いつものように、
朝、実家に立ち寄ると、
母さんは、台所で大根を煮ていた。
おはようございます。
「旨そうに煮えたで~。ほれ、見ろ。」
と、母さんは自慢げに鍋の中を見せてくる。
覗き込んでみれば、その鍋の中には、
輪切りにした、皮が付いた大根が煮えていた。
母さん、皮を剥くのを忘れてやしないか?と問うと、
母さんは、「ん?何がじゃ?」と言ったきり、
しばらく黙り込んでいた。
私は、そんな母さんが少し可哀そうに見えて、
皮が付いてる方が、栄養あるもんねっと声を掛けた。
それで済むかと思いきや、
母さんは、それで済むような人ではなかった。
おもむろに、コンロの火を消して鍋の中に手を突っ込む、母さん。
そして、輪切りの大根を持ち、
あつ!あっつ!と急ぎながら、なんと皮を素手で剝き始める。
母さん?
な・な・なにをしてるんだい、母さん?
「皮っちゅーもんはよ、あつっ。
煮てから剥くと、綺麗に剥けるんやぞ、あつっ。」
母さん?
そんな斬新な調理法、初めて見たよ、母さん!
「ほうか?わしは、このツルッと剥くのが好きなんや、あちちちっ。」
敢えて、そうしているんだね、母さん?
でも、それ、大根の皮と同時に、手の皮も剥けやしないか、母さん?
「アホか!わしが何年、主婦やっとると思うんや。
お前とは、年季が違うんじゃ。」
と言いながら、蛇口の水を勢いよく出し、せっかく煮えている大根を
水にジャージャーさらしながら皮を剥き、
剥き終えると鍋に戻し、次の大根を手で掴むを繰り返す、母さん。
母さん?
せっかくの味付けが、無になってるよ、母さん?
「煮ながら、やるから大丈夫なんや。お前もやれ。楽しいぞ。」
と言い、再び鍋をグツグツ煮始める、母さん。
マジか?
沸点に到達している鍋に、手を?この我が手を?
「お前の手は、ブキ(不器用)やからなぁ。無理やろなぁ。」
と挑発してくる、母さん。
もう、意味が分かんないや、母さん。
でもさぁ、こうなったらさぁ、
やったるわい、母さん!
よし、行くぞ~、よし・よし・よし、おりゃー!
あっつーあっつー、ぎゃ~あっつー!
母さん「ほれ、はよ、水に付けるんや~、一気に剥くんや~。」
よっしゃ、出来たぞ、母さん!
母さん「ほい、次!」
へっ次?
あと何個や~?
母さん「まんだ、まんだ、沢山あるで~。」
ちょっと、手が熱さに慣れてきたよ、母さん。
どんどん、剥いちゃうよ~、母さん。
母さん「ほれ、ほれ、上手になってきたぞ。」
こうして、鍋の中の大根は、
すべて、皮むき大根となったのであった。
この親子、何をしているのでしょうね・・・
うんこ、うんこ!なんだか、指が熱っぽいんだよ、うんこ。
うんこ「見せてみて、かあさん」
うんこ「ん~」
うんこ「ん~」
うんこ「大丈夫。皮は無事よ、かあさん」
そうか、良かったよ。
うんこ「子供も楽じゃないわ」
君は、楽そうに見えるがな!