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7月大歌舞伎・夜の部 「天守物語」

2009-07-24 22:18:11 | 伝統芸能
この日のメインイベントは「天守物語」



「天守物語(てんしゅものがたり)」
作:泉鏡花 演出:戌井市郎[文学座]、坂東玉三郎
美術:小川冨美夫
照明:池田智哉
19:15~21:00

 天守夫人富姫:  玉三郎
 姫川図書之助:  海老蔵
 亀姫:        勘太郎
 薄:          吉弥
 小田原修理:    猿弥
 舌長姥:      門之助 
 朱の盤坊:     獅童
 近江之丞桃六:  我當

舞台中央に獅子頭。
背景は暗く雲がたなびく空。
童女の歌声「とおりゃんせ、とおりゃんせ」
秋草を棹につけた露を餌に釣り上げる5人の侍女たち・・・

そこは白鷺城の天守閣。
幕開きからスッと泉鏡花の美の世界に心は遊ぶ。
夜叉ヶ池から戻った女主人富姫。
(この設定だけで、午前の部から続けてご覧になる方は一日が鏡花ワールドに染まるでしょう)
淡い水色の帯に薄紅色のきものがろうたけた美しさを輝かせる。
雨よけに案山子から借りたという蓑を羽織っているのが
その美しさを少しも減じてはいない。
この後の、客人を迎えるために髪を結い上げ豪奢な打掛を羽織る富姫、
風格と威厳と優美。
今回の公演のために新調されたという黒地の縞に豪華な刺繍の打掛がこの上なく良く似合う。
この世のものならぬ美女。浮世離れした完全なファンタジーに身をおいて
その世界の中心として君臨できる役者は彼以外に思いつかない。
それだけこの「天守物語」の富姫と玉三郎はもう分かちがたいものとして脳内にインプットされてしまいました。
もし、彼のあとにだれかがこの役を引き継ぐとしたら、相当の努力が必要となるでしょう。


妹分の亀姫の訪問。
前回の菊之助のいかにも赤姫の似合う妹らしい愛らしさと少女の残酷さを懐かしく思わないではありませんが、勘太郎の亀姫も、蝶の舞うような玉三郎との軽妙な言葉のやり取りを心地よいリズムの中に味合わせてくれました。
上品な中に毒のあるこの亀姫の手土産は、彼女の住む城の城主の首。
妖怪役がピタリと嵌まる門之助、滑稽味とおおらかさのある獅童の従者も達者です。

亀姫への返礼に城主の自慢の白鷲を奪い、渡したことで
窮地に立たされた鷹匠の図書之助。
前回ハッとさせられた若さゆえの清廉な美しさに加え、作品理解を深めた海老蔵。
富姫とのやり取りの中、迷いのない台詞の冴えが際立ちます。
全てを凌駕し睥睨する富姫が、
ふと人間くさい弱さ、惑い、執着を秘めた恋する女の表情に変わり運命が変わります。
彼を帰した後、再会。下界からの攻撃を許すことになり、ともに視覚を失い絶望の縁に立たされますが・・・
最後、我當の老人の出現で、また運命の歯車に変化が生じて・・・

正しさと高貴さと諧謔に満ちた言葉、言葉、言葉の力。
紡ぎだされる夢幻の境地。

これは本当に完成された舞台ですね。
ホゥ・・・と幸せなタメ息をつきました。

歌舞伎には珍しく、拍手が鳴り止まず、異例のカーテンコール。
それを受けるに相応しい御両人、そして存在感を示して舞台を締めた我當でした。





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2 コメント

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Unknown (宮本)
2009-08-04 17:56:13
贅沢な2つの演目を良席でご覧になられて、羨ましい~です{祝}
お昼が海神別荘でしたか?
熟成された玉三郎と進化中の海老蔵{パチパチ}
菊之助も海老蔵も持って生まれた容姿と舞台センス、またやる気もあって、
これから本当に楽しみな役者さんですね{ハート}
玉三郎の継承者がいないのが残念ですが、菊ちゃんと海老ちゃんには
是非きれいな方と結婚して、次世代を生み出して頂きたいと思います。



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Unknown (maria)
2009-08-08 05:23:30
宮本さん、お昼が海神別荘と五重塔でした。
前回、泉鏡花尽くしの演目のときに一日通しで見て、くらくらしたことがありますが(笑)
今回は昼夜メインを鏡花、他一作品、で構成しているようですね。

玉三郎の円熟振りには本当に同時代に生きる喜びを感じますし、
若手2人には今後にも期待!できますよね。
菊之助ちゃんについては、若さゆえの美しさについてはピークを過ぎてしまった感が
ある、という声も聴かれますが、より一層芸を磨いていただきたいと、
またそれが出来る真摯な姿勢を持った役者さんだと思っています。
海老蔵は正直、ここまでコンスタントに成長していくとは思っていませんでした(笑)
若手3人で売り出した頃には二枚目だけれども見ていると飽きてしまう存在
でしたが見る度に華も実も・・・とこれからも楽しみ(^^)

>きれいな方と
おぉ、歌舞伎の場合は世襲ならではの次世代育成法(?)がありますものね!
確かに、それはそれで大事ですわ~
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