2月にロシアがウクライナに侵攻してから10カ月半。
「ウクライナ疲れ」という言葉が出てくるようになった、とささやかれすほど長期化している中、まもなく厳しい冬を迎えます。
ウクライナ支援は各方面で行なわれてきましたが、一社)日本ソムリエ協会では、ワインでウクライナを支援できないだろうか?と考え、ウクライナのワインを協会で購入し、セミナーや例会後の試飲などで提供することになりました。
セミナーは今年の5月に東京と横浜の会場で、またオンラインZOOMでも行なわれ、私は東京会場とZOOMに参加しました。
5月から遅ればせながら、となりますが、早く両国間に平和が戻ることを願い、
ウクライナワイン セミナーのリポートをお届けします。
セミナー講師は、ウクライナ北東部スミ州出身のバシュナ・アンナさん。
日本に16年在住し、日本語はペラペラです。
現在はウクライナワインを輸入する会社のワイン担当で、5月当時で担当8カ月め、と仰っていました。
すっかり知られるようになったウクライナの国旗ですが、上の青は空、下の黄色は小麦畑をイメージしているほど、小麦はウクライナを象徴する農作物です。
ウクライナは日本の国土の1.6倍の国土を持ち、農業に適した平地が多いことから、全ヨーロッパの耕作可能地の1/3がウクライナと言われ、18世紀以降は「ヨーロッパの穀倉地帯」と呼ばれてきました。
緯度はフランスとほぼ同じで、四季があり、南部は亜熱帯となる温帯大陸性気候。
ブドウ栽培は紀元前4000年からと古く、クリミア半島にいたギリシャ人がアンフォラでワインを造っていました。
近世以降は戦争の激戦地となることが多く、ポーランドとロシアの間にあることから、西はポーランド、東はロシアの一部になった時代もありました。
ワイン産業のターニングポイントは、1980年のゴルバチョフ時代の禁酒政策。
1983年から88年、ワイン用ブドウが抜かれたり燃やされたりしてブドウ畑が大きなダメージを受けました。
ブドウが新しく植えられたのは、ウクライナとして独立した1991年になってから。
それまでのウクライナワインは、質より量のワインがロシアに送られていましたが、1991年以降は品質を重視し、ヨーロッパ系品種が植えられるようになりました。
今、品質の良いウクライナワインがあるのは、ある意味ゴルバチョフ時代の禁酒政策のおかげ、といえます。
ウクライナの国土は広く、北と南では気候が異なります。
ヨーロッパロシア地域でロシアに次いで2位の面積だそうです。
ワイン産地も広く、主に中央部以南、黒海周辺、アゾフ海北側、ハンガリーやスロバキア国境の南西部などになります。
草原、砂浜、山脈の南斜面など、さまざまなテロワールがあるようです。
たとえば、南部は亜熱帯、気温が高く、ブドウはよく熟してアルコール度数が高く、酸が低いワインになります。
セミナーでは8つのワイン生産ゾーンを紹介されましたが、区分は厳密には決まっていないようで、原産地呼称もひとつのみ、だとアンナさんは言います。
8つのゾーンを簡単に紹介します。
トランスドニストリアン ゾーン
モルドヴァ東部を流れるドニエストル川とウクライナの国境との間の細長い地域。
南部の川沿いにワイナリーが点在し、北部ではリースリング、セミヨン、アリゴテ、カベルネ・ソーヴィニヨンを生産。
オデーサ ソーン
オデーサのオデーサ地区とオヴィディオポリ地区。
他の地域よりも酸度が低く、抽出とアルコール度数が高いワインが特徴。
リースリング、アリゴテ、ピノ・グリ、ピノ・ブランなど。
ヨーロッパ品種も多数あり
南西部(草原) ゾーン
オデーサゾーン地区を除くオデーサ、オデーサの東側のムジコラーイウ、ドニプロペトロウスク、クロボグラード地域と減る損地域の一部を含むエリアで、生産区域としては一番面積が広いゾーン。
アリゴテ、ブラック・ガメイ、ポルトギーザー、シャルドネ、カバスマ、シャルドネ、リースリング、ブラックセレクシア、ビラージなど。ブレンドワインが多い。
特にリースリングは高品質ワインが多い。
ドニプロ下流(砂浜) ゾーン
ドニプロ川の下流、右岸エリア。レーニン、ベリスラスキー地区、ヘルソン地域、ヘルソン地方のゴロプリスタンスキー、ツルピンスキー、カホフカ地区を含むニズネドネプロフスク。
ほとんどのヨーロッパ品種を栽培。特にカベルネの赤ワインが有名。
アゾフ ゾーン
クリミア半島からロストフ地域までのアゾフ海北海岸にそって広がる土地。
夏暑くて乾燥するため、アルコール度数が高く酸度が低いワインが多くなる。
マスカットシャスラ種(地元ではバーチと呼ばれる)のワインがよく知られている
