万能鑑定士Qの事件簿XII (角川文庫) | |
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松岡圭祐の「万能鑑定士Qの事件簿」シリーズがついに12巻に達した。今回は、1970年に大阪府で開催された日本万国博覧会の会場に、芸術家の岡本太郎が制作した「太陽の塔」にまつわるミステリーである。何で今更、「太陽の塔」が出てくるのか意外な気がしたが、実際、日本万国博覧会記念機構では耐震補強工事をおこない、早ければ2012年度に着工して再公開を実施する方針になっているという。まさに、時代を先取りしたネタを見事にミステリーに仕立てる辺りがこの作家の凄いところだ。
このシリーズは「面白くて知恵がつく人が死なないミステリ」がテーマとなっており、小中学生が読んでも差し障りはない。とはいえ幼稚ではなく、いろんなトリックがちりばめられ確かに面白くて知恵がつくミステリーである。作者は、何でこんなことまで知っているのかと驚かされるほどの雑学がちりばめられている。もちろん、書いてあることがまったく本当なのかも知る由はないが、相当調べてないと書けそうもない薀蓄だらけである。今回は、ミステリーサークルの謎を明快に解き明かしている(作者の想像だろうが…)のが面白かった。また、こんなクイズもちょっとした頭の体操にいい。「○のなかに適切な一文字を入れてください。ただし、すべての○には同じ文字が入ります。○○×1000=○」さて、○には何が入るだろうか?
さて、このシリーズは単なる薀蓄話ではなく、ミステリーに絡め、ほのかな恋愛をちりばめ、登場人物のキャラクターを際ださせているのも好感を抱かせる。主人公の凜田莉子と雑誌記者の小笠原の恋の行方も気になるところだ。
今回の12巻目で事件簿シリーズは終り、セカンドシーズンとして推理劇シリーズが新たに始まるという。しかも、いつものように2ヶ月ごとに新刊が出そうである。2年間で12巻というハイペースで新作を発表しているのも驚きである。重厚な小説ではないが、読みやすいのでついつい一気読みになってしまう。次の刊行が、早くも待たれるところだ。
内容(「BOOK」データベースより)
「『太陽の塔』を鑑定してください!」万能鑑定士Qに前代未聞の依頼が持ちこまれた。クライアントを追って大阪・吹田署の警部補が店に飛びこみ、牛込署の葉山も姿を現す。解明の急がれる重大な謎―『太陽の塔』に秘密の抜け穴は存在するのか。万博公園に赴いた凛田莉子を待っていたのは、正体不明の人物による鑑定能力への挑戦だった。知性のシンデレラ・ストーリー、いまここにクライマックスを迎える。Qの事件簿シリーズ第12弾。
著者について
1968年12月3日、愛知県生まれ。デビュー作『催眠』がミリオンセラーに。大藪晴彦賞候補作『千里眼』シリーズは累計628万部を超える人気作となった。その他の作品に『ミッキーマウスの憂鬱』『蒼い瞳とニュアージュ』など多数。