Cape Fear、in JAPAN

ひとの襟首つかんで「読め!」という、映画偏愛家のサイト。

『Cape Fear』…恐怖の岬、の意。

にっぽん男優列伝(184)笹野高史

2013-03-21 00:15:00 | コラム
48年6月22日生まれ・現在64歳。
兵庫出身。

公式プロフィール


若いころのはずの出演作を観ても、やっぱりおじいちゃん、あるいはおじさんを演じている―と一部で評されたのは笠智衆ですが、
自分にとっては笹野高史(ささの・たかし)さんも、そんな不思議な俳優さんにあたります。

映画での活動は80年代前半から。
ということは30代後半ですが、役柄だってそのくらいの年齢設定だったはずなのに、そうは見えませんでした。
ややオーバーかもしれませんが・・・皺の数のちがいはあるものの、現在と比べて、あまり歳を取っていない、つまりずっと同じ顔のまま30年間くらい俳優をやっているように見えるのです。

老けていただけかもしれませんけれど、なんかすごいことのように思います。

山田洋次の映画で名前と顔を覚えたひとが多いかもしれません、
個人的に「その膨大な映画出演作」のなかから印象に残るものを挙げるとするならば、『パッチギ!』(2005)の伯父役、それから『寝ずの番』(2006)あたりでしょうか。






<経歴>

俳優を志し、日大芸術学部映画学科に入学。
在学中に自由劇場へ入団、大学を辞め82年まで同劇団で俳優としてキャリアを積んでいく。

映画俳優デビュー作は、83年の『竜二』。
今なお信奉者の多い金子正次の主演作であり、笹野さんは酒屋の店員役として「ほんのちょっと」顔を出しています。
この「ほんのちょっと」こそ笹野さんのこだわりで、有名になった現在でも「ほんのちょっと」顔を出すことが多いのですね。
「ちょっとしか出ない」と決めているわけではありませんが、「ちょっとしたキャラクターにも人生がある」という哲学のもと、渡された台本に「そのキャラクターの履歴書、のようなもの」を記すことから、それを知った監督たちに敢えて「ちょっとしたキャラクター」をオファーされること―が、あるのかもしれません。

『麻雀放浪記』(84)、『悲しい気分でジョーク』(85)。

85年―『男はつらいよ 柴又より愛をこめて』の好演が評価され、山田洋次のお気に入りに。
以降、95年の『寅次郎紅の花』まで寅さん映画のレギュラーを務めますが、面白いのは、そのすべてがちがうキャラクターだったということ。

『幸福の青い鳥』(86)では市役所の職員、『知床慕情』(87)では大家、『寅次郎物語』(87)では旅館の主人、『寅次郎サラダ記念日』(88)では泥棒ですし、
車掌役の『寅次郎心の旅路』(89)、ホモを演じた『ぼくの伯父さん』(89)、
『寅次郎の休日』(90)、『寅次郎の告白』(91)、『寅次郎の縁談』(93)でも初登場のキャラクターを演じる・・・って、このシリーズでは唯一の「別々のキャラクターを演じる常連」俳優さんですよね。

山田監督のお気に入り度は「超」がつくほどで、『キネマの天地』(86)、
さらには『釣りバカ日誌シリーズ』(88~)で前原運転手役に起用、ファイナルにあたる20作目(2009)まで連続出演を果たしています。


(あまりにも出演作多数のため)すべてを記すことはしませんが、代表的な作品をざざっと。
こう見ると、とくにゼロ年代後半が凄まじいですね。
さらにテレビドラマや舞台も加わるわけで、「ほんのちょっと」とはいえ、じつにパワフルです。


88年…『ぼくらの七日間戦争』『異人たちとの夏』『真夜中の河』
89年…『北京的西瓜』

90年…『飛ぶ夢をしばらく見ない』
93年…『学校』
95年…『マークスの山』『学校の怪談』
96年…『岸和田少年愚連隊』
98年…『のど自慢』『39 刑法第三十九条』

2001年…『柔らかな頬』『少女 an adolescent』
2003年…『アカルイミライ』『ばかのハコ船』
2004年…『半落ち』『隠し剣 鬼の爪』
2005年…『パッチギ!』
2006年…『寝ずの番』『地下鉄に乗って』『武士の一分』
2007年…『犯人に告ぐ』『転々』『魍魎の匣』
2008年…『母べえ』『歓喜の歌』『犬と私の10の約束』『神様のパズル』『百万円と苦虫女』『おくりびと』『次郎長三国志』『イキガミ』『ハッピーフライト』
2009年…『旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ』『インスタント沼』『劒岳 点の記』『ディア・ドクター』
2010年…『おとうと』『シュアリー・サムデイ』

