《ストーリー》
夢枕獏のベストセラー『神々の山嶺』を岡田准一、阿部寛、尾野真千子ら豪華キャストの共演で映画化した感動の超大作。『愛を乞うひと』『太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-』などの平山秀幸が監督を務め、エヴェレストに魅せられたふたりの男の交錯する人生を軸に、命懸けで山に挑む姿と、彼らを取り巻く人々の想いを壮大なスケールで描く。(ぴあ映画生活より)
原作を読んだとき、これは映画化が難しいだろうと思っていたが、まさかの映画化が決まり、ずっと楽しみにしていた。12日の公開日には行けなかったが、昨夜見に行くことが出来た。金曜日の夜だから、それなりに混んでいるのかと思ったが、ビックリするほどガラガラで拍子抜けという感じだった。ガチガチの山岳映画というイメージもあって山好きの中高年の年代層しか集まらなかったのだろうか。
原作本は、1000ページを超える大作で、これだけの内容を2時間ほどの映画で描き切ることができるのだろうかと心配だった。映画の前半は、登山家のジョージ・マロリーが、エヴェレスト山頂を目指したものの頂上付近で行方不明となり、彼が世界初の登頂を果たしたか否かを解き明かそうとするミステリー調の出だしだ。ジョージ・マロリーといえば、「なぜ山に登るのか?」と問いかけられたとき、「そこに山があるから」と答えたことで知られている。そんな有名な登山家の謎を探るストーリーなのかと思っていると、それで終わってしまう訳ではない。次第に羽生丈二という孤高の登山家の生き様と、彼を追ってエヴェレストに挑むカメラマンの深町誠の登山の様子が迫力ある映像で描かれ、『前人未到のエヴェレスト南西壁冬期無酸素単独登頂という無謀とも思える挑戦を何故命を懸けてまで行うのか?』『何故、山に登るのか?』『何故、生きるのか?』という人間の深い心の奥底を考えさせられるストーリーに変わっていく。
実際にエヴェレストの標高6000m近いところまで行って撮影したという事で、映像は迫力あるものに仕上がっている。氷壁をピッケルとアイゼンでよじ登って行くシーンなど圧巻である。阿部寛や岡田准一の演技もひげ面で精悍な面構えとなり、過酷な環境でよくやり遂げたものだと感心した。しかし、原作を読んでいたものにとっては、あまりにも淡々としたストーリー展開に物足りなさを感じた。何か、登場人物の心情をうまく描ききれていないという感じである。羽生が、何故過酷で誰も成し遂げたことないルートでエヴェレストを目指そうとしたのか、深町はジョージ・マロリーの謎を解き明かすことより、孤高の登山家羽生を、命を懸けてまで何故追う必要があったのかというのが、今一つ分かりにくい。原作を読んでいない人には、薄っぺらいストーリーに思えたのに違いない。やはり、2時間で納まる内容ではない。前編、後編に分けて作るくらいでよかったのではと思えた。
最後に、深町が羽生をエヴェレスト山頂近くで発見するシーンは、それまでの映像と比べるとあまりにもリアルさが欠けていた。たぶんセットを作って屋内で撮影したのではないだろうか。しかも、羽生のセリフがナレーションで流れるのにはいささか演出過剰だ。リアルさを出すためには、状況を映像で表現するだけで良かったと思う。そして、違和感を感じたのは、深町が帽子をとって8000m近い山から下山していくシーンだ。頂上まで行ってないにせよ、8000mの山の上で頭を保護しないで下山できるなんて考えられない。しかも無酸素でだ。大変な苦労をして撮影したことはわかるが、最後の最後でリアルさがなくなってしまっていた。重厚なストーリーだっただけに、最後の詰めが甘かったのが非常に残念だ。