報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「漁港をあとにして」

2021-01-31 23:12:01 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月3日10:00.天候:晴 宮城県石巻市鮎川地区 ミヤコーバス鮎川港停留所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 民宿に一泊した後、その車で最寄りのバス停まで送ってもらった。
 民宿からバス停に向かおうとすると、徒歩15分くらいは掛かる。
 それを民宿のサービスで送ってもらったわけだ。

 愛原:「結局、あの船は何だったんだろうなぁ?」
 高橋:「大騒ぎになっていないところを見ると、やっぱりただの遊漁船だったんスかね?」
 愛原:「さあなぁ……。とにかく明日、善場主任の所に新年の挨拶も兼ねて持って行こう」
 高橋:「うっス」

 待合室もベンチも無い空き地のような場所に、バス停がポツンと立っている。
 そこでバスを待っていると、何だかパトカーのサイレンの音が聞こえて来た。

 高橋:「相変わらずヤな音ですねー」
 愛原:「オマエはな」

 近くの住宅街のような所にパトカーが入って行き、そこでサイレンが止まった。
 何か事件でもあったのだろうか?
 震災からの復興も進んでいる、長閑な漁村といった感じの場所なのだが……。
 しばらくして、空き地で待機していたバスがエンジンを掛けて、バス停に近づいて来た。
 塗装は宮城交通(というか名鉄バスの傘下なので)の紅白のものだ。
 車種は都内でも見かけるジェイ・バス製ボディの中型車。
 意外なことに、こういうローカル線でもICカードが使えた。
 こういう時、ICカードは便利だ。
 地方の路線バスだと、運賃がいくら掛かるか分からないので、なかなか予め用意するということが難しい。
 ここみたいに起点停留所なら、運転手に降りる停留所までいくら掛かるか聞けるが、途中から乗って途中で降りるとなるとなかなか聞きにくい(走行中は無論のこと、赤信号停車時でもちょっと……)。
 正解はバス停に停車中に聞くのが良いらしい。
 が、ローカル線だと、なかなか途中で乗り降りが無い為にそのタイミングを掴みにくいというネックがある。
 こういう時、ICカードだと何千円かチャージしておけば降りる時に足りないなんてことはない(まさか高速バスじゃあるまいし、いくらローカル線とはいえ、一般道走行の路線バスで何千円も運賃を取る所なんてそうそう無いだろう)。

〔サンファンパーク、渡波駅前経由、イオンスーパーセンター石巻東店行きでございます〕

 愛原:「渡波駅前で降りて、そこから石巻線だな」
 高橋:「小牛田には行くんですか?」
 愛原:「いや、今回はもういいだろう。石巻で降りて、そこから仙石東北ラインだな」
 高橋:「そうですか……」

 私達がそんなことを話していると、再びパトカーのサイレンの音が聞こえて来た。
 それはバス停の前を通り過ぎて行った。
 さっきのとは別のパトカーで、別の場所に行くみたいだ。

 愛原:「なあ。マジで何かあったみたいだな?」
 高橋:「連続空き巣事件でもありましたかね?ほら、よく田舎は玄関に鍵掛けないって言うじゃないですか」
 愛原:「あー、そうだな。でも、うちの伯父さんちも、あの民宿も鍵は一応掛かってたぞ?」

 もっとも、私達が早朝張り込みに行く際は開いたままではあったが。
 ちゃんと帰って来た時に、鍵は掛けておいた。

 発車の時間になっても、他の乗客は誰も乗ってこなかった。
 正月三が日は、あまり外に出ないのだろうか。

〔発車致します。ご注意ください〕

 バスはゆっくりとバス停を出発した。

〔ピンポーン♪ 毎度ミヤコーバスをご利用くださいまして、ありがとうございます。このバスはサンファンパーク、渡波駅前経由、イオンスーパーセンター石巻東店行きでございます。次は鮎川大町、鮎川大町でございます〕

 バスは途中、パトカーが曲がっていった路地を通り過ぎる。
 その先には赤色灯を点滅させて停車しているパトカーがいた。
 近所の人達も何事かと見に行っている。

 愛原:「一体、何があったんだろうな?」

 いずれにせよ警察が出動している時点で、私達、民間探偵業者に出番は無い。
 だが、後であの調査は実は緊急性が高かったことを知ることになる。

[同日11:18.天候:晴 石巻市渡波町 JR渡波駅→石巻線1632D列車先頭車内]

