報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「愛原事務所のクリスマス」 1

2021-01-14 20:09:21 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月24日10:00.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は善場主任と打ち合わせをしに、デイライトの事務所までやってきた。

 善場:「10日ほど前、愛原所長方が調査された栃木県の旧アンブレラ施設のことですが……」

 あの調査から10日が過ぎた。
 結局、あのガスマスクの正体については分からぬままだ。
 しかし後に報告書を斉藤社長の所に持って行った時、社長から思わぬ事を言われた。
 あの合宿所にいた管理人が、実は斉藤社長が高校生だった頃、科学教師として出入りしていた日本アンブレラの元研究員だったことを……。
 その元研究員、名前を白井伝三郎と名乗ったが、私達が調査を終了してすぐに嘱託契約を解除し、雲隠れしてしまったそうである。
 しかも、管理人室にはあのガスマスクが置かれており、白井元研究員がガスマスクの男と何らかの関係があることは明らかだった(一瞬本人かとも思うが、背格好がやや違う)。

 善場:「ガスマスクと言えば、2000年代半ば頃に名を轟かせた宗教テロ組織、ヴェルトロをイメージさせます。実はヴェルトロは完全には崩壊しておらず、たまたま現場(地中海)以外の所にいて諜報活動をしていたり、テロ準備活動をしていた一部の構成員は生き残っていると言われています。その構成員の可能性はあります」
 愛原:「しかし、ヴェルトロはヨーロッパのテロ組織ですよね?構成員もそこの人間だと考えると、随分と流暢な日本語を喋っていたように思えますが……?」
 善場:「諜報要員はバイリンガルです。中には日本語を流暢に喋る者もいたでしょう。また、ヴェルトロには日系人も含まれていたとされ、彼らはアジア諸国での諜報要員として活動していたようです」
 愛原:「そんなのと遭遇しちゃったのかぁ……。何か面倒なことになってきたなぁ……」
 善場:「その面倒事はプロの私達にお任せください。愛原所長方は、私共に情報を提供して頂けるだけで十分です」
 愛原:「まあ、私達も民間人ですからねぇ……」
 善場:「でも、本当に所長方の情報提供は大助かりですよ。旧アンブレラと旧ヴェルトロの構成員同士が手を組んで、何かを企んでいるということが分かりましたから」
 愛原:「なるほど……」
 善場:「情報提供、感謝致します」
 愛原:「いえいえ。……ねぇ、善場さん」
 善場:「何ですか?」
 愛原:「これからもこうして協力させて頂きますから、どうか高野君には手心を加えて頂けないでしょうかね?」
 善場:「手心も何も、それは彼女本人の意思次第ですから。いくら愛原所長がこちらに御協力して頂いたところで、当の本人の正直な証言が無ければ、それはやはり心証は悪いままですから」

 善場主任の言によれば、高野君はまだ何か知っているはずだという。
 しかし、それを証言しようとしない。
 それが無ければ反省が足りないとされ、高野君は実刑を食らうことになるだろうとのこと。
 私としては、何とか執行猶予になってもらって出て来てもらたいたいところだが……。
 彼女は他の旧アンブレラ関係者と違って、一般人を傷つけていない。
 それは彼女に対する逮捕要件が物語っている。
 弁護士も、彼女は組織の命令に従っただけであり、鉄砲を無許可で所持して、無許可で発砲しただけであり、それで一般人を撃ったりはしていないので悪質ではないという方向に持って行くようだ。
 尚、霧生市内におけるバイオハザード事件に巻き込まれた人達は、全員が無条件で緊急避難並びに正当防衛を認めると政府が発表したので、それに関しては赦免だ。
 そうしてもらわないと、私もゾンビを撃ち殺した廉で逮捕されてしまう。

 愛原:「ゾンビを撃ち殺した場合、殺人罪になるのか否かで、そこからモメたりしてね」
 善場:「今さらそんなことはないですよ。政府がバイオハザード事件に巻き込まれた場合、そこで感染者やクリーチャーと戦って殺してしまった場合は、緊急避難を認める傾向がありますから」

 正当防衛ではなく、今では緊急避難となっている。
 当初、人間のゾンビは人間が生きたままそうなっているから、殺せば殺人罪になるという解釈がされていた。
 しかし、その時は『正当防衛』が成立するともされている。
 だが、後にゾンビは『医学的には死んでいる状態なので、それが歩く活性死者である』となり、犯罪としての名前は殺人罪ではなく、死体損壊罪になるという解釈に変えられた。
 で、その攻撃から逃れる為に止む無く……という場合は『緊急避難』になるということになった。
 実は日本では『正当防衛』は、なかなか認められない。
 加害者の人権も手厚く保護されるからだ。
 しかし、『緊急避難』というのは意外とあっさり認められるのである。
 それは攻撃してくる相手が人間ではなく、そこから逃れる為に止む無く……という案件であり、つまり相手には手厚く保護すべき人権が存在しないからである。
 つまり、ゾンビには人権は無いと公式に認められたというわけである。

