二度あることは三度あると申しますが、
三度あることは、
大概、四度五度とある訳なんです。
おはようございます。
私は、昔から、道路であらゆる野生動物と遭遇する。
死にゆく野鳥を、偶然看取ったのは三度あった。
美しい姿をした生き物が、コンクリートの上で苦しむ様は、
表しようがないくらい、切ないものだ。
人間のくせに、人間社会を憎らしく思えるくらい、切ない。
しかし、鳥はそんな感情を持ち得てないだろうと思うと、
さらに、やるせない気持ちになり、私は泣くことを憚った。
しかし、これは泣けてきたって経験もある。
母さんを待ちわびる幼いイタチ兄弟に出くわした時は、
「こんな所に出て来ちゃだめだ。隠れていなくちゃ危ない」と思い、
幼いイタチ達を敢えて怖がらせるよう、鬼の形相で睨んでやった。
心は泣いていた。号泣だ。
4匹のおチビちゃん達の中で一番大きな子に、
うんと小さな子がおんぶしてもらっていろという、あり得ない設定だったんだ。
え?なに?やらせ?ってくらいの破壊力だ。
そんな神様の悪戯レベルの可愛らしいイタチ達が、何の恐れも知らない目で
私を見ているんだもの。おんぶで。
そんなイタチ達を、怖がらせる役目をするなんて、泣けてきた。
しかし、ザリガニに、道の真ん中で、威嚇された時は驚いた。
その気迫には、すっかり負けて、やっぱり泣けた。
「めちゃくちゃ、怒ってますやん?」
掴めない・・・
この、ややこしい形の野生動物を素手で掴めるスペックが、私にはない。
私にとって、毛が生えているかいないかが、触れ合えるかの境界線だ。
しかし、あの怒りを無視することは、できなかった。
車内の傘を持ちだして、そろ~っと、そろ~っと、脇の田んぼへ追いやった。
とはいえ、玄関前の道に倒れていたジョージは別だ。
あいつも毛が生えていなかったが、あいつとは触れ合った。
私は、死にかけていたあいつに、死に水を飲ませてやったんだ。
その死に水がキッカケとなって、皮肉にも元気を取り戻して去って行った。
それなのに、次の日もまた次の日も、玄関前で行き倒れていたんだ。
「ジョージ?今日もかい?」
意味が分からないまま、私は毎日ジョージに水を飲ませた。
だったら、餌もやりたいと願った日、ジョージは息絶えていた。
一週間の出来事だった。
ちなみに、ジョージとは、トカゲだ。
ジョージが触れるんなら、亀なんて余裕じゃん?っと思いきや、
道の真ん中で出くわす亀は、恐ろしかった。
過去四度、掴んで運んだ経験をもってしても、五度目も震えた。
あの日は、月のない夜だった。
真っ暗な道には、すれ違う車も全くない。
「まるで異次元に迷い込んだみたい」
私は静かすぎる夜に恐れを感じ、
家路を急ぐため、さらにアクセルを深く踏もうとした時、
慌てて、ブレーキを踏んだ。
ヘッドライトに浮かび上がったのは、仁王立ちの亀だった。
四本の足と首を、甲羅から限界まで伸ばし、
「やんのか?」という佇まいで、私の車に喧嘩を売っている。
「や・・・やってやろうじゃねーか!」
私は、鉄砲玉のように、反射的に、車から飛び出した。
「あんた、何してんの?轢かれちゃうよ!」と。
すると、亀は私に背を向け、道の真ん中をまっすぐ走り出した。
「おい、ちょっまてよ」
私は、木村拓哉状態になっていた。
そういう時、木村拓哉は追いかけないままCMに入るが、
私は追い掛けた。
道路脇へ逸れる気配を見せない爆走を、
放っておくわけにはいかない。
これで轢かれたら、私のせいになってしまう。
亀は走る。
私は追いかける。
「早い!」
亀がのろまだなんて、だれが決めた?
少なくとも、夜中のミシシッピアカミミガメは、覚醒している。
もはや、ゾーンに入っている。
とはいえ、私の股下は75センチだ。
正確に測れば、71センチかもしれないが、亀に追いつけないはずはなく、
私は亀を追い越し、立ちはだかった。
真正面から向き合うと、「デカい!」
真夜中の亀は、まるで怪獣みたいだ。
ド迫力だ。
しかし、私は売られた喧嘩を買った者として、
対決しなければならない。
「男には、そういう時が、ある。」
昔、飲み屋で酔っぱらって、他の客と喧嘩して帰ってきた父さんが、
よくそう言っていた。
喧嘩の原因は、いつも死ぬほど下らなかった。
カラオケの順番を飛ばされたとか、そういう理由で、
男達は殴り合う。そういう時が、あるんだ。
女にだって、ある。
それが、今だ!
私は、
「よし!よし!よし!」と肩を上げ下げしながら気合を入れた。
考えるな、何も考えるなっと自分に言い聞かせながら、
イキっている亀の両脇を掴んて一気に持ち上げた。
けれど、さすが野生だ。
亀は、まだ諦めずバタバタと暴れる。
私は、思わず悲鳴をあげたくなったが、もし悲鳴をあげたら、
きっと、掴んだ亀を放り出してしまう。
そう思いとどまった時、悲鳴の代わりに口から飛び出した言葉は、
「そいや、そいや」だった。
『前略、道の上より』(一世風靡セピア)
咲き誇る花は、散るからこそ美しいのです。
しかし、散ってたまるか、田んぼまでは!
私は、そいやそいやと叫びながら田んぼまで、中腰で走った。
そこへ亀を置き、これで決着が付いたという訳だ。
「やれやれ」と上体を起こし、おてんとうさんではなく、
漆黒の空に浮かぶ星を仰いでみようとした時、
どこかから、
ピシャンっという窓の閉まる事が聞こえた。
「誰かに、見られていた・・・」
道の真ん中に車を捨て置いて、俯いてブツブツ言ってる女が、
急にしゃがんで、そいやそいやと叫びながら、そのまま走る様子は、
さぞや、恐ろしい光景だっただろう。
ある夏に体験した怪談だ。
ごめんなさい、地域住民の皆様へ。
敬具。
我が家にも、ちょっと恐ろしい光景だ。
おじさんのまぐろ丼に向けられた、矢のように突き刺さる視線!
視線!
視線!
ちょっと、当たりそうやな・・・