同じようにEnglishを公用語にしていても:
このところ、英語というかEnglish関係の話題を取り上げ続けてきたので、今回はその中でも余り語られていない「訛り」(=accent)を語ってみようと思う。我が国では英語の教育に重点が置かれているようだが、その内容は私には「科学としての英語を英語学として教えようとしているので、多くの方が望んでいるような実用性には、さして重きを置かれていないのでは」と思えてならない。
そう言う流れの中にあっては、ここの取り上げようとしている「訛り=accent」にまでは踏み込んでいないと見ている。であるから、その同じ英連合王国傘下の国でも、本家のUKとはかなり異なるアクセントがある国に“working holiday”(これは「ワーキング・ホリデイ」ではなく「ゥワーキング・ハラディ」とすれば本当の発音に近くなる)とやらで、オーストラリアに出かけて行ってしまうことになるのだ。
誤解されないように断っておくが、私はUKの流れをくむオーストラリアの英語が悪いと言っているのではない。Australia=オーストラリアにはUKから移住した人が多いので、London Cockneyという独特のアクセントを抱えた人もいたので、その影響で”a“を「アイ」と発音する訛りがあると承知していなければならないのである。
だから「オーストライリア」と言うし、日常的な挨拶である“Good day, mate.”が「グッダイ・マイト」のように発音するので、不慣れな人を悩ます。また、訛りがあると知らずに来た人は、これが正調であると思い込んで真似てしまう結果になる。但し、英語の文章としては正調だから英語力は身につくと思う。要するに「これがオーストラリアの英語である」と識別できる能力があるかないかの問題だ。ニュージーランドの英語にも同様な訛りがある。
そこで、アメリカンイングリッシュを取り上げてみよう。私はアクセント即ち訛りとしては、大別して三つの地域に分かれていると認識している。それは西海岸、東海岸、南部ということ。中には「中西部を加えて四つだ」と言われる論者もおられるが、私見では「西海岸と中西部は同じようなアクセントがある」となっている。
南部のアクセントは南北戦争で南軍の方に属していた人たちのものだと思う。これについては16年3月に「アメリカ南部のアクセント」と題して取り上げてあった。その特徴は「これがサザンアクセント(Southern accent)である」と認識できていない限り「妙な訛りがあるし、異常にゆっくりしたしゃべり方で聞き取りにくい」となってしまうこと請け合いだ。
その南部訛りの格好の例を昨日NHKのMLBの野球の中継で発見した。そこには負傷欠場中のDodgers(ダジャースである)のMookie (Markus)Bettsがゲスト解説者として出ていた。彼が大谷の打球の物凄い速さを形容して190kmで「バー・マー・ヘッ(ド)」と言ったのだった。これがテネシー州出身の彼の南部訛りで「by my head」のことである。南部訛りでは屡々“i“が「アのような短母音」にしか発音されないのである。
他の例を挙げれば“I can tell you.”が「アー・キン・テル・ヤー」のようになってしまうのである。ビル・クリントン大統領はアーカンソー州の出身だったが、大統領になっても南部訛りを消さずにいたので「アー・キン」派だった。この訛りは8年前にも指摘してあったことで、アメリカでは残念ながら尊敬の対象とはならないのだ。
その言わば差別がどれ程のものかという、私が実際に経験した例を紹介しておこう。クリントン大統領の在任中の1995年に香港に仕事と遊び半々で行った帰りのNWの機内で隣の席に来たのが、アメリカの大手包装材料メーカーの若き香港支社長だった。彼はスタンフォード大学のMBAであると自己紹介した。私がウエアーハウザーをリタイアしたという経歴は評価したようだった。
話し合った中で、私は何気なく「あのクリントン大統領の南部訛りは何とかならないのか」と言ってしまってから、アメリカ人を傷つけないかと心配になった。ところが、彼は私に握手を求めて「外国人である貴方が良く言ってくれた。我々はあの大統領のアクセントには辟易となっている。仲間内ではもう少し正常な英語を話す者を選ぶべきだったと語り合っている」と言うのだった。
この若き精鋭の一言が、アメリカの一定以上の階層で「南部訛りをどのように見ているか」を非常に解りやすく示していると思う。しかし、難しいことは「余程アメリカンイングリッシュに精通した人でない限り、東西南のアクセントを聞き分けて解説できる日本人は少ないだろう」と思っている。私は事業部内でただ一人の外国人だったし、仕事上でアメリカ各地の人たちと日常的に接していたので、自然に識別出来るようになっただけのこと。
その他の地区の特徴を挙げておけば、私が正調で正統派であると確信している西海岸では早からず遅からず、母音と繋がった“r”で舌を巻くこともなく、訛りもなくて最も聞き取りやすいのである。中西部(解りやすく言えばシカゴがあるイリノイ州が中心か)も西海岸と似ていて、訛りがなく聞き取りやすい。東海岸の人たちは訛りがないと言えるが、西海岸に慣れた私などには異常に早口に聞こえて困る。
語り出せばキリがないが、アメリカンイングリッシュで育ち、その中に20年以上もいた私にはKing’s Englishには「???」と戸惑うことがあるように聞き取りにくいことがある。正調のKing’s Englishと言うのも変だが、エリザベス女王が語られるのを聞いているとウットリとなる程美しかった。この英語の特徴はアメリカほどに抑揚がなくて、平板に流れているように聞こえることか。アメリカンイングリッシュにはリズム感があるのと対照的。
という次第で、何が正調で、何処の何方が話しておられる英語を見習うべきか等は、容易に解らないと思う、学校教育では先生方がその辺りを正確に把握した上で、どの国の英語を教えると良いかを意識できれば良いのだがと思うのだが、所詮は無い物ねだりになってしまうか。