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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

Kバレエ「海賊」 ③

2007-05-13 07:00:22 | BALLET


他のソリストは・・・。
松岡さんは、顔立ち、スタイルともに大変美しく、技術的なこともクリアしているのですが、見ているとだんだんと気持ちが遠のいていってしまう・・・。
都さんがどんどん引き込んでいくのでやはりここはダンサーとしての格の違いと言っては気の毒でしょうか。
楽天的で、パシャに買い上げられてメドゥーラと生き別れになっても、それはそれで贅沢な暮らしをエンジョイするちゃっかりタイプのギュリナーラもいますが、松岡さんはパシャに呼ばれてハーレムで踊るときも常に嫌悪と恐れの表情での役作り。そのせいで、上半身が伸びやかに使い辛かったということもあるのかもしれませんが・・・。

輪島さんのランケダムはただの悪モノみたい。
ABTの映像で見るマラーホフのランケダムだと商売っ気や愛嬌や如才なさ、人あしらいの上手さが出て、ランケダムの造形が面白いのですが、そういった役作りのレベルまでは残念ながら到達していないように見受けられました。

熊川の演出意図として、海賊と商人の権力争いと、海賊団内部でのビルバントの裏切りによってさらに複雑化するパワーゲームも見所、とされていましたが、そのような演出意図を浮き彫りにできるほどのソリスト陣の成熟をまだ待つ必要がありそうです。

Kバレエの魅力=熊川、都さんという傑出した世界レベルのアーティストが主役を踊ること。美術に予算を割いて、ヴィジュアルの美しさで完成された舞台を演出。コールドの女性に美人が多い。
Kバレエの欠点=コールドの完成度の低さ、ソリストとTOPのレベルの乖離。コールドの振付が単調で魅力に乏しいところ。(これは振付の欠点なのか、技術レベルの未熟さによるものなのか不明)

豪華な舞台装置、華と個性に恵まれたトップ、そのトップダンサーとは個性の違いこそあれ、技術・演技力で見劣りしないレヴェルのソリスト、美しく揃った良く鍛錬されたコールド。

全てに恵まれることは難しいとはいえ、折角多くの支持を得て、日本一の観客動員力を誇るKバレエ、もう少し全体のレベルの底上げができればと、つい思ってしまうのでした。





Kバレエ「海賊」 ②

2007-05-13 06:21:09 | BALLET
出色の出来だったのは、やはり、吉田都さん。



ヒラヒラするハーレムパンツをベースにした天女の羽衣のような衣装、美しい水色の薄物をベースにした少女たちの一群が浜辺に現れるシーンから、美人揃いのKバレエのコールドの中にあって更に美しい、という設定の吉田・松岡姉妹。ギュリナーラの松岡さんはラベンダーピンクで艶やかに、都さんは周囲より少しだけ色鮮やかな水色の衣装で清楚で可憐な印象。
水指から、気を失っていたコンラッドに水を飲ませて2人の目と目があい・・・。
恋が芽生えて軽いパ・ド・ドゥ。ギュリナーラに戻っていらっしゃい、と促されながら、コンラッドに心を残す、少女らしいつつしみの中の恋心を描く演技も控えめながら伝わるものがあり、踊り以外の地の場面での静かな演技の的確さが、全体的に賑やかなKバレエの「海賊」の中で、物語を紡ぐ重要なファクターになっています。

奴隷市場でパシャたちの値踏みするような視線を浴びて、踊る美女たち。
ギュリナーラ、松岡さんはゴールドのラメが入ったヴェールで包まれて踊りますが、それでもその美しさが際立って、パシャに買い上げられてしまいます。
そして登場するニキヤ・・・ならぬ、メドゥーラ。いや、白いヴェールで上半身を覆われ、胸元をそっと押さえるような手の位置といい、パッと背後からランケダムの手がヴェールをはぐとそこには光り輝くばかりの美女が・・・という演出といい、「ラ・バヤデール」の巫女ニキヤの登場シーンにそっくり。
色々とアレンジを凝らした、と語られていた熊川演出ですが、これはアレンジと言うか(以下略)
ギュリナーラのソロの踊りの音楽は「エスメラルダ」の有名なヴァリの曲でしたし、バレエファンとしては??という場面もありましたが、いつもより濃い目のメークがかえってコケティッシュで女らしいメドゥーラに相応しく、キラキラとしたオーラを纏いながらのご登場。
12月のくるみわり人形のマリー姫では、小顔メーク?の茶系のチークがあまりお似合いでなく、気になっていたのですが、今回のレッド系のチークは女らしくて正解。
ギュリナーラのときには他のパシャと競り勝ったサイードパシャですが、メドゥーラには宝石箱をそのまま差し出します。と、そこに現れたアリとコンラッド。
メドゥーラを救い出して、海賊仲間の待つ洞窟に・・・。

