7日(土)は、午前中、東京ドームで開催中のテーブルウェア・フェスティバル2009~暮らしを彩る器展を視察しました。
京都で過ごした学生時代、アルバイト先の料亭で料理や器の魅力に出会い、20代の駆け出しライターだったころ、ライター稼業では食べられなくてアルバイトしていた喫茶店のオーナーが民芸陶器のコレクターだった影響で、全国の窯元のことを勉強したり、地酒に出会ってからは酒器にも凝りだしたりで、若いころは陶磁器に目がない時期がありました。
当時の自分が、こういうイベントに来たら、丸一日会場に張り付いていたでしょう。全国の主要陶磁器産地や、ガラス、漆器、クロスなど、食卓を飾るあらゆるアイテムがドームいっぱいにそろっていました。
年齢を重ねるうちに、器よりも中身だろうと思い始め、この手の世界への興味がだんだん薄れていったのですが、会場を回遊しているうちに、たんに器を眺めるだけでなく、今、食卓に求められているもの…たとえば、自宅なら誰とどんなふうに過ごしたいのか、料理名人やきき酒名人なら料理や酒をどんなふうに表現したいのか、ホームパーティーなら主人が客をどんなふうにもてなしたいのか…食卓を舞台にしたコミュニケーションの在り方が見えてくるような気がして、とても見ごたえがありました。
酒器集めに熱中していた過去を思い起こさせたのが、長崎の波佐見焼。静岡吟醸のようなデリケートな酒を呑む時は、杯が唇に当たるとき、唇のカーブに沿ったやわらかい曲線と、器の存在感を感じさせない薄さ・軽さが欲しいんですね。
有田焼や清水焼の薄い白磁の酒器をいくつか持っていますが、私が小遣いで買える程度のものなので、プロのきき酒師やテーブルコーディネーターが見たら笑われると思います。
今回出会った波佐見焼の窯元・嘉久房窯は、自分が持っている白磁杯よりもさらに軽くて薄くて、「うわぁ、これで喜久醉松下米40が呑めたら最高だ~」と溜息をついてしまいました。窯元の娘さんに聞いたら「お酒が大好きな父が作った杯なので、お酒が好きな人にはわかってもらえると思います」とのこと。娘さんも陶芸作家で、ご自身は焼酎の酒器が自慢だとか。「薄い白磁なので、氷がゆれるといい音がするんです。お酒好きの人は、音でも呑めるっていいます」。
波佐見焼といえば、秀吉の朝鮮侵略で被虜人となった朝鮮の陶工・李祐慶らが始祖となった焼き物。朝鮮通信使の歴史をかじった者として、忘れてはいけない史実であり、日本の陶芸文化と、それに支えられた日本の食文化の礎となった朝鮮文化の価値を改めて実感します。
芸術作品ともいえる嘉久房窯の酒器は、その場で衝動買いできる価格ではありませんでしたが、いつかはこういう酒器が日用使いできる呑み手になりたいなぁと思いました。
さて、今回の視察の目的は、過去ブログでも紹介した、静岡市ホテル旅館協同組合女将の会が出展した『新茶のころ 静岡のおもてなし』。展示されていたのは、My Styleセレクション~創り手からの提案というコーナーで、産地発の食卓提案が楽しめました。
漆器や千筋細工や指物といった伝統工芸品は、アースカラーがベースなので、見た目はちょっと地味。その中で も、富士山マークがデザインされた金剛石目塗りの酒器にお客さんの目が集まっていました。やっぱり静岡って富士山なんですねぇ・・・。
ブースに女将の会の方が誰もいなかったので、お話が聞けなかったのが残念でした。
いずれにしても、旅館の女将さんたちがこういうコーディネートに挑戦し、全国のトレンドに触れて何かを吸収するということに価値があったはず。女将さんたちに後日談が聞けたらいいなと思います。