[12月24日10:00.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は善場主任と打ち合わせをしに、デイライトの事務所までやってきた。
善場:「10日ほど前、愛原所長方が調査された栃木県の旧アンブレラ施設のことですが……」
あの調査から10日が過ぎた。
結局、あのガスマスクの正体については分からぬままだ。
しかし後に報告書を斉藤社長の所に持って行った時、社長から思わぬ事を言われた。
あの合宿所にいた管理人が、実は斉藤社長が高校生だった頃、科学教師として出入りしていた日本アンブレラの元研究員だったことを……。
その元研究員、名前を白井伝三郎と名乗ったが、私達が調査を終了してすぐに嘱託契約を解除し、雲隠れしてしまったそうである。
しかも、管理人室にはあのガスマスクが置かれており、白井元研究員がガスマスクの男と何らかの関係があることは明らかだった(一瞬本人かとも思うが、背格好がやや違う)。
善場:「ガスマスクと言えば、2000年代半ば頃に名を轟かせた宗教テロ組織、ヴェルトロをイメージさせます。実はヴェルトロは完全には崩壊しておらず、たまたま現場(地中海)以外の所にいて諜報活動をしていたり、テロ準備活動をしていた一部の構成員は生き残っていると言われています。その構成員の可能性はあります」
愛原:「しかし、ヴェルトロはヨーロッパのテロ組織ですよね?構成員もそこの人間だと考えると、随分と流暢な日本語を喋っていたように思えますが……?」
善場:「諜報要員はバイリンガルです。中には日本語を流暢に喋る者もいたでしょう。また、ヴェルトロには日系人も含まれていたとされ、彼らはアジア諸国での諜報要員として活動していたようです」
愛原:「そんなのと遭遇しちゃったのかぁ……。何か面倒なことになってきたなぁ……」
善場:「その面倒事はプロの私達にお任せください。愛原所長方は、私共に情報を提供して頂けるだけで十分です」
愛原:「まあ、私達も民間人ですからねぇ……」
善場:「でも、本当に所長方の情報提供は大助かりですよ。旧アンブレラと旧ヴェルトロの構成員同士が手を組んで、何かを企んでいるということが分かりましたから」
愛原:「なるほど……」
善場:「情報提供、感謝致します」
愛原:「いえいえ。……ねぇ、善場さん」
善場:「何ですか?」
愛原:「これからもこうして協力させて頂きますから、どうか高野君には手心を加えて頂けないでしょうかね?」
善場:「手心も何も、それは彼女本人の意思次第ですから。いくら愛原所長がこちらに御協力して頂いたところで、当の本人の正直な証言が無ければ、それはやはり心証は悪いままですから」
善場主任の言によれば、高野君はまだ何か知っているはずだという。
しかし、それを証言しようとしない。
それが無ければ反省が足りないとされ、高野君は実刑を食らうことになるだろうとのこと。
私としては、何とか執行猶予になってもらって出て来てもらたいたいところだが……。
彼女は他の旧アンブレラ関係者と違って、一般人を傷つけていない。
それは彼女に対する逮捕要件が物語っている。
弁護士も、彼女は組織の命令に従っただけであり、鉄砲を無許可で所持して、無許可で発砲しただけであり、それで一般人を撃ったりはしていないので悪質ではないという方向に持って行くようだ。
尚、霧生市内におけるバイオハザード事件に巻き込まれた人達は、全員が無条件で緊急避難並びに正当防衛を認めると政府が発表したので、それに関しては赦免だ。
そうしてもらわないと、私もゾンビを撃ち殺した廉で逮捕されてしまう。
愛原:「ゾンビを撃ち殺した場合、殺人罪になるのか否かで、そこからモメたりしてね」
善場:「今さらそんなことはないですよ。政府がバイオハザード事件に巻き込まれた場合、そこで感染者やクリーチャーと戦って殺してしまった場合は、緊急避難を認める傾向がありますから」
正当防衛ではなく、今では緊急避難となっている。
当初、人間のゾンビは人間が生きたままそうなっているから、殺せば殺人罪になるという解釈がされていた。
しかし、その時は『正当防衛』が成立するともされている。
だが、後にゾンビは『医学的には死んでいる状態なので、それが歩く活性死者である』となり、犯罪としての名前は殺人罪ではなく、死体損壊罪になるという解釈に変えられた。
で、その攻撃から逃れる為に止む無く……という場合は『緊急避難』になるということになった。
実は日本では『正当防衛』は、なかなか認められない。
加害者の人権も手厚く保護されるからだ。
