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よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。
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第23回 Jean-Philippe & Jean-Guillaume BRET
<Domaine La Soufrandiere / Bret Brothers>
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今回のゲストは、フランスはマコネ南部のヴァンゼル村からやってきた、若きジャン・フィリップとジャン・ギョームのブレ兄弟。
彼らは、「ドメーヌ・ラ・スフランディエール」 と 「ブレット・ブラザーズ」の経営者です。
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<Jean-Philippe Bret>
ブレ3兄弟の長男。カンヌ生まれの31歳。
マコン・ダヴァイエ醸造学校でエノローグ、ディジョンの技術学校でディプロマを取得後、ボルドーのバロン・フィリップ・ロッチルド、ムルソーのコント・ラフォン、ヴェルジェ、カリフォルニアのソノマ、ナパのワイナリーなどで修行。
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<Jean-Guillaume Bret>
ブレ3兄弟の次男。リヨン生まれの30歳。
マコン・ダヴァイエ、アヴィズの醸造学校でエノローグの資格を取得後、ローヌ、ブルゴーニュ、ヴェルジェ、カリフォルニアのソノマ、ナパなどのワイナリーなどで修行。
*彼らの苗字「Bret」は、フランス語では「ブレ」と発音しますが、「Bret Brothers」は「ブレット」と英語読みします。
マコネとプイイ・ヴァンゼル
マコネがブルゴーニュの南あたりということはなんとなくわかるけど、
ヴァンゼル村って…?と要領得ないのがこの付近の地理。
広く"ブルゴーニュ"と呼ばれている地域は、北は"シャブリ"地区から始まり、その南が最もよく知られた"コート・ドール"地区、その南に"コート・シャロネーズ"地区、"マコネ"地区があり、最南端に"ボージョレ"地区と、細長く帯状に広がっています。
マコネ地区だけでも南北が50kmあり、シャブリとボージョレでは300kmも離れています。これは日本でいえば東京から新潟までに相当するから、けっこうな遠さです(マコネから北のボーヌまで90km、南のリヨンまでは60km)。
マコネでは、18世紀後半には白ブドウと黒ブドウは半々につくられていましたが、19世紀後半のフィロキセラ禍で黒ブドウのガメイが衰退し、現在は白ブドウのシャルドネが85%を占めています。
マコネはブルゴーニュ地域の中では最も面積が広く、土壌も多種多様な地区です。
"Macon+コミューン名"ワインが多く存在することからもわかるように、バラエティ豊かなワインが生まれます。
マコネ地区で最も有名なアペラシオンは、"Macon Village"や"Macon+コミューン名"以外では "Pouilly-Fuisse"(プイイ・フュイッセ)と"Saint-Veran"(サン・ヴェラン)でしょう。
この2つは面積も広いので、当然生産量も多くなります。
ところが、ブレ兄弟が拠点を置き、畑を所有しているAOC Pouilly-Vinzelles(プイイ・ヴァンゼル)は、面積においてはプイイ・フュイッセの6.6%(51ha)、生産量は5.6%(2455hl)と、非常に小さなアペラシオンです。マコネの最南端に近く、プイイ・フュイッセの東側に位置しています。
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Q.あなた方が携わる前のドメーヌ・ラ・スフランディエールの状態は?
A.スフランディエールは祖父(ジュール・ブレ)が1947年に取得しましたが、祖父はパリで開業医をしていたので、畑は小作人に任せ、収穫したブドウは小作人と折半して協同組合に売っていました。
その後、父(ジャン・ポール・ブレ)が引き継ぎましたが、父もワインとは関係ない仕事をしていたため、ブドウ畑は引き続き小作人に任せていました。
Q.祖父、父もワインづくりには携わっていなかったのに、なぜあなた方はワインづくりの道に進もうとしたのですか?
A.スフランディエールには小さい頃から夏のバカンスなどでよく訪れていて、ワインも5歳くらいから飲んでいました(笑)。
ここからアルプスまでは比較的近く、ヴァンゼル村を拠点に山歩きをしたり、キノコを探したりしていました。2人とも自然の中にいるのが大好きだったので、大きくなったら自然を相手にした仕事をしたいとは思っていました。ワインに興味を持ち始めたのは15歳頃で、2人とも16歳からマコンの醸造学校に進みました。
Q.ワインをつくりたいという気持ちは2人とも同じだったんですか?
A.ええ、我々は趣味も好みも似ていて、小さいときから何をするにも一緒でした。実は我々の下に末の弟がいるのですが、ジャン・ギョームとは4つ離れていることもあり、年の近い我々がいつも一緒にいたんです。ちなみに、末の弟はベルサイユの生まれなのですが、実は3人とも両親のバカンス先で生まれています(笑)。
Q.それで、醸造学校を卒業後、各地で修行をしてからスフランディエールを引き継ぐことになったわけですね?
A.我々がスフランディエールを引き継いだのは2000年で、この年の収穫からドメーヌワインとして醸造と瓶詰めを始めました。
Q.もうひとつ経営しているブレット・ブラザーズ(Bret Brothers)はどんな会社ですか?
A.2001年の8月に設立したネゴシアンです。現在は12の生産者と契約し、ネゴシアンワインとして流通させていますが、ドメーヌワインと全く同じ信念、情熱を持って生産しています。
Q.あなた方の信念とは?