2011年…『わさお』『漫才ギャング』『プリンセス・トヨトミ』『小川の辺』『一命』『CUT』
2012年…『僕達急行 A列車で行こう』『テルマエ・ロマエ』『天地明察』『綱引いちゃった!』


現時点での最新作は、『渾身 KON-SHIN』。


こういう職人さんが正当に評価されるうちは、世の中大丈夫だ―なんかエラソーに、そんな風に思うわけです。

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映画三ヶ月予報

2013-03-20 00:15:00 | コラム
・・・というか、13年度「これまでの」3ヶ月と、「これからの」3ヶ月の話、、、というだけのことだけれども。


今年も鮮度抜群の「生きがいい」傑作映画と、完全に賞味期限の切れているクソ映画が、ともに産声をあげている。

前者だけ生まれるというのが理想―と思われがちだが、後者だって存在する価値があり、、、とは記してはみたものの、ほんとうだろうか? なんて自信がなかったり。

いや、やっぱり「ある」んだと思う。
いかに素晴らしいかを語るためには、いかにダメなのかも語らなければなるまい。

クソ映画がクソであるほどに、傑作に出会った瞬間の感動も大きくなる・・・にちがいない。たぶん。


某日。
『ダイハード』の最新作に触れる。

あまりにもひどくて、かえって感心した。
怒りがこみ上げてこなかったのは、最初から期待していなかったから・・・なのだろう。

主演のブルース・ウィリスは作品選びがなかなかに達者で、脚本にもアレコレいいそうな感じがするのに、自分をトップスターの座に引き上げたこのシリーズにはなにもいわないのだろうか、、、と疑問に思った。

某日。
日本映画『プラチナデータ』を先行で観る。

既に一般公開もされているが、先行試写では関係者が居るというのに途中で席を立つひとがちらほらと。
じつは自分も立ちたかったが、「次のシーンで面白くなるかもしれない」という淡い期待を抱き続けて我慢した。

そう、この映画を最後まで観るには我慢が要る。
ときどき出てくる水原希子のおかげで、眠らずに済んだ―そんな映画だった。


この3ヶ月間に出現した洋邦それぞれのワースト・トップは上記のとおり。
これらの映画に罪があるとすれば、「前評判も悪いのに客が入っている」というところだろう。

自分の推す映画は基本的に客が入らない。
入らないからこそ応援しているというのもあるが、こんなに面白いのになぜ入らない? と思う作品だってある。

日本映画、『横道世之介』。
オスカー監督賞を取ったのに、それが観客増に結びつかなかった『ライフ・オブ・パイ』。

西部劇で敬遠されたか、QTの『ジャンゴ』もいまひとつである。

『世界にひとつのプレイブック』は、地味な創りながら入っているほうだろうか。

Perfume目当てで観に行った『ドラえもん』は、さすがに入っていたけれど。


ここからは、「まぁ、入らないだろうな」と思っていて、実際もそうだったという作品。

ビン・ラディーン殺害を描く『ゼロ・ダーク・サーティ』。
究極の実録を目指したキャスリーン・ビグローはえらいが、鑑賞するには体力の要る映画だった。

いっつも底意地の悪い結末を持ってくるハネケ監督が、老いと病を描く『愛、アムール』。
間違いなく13年度を代表する名画であり、もっと多くのひとに触れてほしいのだが。

子どもの駆け落ちを描きつつ、別次元への到達を目指すウェス・アンダーソンの『ムーンライズ・キングダム』も、
3Dを哲学した『フラッシュバックメモリーズ 3D』も、初日から数日間はともかく、動員数を維持することは出来なかった。


現時点でのマイベストは、まもなく公開される『ザ・マスター』(トップ画像)。

デビュー当時は「ポスト・スコセッシ」あるいは「ポスト・アルトマン」などと評されたPTAことポール・トーマス・アンダーソンだが、
本人にはそういう自覚がないようで、
というか、このひとは「10年くらい先」を見ており、いよいよ「向こう側」へと歩み始めた。