 鮎川からここまで1時間以上掛かった。
 県道2号線をひたすら進んで来た形となる。

〔「渡波駅前です」〕

 このバス停でバスを降りる。

 愛原:「あっ、そろそろ列車が来るぞ」

 私は時計を見た。
 バスのダイヤは、列車のそれと接続しているのだろうか?
 JR石巻線は基本、Suicaには対応していない。
 その為、紙のキップを購入することになる。
 駅構内には自動券売機が1台だけある。
 元々は有人駅で、窓口もあったようだが、今では無人駅となり、窓口があった場所は封鎖されている。
 仙台駅までのキップを3枚買うと、それでホームに入った。


〔まもなく、上り列車が参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 簡素な自動放送が流れると、構内踏切の警報機が鳴った。
 この駅は石巻線の中で、最も東にある列車交換可能駅となっている。
 その為、2番線が存在する。
 その2番線へは1番線から構内踏切を渡って行く形になる。
 もっとも、私達が乗る列車は1番線から出るが。
 やってきた列車は2両編成の気動車だった。
 2両で1編成のタイプである。
 無人駅なので、先頭車の後ろの車両から乗る。
 既にキップは購入済みなので、整理券を取る必要は無い。
 そこそこ乗客は乗っていて、ボックスシートではなく、ロングシートに腰かけた。
 列車交換可能駅とはいうものの、必ずしも全列車が交換を行うわけではないらしい。
 なので、この列車はすぐに発車した。

 愛原:「仙台駅に両親が来て、最後に一緒に昼食を取ろうということだ」
 高橋:「いい御両親で羨ましいっス」
 愛原:「俺は新型コロナもあるから、あまりそういうのは止めた方がいいって言ったんだけどな……」
 高橋:「何気に、公一センセーも来てたりして?」
 愛原:「無きにしも非ずってところだな」

 昼食を取って、お土産を買って、あとは新幹線に乗るって感じか。
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“私立探偵 愛原学” 「正月仕事の探偵」

2021-01-31 15:56:44 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月3日04:00.天候:晴 宮城県石巻市鮎川地区 とある民宿→鮎川漁港]

 私の枕元に置いたスマホがアラームを鳴らす。

 愛原:「……よし。仕事の時間だ……」
 高橋:「うっス……」
 リサ:「うっス……」
 愛原:「リサは寝てていいよ?」
 リサ:「私も行く……」
 高橋:「遊びじゃねぇんだぞ」
 リサ:「もしもBOWが近くにいるなら、私の鼻で分かるよ?」
 高橋:「そうなのか?」
 愛原:「リサがどうしてもというなら、それでいいじゃないか。とにかく、顔を洗ってさっさと行こう」

 私達は身支度を整えると、そっと民宿を出た。
 私達の他に宿泊客はいないが、家族経営の民宿で、経営者家族の居住区が1つ屋根の下にあるので、うるさくして起こしたりしないようにする為だ。
 鍵は開けてていいらしい。
 車の鍵は予め預かっている。
 私達は冷たい風の吹く屋外に出た。
 そして、駐車場に止まっているセレナに乗り込んだ。
 運転は高橋に任せ、私とリサはリアシートに乗り込む。
 幸いフロントガラスと運転席と助手席以外の窓は、スモークガラスになっている。
 これなら良い張り込みができるだろう。
 しかも車の運転席と助手席のドアには、民宿の名前と電話番号が書かれたステッカーが貼られていた。
 傍から見れば、釣り客の送迎をする民宿の車に見えるだろう。

 高橋:「どこに着けますか?」
 愛原:「佐々木博士が証言してくれた場所に、恐らく偽遊漁船は訪れるだろう。そこが見下ろせる場所がいいな」

 もちろん、あまり近づき過ぎてはいけない。
 まずは漁港を通り過ぎてみる。
 漁港に人影は無かった。
 漁師の操船する漁船も係留されたままだ。
 漁師も正月三が日は休みなのだろう。
 そして今度は戻ってもらって、漁港に程近い牡鹿半島ビジターセンターの駐車場に車を止めた。

 愛原:「よし。エンジンを切ってくれ」
 高橋:「はい」
 愛原:「だけどいざとなったら、エンジンを掛けていつでも車を出せるようにしておいてくれ」
 高橋:「分かりました」

 私は窓を少しだけ開け、そこからデジカメを覗かせた。
 まだ外も暗いうちに写真なんか撮ったら、フラッシュの光でバレるんじゃないかって?
 もちろん、そんなことは想定済みだ。
 フラッシュなど焚かなくても、暗い中でしっかり撮影できる代物だ。
 そして、取り出したるは双眼鏡。
 折り畳み式の。
 いつでも仕事ができるように、探偵の7つ道具は常に持ち歩いているのだ。
 どうだい?凄いだろう?

