新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

Donald J. Trumpという人の考察

2024-07-21 08:37:19 | コラム
「確トラ」と言われるようになったDonald J. Trumpという人物の考察:

トランプ氏の共和党大統領候補指名受託演説は部分的に一寸聞いただけだったが、声も低くこれまでのトランプ氏の語り口とは印象が異なっていた。報道によれば、この日までに散々繰り返してきた、非常に聞き辛い(ハッキリ言えば上品ではない)バイデン大統領を“crooked”(ひねくれたとか不正だの詐欺だのという意味)などの言葉を使っての攻撃は殆どなかった由だ。

私はトランプという人が銃撃事件に恐れをなして態度を変えるような純情な人物ではないだろうと思ったが、念のために元の同僚の意見を訊いてみた。彼は「決して恐れをなした訳ではあるまい。恐らくバイデン大統領がCOVIDに罹患したこともあって、11月の選挙に勝てると一層確信するようになったから、最早バイデン大統領を批判、非難、攻撃する必要が無くなったと読んだのだろう」との見解を示した。尤もだろうと理解した。

我が国では既に「確トラ」という言い方が広まったし、自民党の茂木幹事長も引用して語られたとかである。アメリカのトランプ氏を嫌悪している知識階級の間でも「諦め」のような感が濃厚のようだが、「確トラ」のような表現が広まったとは聞こえてきていない。

私が個人的な感覚からトランプ氏をあらためて批判してみれば、これまでに何度も触れてきたことで「20年以上もアメリカの紙パルプ産業界の大手メーカーに勤務して、多くの幹部に接してきたが、トランプ氏のような品位に乏しい言葉遣いをする人は皆無だったし、トランプ氏程アメリカ経済の実態を承知していない人などいる訳が無い」と承知していた。

トランプ氏が2017年に大統領に就任されてからは、ある程度は予想通りだったのだが、悲しくさせられる程「国際的通商の面で、アメリカ合衆国がどれ程先進の諸国にも、中国を始めとする新興勢力にも遅れているか、アメリカの製造業がどれ程衰退してしまっているかについて、認識されていなかったし、理解しようともされなかった」のが明らかだった。「そんな事で、大統領職が務まるのか」と不安にさせられた。

尤も、それまでのトランプ氏の経歴を見れば「アメリカの自動車産業が見るも無惨に衰退し、我が国を始めとして欧州車に圧倒されている事態を、売り込んでくる外国が悪いのである」という程度の認識をされていたのは、アメリカの産業界の実態を知れば、必ずしも驚き且つ嘆く事でもないと思った。そういう理由は簡単なことで「一般のアメリカ人は自分の生まれ育った州のことには関心があるが、諸外国との貿易などに注意はしていないのだから」である。

トランプ大統領は側近からのブリーフィングやプリゼンテーションを聞こうとしなかったそうだ。それだから、我が国との貿易赤字が大きいことが我が国の責任であるというようなことを言い出されたのだ。中国に対抗心を持たれたので、中国からの輸入に高率の関税をかけられた政策は決して誤りではなかった。だが、その結果で財務当局に続々と入金があったと喜ばれたことは「関税」とは輸出国が負担するものだとの認識を示す結果に終わった。

私はここに挙げたような基本的なことを弁えておられない方が、アメリカ合衆国の大統領である事に危機感を覚えたので、その点を取り上げて非難しただけなのだ。私が言い続けてきたことは「アメリカは基本的に輸出に依存しない国であり、特にロッキー山脈の存在の為に東部でアメリカ経済の70%を占めている内需依存型なので、アジア太平洋地区に向けて西海岸から輸出する以外にないのである」だった。

故にと言うべきだろうが、主に一次産品的な紙パルプ・木材製品を手がける我が社がボーイング社に次いでアメリカ第2の対日輸出企業にランクされてしまうのだ。これまでに何度も取り上げたことで、我が社の対日輸出品目を聞いた上智大学経済学部の緒田原教授は「そのパターンではアメリカは日本の植民地なのかと見まがう」と喝破された。

そのトランプ大統領が非常に巧みであるというか、良く練り上げた作戦であると見ていることがある。それは「ラストベルト」と言われている経済というか景気が沈滞した州の下層の人たちに訴えかける作戦に出て、本来は民主党の基盤だったはずの彼自身が“working class“とまで呼んだ労働組合員たちの支持を獲得した事。その目的の為には彼等に通じやすい汚い言葉(swearword)や卑俗な表現を多用してまで、彼等の支持獲得に成功したのだった。

このような層を主体としたトランプ氏の支持基盤は揺らぐことが無いだろうと、あの国会議事堂侵入の連中の風体を見れば想像できるのではなかろうか。それだから「アメリカファースト」から「MAGA」に至ったスローガンの実態というか具体的な中身がどうなっているか知らないが、今やアメリカの3億3千万人を超えた人口の半数に迫る所謂minorities(少数民族)からに支持が揺らがないのではと思う。

中国に厳しく接していく方針や、合法・非合法を問わず移民を送還する作戦や、ウクライナ支援を断ち切る方針や、過度なドル高を嫌う政策等々を打ち出した政策は、確かに既存の支持層には受けているだろう。だが、同盟国や近隣の諸国を戦々恐々とさせているのも確かだろう。トランプ氏として「これらを言い出すことで失うものはない」と踏んだのだろう。後は諸国がどのようにして緩和させるかではないのか。

我が友YM氏は繰り返して「私の周辺(即ち、多くの有名私立大学の教授と元教授たち)にいる人たちと、友人・知己にトランプ支持者など皆無だ」と以前から主張してきた。当然なのだが、そういうトランプ氏を否定するか乃至は嫌悪する人たちの階層の人数は、アメリカの人口の精々5%に達するかどうかと言う極々少数派である。私の元の上司や同僚にトランプ氏支持者もまたいない。

翻って、バイデン大統領はこのような誰の目にも明らかに不利な情勢下で、どのような判断をされるのだろう。現時点では“withdraw“のような難しい単語や、解りやすい”step aside“は大統領の脳裏には無いようだが。