フランス語では「エフェル」だそうで:
パリオリンピックでは、この塔の存在が一層際立っている。我が国で「芸術の都」と尊敬されているパリの象徴的な塔である。私は余り関心がなかったので「エッフェル」とは建築家の名字からとった名称である程度の知識しかなかった。
だが、何時のことだったか、アメリカで偶然に綴りは“Eiffel”で、アメリカでは「アイフェルタワー」と発音されていると知った。それがカタカナでは「エッフェル」と表記されている事にも関心がなかった。
そこで現在進行中のオリンピックである。先週末に久方ぶりに懇談した仏文学者のTK博士に、フランス語についての知識が皆無と言っても良い私は「Eiffelのフランス語の発音は」と尋ねた。「エフェル」と教えられた。やや意外な感があった。それはカタカナ語の「エッフェル」はフランス語読みとも英語式の「アイフェル」とも違うのだから。
察するに、フランス語の発音が「エフェル」で、綴りでは“f”が重なっているので、先人は“i”は無視して、ローマ字の手法で「ッ」を入れた表記にしたのではないのかな。何れにせよ、原語とは異なる発音になってしまう表記にするという何時もの手法のようだ。
私的な回顧談を。私は世界の(僅か)20ヶ国しか訪れていなかった。アメリカは業務上でも50回以上も往復したが、ヨーロッパはついぞ縁がなかった。フランスには1991年に本部に出張した後で休暇を取って初めて出かけたのだった。シアトルを早朝にNorthwestの便で出発して、時差がどうなっているかも解らないままに、シャルル・ド・ゴール空港に到着したらまた早朝だった。
エッフェル塔には現地の商社の駐在の方に「この時間帯が最高に美しいと言われています」と、深夜に案内された。照明に照らし出された塔の何とも言えない美しさに圧倒されたのか「負けた」と叫んでしまった。自分でも何に負けたと感じたのか解らなかったが、言葉にならなかった。何が「芸術の都か」などと思っていたのを密かに恥じた。今にして思えば、トロカデロ広場(Place du Trocadero)に立っていたのではと思う。
「あの開会式のこりに凝った演出の華麗さと美しさが、何から、何処から来ているのか」と仏文学者のTK博士に尋ねてみると「教育の質とそこに発する教養の差では」という答えが返ってきた。フランスの文化/文明のほどを知らない私にも、何となく解るように思えた彼我の文化の相違点であると思う。
敢えて付記しておくが、ここで言いたいことは「優劣の差」ではなく「我が国の固有の文化とフランスの文化」では「質が違う」という点なのだ。