車の場合はトークンというコインを買う。
 他路線に乗り換える場合、地下鉄同士はそのままトークン1枚で良いが、高架鉄道や路面電車など、1度改札口を出るような場合、またその先のトークンを購入しなければならない(通常だと運賃が倍に跳ね上がる為、それを防ぐ為に乗り継ぎ割引チケットがある)。

 イリーナ:「それじゃ行きましょう」

 改札口は自動改札である。
 但し、遊園地のゲートみたいなスロットルを回して中に入るタイプ。
 入口のトークン投入口にトークンを投入するとロックが外れるので、それでスロットルを回して中に入る。
 出る時はロックが掛かっていないので、それはフリーである。
 日本最初の地下鉄銀座線(東京地下鉄道)が開業した時も、この方式であった。
 違うのは投入するのがトークンではなく、十銭硬貨を直接投入するのと、スロットルが前に回すタイプである(遊園地などにあるのは下に回すタイプ)。
 回転扉が扉ではなく、バーになったものと思えば良い(但し、バーは客が自分で回す)。

 稲生:「アルカディアメトロの運賃が1回3ゴッズで、路面電車が2ゴッズなんだよね」

 路面電車の場合は乗り継ぎ割引を使うと、乗り継ぎ先の路面電車は1ゴッズで乗れる。
 尚、小児運賃は無い。
 これは公共交通機関として、とても安い運賃設定になっているからだ(レートは1ゴッズが10円ほど。1元が約15円の中国人民元よりも安い)。
 ホームが薄暗いのは昔の地下鉄ならでは。
 そこで電車を待っていると、トンネルの向こうから警笛の音が何度も聞こえてくる。
 接近放送が無い為、警笛で電車の接近を知らせているのである。
 独特の音色だと思ったのは、やってきたのは日本の地下鉄車両ではなかったからだ。
 かつてニューヨークの地下鉄を走っていた車両と思われる。
 くすんだ緑色の車体が特徴だった。
 日本の昔の地下鉄車両よりは、行き先がしっかり表示されている。

 マリア:「『Local』『via 1st Ave.』か。大丈夫。一番街に行くみたい」
 稲生:「そうですか」

 乗り込んでみると車内はセミクロスシート。
 但し、クロスシートは向かい合わせではなく、背中合わせである。

 稲生:「なるほど」

 稲生とマリアはドア横の2人席に座り、イリーナは進行方向向きのクロスシートに座った。
 クリスは空いている車内ながら立っている。
 多分、座ろうとすると背中に背負っている剣が邪魔になり、いちいち外さないといけないからだろう。
 ガチャンと景気良くドアが閉まり、電車が発車した。
 そういえば駅のベンチに、同じくバスターソードを背負った男戦士がいたが、背負っていた剣をズラして座っていた。

〔次は6番街北、6番街北です。お出口は右側です〕

 照明は白熱電球の古い車両ながら、自動放送装置が搭載されているらしい。

〔お客様にお知らせ致します。次の6番街北駅まで、線路工事の為、減速・徐行運転を行うことがあります。予め、ご了承ください〕

 稲生達が乗っている区間は、先日、大蜘蛛を退治しに行った場所である。
 窓から外を覗いてみたが、もうモンスターがトンネル内を歩いているというようなことはなかった。

 稲生:「分岐のトンネルだ」

 支線のトンネルの前を通る。
 減速運転しているので、その入口はよく見えた。
 昼間でも鋭意建設工事を行っている。
 カブキンシタウンへの地下鉄、ようやく工事再開のようだ。

 稲生:「僕達のクエスト達成が、こういう所で役に立つなんて嬉しいな」
 イリーナ:「そう。世の為、人の為、働き者には福が来る。これがダンテ一門の心得の1つなのよ」
 クリス:「へえ。この辺は私達、傭兵にも通じるところはあるね」

 クリスは大きく頷いた。
 工事区間を抜けた電車は、再び加速した。
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“大魔道師の弟子” 「6番街最後の日」

2020-05-24 16:12:13 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月7日11:00.天候:晴 アルカディアシティ6番街カブキンシタウン 三星亭(Three Stars Inn)→エリックス・ジム]

 深夜に宿に戻って来た稲生達。
 起床時間は遅く、それ故朝食も遅い時間に取った。

 マリア:「横田理事から報奨が届くって話だけど、何が届くのやら……」
 稲生:「良くて金一封、普通に賞状とか盾とか金杯とか?悪くて……『お見舞いの品』と称して、マリアさんに新品のJK下着、先生には新品のランジェリーを送りそうな気がします」
 マリア:「……っ!思いっ切り有り得そうだ!」

 2人は1階の食堂にいる。
 マリアは稲生の話を聞いて、テーブルの上に置いた両手で拳を作り、口元を歪めながら突っ伏すような体勢になった。

 マリア:「しかもサイズがピッタリだったりね!」
 稲生:「ええ……」

 鈴木がエレーナに新品のブラショーツを送った時も、サイズがピッタリだったのでエレーナが驚いていたそうだ。
 もっとも、そのサイズの情報を鈴木が聞き出した相手は横田だというのだから驚きだ。
 魔界共和党の変態理事で通っている横田だが、その情報収集能力の高さは飽きれを通り越してしまう。
 彼の能力のその高さは人間だけではなく、魔界の住人ならではの亜人(デミ・ヒューマン。人間と似た姿をした人外のこと。例:エルフ、洋の東西不問で鬼族、妖狐、天狗など)からも一目置かれているほどだ。

 ジーナ:「先輩方、失礼します」

 そこへこの宿屋で住み込みの従業員をしているジーナがやってきた。
 エレーナとは同郷のウクライナ出身で、所属組は違うものの、エレーナの真似をしている為に見た目は似ている。