 愛原:「日本だとこじれそうな案件ですね。欧米だとあっさりだろうに……」
 善場:「それだけ日本は、私権第一主義ということですね。それに阻まれて、新型コロナウィルス対策のカードの1つでもある『ロックダウン』は使えないのですから」
 愛原:「いや、全くです。しかしこれでは、善場主任もお忙しいでしょうね」
 善場:「忙しいですよ。果たして年末、ちゃんと仕事納めができるかどうかといったところです」
 愛原:「大変ですね。今日はクリスマス・イブだというのに……」
 善場:「あら?所長方はクリスマスパーティーでもされるんですか?」
 愛原:「家で、ささやかなものです。コロナが怖いので、さすがに今年は斉藤社長の御宅に招かれて……ということは無いです」
 善場:「でしょうね。その方が宜しいかと思います」
 愛原:「取りあえず3人分のケーキでも購入して、あとはピザとかフライドチキンでも頼みますかといったところです」
 善場:「リサは喜びそうですね。あとは、クリスマスプレゼントですよ」
 愛原:「クリスマスプレゼントねぇ……。今さら、サンタクロースを信じる歳でも無いですよ。中学3年生にもなって」
 善場:「別に、夜中にこっそり置いておく必要は無いじゃないですか。そのクリスマスパーティーの時、普通に渡せばいいのですよ」
 愛原:「なるほど」
 善場:「因みに、これは私からリサへのクリスマスプレゼントです」
 愛原:「えっ、リサに!?」
 善場:「はい。元リサ・トレヴァー『0番』として、『2番』のリサに」
 愛原:「あ、ありがとうございます。お預かり致します。……因みに中身は……?」
 善場:「図書カードですよ。これで本を買って読んで、より人間としての知性を維持してくださいという意味ですね。いくら人間に戻れる手段が分かっても、その時点で化け物になっていては元も子もありませんから」
 愛原:「確かに。では、必ずリサに渡しておきます」
 善場:「よろしくお願いします」

 私達は打ち合わせを済ませると、事務所をあとにした。
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“私立探偵 愛原学” 「深夜の到着そして早朝の出発」

2021-01-14 15:35:50 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月13日23:57.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 JR大宮駅]

〔まもなく終点、大宮、大宮。お出口は、右側です。川越線、高崎線、京浜東北線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が空いている所がありますので、足元にご注意ください。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 私達を乗せた宇都宮線最終電車は無事に大宮駅に接近した。

 愛原:「皆、そろそろ降りるぞ」

 夜の上り電車はガラガラである。
 その中において、狭いボックスシートに向かい合って座る私達。
 あいにくと、宇都宮駅で食べ物を手に入れることはできなかった。
 私達は自販機で売っていたコーンスープなどで誤魔化したが、リサは誤魔化せなかった。

 高橋:「はい」
 リサ:「お腹空いた……」
 愛原:「今度は何か食べ物持ってこないとな。頑張れるか?」
 リサ:「サイトーが夜食作って待ってくれてるらしいから、それまで頑張る」
 愛原:「そうか。偉いぞ」
 リサ:「夜食が無かったら暴れる」

 斉藤家でバイオハザードを引き起こす気か!

 高橋:「先生、駅からタクシーですか?」
 愛原:「いや、新庄さんが迎えに来てくれているらしい」
 高橋:「さすが先生!VIPっスね!」
 愛原:「いや、そうでもないと思うけど……」

 電車が宇都宮線上りホームに到着する。
 ここからもう、今日は上野方面に行く電車は無い。
 電車から降りると、駅の放送は終電の案内で忙しかった。
 この時点でもう終電の終わっている路線もあるので、その旨の案内と、まだ終電の残っている路線の案内だろう。
 私達が電車を降りてすぐに、東京都心まで行く京浜東北線の最終電車が発車していった。
 この後は、もう赤羽止まりしかない。
 その為、今日はもう私達は帰れないのである。
 斉藤社長もそれを理解してくれて、今夜は泊まらせて頂くことになったのだ。
 コンコースに上がって、改札口を出る。

 リサ:「どっち!?」
 愛原:「西口だ。あんまり先に行くなよ」

 リサのヤツ、ようやく食事に在りつけると分かったら元気になって……。

 新庄:「お疲れ様です。お迎えに上がりました」

 西口の車寄せに行くと、運転手の新庄氏が迎えに来ていた。

 新庄:「さあ、どうぞ。お乗りください」

 そう言って、助手席後ろのドアを開ける。
 見た目はロールスロイスに似ているが、実際は光岡・ガリューである。
 人数が多いと、エルグランドで迎えに来ることもある。
 私達は後ろに乗った。

 新庄:「それでは出発致します」

 新庄氏は運転席に乗り込むと、深夜の大宮駅を出発した。

[12月14日01:00.天候:晴 同市中央区 斉藤家3F斉藤絵恋の部屋]
(この項だけリサの視点です)