どんな話かと問われてもうまく答えられないし、この映画に関しては可能なかぎり情報をシャットアウトしたほうが「映画を観た!」という大きな感動を味わえると思う。

しかしながら、たぶん入らないのだろうな・・・という予想は出来る。
出来るからこそ、少しでも入ってほしい―という願いから、ぜひぜひ! と推してみたくなるのだった。


・・・って、あれ、これから公開の映画を1本しか紹介しないとなると、ぜんぜん「3ヶ月予報」ではないのだが、
『ザ・マスター』がどうしてもヒットしてほしいので、敢えてこの作品だけを推すことにしておこう。





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39歳 VS 15歳、運動神経で前者が勝つこともあるのだよ。

2013-03-19 00:15:00 | コラム
現役「男子」大学生と遊ぶ、、、というか、彼らと1日をともに過ごす機会があった。

遊んでいるようにしか見られないが、これも仕事である。

仕事柄、「女子」大生と話す機会は多い。
いや見栄を張っているのではなく、現役女子大生AV嬢っていうのが居るからね、なぜ出演するのかとか親バレの心配はないのかとか、しょっちゅうインタビューしているのだった。

そんなに多いのかって?

イエス。
この業界知らないひとにはいつも驚かれるけれど、異様に多いんです異様に。
世も末だと国を憂うひとも居るが、いつの間にかこの仕事も立派な選択肢のひとつになっているのだった。


話を戻して。
「男子」の大学生と話す機会は、ほとんどない。
自分が所属する道場に数人居て、彼らと話すくらい。

まぁノリはいいほう? なので、彼らについていける自信はあった。

しかし午前中はバスケ、昼飯はマックで馬鹿騒ぎ、午後はバレーとカラオケ、晩飯は居酒屋、そのあとダーツで馬鹿騒ぎ・・・って、カロリー無駄に使い過ぎじゃね? と、さすがに思ったわけで。

つーか勉強はどうしたんだ?
体育大学でもないのに身体ばっか動かして、本は読まないし映画は観ないしで、ゲージツに触れんのか、ゲージツに? と。

「映画は?」
「・・・まぁ、たまに、タブレットとかで観ますよ」
「映画館には行かんの?」
「行かないですねぇ」

「本は読まんの?」
「年に1度くらいなら読みますよ」
「好きな作家は?」
「村上春樹。こんど、新作出ますよね。タイトルが長いやつ」

情報だけは早いというわけか。

「勉強はしなくていいの?」
「しなくちゃならない時期になったら、します」

まぁそれは分かるけど。

「安倍政権、支持する?」
「まぁ、民主党よりいいんじゃないですか」
「どこらへんで、そう思うの?」
「実際、いろいろ行動しているし」
「どんな行動?」
「なんか、TPPとか」


「ところで、まっき~さん、運動神経、けっこうイケてますね」
「そう?」
「39歳でしょ、うちの兄貴は35歳だけれど、たとえばきょうのバスケだけでぜぃぜぃいうはずで、午後のバレーなんか出来ないはずですもん」

軽薄な大学生におだてられ、まんざらでもない自分・・・ということは、自分もなかなかに軽薄で。

「たぶん、いまがね、自分史上で最も運動神経がいい年齢なんだって」
「なんですか、それ」
「昔、肥満児だったから」
「そうなんですか」

スマホに保存した15歳のころの画像を見せ、彼らが驚く顔で満足する自分。

「ヤバイっすね、この写真!」
「ねぇ、放送禁止でしょ」
「なにが楽しくて生きていたの? って感じ」

失礼な表現ではあるが、的を得ている。

「ポテトチップスとサイダーを、生きる拠り所にしていたわけよ」

「いちばんイヤなことは、なんでした?」
「そうねぇ・・・水泳の授業もそうだったけど、スポーツテストかな」
「短距離とか懸垂とか」
「そう、真面目にやってんのに、教師がね、やる気ないんだったらやらなくていい! とか怒るんだよ」
「(笑う)ちょっと可哀想ですね、記録覚えてます?」
「大体ね。懸垂ゼロ、50mは女子より遅かったし、ソフトボール投げなんて、目の前にボールが落ちたんじゃないかな」
「力もなかったと」
「そう」
「明日、やってみます? うちのグラウンドで出来ますよ」