しかし、『緊急避難』というのは意外とあっさり認められるのである。
それは攻撃してくる相手が人間ではなく、そこから逃れる為に止む無く……という案件であり、つまり相手には手厚く保護すべき人権が存在しないからである。
つまり、ゾンビには人権は無いと公式に認められたというわけである。
愛原:「日本だとこじれそうな案件ですね。欧米だとあっさりだろうに……」
善場:「それだけ日本は、私権第一主義ということですね。それに阻まれて、新型コロナウィルス対策のカードの1つでもある『ロックダウン』は使えないのですから」
愛原:「いや、全くです。しかしこれでは、善場主任もお忙しいでしょうね」
善場:「忙しいですよ。果たして年末、ちゃんと仕事納めができるかどうかといったところです」
愛原:「大変ですね。今日はクリスマス・イブだというのに……」
善場:「あら?所長方はクリスマスパーティーでもされるんですか?」
愛原:「家で、ささやかなものです。コロナが怖いので、さすがに今年は斉藤社長の御宅に招かれて……ということは無いです」
善場:「でしょうね。その方が宜しいかと思います」
愛原:「取りあえず3人分のケーキでも購入して、あとはピザとかフライドチキンでも頼みますかといったところです」
善場:「リサは喜びそうですね。あとは、クリスマスプレゼントですよ」
愛原:「クリスマスプレゼントねぇ……。今さら、サンタクロースを信じる歳でも無いですよ。中学3年生にもなって」
善場:「別に、夜中にこっそり置いておく必要は無いじゃないですか。そのクリスマスパーティーの時、普通に渡せばいいのですよ」
愛原:「なるほど」
善場:「因みに、これは私からリサへのクリスマスプレゼントです」
愛原:「えっ、リサに!?」
善場:「はい。元リサ・トレヴァー『0番』として、『2番』のリサに」
愛原:「あ、ありがとうございます。お預かり致します。……因みに中身は……?」
善場:「図書カードですよ。これで本を買って読んで、より人間としての知性を維持してくださいという意味ですね。いくら人間に戻れる手段が分かっても、その時点で化け物になっていては元も子もありませんから」
愛原:「確かに。では、必ずリサに渡しておきます」
善場:「よろしくお願いします」
私達は打ち合わせを済ませると、事務所をあとにした。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は善場主任と打ち合わせをしに、デイライトの事務所までやってきた。
善場:「10日ほど前、愛原所長方が調査された栃木県の旧アンブレラ施設のことですが……」
あの調査から10日が過ぎた。
結局、あのガスマスクの正体については分からぬままだ。
しかし後に報告書を斉藤社長の所に持って行った時、社長から思わぬ事を言われた。
あの合宿所にいた管理人が、実は斉藤社長が高校生だった頃、科学教師として出入りしていた日本アンブレラの元研究員だったことを……。
その元研究員、名前を白井伝三郎と名乗ったが、私達が調査を終了してすぐに嘱託契約を解除し、雲隠れしてしまったそうである。
しかも、管理人室にはあのガスマスクが置かれており、白井元研究員がガスマスクの男と何らかの関係があることは明らかだった(一瞬本人かとも思うが、背格好がやや違う)。
善場:「ガスマスクと言えば、2000年代半ば頃に名を轟かせた宗教テロ組織、ヴェルトロをイメージさせます。実はヴェルトロは完全には崩壊しておらず、たまたま現場(地中海)以外の所にいて諜報活動をしていたり、テロ準備活動をしていた一部の構成員は生き残っていると言われています。その構成員の可能性はあります」
愛原:「しかし、ヴェルトロはヨーロッパのテロ組織ですよね?構成員もそこの人間だと考えると、随分と流暢な日本語を喋っていたように思えますが……?」
善場:「諜報要員はバイリンガルです。中には日本語を流暢に喋る者もいたでしょう。また、ヴェルトロには日系人も含まれていたとされ、彼らはアジア諸国での諜報要員として活動していたようです」
愛原:「そんなのと遭遇しちゃったのかぁ……。何か面倒なことになってきたなぁ……」
善場:「その面倒事はプロの私達にお任せください。愛原所長方は、私共に情報を提供して頂けるだけで十分です」
愛原:「まあ、私達も民間人ですからねぇ……」
善場:「でも、本当に所長方の情報提供は大助かりですよ。旧アンブレラと旧ヴェルトロの構成員同士が手を組んで、何かを企んでいるということが分かりましたから」
愛原:「なるほど……」
善場:「情報提供、感謝致します」