ここでのパ・ド・トロワ!
都さんがKバレエに移籍、と聞いたときには、Kバレエに彼女と踊れる相手役がいるのか、という心配が先にたち・・・熊川は芸風が違いすぎるので、古典のペアとしての並びがあまりよろしくないし、かといって2番手以下の若手はまだ彼女ほどのダンサーにふさわしいほどの成長段階に達していないし・・・と。
結果、若手を育てる役目も担わされていらっしゃる現状ではありましたが、この作品の場合は奴隷とお姫様!こういう配役であれば、この他から頭10個分は抜きん出ている2人を同時に舞台で見られてしかもお互いの持ち味が100%発揮できる。
さすが・・・。なぜ熊川が今「海賊」をレパートリーのひとつとしたか、その理由はここに・・・と思わされたトロワでした。
ダイナミックな熊川の回転と跳躍、キメをつくる演技。
たおやかでしかもキラキラと煌くオーラがどんどん広がって舞台全体を覆いつくすような、風のように軽やかでしかも幸福感に満ちた雰囲気は都さんならでは。
3つの頂点の一角を心ならずも担わされたスチュワート・キャシディは、前半のソロでの跳躍はまったく回転軸がぶれていて着地の姿勢をコントロールできていないのが目に付き、やれやれ先が思いやられるとまで危惧されたものの、トロワではさすがにこの2人に負けじと意地を見せ、大きな柄を生かした演技を見せてくれました。
それにしてもプレッシャーだったでしょうね!



Kバレエ「海賊」 アリの物語

2007-05-13 05:22:02 | BALLET
11日の金曜日、熊川哲也率いる、Kバレエカンパニー新作「海賊」の初日、東京文化会館に行ってまいりました。

ヨランダ・ソナベンドの美術は今回もスペクタクルロマンを彩る重要なファクターとして機能。
嵐の海から、海賊船が打ち上げられ、メドゥーラ、ギュリナーラ姉妹らギリシャの乙女たちとの出会いの場としての浜辺、ランケダムが仕切る奴隷市場、海賊のアジト、パシャのハーレム、そしてラストの朝焼けの海まで、深みのある豪華な色彩豊かな舞台で物語と主役の踊りを引き立てます。

この日は初日とあって、Kバレエ渾身の1stキャスト。
海賊の首領コンラッドにスチュアート・キャシディ、彼と恋仲になる美少女メドゥーラに吉田都さん。
コンラッドの忠実な僕アリに熊川哲也。パシャに売られるメドゥーラの姉、ギュリナーラに松岡梨絵。
奴隷商人ランケダムには怪我で降板の芳賀望に代わって輪島拓也。
途中で裏切り者に変貌する海賊のNO.2ビルバンドにビャンバ・バットボルト。
宝石に身を包み、富に任せて美人奴隷によるハ-レムの主として君臨するサイードパシャにイアン・ウェッブ。

特筆すべき点は、なんといっても全編を通して大活躍のアリの存在感。
「海賊」は本来、コンラッドとメドゥーラの恋物語を中心に展開されるオハナシなので、アリは有名な見せ場のパ・ド・トロワでこそ存在感と限りない忠誠心を示すもののあくまで脇役のはず・・・だったのが、熊川版では、常に一団の先頭に立ち、戦闘シーンで最初に剣を抜くのは彼、初めに少女たちに挨拶をするのも彼。コンラッドに忠誠を尽くしながらも、奴隷として主人を敬う、というよりは、腹心のデキル部下として、「片付けておきましたぜ」とどんどん物語を展開させていく推進力として常に舞台の中心にいるのが彼。
というのがまず、印象深いところ。

勿論、踊りもその出番の多さに比例して、新しいソロがふんだんに盛り込まれています。
メドゥーラをリフトする力仕事はコンラッドに主にお任せして、主役の男性ダンサーでありながら、一人自由に超絶技巧をあますところなく魅せる美味しい役どころ。
常々男性ダンサーの、力強い魅力を引き出す振付に惹かれると語る熊川が、自身のために見せ場をしっかりと用意した作品によって、信じがたいほど加速するピルエット、2階席からでもその高さに息を呑む跳躍、それらの正統的な踊りから逸脱しているかに見えて、きっちりと音楽を奏でることを可能にする安定したボディコントロールなど、彼の良さが最大限に発揮されていると言ってよいのではないでしょうか。
衣装もよくあるアリ役の、上半身は裸でブルー系のハーレムパンツを身に着けた簡素な姿とは程遠い、ブロンズでサイドを彩った麻色のパンツに上半身はワンショルダーの短いTシャツ状に見えるようなブロンズのストラップでかすかに覆われてゴージャス。エキゾチシズムをかき立てるサファイヤ色の石で額に留められた一本の白い羽がアリ役としてのルールをかすかに留めて・・・。
彼のこの役に対する思い入れが伝わる振りと衣装でした。



こちらは宣伝用のスチールなので、舞台衣装とは若干異なりますが、スピリットはお伝えできるかと・・・




玉三郎X篠山紀信 写真展

2007-05-09 07:54:38 | 伝統芸能
今、銀座4丁目の和光ホールで開催中の、
「坂東玉三郎X篠山紀信」写真展。
なんと明日まで(最終日10日)ですが、必見です!