 稲生:「何だい?」
 ジーナ:「先ほどエリックス・ジムから電話がありました。役所から書類が届いたので、取りに来て頂きたいと……」
 稲生:「例の報奨のことかな?」
 マリア:「何だ。届けてくれるんじゃないのか」
 稲生:「ま、いいじゃないですか。先生はまだ寝てらっしゃいますし。僕達で取りに行きましょう」
 マリア:「そうだね。ジーナ、うちの先生が起きて来たらジムに向かったって伝えといて」
 ジーナ:「分かりました。行ってらっしゃい」

 2人は宿屋を出てジムに向かった。
 ここからジムまでは、歩いて行ける距離にある。
 ジムに到着すると……。

 クリス:「エッヘヘヘ!私の勝ちだね」
 ジョニー:「何故だ!?何故この俺様が女に負けるのだぁぁぁっ!?」
 ノラン:「いいか、ジョニー!筋肉は量ではなく質だ!そうやってまた見た目で相手を判断する!その慢心こそが今回の敗因であり、キミの大いに反省すべきところだ!」
 ジョニー:「うぉぉぉぉぉぉっ!!」

 プロレスラー並みの筋肉質ながらオネェ的な言動をしていたノランが、今はトレーナーらしく、会員を厳しく指導していた。
 どうやらジョニーという名の男性会員が、クリスと何か練習試合でもしたらしい。

 稲生:「あ、あのー、こんにちはー。ちょっといいですかー?」
 ノラン:「ん?……おおっ、これはこれは稲生君とマリアンナさん、いらっしゃい。すぐに会長達を呼んでくるわね」
 マリア:「私達宛ての書類が役所から届いてるって聞いたんで、取りに来たんだけど?」
 クリス:「だーかーらぁ、それを会長達が預かってるんだって」

 クリスは笑みを浮かべながら汗を拭いていた。
 彼女はスポブラとビキニショーツだけの恰好になっている。
 鍛えられた女性アスリートの如く、露出した肌から引き締まった筋肉が目に飛び込んで来る。

 稲生:「何をしていたの?」
 クリス:「ジョニーと筋肉勝負さ。スクワットと懸垂ね。どっちも私が圧勝したけど」
 ジョニー:「うぉぉぉぉぉぉっ!」orz
 クリス:「あ、私と勝負してみる?」
 稲生:「い、いや。僕は文科系だから遠慮しておくよ」
 クリス:「じゃあ、マリアンナ」
 マリア:「私もムリ」

 そんなことを話していると、奥からエリックがやってきた。

 エリック:「やあ、どうも。御足労ありがとうございます」
 稲生:「こんにちは。サーシャは?」
 エリック:「サーシャは一段と腹が大きくなったんで、奥で休ませてますよ」
 稲生:「4人目、元気に生まれるといいねぇ」
 エリック:「へへ、どうも。稲生さん達は何人くらい作る御予定で?」
 稲生:「えっ?」
 マリア:「なっ……!」

 稲生は困惑し、マリアは顔を赤らめた。

 稲生:「ま、まだ未定……ははは……」
 エリック:「正式に結婚したら教えてくださいよ?うちのジム総出でお祝いさせてもらいますからね」
 稲生:「お、お気遣いなく……」
 マリア:「それよりエリック、早いとこ書類を」
 エリック:「おっと、こりゃ失礼。見たところ、目録のようです。役所の使いの話によると、これを持って共和党本部事務所に行くようにとのことです。この書類と引き換えに報奨金を渡すとか……」
 稲生:「へえ、金一封なんだ。活躍したのは僕達だけじゃなく、クリスもなんだけど……」
 エリック:「クリスの分も含まれてるので、クリスも一緒に連れて行ってやってください。何しろ共和党本部なんて、そんな御大層な場所、俺には分かりませんでねぇ……」
 稲生:「1番街でしょ?魔王城の近くの。僕は知ってるよ」

 直接事務所に行ったことはないが、魔王城に出入りしていれば何となく分かるものだ。

 クリス:「何ゴッズ貰えるかな~?へへへ……」
 ノラン:「良かったわね。額によっては、新しい剣が買えるわよ」
 稲生:「うーん……金一封程度なら、そんなに期待しない方がいいかもね」

 少なくとも、日本国内における捜査報償費はそうだ。

 稲生:「あくまでも、新しい剣を買う足しにするくらいの感じの方がいいかも」
 クリス:「何だ、そうか」
 稲生:「どういった剣が欲しいの?」
 クリス:「鋼の剣かな」
 ノラン:「レイピアじゃなく、もっと重い鋼の剣が装備できるのは副会長とあなたくらいよ」

 副会長とはサーシャのことである。

 クリス:「筋肉を鍛えているのはその為さ」
 ジョニー:「それでも男の剣士が持つ物よりは小せぇヤツだろ?」
 クリス:「うるさいな。私は気に入った物を使うの!」
 稲生:「分かった。じゃあ、これから1番街まで行ってくる」
 エリック:「ああ、気をつけてな」
 稲生:「サーシャによろしく」
 エリック:「了解。クリスもこの方達の護衛頼むな?」
 クリス:「分かってますよ、会長」

 稲生達は『目録』を入手した。
 そしてジムをあとにした。

 稲生:「先生が起きてるかどうか、まずは宿屋に戻ってみよう」
 マリア:「寝てる方に一票」
 クリス:「えー?さすがに起きてるだろー?もう昼近くだよー」
 マリア:「魔道士をナメるな」
 クリス:「はー、サーセン」
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