というわけで、やってみた。

結果だけいえば、すべての記録が15歳時より上回っていた。

そのあと酔って馬鹿騒ぎしたので細かい数字は忘れたが、あのころよりスマートになったとはいえ煙草も吸っているし、そもそもがチューネンになったわけだし、こういう男も珍しいのではないか。

で、付き合ってくれた大学生たちがみんな褒めてくれる。自分を気持ちよくさせてくれる。

気持ちが大きくなった自分は、財布をリーダーの学生に預け、好きなだけ呑めや喰えやと。


翌朝―目覚めたら財布の中身はほぼカラッポで、くそ、あいつら世渡り? だけはうまいじゃないかと感心したのだった。

・・・って、なんの話だ?


※だから昔は、ほんとうこんな感じだったんだって




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シネマしりとり「薀蓄篇」(34)

2013-03-18 00:15:00 | コラム
とにーもんた「な」→「な」いとおんざぷらねっと(ナイト・オン・ザ・プラネット)

複数の物語を紡いで一本の映画にする―というオムニバスは、映画のありかたとしては面白いけれど、Aは傑作、しかしBは駄作、Cはまあまあ、、、その結果、全体としても「まあまあ」といった風に評価そのものまで平均で求めてしまうため、けっこうリスクを伴うものだと思う。

黒澤の『夢』(90)にしても、前半と後半のエピソードは素晴らしいけれど、真ん中が・・・といった評が多く、全体の感想では「惜しい!」となってしまう。さすがに8つのエピソードは多過ぎたのかもしれない、、、なんて。

個人的なオムニバス三傑を挙げるとするならば・・・

スコセッシ・アレン・コッポラの三巨匠がニューヨークを捉えた『ニューヨーク・ストーリー』(89)、
ジム・ジャームッシュによる『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)、
日本映画の『BUNGO~ささやかな欲望~ 告白する紳士たち』(2012)だろうか。

『ニューヨーク・ストーリー』にしても、三つの物語すべてが素晴らしいといえるような出来ではなかった。
スコセッシとアレンが気負わず「さすが!」な物語を展開させたのに対し、コッポラは空回り、なにをどうしたかったのかさえ分からず、「すべての能力を、70年代に使い切ったのか?」なんて批判が聞かれたほどだった。


『ナイト・オン・ザ・プラネット』の原題は『Night on Earth』で、ほぼ同じ意味である「Earth」を「Planet」に変えた邦題は巧いと思った。響きがね、日本人としては「プラネット」のほうがいいと思うんだ。

五ヶ国―ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキ―を舞台に、タクシードライバーとその乗客の「ちょっといい話」を紡ぐ小品である。

ロサンゼルス篇のドライバーはウィノナ・ライダー、乗客はジーナ・ローランズ。(トップ画像)

ニューヨーク篇のドライバーはアーミン・ミューラー=スタール、乗客はジャンカルロ・エスポジートとロージー・ペレス。

パリ篇のドライバーはイザック・ド・バンコレ、乗客はベアトリス・ダル。

ローマ篇のドライバーはロベルト・ベニーニ、乗客はパオロ・ボナチェリ。

ヘルシンキ篇のドライバーはマッティ・ペロンパー、乗客はサカリ・クオスマネンとカリ・ヴァーナネン。

最も有名なのはロサンゼルス篇だが、
最もインパクトを残すのはローマ篇で、最も切ないのがパリ篇だろうか。

ローマ篇の乗客、パオロ・ボナチェリは神父に扮している。
ロベルト・ベニーニ演じるドライバーは、神父なんだからと勝手に懺悔を始めるが、その内容はおそろしくくだらない自慰話ばかり。心臓の弱い神父は薬を飲もうとするが、乱暴な運転のために薬を落としてしまい・・・という物語。
ドライバーをコメディアンのベニーニに演じさせた時点で「勝ち」だったのだろう、とにかく、ひたすら笑えるエピソードに仕上がっている。

パリ篇のベアトリス・ダルは盲目の女性で、乗せた直後は態度のでかい彼女に立腹したバンコレも、目の見える自分以上にこの世を「ちゃんと見ている」ように感じられる彼女と対峙し、なんともいえない感情に襲われるのだった・・・。

テーマの統一、舞台の統一、シチュエーションの統一。
などなど、オムニバスにはいろんなパターンがあるけれど、この映画を観ると「シチュエーションの統一こそ」オムニバスに最も適しているのではないか、、、と思わせてくれる。


