maria-pon

お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

VOLVER(帰郷)

2007-07-28 03:29:41 | FILM
今夜は六本木ヒルズで、スペインの鬼才、ペドロ・アルモドバルの2006年作品、「VOLVER~帰郷」を観て参りました。



スペイン人らしい、極端な状況と濃密な人間関係、光と影、鮮やかな色彩、カソリックの信仰と猥雑さを描くペドロ・アルモドバルの16作品目。
中には、駄作もありましたが、この監督の新作は、まず観る、ということにしています。
なかでも好きなのは初期の「セクシリア」「神経衰弱ぎりぎりの女たち」そして最近の「ALL ABOUT MY MOTHER」。逆に今ひとつ、と感じたのは「罰当たり修道院の秘密」「私の秘密の花」など。

さて、今作品は・・・。
「ALL ABOUT MY MOTHER」の系譜に連なる、傑作。
ペネロペ・クルス演じる主人公が姉と娘と、強風の中、お墓掃除をしているシーンから始まる物語。



血と殺人、性と死、母と娘。

どこまでも濃いコンテンツを盛り込みながら、風車のまわる空っ風のラ・マンチャを舞台に、それぞれに秘密を持った女たちが力強い連帯感によって、困難を乗り越えていく様を横糸として、謎解きのように解きほぐされていくその秘密が縦糸となって紡がれていく絢爛たる織物の如し映画。
惹き込まれます。



バンビのように可憐・・・と思っていたペネロペが母親ライムンダ役。ハスキーな声でスペイン語をちょっと早口のキツイ口調で語り始めると、そこにはたくましく魅力的なラテン女が・・・。

アルモドバルが魅了される、必要ならば嘘も方便、ダメダメなラテン男を尻目に人生の荒波を知恵と度胸と愛情で乗り越えていくラ・マンチャの女たちの一人として、絶大な存在感を放つ彼女。
役作りのために入れたというヒップパッドのおかげだけではなく、漆黒の髪、思わず引き込まれる強い視線、全てが彼女に降りかかる悲劇を跳ね返す防具となっているかのよう。
偶然から切り盛りすることになったレストランで、ギターの音色に誘われてツと歌いだす、アルゼンチンタンゴの「VOLVER(回帰)」は心に沁みます。
こういうふうにして、ギターの音色で自然と手足で拍子を取り、歌や踊りで参加していく様は、素人ながらフラメンコを趣味としているわたくしにはツボでした。

カンヌ映画祭では、脚本賞の他、ペネロペのみならず、主要な役を演じた6人の女優皆が主演女優賞を受賞とか。



大きな瞳が、時としてはユーモアを湛え、時として慈愛に満ちた母親としての気持ちを映す、アルモドバル作品の常連カルメン・マウラの祖母はもちろん、淡々としたとぼけた味わいがステキな姉のロラ・ドゥニャエス、親切な隣人ブランカ・ポルティージョの優しく、でもここぞと言うときにはキッパリとした態度も取れる静かな存在感など、脇も充実。



大きな音を立てて交わす頬へのキス、精霊を信じる迷信深い人々など、情の深い土地柄と、センスがいいのか悪いのか、そんなことは瑣末なこととすら思わせる身に着けた衣装のカラフルさが溶け合ってこの濃い人間ドラマを心地よい擬似体験としてくれているよう・・・。

2時間があっという間。スクリーンと観ている自分、という距離感が限りなくゼロに近い、映画を観る幸せを堪能させてくれる作品でした。