うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

天才と呼ばれた、男(鬼のように長いです、ごめんなさい)

2017年03月25日 | 真面目な日記

部活動を終えて、家に帰ると、

どういう訳か、母親は家を空けていた。

母の帰りを待っていられない程、空腹だった少年は、

滅多に立ち入る事のない台所へ向かう。

不貞腐れながら、食べ物を探していたが、

目につく物は、テーブルに置かれた、

茶碗1杯の冷や飯だけ。

その時、少年は初めて、料理と出会った。

 

おはようございます。

無我夢中で作った料理は、不味いチャーハンだった。

失敗に終わった料理を、

誰にも知られたくない少年は、

それを急いで口にかき込みながら思った。

「もっと美味しい料理が作ってみたい」と。

これを機に、少年の未来への道は一筋となり、

その道を迷わず、ひた走る事となる。

 

調理師学校へ進み、そこでフレンチを学ぶ。

そしてフレンチレストランへ就職、

と少年から大人の男へと順調に進み続け、

更に速度を上げて、坂道を登って行った。

 

下積みは、想像以上に辛いものだったが、

フレンチに魅了された男は、なんでも貪欲に学び続け、

気付けば、周囲から一目を置かれる存在となって行き、

ついに厨房を任される位置にまで登りつめた。

その頃、人々は、男を「若き天才シェフ」と持て囃すようになっていた。

 

それが、今じゃ、猫だらけの狭い部屋で、小汚い半袖で寝てるという訳だ。

私が、この男に出会ったのは、丁度、坂道が下り始めた頃だった。

アルマーニだかなんだか知らないが、

えらく派手なシャツを着た、プライドの高そうな男に見えた。

その実態は、162cm大のプライドの塊で出来ていた。

男の自己申告では、165cmだが、嘘つきめ!あんたは、絶対162cmだ!

経歴を聞いてみれば、覚えられぬ程の転職回数に、

「飽き性なんですか?」と問うと、

「条件のいい店に引き抜かれて、移っていただけです。」とぴしゃりと言ってくる。

「へぇ、凄い人なんですね。」と、ノッてみると、

「いや、今の店では規模が小さくて、思うようなものが作れません。」と続けた。

どちらかというと、ストライクゾーン広めの私が珍しく、

あぁぁ、こういう人嫌いと思った。

 

だがしかし、男は、けっこう気前が良かった。

というより、ケチじゃない。

自他ともに認めるケチな私は、ケチな男が大嫌いなのだ。

「出会った記念に、何かプレゼントしたいのですが、欲しい物はありますか?」

と聞いてくる。

一応「何も要りません」とは答えたが、ちょっと好きになった。

さすが、ストライクゾーン広めで、ゲンキンな女だ。

 

そうこうしているうちに、いつの間にか男が我が家に住みついていた。

気付いた時には、すでにクローゼットの中が、

ヘンテコな舶来製の紳士服で埋め尽くされていたり、

ぶ厚いフランス語の本で、本棚の底が抜けていたり、

猫たちが、じゃっかん懐いていた。

 

居るのならば仕方ないので、私は男に料理を作ってみた。

いみじくも、チャーハンだった。

「いかがでしょうか?」と、おっかなびっくり聞いてみた。

すると、男は、なんと、

「ん~・・・田舎料理ですね。」と、告げた。

田舎料理?

私は、田舎料理という言葉を、なんとか誉め言葉として捉えようにも、

胸のむかつきが止まらない。

「田舎料理って、どういう意味?」と聞くと、男は、

「大丈夫ですよ。食べられます。

でも、おかっぱちゃん。お料理はしなくていいんですよ。

僕は、基本、家庭料理は頂かない事にしています。

味覚が狂うと困るから。」と。

その言葉を聞いて、私は泣きながら言った。

「あんた、家庭料理を馬鹿にしてる。

家庭料理は、食べる人が目の前にいる。

その人が、毎日、生きるために作るんだ。

美味しくなれ、元気になれっという願いを込めて作るんだ。

願いという、調味料は最強なんだ。

それをさ、あんたに教えてやるよ。見てろよ!」

 