A.長年の実績のある農家や従業員たちとの関係を大事にし、ひとつの区画はひとりの生産者に責任を持って手がけてもらい、ほかの区画とのブレンドはしません。樹齢は35年以上のもののみを選択し、畑での作業はすべて手で行います。
また、自然なものを尊重し、発酵は自然に任せ、すべて自分たちのコントロールの下、ワイン生産を行っています。。
Q.ビオディナミを実践しているということですが?
A.スフランディエールとしては、スタート時の2000年からビオディナミを始めました。2003年にフランス政府に申請し、ECOCERT(エコセール)の認可を受けています。しかし、実際にシールを貼って販売できるのは2006年ヴィンテージからになります。 スフランディエールではすべてビオディナミに切り替えが完了していますが、ブレット・ブラザーズの扱う生産農家においては、現段階では40%が公式に認証を受けています。残りの60%は転換中です。
<テイスティングしたワイン> (すべて白ワイン)
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Bret Bothers
・Macon-Vinzells Clos de Grand Pere 2004
・Vire-Clesse limat a Verchere 2004
・Saint-Veran Climat Les Fournaises 2004
・Pouilly-Fuisse Climat En Carementrant 2004
・Pouilly-Fuisse Climat La Roche 2004
Macon-Vinzellsからすでに充分おいしいのですが、まろやかでふくよかな果実味の"Pouilly-Fuisse Climat En Carementrant 2004"、ミネラル感が際立ち、余韻も非常に長い"Pouilly-Fuisse Climat La Roche 2004"は秀逸。
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Domaine La Soufrandiere
・Pouilly-Vinzells 2004
・Pouilly-Vinzelles Climat "Les Longeays" 2004
・Pouilly-Vinzelles Climat "Les Quarts" 2004
・Pouilly-Vinzelles Climat "Les Quarts" Cuvee Millerandee 2004
どれもワインに個性が感じられますが、滋味にあふれ、凝縮されたエキス分を感じる"Pouilly-Vinzelles Climat "Les Quarts" Cuvee Millerandee 2004"はさすがに素晴らしい!
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<ふたつのテイスティングを終えて>
どちらもクオリティの高いワインが勢揃いで、地形や土壌による味わいの違いが見事に反映されています。
ドメーヌものの方がおいしくてネゴシアンものはイマイチと考える人が多いようですが、そんな考えはきっぱり捨てるべし! です。
<区画の違いによる味わいの違い>
ワインは区画ごとにそれぞれ異なった個性を持っています。
どれが優れているか云々よりも、まずはその個性を理解し、好みやそのときの気分でチョイスするといいでしょう。
なお、ドメーヌものとブレット・ブラザーズで同じ区画名がついているワインでも、全く同じ畑ではありません(隣り合うことはあります)
■Pouilly-Fuisse
En Carementrant
ロッシュ・ド・ヴェルジソンの断崖の下にある真南の畑。石灰質に富み、ヴェルジソンで最も素晴らしいテロワールのひとつ。
La Roche
ロッシュ・ド・ヴェルジソンの東向きの麓で、ヴェルジソンで最も素晴らしいテロワールのひとつ。岩場のワインはミネラルに富み、キメの細かなものになる。
■Pouilly-Vinzelles
Les Longeays
丘の中腹の東~南東向きの畑で、粘土質石灰質土壌。一番早くブドウが熟す区画。フルーツ主体のワインとなり、純粋でまっすぐな果実味が特徴。
Les Quarts
南東向きの丘の上にある石英質にバジョース階(中期ジュラ紀の一段階)石灰岩を含んだ粘土石灰質土壌で、VolnayやPommardのように赤い部分が見られる。ピュアで透明感があり、ミネラルに富み、複雑で長熟なワインになる。
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■ インタビューを終えて
最初に現れた2人がとてもよく似ているので、「あれ?双子?」と思ったほど。すぐにその誤解は解けましたが、彼らの話を聞いてみると、趣味も考えも本当によく似ています。
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ドメーヌ・ラ・スフランディエールとブレット・ブラザーズは、そんな息の合った若い2人が二人三脚で始めたドメーヌとネゴシアンですが、今までのワイン本では素通りされていたプイイ・ヴァンゼルを背負っていくことは間違いないでしょう。それは彼らのワインを飲んだ時に確信しました。
2人の信念が生み出すワインはナチュラルな土壌の味わいがしっかりと出ていて、それがカラダの細胞のひとつひとつにジワジワと染み渡るのです。
素直においしく、カラダがスーッと受け入れる、そんなワインです。
日頃はコート・ドールのワインにばかり目が行きがちですが、マコネ、そしてプイイ・ヴァンゼルという小さくてマイナーなアペラシオンにも、このような素晴らしいワインが生まれつつあります。
総じて、マコネ地区の生産者は小さいところ(4~5ha)が多いものの、情熱を持ってワインづくりをしている生産者がたくさんいる、とブレ兄弟は言っていました。
となれば、マコネ地区、中でもプイイ・ヴァンゼルのワインは、今後、要チェックですよ!
取材協力:トーメンフーズ(株)ワイン本部 →(現在)豊通食料
http://www.vin-de-t.com/district/bourgogne/bourgogne/bret.html
http://www.bretbrothers.com/index.php