現在の近所付き合いは、適度で心地良い。
顔を合わせると、お互い笑顔で挨拶するし、
「月下美人が咲いたから、それを見ながら1杯やりましょう」と
「ゆんたく」に誘っていただいたこともある。それでも、
干渉しすぎることはない。
しかし、過去には、他の土地で、お向かいに住む老婦人のために、
かなりのストレスがたまったことがあった。
ある日、ドアのチャイムが鳴り、そこに老婦人が立っていた。
「病院に連れて行ってくれない?」
婦人は、見ただけで具合が悪いのがわかる、青い顔をしていた。
私は即座に頷き、車で彼女を病院に連れて行き、診察が終わる
まで待ってから、一緒に帰宅した。
そこまではよかったのだが、それからというもの、彼女は、
ことある毎に私を頼るようになった。「通院しないといけないから
病院に連れて行って」「スーパーに行くのなら、私も一緒に
連れて行って」
彼女は、そうすることが当然のような言い方をした。
「銀行と本屋に寄ってからスーパーに行くので……」とやんわり
断ると、「全部付き合う。私はどうぜ暇だから」と言う。
自分のペースで行動したい私には、それは大きなストレスとなった。
もちろん、毎回、OKしていたわけではない。
見つからないように急いで出かけたりもした。
そんなときは、私が帰宅して車庫入れしていると、家から飛び出してきて、
「わざと置いていって意地悪ね」とまで言うのだ。
私の家の玄関と車庫が、向かいの家のリビングから丸見えらしい。
「玄関が開くのをじっと見ているんだから」と言われたときは
背筋がぞっとした。
「今日はひとりで行くところがあるからだめです」と
はっきり言ったりもしたが、断ることも私にはストレスだった。
ますますエスカレートしてきたところで、夫の転勤があり、
彼女との付き合いも終わったが、もし、引越しがなかったら、
どうなっていただろう。私は、まだ、彼女と一緒に
スーパーに行っていたのだろうか……。
近所付き合いは難しい。
「ゆんたく」で観賞した「月下美人」