拝啓
極楽の住み心地はいかがですか。
そちらには、季節はありますか。
花は咲きますか。
風は、吹くのでしょうか。
この世は、貴方が苦手だった、暑い夏になりました。
貴方もよくご存じの通り、私は相変わらずケチですが、
ちゃんとクーラーを使っています。
そうしないと、おたまが溶けて無くなりそうなので、気を付けています。
あやは、暑いとか寒いとか、そういう感覚を持っていないと思うんです。
もう少し、大人しくして欲しい位、元気です困っています助けてください。
うんこは、少しほっそりして、動きが若干軽やかになりました。
リバウンドを目論んで、おやつをねだってきますが、
私は負けません。
おじさんが全敗です。罰を当ててやってください、ぜひ。
よねは、動かないから、多分としか申せませんが、元気です。
動かないせいなのか、ちょっと夏太りした模様です。
あっちが痩せれば、こっちは太る。
二進も三進もいきません。
そして、
きくも元気ですと、ようやく貴方に伝える事ができますね。
貴方が旅立った、あの日、きくは一度も声を出さなかった。
普段は騒がしいきくが、他のネコに唸り声をあげる事も、
何かを要求して大きな声で鳴く事もなかった。
この部屋が、珍しく静かだった。
そして、箱に入れられた亡骸に、きくは縋った。
用心深いきくが、
見慣れない箱の中の貴方の上に乗ってまで縋っていた。
きくは、静かに泣いていた。
貴方の亡骸さえも無くなった日から、
きくはこれまで以上に騒がしく鳴くようになった。
夜中だろうが、朝だろうが、
まるで、貴方を探すように鳴き続けた。
他のネコ達が、視界に入る事すら許さず、
私の声も耳に入らず、延々鳴いていた。
泣いていたんだ、ずっと。
元々細いきくの体は、
気付けば、酷くやせ細っていた。
このままでは、きくが壊れてしまう。
そう思い、様々な対策を試みたが、すべて徒労に終わった。
ある日、私は貴方の匂いを消してしまおうとした。
もう帰ってくる事はないのだと、きくに解って欲しかった。
うめの使った毛布も、
うめが食べていた皿も、
すべて捨ててしまおうと。
まずは、貴方の薬箱を開けてみた。
その中に、未開封の容器があった。
貴方が酷い認知症に陥った時に貰ったサプリメントの容器だ。
不安や緊張を和らげるためのサプリメント。
貴方はこれを飲む事なく、逝ってしまった。
きくに打ってつけの物を置いて、逝った。
きくは、それを飲みながら、移ろう時の中で、
貴方がいない今を、ゆっくりと受け入れている。
貴方のお気に入りだった毛布の上で。
貴方のお気に入りだった机の上で。
貴方の匂いが消えていく、この家で、
きくは、以前より少し強くなりました。
きく「私は、もう大丈夫よ」
きく「こんな毛むくじゃら、どってことないわ」
きく「あなたのように、振る舞えばいいのよね」
きく「おい、メス豚ゴリラ!なんとかしろって言えばいいのよね」
言わないから。うめさんは、私の事、ゴリラって言わないから!
ん?
うめさんも言っていたの?こっそり?
うめさんめ~~!?
かしこ。