ベジャール、ヨーヨーマなど様々な異業種のアーティストとコラボレーションをしてきた玉三郎。
ルグリの写真集でも有名な、写真家の篠山紀信とも37年のお付き合いのなか、厳選された104演目の写真を800ページに渡る2冊に収めた¥38000の写真集「五代目坂東玉三郎」が先日講談社より出版されました。
その写真集に収められた中から更に厳選されたものを、舞台本番直前の息遣いさえ聞こえるようなポラロイドを含めての展示。

艶やかな揚巻、あたりを払う品格と才知の感じられる「天守物語」の富姫あたりが特に好みではありますが、お軽、桜姫、鷺娘などなど、観ていると舞台を思い出し、至福の時空に引き込まれます。

会場には、50万円の特別愛蔵版(隈取と衣装の一部付き、4冊組)の展示もあり、この価格を出すならば、良いお席で一回でも多くの舞台を観たい!というのがファンの本音でしょうけれど、一見の価値はありますね。
連休中の初日には篠山さんと玉さまのトークショーなどもあり、熱心なファンの方は着席50席の10:30からの整理券の配布にあわせて早い方は早朝3時台から並ばれたとか・・・。
「舞台のためだけに生きている」とおっしゃる不世出の女形、五代目坂東玉三郎。
今57歳でいらっしゃいますが、写真には撮影年の記載はありません。最近撮影されたものと過去の作品のギャップがほとんど見られないところにも、舞台での完成された「女」に対する敢然とした美意識が見て取れます・・・。
最終日は5時までです。




異邦人たちのパリ 国立新美術館

2007-05-05 22:24:08 | ART
昨日、仕事の後に、乃木坂の国立新美術館に行って参りました。
お目当ては、まもなく最終日(5月7日まで)の「異邦人(エトランジェ)たちのパリ_1900-2005 ポンピドー・センタ-所蔵作品展」です

実は、2月にも一度訪れているのですが、ちょうど館内アナウンスで、これからフランス語レッスンが始まります、と流れたのに誘われて、日仏学院の出張レッスンを受けてしまったが為に、展覧会を見る時間がなくなってしまい・・・
都知事選で大いに名を売った(笑)黒川紀章のモダンな建築、人気のカフェやレストラン、ミュージアムショップをチェックして終わってしまったのでリベンジ(?)です。



これはマン・レイの有名な作品「黒と白」。
この時期恋人関係にあった女優キキとアフリカの彫刻を撮った1926年の作品・・・から始まり、写真作品が大充実!
アンドレ・ケルテスの「パリ・ある雷雨の夏の夜」、ブラッサイの「ファニー・サーカス」、ウジェーヌ・デスローの「モンパルナス」などが印象に残りました・・・。
60年代の作品ではウィリアム・クラインの「ローリング・ストーンズのコンサート、パリ」「ボノの一味」などに活き活きとした妙味が。

彫刻では好きなジャコメッティの、弟(ゴッホのテオのように、兄の芸術の一番の理解者)「ディエゴの胸像」の静かな美しさと、初めて見たけれど素晴らしく調和のとれた造形の、パブロ・ガルガーリョの「フルートを吹くアルルカン」が気に入りました

絵画作品は非常に幅広く、またクォリティの高いものが来ていて嬉しい限り。

ピカソの1938年作品「女の肖像」の力強いシンプルさと美しい色彩、レオナール・フジタ(藤田嗣治)の「カフェにて」で物思う女性の肌の、象牙のようなミルクのような陶器のようななんともいえないなまめかしく典雅な白さ。キスリング「若いポーランド女性I(ショールを纏う女)」の活き活きとした滑らかな原色の画面、と、女性の肖像だけでもこれだけの個性の違いが

シャガールの「エッフェル塔の新郎新婦」の柔らかな浮遊感もロマンティック。
荻須高徳の色鮮やかな広告のポスターで彩られた味のある古びた街角でパリを感じさせる「ドレ地区」。
川に挟まれた中州を女性の下半身の流麗なラインで現したちょっと挑発的なマックス・エルンストの「フランスの庭園」はタイトルと合わせて機知を楽しむ。


カンディンスキーの「相互和音」のような現代作品も多数。
サム・フランシスの「アザー・ホワイト」はけぶるような白に含まれたデリケートなグリーンやグレーの微かに感じられるニュアンスが日本的にも思えて・・・。

と、連休中は連日夜間(20時まで)開館、との告知を見つけてたっぷりの時間と思って訪ねたものの、後半の広いスペースを存分に使って展示された極近年のインスタレーションなどは駆け足になってしまったのが残念。
個人的には、あまり見る機会のない二コラ・ド・スタールの作品が3点も展示されていたのが嬉しかった、充実の展覧会でした。
会期が残りわずかではありますが、乃木坂の駅からそのまま上がれる便利な場所ですので、是非!