日が暮れても、
国道は車の通りが激しかった。
おはようございます。
運転中のエンジン音に加え、行き交う車の唸る音で、
車内に流れるメロディーガルドーの囁くような歌声は、ごっそりかき消された。
私は騒音の中で、うんざりしながらハンドルを握っていた。
気の進まない用事に向かう道中だから、なおのことだった。
ようやく国道を外れて、細い道を進むと、辺りは暗い田んぼの風景になった。
右に並走する、さっき外れた国道は高架を上っていく。
それでも騒音は容赦なく唸り、高架から濁流のように降ってくる。
「これでも、音楽が聞こえないかぁ。」
信号で停車しても、音楽は相変わらず、外の音にかき消されていた。
「いや、待てよ。」
行き交う車の音じゃない。
それさえも、かき消されていく。
私は、音を探るべくドアウィンドウを開けてみた。
「うわ~」
リーンリーンリーンリーン・・・・
コロコロコロコロ・・・・
どこから響くのかなど、探る由もない。
国道の明かりも届かぬ漆黒の大地から、数百、いや数千数万の秋の虫の音が、
果てしない夜空へ広がっていた。
騒音の濁流は、突き上げる虫の音に押し上げられ、国道に淀んでいる。
これが秋というものか?
数千数万の虫は、一斉に力の限り命を燃やす。
これが、秋というものなのか。
私は、凄まじく力強い秋を知った。
って、虫に感動していたくせに、
これにビビっていた。
ぎゃーー、むむむむむ、むし?!
数時間、ずっと怯えていた。
が、実体は
私が作った、リアル猫じゃらしだったというね。
棚から飛び出ちゃっていただけだったというね。
凄まじく力強いあやさんも、このクラスの虫が怖いらしい。
あやさん、怖かったね~
あや「よっこらせっと、どっこいしょっと」
ねえ、あやさん?
何してんの?
あや「落ち着こうかしらねっと思ってやってんのぉ」
いや、全然、落ち着いてる感ないし・・・。
あや「あら、そうかいなっとぉ」
ねえ、落ち着きたいなら、ジッとして!
あや「よし、これだわ!」
やっと落ち着いたのね?
これで、静かになるのね?
あや「おばちゃ~ん、ねえ、おばちゃ~ん」
鳴くんか?!
あや「おばおばおばちゃ~ん、おばちゃんってば~」
全てをかき消す、虫の音ならぬ、あやの声。助けて。