 斉藤絵恋:「り……リサさぁん……デヘヘヘヘ……、萌えへへへへへへ……」

 夜食と入浴を済ませたリサが絵恋の部屋に行くと、既に絵恋はダブルベッドで寝落ちしていて、リサと(恐らく違う意味で)仲良くしている夢を見ているようだった。

 リサ:(気持ち悪い……。やっぱり私、先生の部屋で寝ようかな……)

[同日06:00.天候:晴 斉藤家]
(ここから愛原視点に戻ります)

 私は朝起きて、洗面所で顔を洗っていた。
 寝巻の浴衣を借りられて、本当に至れり尽くせりだ。
 今日はリサ達の学校があるので、早めに家を出なければならない。

 斉藤秀樹:「愛原さん、おはようございます」
 愛原:「あ、斉藤社長、おはようございます」

 まだ寝間着姿の斉藤社長が来た。

 愛原:「どうもお世話になりました」
 秀樹:「いえいえ。ただの調査だったはずが、想定外のことに巻き込まれてしまったようで、大変ご苦労様でした」
 愛原:「報告書は後程……」
 秀樹:「ええ。後でメールで送って頂ければ結構です。どうでしたか?」
 愛原:「アンブレラの地下施設、生きてましたよ。後半、変なガスマスクを被ったアンブレラ関係者に襲われましたし……」
 秀樹:「ガスマスクを被ったアンブレラ?誰ですか、それは?」
 愛原:「名前は名乗っていませんでした。ただ、“赤いアンブレラ”の者だと言っていましたが……」
 秀樹:「フム……。五十嵐元社長らが逮捕されても、まだ残党は生き残っているのか……」

 “赤いアンブレラ”に未だ残っている者は贖罪意識など無く、胡散臭いものの、一応の贖罪意識を持って活動している“青いアンブレラ”の関係者達よりもタチ悪なのは言うまでもない。
 尚、日本アンブレラの元社長親子はケガが回復したので、警察に逮捕された。
 カルロス・ゴーンがやらかしてくれたおかげで、保釈請求も却下された。
 いやまあ、ゴーンは関係無いだろうが、海外に目を向けて見れば、元アンブレラ幹部で逮捕された者の大半はその後、逃亡劇を繰り広げているので、こういった前例を見れば、五十嵐元社長の保釈など認められなくて当然だろう。
 日本の司法が前例主義で良かったと思える面である。

 新庄:「おはようございます。愛原様、まもなく出発のお時間ですので……」
 愛原:「あ、分かりました」
 秀樹:「帰りの交通手段につきましては、娘にキップなどを渡しておりますので、愛原さん達は何も心配なさらなくて結構です」
 愛原:「ありがとうございます」

 恐らくは、新幹線とタクシーといったところか。
 1度家に帰って、それから学校へ向かうという感じになりそうだ。

 私達は出発の準備を整えた。
 新庄氏は今度はエルグランドを用意している。

 愛原:「それでは社長、ありがとうございました」
 秀樹:「お気をつけて。絵恋も気をつけて」
 絵恋:「行って来ます」

 出発直前、私の言った言葉に斉藤社長は絶句した。

 愛原:「あ、社長。日光の合宿所の管理人さん、白井伝三郎さんと言いましたか。よろしくお伝えください」
 秀樹:「白井……?伝三郎!?」

 何故か社長は驚いた顔をした。
 が……。

 絵恋:「新庄、新幹線に乗り遅れちゃうわ。急いで出して」
 新庄:「かしこまりました。出発します」
 秀樹:「ちょっと愛原さん、その白井って者は……!」
 絵恋:「お父さん!後にして!遅れるでしょ!」

 絵恋さんの強い主張により、車は強制的に出発した。

 愛原:「どうして社長はあんなに驚いたんだろう?」
 絵恋:「知りませんよ。お仕事の話なら、また後にしてください」
 高橋:「てか、中学生の癖に新幹線通学かよ。贅沢だな~」
 絵恋:「今日だけ特別よ。いつもなら、もうとっくに東京のマンションに帰ってるんだから」

[同日06:20.天候:晴 斉藤家]
(ここだけ三人称です)

 愛原達の車を見送った秀樹は呆然とした様子になっていた。

 秀樹:(バカな……。白井伝三郎だと?その名前……愛原さんは忘れているのか?……私が高校生の時、科学教師として学校に派遣されていた日本アンブレラの研究員だぞ?忘れもしない……)

 斉藤秀樹も東京中央学園のOB。
 当時、高等部にて科学の教師をしていた白井には黒い噂が絶えなかった。
 実際、秀樹も現役生だった時、当時の先輩から、白井に捕まって非人道的な人体実験を受けた友人の話を聞いたことがある。
 確か、その話を愛原にもしたはずだが、恐らく忘れているのだろう。

 秀樹:(調査は……続行だな)

 秀樹は家に戻りがてら、自分のスマホでどこかに連絡を始めた。
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