イズマイール ゾーン
オデーサ南西、モルドヴァの南で、黒海に面するエリア。クリミア半島の入り口。
南西部(ダヌビアン地域)はそれほど暑くなく、ブドウの生育期間が長いのが特徴。アリゴテ、リースリング、イタリアンリースリング、セミヨン、カベルネ、トラミナー、マスカットなど。
北部は丘陵地域で、アリゴテ、リースリング、カベルネ、シュナンなど。高品質なテーブルワイン、スパークリングワインが生産されている。
中央部は平坦な地域で、砂地の上にワイナリーがあり、特に「シャボー」は高品質ワインで有名。
ザカルパッチャ ゾーン
ウクライナ西部、ザカルパッチャ山脈の麓の南斜面にある、夏は長くて暖かく、フジは短くて寒くない地域。
フルミント、ガルスレヴェル、トラミナー、ホワイトマスカト、ホワイトフェテアスカ(リーンカ)、セミヨン、リースリング、イタリアンリースリング、セレムスキーグリーンなど。ホワイトフェテアスカイタリアンリースリング、セレムスキーグリーンは要注目(白ワイン)。
クリミア ゾーン
クリミア半島にあり、亜熱帯気候で、夏は暑く乾燥し、冬が短い地域。
アルコール度数が高く酸度が低いワインになる。
古くからワイン生産が行なわれ、高品質デザートワインの「マサンドラ・ワイン」が有名。
耳慣れない地名が多く、どのあたりなのかわかりにくいかもしれませんが、ドニプロ川、ヘルソン、オデーサ、クリミア半島など、ロシアの侵攻で耳慣れてしまった地名もありますね。
東京会場のセミナーの試飲ワインは6種
まず注目したいのは、左端の白ワイン「Shabo Telti Kuruk Reserve 2018」
土着のブドウ「TELTI-KURUK テルティ・クルック」を使用しています。
テルティ・クルックは「狐の尻尾」という意味で、房の形がクルンと巻いたキツネのしっぽを思わせることから名付けられました。
シャボ地域の砂浜地区で、この「Shabo」が唯一の原産地呼称だそうで、クリミア半島の入口、イズマイールゾーンになります。
粘土砂混じり土壌で、1000haのエリアに30品種が植えられているそうです。
ワインの味わいは、グリーンノートの爽やかな香りがあり、果実味も酸味もソフトでまろやか。柑橘の白い部分の印象があり、ほのかにミネラルも感じ、口当たりよく飲みやすい白ワインでした。
TELTI-KURUKの右はリースリング100%の白ワイン「ツルベツコイ ナッドニプリヤンスキ 2016」
ヘルソンのツルベツコイワイナリーの白ワインです。
ラベル表記が英語ではないので、わかりにくいのが難ですが。
その右はオデーサの赤ワイン「アッケルマン サペラヴィ プレミアム 2020」。
サペラヴィ100%で、色濃いですが、まろやかでやわらかでした。
その右は「スタホスフキー メルロ Ace 2019」。
ザカルパッチャの赤ワインで、メルロ100%。
まだ若いワイナリーとのこと。
樽の香りが華やかですが、爽やかなロースト感で、重たくはありません。メルロですからね。
ボルシチに合う、とアンナさんは言っていました。
その右は、「ツルベツコイ ピノ・ノワール リミテッド 2018」。
ヘルソンンのツルベツコイワイナリーの、ピノ・ノワール100%の赤ワインです。
枯れ葉、紅茶、野イチゴのコンフィ、野ばらの花のニュアンスがあり、赤系果実がチャーミング。サワーチェリー系の風味、やや樽。
ペアリングは、「サーロ」と呼ばれるイタリアのラルドに近い豚の皮に近いトロトロの部分がオススメとのことでした。
右端は甘口の「チザイ トロイヤンダ カルパット 2017」。
ザカルパッチャのトラミネール100%、アルコール度数16%。
トロピカルフルーツ、オレンジのニュアンスのある、リッチな甘口。
焼きリンゴに合わせるのがオススメ、とアンナさん。
アンナさんはウクライナの料理についても紹介してくれました。
また、上記のワインは東京のセミナーでのものですが、オンラインZOOMではまた別のワインが紹介されましたので、ウクライナ料理とあわせ、また別途取り上げたいと思います。
アンナさんと日本ソムリエ協会の田崎眞也会長
なお、アンナさんが勤めるウクライナワインの輸入会社は横浜にある株式会社ヘルムズで、ウクライナワイン専門店「Vino Pioner」(ヴィノピオネール)を運営しています。
セミナーで紹介したワインはすべてヘルムズの取扱いになりますので、興味ある方は下記URLをご覧ください。
Vino Pioner
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