きょうの動画は、そんなベアトリス・ダルの演技を





次回のしりとりは・・・
ないとおんざぷらねっ「と」→「と」おやまきょおこ。

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シネマしりとり「薀蓄篇」(33)

2013-03-17 00:20:33 | コラム
むーんりっとない「と」→「と」にーもんたな(トニー・モンタナ)

『シャブ極道』(96)っていう、身も蓋もないタイトルを持つ日本映画がある。

一時期、日本映画界は「役所広司だらけ」状態となったが、役所さんが人気者になる直前に出た怪作であり、と同時にこれは、疑いようのない傑作でもあった。

しかし。
このタイトルのために、ちょっとした問題が起こった。
「シャブ」は、そのまんま「覚醒剤」の意味で、劇場公開時はこのタイトルが許された―しかしながら、覚醒剤の描写が多過ぎて成人指定は喰らっている―のに、ビデオ倫理協会からNGを宣告され、『大阪極道戦争 白の暴力』というタイトルに変更されたのだった。
これに怒った監督の細野辰興は粘り強く抗議を続け、その結果、DVD発売の際には元のタイトルを取り戻せた。
ただ個人的にはこの経緯よりも、どこかの批評家が発した「じゃあ、『シャブシャブ極道』なら通るんじゃね?」というジョークのほうが印象に残っている。

面白いじゃない、ひとを喰った感じでさ。
確かに審査を通ったであろうし、二度繰り返すことによって、主人公のシャブ中具合がどれくらいなのか表現出来ている、、、ともいえるし。

そのくらい『シャブ極道』の役所さんは、いっちゃっている。
粉をぶっかけて、スイカを食べるんだからね。塩の代わりにシャブなんて、そーとーきてますよ。


麻薬中毒者・ジャンキーといえば、「虚ろな目⇔狂気の目」の反復、そして、真っ赤なお鼻だろう。

その描写の過激さから映画のなかのジャンキー「ベストワン」に、役所さん演じる真壁を選出・・・したいところだが、そうはならない。
残念ながら、真壁は4位である。

3位は『グッドフェローズ』(90)のヘンリー・ヒル(レイ・リオッタ)、
2位は『ブロウ』(2001)のジョージ・ユング(ジョニー・デップ)、

そして1位は、2位以下に倍以上? の得票数で差をつけたトニー・モンタナできまり。

ブライアン・デ・パルマとアル・パチーノが組んだ、『スカーフェイス』(83)の主人公である。

32年の名作『暗黒街の顔役』のリメイクだが、映画史的にも知名度的にもリメイクのほうが「格上」という珍しい例を作り出した快作。

上記のジャンキーランキングはあくまでも「個人的なもの」、
しかし映画小僧1000人にアンケートを取ってみても、この1位は変わらないのではないか。そのくらいモンタナの人気は高い。
どのくらい高いかというと、彼の頭文字をデザインにした、こんなキャップが作られるくらいなのである。

これは友人ふたりにプレゼントして「そーとー」喜ばれたし、自分もほしくて買った、つまり自分だけでみっつも購入しているのだった。

オリバー・ストーンによる脚本も、デ・パルマによる演出も素晴らしい・・・のだが、この映画を支えているのはアル・パチーノの熱演である。
演技過剰といっていいほどで、油ギッシュ過ぎて観ているだけで汗をかくくらい。眩暈を起こすくらい。

「裏」アメリカン・ドリームを夢見て、キューバからやってきたモンタナの成功と「あっという間の」挫折を170分をかけて描く。

映画としては、そんなモンタナの後半生を描いたような『カリートの道』(93)のほうが優れているのだが、
完成度なんか知ったことか! という、闇雲なエネルギーに包まれた映画にどうしようもなく魅かれてしまうところもあって。

熱く生きて「すぐに」破滅するという、ほとんど自爆のようなシニザマが素敵。
それどころか、ヒロイン役のミシェル・ファイファーが「とことん」野暮ったく、そういうところまで素敵に思えてくる。

これが、映画のマジックというやつか。

もちろん隣人だったら引っ越すにかぎるのだが、スクリーンの向こう側の話である、この熱さに乗っかってしまえばいいのだ。






あすのしりとりは・・・
とにーもんた「な」→「な」いとおんざぷらねっと。

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