私は、いつから、
こんな悪い女になってしまったのだろう。
おはようございます。
ある日、私は、以前仕事がらみでお世話になった青年実業家に誘われた。
「友人が、洒落たワインバーをオープンさせてね。
お祝いがてら行きたいんだけど、一緒に行きませんか?」と。
あら、光栄です。喜んでお供いたします。
と、スマートに答えたはいいが、
私は、お洒落スポット恐怖症だ。
そのせいで、当日まで夜も眠れぬ程の緊張状態に陥った。
そして、ついに当日、私は閃いた。
とにかく、黒だ。
こういう時は、黒い服を着れば、それらしく見えるはずだ。
この閃きに基づき、
私は、通常より8割増しの化粧を施し、
黒のワンピースに黒のタイツ、靴もカバンも黒に統一し、
そして、さりげなく淡水パールのネックレスを身に付けた。
結果、首から上はおてもやん、
首から下は、お葬式の参列者とあいなった。
待ち合わせ場所に現れた青年実業家は、さすがにオシャレだ。
そして、参列するおてもやんに対する、社交辞令も忘れない。
「おかっぱちゃん、久しぶり。キマッてるじゃない。」
その社交辞令を、こわばった笑顔でやり過ごし、
ついに、恐ろしい程オシャレなワインバーへ足を踏み入れた。
バーカウンターの奥に立つは、イケメン店長だ。
私は、この時点で、一旦意識が飛んだ。
ちゃんと座って、笑顔は作っていても、意識は完全に飛んでいた。
隣に座る青年実業家は、
「あの頃は、駆け出しでさ。おかっぱちゃんにも〇※△◎≠~」
と、なんか色々言っていたが、聞いちゃいない。
お洒落な店内、前にはイケメン。
この状況に息も絶え絶えな私は、俯いたままワインを飲み続けた。
かれこれ、3杯目だろうか。
ついに、恐れていた事が起こった。
(トイレ行きたいトイレ行きたいトイレ行きたいトイレ・・・)
実業家の話が途絶えた時、私は思い切って言った。
「あの、ちょっとお手洗いへ。」と。
しかし、この勇気ある一言が、
私の失態の始まりを知らせるゴングとなるのだった。
10分後、実業家は驚いた顔で、
「おかっぱちゃん?お手洗い、もう3回目だよね?大丈夫?」
ごめんなさい。
私はアルコールが入ると、お手洗いが近くなっちゃうの。
でもその分、すぐ出ちゃうから全然酔わないんですよ。うふふ。
また数分後、
「おかっぱちゃん?またなの?またお手洗いなの?」
そうれしゅ。トイレいってきまっしゅ!
これまた数分後、
「ねぇ、おかっぱちゃん、酔ってるよね?」
酔ってましぇ~ん。ヒヒヒ。
では、拙者、かわやへ参る!ヒヒヒ。
この辺りから、数分単位でトイレへ行く合間に、
話した内容は、実業家のサクセスストーリーではなく、
何事においても成功した試しのない私の、
無駄にポジティブな人生論にすり替わっていた。
語り出したら、エンジンが掛かるタチの私は、
ワイングラスをリコーダーに例えて、ピロピロしながら一気飲みだ。
語る→ピロピロ→トイレのスパイラルは、とめどない。
そうして、実業家からすれば、地獄の1時間が過ぎた頃、
私はついに、発する言葉がトイレコールのみとなった。
「便所行く」の数分後は、
「出る」の一言となり、
終いには、「トイレ、連れてけ」と命ずる始末となった。
イケメン店長と実業家は、何やら言い合いを始める。
店長「お水を飲ませた方が・・・」
実業家「いやダメだ。水飲んだら、また出ちゃうじゃん!」
店長「でもさ、この悪酔いは、どうすんだよ?」
実業家「タクシー呼んでくれ。早く早く~!」
言わずもがな、実業家の地獄は、
タクシーに乗り込んだ後も延々と続くのだった。
通常30分程度の道のりを、2時間かけて。
こんな、忘れたい記憶を、
今のお前を見ていたら、思い出しちまったのさ。
おい、おたま!
きくのために買った、マタタビ入りオモチャを、
ほんの数分、おたまにも嗅がせてやったら・・・
スンスンしているきくを見て
皆で仲良く見ていたのに、
おたま「うぇぇぇ~ヒヒヒ」
おたま「マタタビ、ピロピロしゃせろーい」
おたま「お~い、マタタビ持っれこーい」
おたま「がばちょ~ヒッヒッヒ」
おたま「おう、婆しゃん、いいケチュしれんなぁ、ヒヒヒ」
おたま「ウェッヘッヘッヘッヘ」
うんこ「あの酔っ払い、なんとかして!」
あの翌日、実業家からのメールには、
「おかっぱちゃん、昨日は大変だったね。あれから大丈夫でしたか?」
と書かれていた。
私は、
「ごめんなさい。全然、覚えていないんです。」
と、嘘をついた。