男が完全に坂道を下り切るのは、その後まもなくの事だった。

男が雇われていた店は、小規模ではあったがフレンチレストラン。

その店のオーナーから、解雇を言い渡られた。

しかし、男は就職活動をしようとはしない。

きっと、どこかの店から誘いが来るだろうと高を括っていたのだ。

しばらくして、携帯電話が鳴る気配がないと悟り、

男は、ようやく動き出した。

調理師募集のフレンチレストランを数件当たるも、

男の輝かしい経歴が邪魔をする。

「こんな凄い経歴の人に来てもらえる程のギャラが払えないので。」を、

決まり文句のように聞かされて、断られる。

やっと受け入れてもらえたのは、フレンチレストランではなく、

給食会社だった。

 

それを聞いた私は安堵したが、男の顔は死人のようだった。

その死人に、鬼と化していた私は、さらに攻め込んだ。

「場所なんて、問題じゃない。

食べてくれる人に喜んでもらえれば、それが本望なはずだろーが。

ここで腐ったら、あんたは、本当に料理の神様に見捨てられるからな。」

と、そう言いながら、期限が2日切れた豆腐の匂いを嗅いで、

煮ればイケると、味噌汁を作った。

 

勤務が始まって以来、

男は、毎日しょんぼり出かけて、ぐったり帰ってくるようになった。

どんどん弱っていく男に、

鬼は、隙ありーと言わんばかりに、怒涛の攻撃を始める。

「今日はね、ボルシチっての?作ってみた」と不敵な笑みを浮かべる。

食べた事もない鬼が作るボルシチは、

例えるならば、血の池地獄に浮かぶ、しかばねだ。

見た目に反して、不思議なくらい、無味だ。

こうして、意地でもうまいと言わせてやると息巻く鬼によって、

男は無限地獄の体験をしていく。

 

鬼は、「ステーキ」は、ゴムのようになるまで、焼き尽くし、

「てこねパン」は、炭へと導いた。

「手打ちうどん」は、讃岐をはるかに上回る、腰を生みだし、

結果、男は、噛む事を諦めて、丸飲みした。

「エスニック焼きそば」は、普通に醤油味にまとまり、

今度は、大量の「稲荷寿司」という名の、地獄に住まう化け物を生んだ。

何をどうしたら、こんなに不味い稲荷が作れるのか、鬼も驚いたが、

無の境地で食べつくさんとする男の姿に、さらに驚いた。

「スパイスで作る本場のカレー」は、どこの本場かを見失い、

「お薬」と名称を変えた。

男の決死のリクエストに応えて作った「シンプルな塩やきそば」は、

シンプルに塩がすべてを覆い尽くす、喉がひどく渇く一品となった。

男は、1リットルのお茶のおかげで、完食を果たした。

頂き物の新鮮で見事な鯛は、刺身にすると旨かろう鯛は、

見事な「ごった煮」となった。ウロコとのごった煮だ。

鬼は「見事なウロコとともに召し上がれ。」と、のたまった。

 

終わることのない、無限地獄に落ちた男は、

いつの頃からか、

「美味しいですよ。ちょっと辛いけど。ありがとう。」

と言うようになった。

美味しいか?地獄の辛さだぞ?と、辛さに悶絶する鬼に、男は、

「美味しくなれっというスパイスは、最強ですからね。」と笑った。

 

人生をフレンチに捧げてきた男が、

7年間、会社の社員食堂で、慣れない味噌汁を作り、

医療機関で、初めて流動食を作った。

少しでも喜んでもらえるように、盛り付けにこだわって、

そのためにちょっと遅れて、𠮟れたりもした。

それでも、男は、その姿勢を貫いた。

そんな、ある日、男の携帯電話が鳴った。

昔、勤めていたレストランの先輩からだった。

「おお、元気か?お前さ、うちの店に来ないか?」との事だった。

 

こうして、男は、再びフレンチの道を進む事となった。

それを聞いて、鬼は思った。

「おじさんの味覚、大丈夫なのだろうか?」ってね。

 

そんな鬼に抱かれる、おたまは・・・

おたま「あんがい、心地よか~」

 

それを見ていた男は・・・

おじさん「今度は、おじさんの抱っこだよ」

 

おたま「おら、いやだ、離せ!」

 

おたま「離せよ~!」

 

おじさん「離さないよ~ん」

あんたも、鬼か?!