愛原:「いえいえ。……ねぇ、善場さん」
善場:「何ですか?」
愛原:「これからもこうして協力させて頂きますから、どうか高野君には手心を加えて頂けないでしょうかね?」
善場:「手心も何も、それは彼女本人の意思次第ですから。いくら愛原所長がこちらに御協力して頂いたところで、当の本人の正直な証言が無ければ、それはやはり心証は悪いままですから」
善場主任の言によれば、高野君はまだ何か知っているはずだという。
しかし、それを証言しようとしない。
それが無ければ反省が足りないとされ、高野君は実刑を食らうことになるだろうとのこと。
私としては、何とか執行猶予になってもらって出て来てもらたいたいところだが……。
彼女は他の旧アンブレラ関係者と違って、一般人を傷つけていない。
それは彼女に対する逮捕要件が物語っている。
弁護士も、彼女は組織の命令に従っただけであり、鉄砲を無許可で所持して、無許可で発砲しただけであり、それで一般人を撃ったりはしていないので悪質ではないという方向に持って行くようだ。
尚、霧生市内におけるバイオハザード事件に巻き込まれた人達は、全員が無条件で緊急避難並びに正当防衛を認めると政府が発表したので、それに関しては赦免だ。
そうしてもらわないと、私もゾンビを撃ち殺した廉で逮捕されてしまう。
愛原:「ゾンビを撃ち殺した場合、殺人罪になるのか否かで、そこからモメたりしてね」
善場:「今さらそんなことはないですよ。政府がバイオハザード事件に巻き込まれた場合、そこで感染者やクリーチャーと戦って殺してしまった場合は、緊急避難を認める傾向がありますから」
正当防衛ではなく、今では緊急避難となっている。
当初、人間のゾンビは人間が生きたままそうなっているから、殺せば殺人罪になるという解釈がされていた。
しかし、その時は『正当防衛』が成立するともされている。
だが、後にゾンビは『医学的には死んでいる状態なので、それが歩く活性死者である』となり、犯罪としての名前は殺人罪ではなく、死体損壊罪になるという解釈に変えられた。
で、その攻撃から逃れる為に止む無く……という場合は『緊急避難』になるということになった。
実は日本では『正当防衛』は、なかなか認められない。
加害者の人権も手厚く保護されるからだ。
しかし、『緊急避難』というのは意外とあっさり認められるのである。
それは攻撃してくる相手が人間ではなく、そこから逃れる為に止む無く……という案件であり、つまり相手には手厚く保護すべき人権が存在しないからである。
つまり、ゾンビには人権は無いと公式に認められたというわけである。
愛原:「日本だとこじれそうな案件ですね。欧米だとあっさりだろうに……」
善場:「それだけ日本は、私権第一主義ということですね。それに阻まれて、新型コロナウィルス対策のカードの1つでもある『ロックダウン』は使えないのですから」
愛原:「いや、全くです。しかしこれでは、善場主任もお忙しいでしょうね」
善場:「忙しいですよ。果たして年末、ちゃんと仕事納めができるかどうかといったところです」
愛原:「大変ですね。今日はクリスマス・イブだというのに……」
善場:「あら?所長方はクリスマスパーティーでもされるんですか?」
愛原:「家で、ささやかなものです。コロナが怖いので、さすがに今年は斉藤社長の御宅に招かれて……ということは無いです」
善場:「でしょうね。その方が宜しいかと思います」
愛原:「取りあえず3人分のケーキでも購入して、あとはピザとかフライドチキンでも頼みますかといったところです」
善場:「リサは喜びそうですね。あとは、クリスマスプレゼントですよ」
愛原:「クリスマスプレゼントねぇ……。今さら、サンタクロースを信じる歳でも無いですよ。中学3年生にもなって」
善場:「別に、夜中にこっそり置いておく必要は無いじゃないですか。そのクリスマスパーティーの時、普通に渡せばいいのですよ」
愛原:「なるほど」
善場:「因みに、これは私からリサへのクリスマスプレゼントです」
愛原:「えっ、リサに!?」
善場:「はい。元リサ・トレヴァー『0番』として、『2番』のリサに」
愛原:「あ、ありがとうございます。お預かり致します。……因みに中身は……?」
善場:「図書カードですよ。これで本を買って読んで、より人間としての知性を維持してくださいという意味ですね。いくら人間に戻れる手段が分かっても、その時点で化け物になっていては元も子もありませんから」
愛原:「確かに。では、必ずリサに渡しておきます」
善場:「よろしくお願いします」
私達は打ち合わせを済ませると、事務所をあとにした。