なんの取柄もございませんが、
しいて言えば、私は物忘れが得意なのでございます。
忘れてはいけない事を、
眼にも止まらぬ速さで、
すぱっと忘れる事ができるのでございます。
紙に書いておいても、書いた事すら忘れるのも間々あること。
しかしながら、今度こそはと、手の甲に「せんべ」と書きました。
そしてやっぱり書いた事すら、きれいさっぱり忘れていたのでございます。
おはようございます。
母に頼まれた、せんべいを買うために行ったスーパーで、
私は、醤油とネギをカゴに入れてレジに並びました。
レジ係の女性は、私の眼を観て小声で何やら、呟いておられる。
今思えば、女性は「せべん?」と聞いたのではないでしょうか。
しかし、店内の雑音に紛れた女性の言葉は、
私には「てべ」と聞こえたのでございます。
ん?てべ?てべってなに?
戸惑う私に向かって、女性は何度も
「せべん?せべん?」と繰り返す。
私は、もう混乱するあまり、その場をごまかすために、
「うん、てべ てべ。そう、てべ てべ。」と笑顔で返しておりました。
代金を支払いながらも、照れた仕草を加えつつ、
「てべ。 うふふ、てべ てべ。」と言いながら、
私はようやく、その場を乗り切ったのでございます。
その日の夜、湯船で見つけた、手の甲の文字。
そこで、ようやく気付いたのでございます。
せんべい、買い忘れた。
そして新たな挨拶、生み出した?
「てべ」
うんこ~!
うんこ、てべ!
うんこ:「ああ、てべ」
おじさん:「てべ」 うんこ:「あら、てべ」
おい、おたま!
てべ~。おたま、てべだぞ~!
おたま:「てべ?」
なかなかと、しっくり来ないのでございました。