裏志賀山(志賀山神社)から下山すると木道に出る。分岐に鳥居があり志賀山神社の入り口を逆から来たようだった。
分岐から四十八池方面に向かう。広い湿地帯の中に整備された木道が続いている。
浮島や湿原植物が数多くみられる希少な湿地帯である。
四十八池は、志賀山と鉢山の間の標高1,880mに位置する湿原である。湿原内には大小60の池塘が点在し、希少な湿原植物の群落やトンボの希少種が生息することから、日本の重要湿地にも選定されている。
少し、雨が降ってきたので四十八池の休憩舎で昼食休憩とする。幸い大した雨ではなく、雨具を着るほどではなかった。四十八池から分岐に戻って大沼池方面へと向かう。大沼池は、裏志賀山から下山するとき見えたエメラルドグリーンの池である。
大沼池の入り口で、大蛇神社と書かれた場所に寄り道してみる。半島のように飛び出た場所をぐんぐん下って行くと池のほとりに出た。池の中に赤い鳥居が建てられている。
大沼池には、下記のような大蛇と黒姫の伝説が伝わっているそうだ。
「大沼池の大蛇と黒姫の物語」
大沼池に棲む大蛇は志賀高原の守り神でしたが、嫁はいませんでした。ある春、いつものように見るからに立派な若者に姿を変えた大蛇は中野東山の花見に詣で、一人のとても美しい女性と出会いました。この女性は時の中野の最高権力者である、小館城の殿様高梨摂津の守政盛の娘、黒姫でした。二人は互いに惹かれあい、恋をしました。しばらくの交際の後、若者は「私は大沼池の主で、志賀高原の守り神の大蛇です。私にあなたの娘の黒姫を下さい。」と願い出ましたが、殿様は「人間でもないものにどうして娘をやれるものか」と言下に断りました。
しかし若者はあきらめず毎日毎日城を訪れお願いしました。根負けしたのか、殿様は「わしの乗った馬の後をついて城の周りを七周できたら姫をやろう」という条件を出しました。若者は喜んでこれをのみましたが、これは罠でした。殿様は城の周りに刀を逆さにして植え、その上で大蛇を走らせ、殺そうとしたのでした。
その日がきて若者は殿様の後をついて走り出しましたが、殿様は馬の名手、追いつけなくなった若者は大蛇の姿に戻り後を追ったからたまりません。大蛇の体は逆植えの刀に裂かれ、傷つき血は流れ、恐ろしいありさまになりながらも、約束どおり七周まわりました。殿様の計略どおり大蛇は倒れ、起き上がってきませんでした。
しかし、やがて息を吹き返し起き上がってあたりを見回した時、誰もいないのに気づいた大蛇は、殿様が約束を破ったのを知りました。怒りに震え志賀高原に戻った大蛇は、一族郎党の手を借りて雨雲を呼び、暴風雨を起こし、さらに志賀高原中の池を決壊させて大水で小館城を流そうとしました。
中野の村に大洪水が起こり、人も動物も飲み込まれ、田畑は流され中野一体は壊滅状態になったのでした。中野の東山が楯になって濁流から難を逃れた小館城から、すっかり流された城下をみて悲しんだ黒姫は、事態を収束しようと決意し、ひとり大沼池に身を投げました。
それを知った大蛇はそれまでおこしていた雲を散らし、洪水を止め大沼池に戻っていったのでした。この大蛇は現在も志賀高原の大沼池に守り神として祀られています。また、毎年八月に大蛇祭りが行われています。
大蛇神社から大沼池正面に向かう。標高1,694mに位置する水深26m、周囲5kmの湖である。志賀山から噴出した溶岩によって川がせき止められたことで形成され、湖水はpH4.4という強い酸性であるため、魚類は生息しないそうだ。エメラルドグリーンの神秘的な湖で、見る位置から何色にも色が変わって見える。
池の前には、レストハウスもあり、広場で池を見ながらゆっくり休憩できる。
広場で休憩した後、大沼池をぐるっと回っていく。湖面近くよりも高い場所から見たほうがより濃いエメラルドグリーンに見える。
大蛇神社が、反対方向に見えてきた。
ここで見るとまた違った緑色に見える。
緑色が隻を超えると透明になっていく様子が何だか不思議だ。
逆池経由で下って行く。
大沼池とは、全く違う無色透明の逆池だ。
志賀の源水がある清水公園にでる。岩の間を豪快に清水が流れ落ちていた。
「志賀の雫」と名付けられた湧き水は、10秒も手を付けていることが出来ないくらい冷たい。冷たい湧き水は、乾いた喉を潤し山旅の最後にふさわしい。ペットボトルを何本も持ってきて水を汲みに来ている人も多かった。
清水公園から大沼池入口はすぐそこだ。1台、先に駐車しておいた車で硯川に戻った。硯川には、ほたる温泉と熊の湯温泉がある。今回は、熊の湯温泉の「熊の湯ホテル」に日帰り入浴で立ち寄る。熊の湯温泉は、全国屈指の濃厚なエメラルドグリーンの温泉である。この色の温泉はなかなかない。熊が傷を癒したと伝えられるほどの濃厚な硫黄が特徴で、もちろん源泉かけ流しである。
帰りがけには、ほたる温泉の平床大噴泉を見て行く。自然の営みは凄い。志賀高原には、こんな温泉が数多くある。
今回は、山以外に池めぐりと珍しい温泉にも立ち寄り、欲張りな山旅となった。帰りがけには、桃が安くなっていたのでお土産に買って帰った。秋になれば、リンゴが美味しい信州である。