 愛原:「寒いかもしれないが、ガマンしてくれ。これも仕事だ」
 高橋:「分かってますよ」
 リサ:「私は平気」

 小一時間ほどした頃だろうか。
 漁港に動きがあった。
 どこからともなく、1人また1人と漁港に集まってきたのだ。
 やはり、それぞれがこれから釣り船に乗るかのような出で立ちをしている。
 ライフジャケットを着ていたり、釣り竿を持っていたり、クーラーボックスを持っていたりだ。
 これなら、傍から見れば本当にこれから遊漁船に乗るといった感じに見えるだろう。

 愛原:「……?」

 私が不思議に思ったのは、今回のそのメンバーは佐々木博士が証言したのと若干違ったからだ。
 佐々木博士は、釣り客を装った関係者らしき者達がそこにいたと言っていた。
 しかし今回いるのは、中年男性達が中心ではあるものの、その中に子供も少し含まれていたことである。
 小学生の男子児童もいれば、中学生くらいの女子らしき者もいる。
 子供が含まれているおかげで、ますます怪しさは薄れているのだ。
 まるで本当に、これから本物の遊漁船に乗るかのようだ。
 私は写真の撮影を忘れない。
 そうこうしているうちに、沖の方から一隻の船がやってきた。
 クルーザーのような船だ。
 もちろん、それ自体は違和感は無い。
 往々にして遊漁船に使われるタイプだ。
 10人くらいは乗れそうな船だった。

 愛原:「…………」

 その船が船着き場に着岸する。
 しかし、船から降りて来たのは船長らしき者1人だけだった。
 佐々木博士の証言では、船長の他に武装した男2人が降りて来たとのことだったが……。
 もしかして、本当にただの釣り船なのだろうか?

 愛原:「ううん?」

 しかし見ている限り、乗客達は船長に何か渡し、代わりに何かを受け取って船に乗り込んでいた。
 だがあいにくと、ここからでは死角になっていて見えない。
 単なる乗船券のようなものなのかもしれない。
 あいにくと、ここからではそれが何なのかは分からない。
 乗客達が全員船に乗り込むのを確認した船長らしき男は、辺りを見渡すといそいそと船に戻って行った。
 そして、船は慌ただしく出港して行った。

 高橋:「どうします?もう帰りますか?」
 愛原:「いや。船影が見えなくなるまで待っていよう」

 私は地図を広げて、船の向かった方向を確認した。
 金華山周辺には、離島がいくつか浮かんでいる。
 その中にはちゃんと住民がいて、ここからそういった住民達の足であるフェリーも出ている。
 地図で見る限り、金華山やその周辺の離島方面に向かったようだ。

 愛原:「よし。あの船着き場に向かってみよう」
 高橋:「分かりました」

 高橋はエンジンを掛けた。
 そして、ビジターセンターを出ると、そこを大回りして漁港の道に出た。
 昨日リサ・トレヴァー『220番』が現れた、陸揚げされている捕鯨船の近くまで行く。

 愛原:「リサ。近くにBOWの気配は?」
 リサ:「無い」
 愛原:「よし」

 私達は車を降りた。
 さっきの乗客達のいた場所に、何かが落ちていないか探した。
 ここでゲームやアニメ、マンガなら都合良く何か落ちていたりするものであるが、あいにくとこの小説ではそんなことは無かった。

 愛原:「……収穫無しか」

 私もさっきの船長と同様、周囲を見渡してみる。
 さっき車を止めた駐車場が目上にあるが、船長や乗客達に気づかれた感じはしなかった。

 愛原:「よし。宿に戻ろう」

 私達は車に戻った。
 そして、民宿に戻った。
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