杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

『朝鮮王朝の絵画と日本』展

2009-02-17 00:16:25 | 朝鮮通信使

 今日(17日)から静岡県立美術館で、『朝鮮王朝の絵画と日本』が始まりました。静岡第一テレビが開局30周年記念事業で主催し、ニュースやCMでバンバン宣伝していますよね。昨日は関係者が集まっての開会式と内覧会が開かれ、私も一足先に鑑賞してきました。

 

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 この展覧会を担当する県美学芸員の福士雄也さんに、京都の高麗美術館で偶然お会いしたのが昨年4月。当時のブログにも書いたとおり、朝鮮の花文字クリムを一緒に体験しながら、来春、静岡空港開港に合わせて朝鮮絵画展を大々的に開催すると聞いて、「ぜひ話の種に観てください」と映像作品『朝鮮通信使~駿府発二十一世紀の使行録』DVDをお贈りし、ダメもとで、「静岡市が作った映画だけど、せっかくの機会なので展覧会開催中に上映していただけたら」とひと声添えてみました。

 

 

 

 その後しばらくこの件では連絡がなかったので、空港の開港が延期になったので展覧会も延期かしら?と思ったり、やっぱり県立の施設で市製作の映画上映は無理か…とあきらめていたところ、昨年末に「製作元に上映許可を取るにはどうしたらいいですか?」と嬉しいメールが。すぐさま、窓口のSCV(しずおかコンテンツバレー推進コンソーシアム)に話を通し、静岡市の許可を取り付けてもらいました。この時点では、よく美術館や博物館の休憩コーナーに設置してあるテレビで随時流すような扱いかと思っていたのですが、福士さんからいただいた案内を見てビックリ。プログラムに3月14日13時30分から講堂(定員250名)にて特別映像上映会とあり、山本起也監督や林隆三さんの名前もちゃんとクレジットされていて、二重に感激しました。

 

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 実際の展示物の中に、我々が撮影した絵画類もいくつか含まれるとわかり、これは作品にとって願ってもいない上映会になると嬉しさ百倍! 一人ではしゃいでいるみたいですが、やっぱり苦労して書き上げた脚本だったし、ロケ地や絵画古文書類を探して撮影の段取りを取るのもすべて担当したので、ひとつひとつのシーンに深い思い入れがあります。映画もこうして美術品と同じように作品として大切に扱ってくれることに、無上の喜びを感じます。

 福士さんとの偶然の出会いも、何かのお導きのような気がします。本当に感謝します。

 

 

 

 

 

 

 映像作品『朝鮮通信使』のおかげで、朝鮮の絵画については多少の知識が持てましたが、それも朝鮮通信使の訪日以降のこと。朝鮮王朝は14世紀末に建国し、日本とは室町時代から深くかかわっていて、室町期の水墨画にも影響の跡が確かにあって、そこから江戸期の朝鮮通信使交流時代にかけ、日本の絵画に多大な影響を与え続けていたことを、今回、地球儀的史観で実感することができました。

 

 

 

 映像作品『朝鮮通信使』の脚本では当初、通信使一行の画員(絵師)を、日本の絵師たちが憧れのヒーローを迎えるような思いで待ちわび、画法について質問攻めにしたり指南を受けたりというエピソードを入れたものの、監督に却下されたことがありました。絵画に限らず、詩や書や音楽、医学、薬学などさまざまな分野で同じような現象が見られ、限られた尺の中で、いつの、どこの、どんなエピソードを入れるかは、撮影し終わった後でも最後の最後まで悩んだものでした。

 

 日本の絵師が、実際、どれほど朝鮮の影響を受けていたか、活字の史料や研究論文をめくっただけではピンとこなかったことも、こうして朝鮮と日本の作品を並べて比較して見て、本当によくわかりました。『朝鮮通信使』は約70分の作品。せっかくのハイビジョン作品、あと30分長くできたら、絵師同士の交流エピソードを美しい映像で残すこともできたのに…と思います。

 

 

 

 私的に見ごたえがあった展示品をいくつか挙げておきます。

 第1章「朝鮮絵画の流れ~山水画を中心に」のコーナーでは、「雲山図」(崔叔昌ほか・大和文華館蔵)。保存状態がよく、クリアに見ることができました。ちなみに大和文華館(奈良市)は私が大学時代に博物館学芸員資格を取るために実習を受けた美術館で、小規模ながら中国朝鮮の美術に特化した大好きな美術館のひとつです。

 「龍虎図」(李楨・高麗美術館)は朝鮮の民画につながるような迫力とユーモアあふれる虎や龍が魅力。

 

 

 第2章「仏画の美~高麗から朝鮮王朝へ」では、朱の地に金泥や白色系顔料で描かれた「阿弥陀如来図」(岡山県立美術館委託)に目がとまりました。如来様の表情のたおやかさはもちろん、作品全体の品格と、日本の仏画にはない朱で統一された世界観に惹かれました。

第4章「民画誕生」のコーナーでは、現代感覚にも通じる文房図屏風(日本民藝館、静岡市立芹沢銈介美術館など)に魅了されました。朝鮮民画はいつ見ても絵ごころがくすぐられる楽しさがあります。

 

 

 

 お目当ての朝鮮通信使関連では、清見寺の「山水花鳥図押絵貼屏風」を久しぶりにご拝謁。『朝鮮通信使』で林隆三さんに清見寺の住職と通信使のやりとりを一人芝居で演じていただいた“洛山寺の絵を描いてほしい”の屏風絵です。思えば、最初のロケハンでわけもわからずにこの絵をいきなり見せられ、北村欣哉先生の解説も馬耳東風状態でしたっけ。

 

 

 

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 ホンモノが撮影できず、ポジ写真を借りて代用した辛基秀コレクション(大阪歴史博物館蔵)の「正徳度朝鮮通信使行列図巻」にも再会できました。展示されていた場面が国書や正使や小童などおなじみの行列シーンではなく、判事、書記など地味な?随行員の行列シーンだったので、福士さんをつかまえて「なんでここ?」と訊ねたところ、「ほら、ここに画員(絵師)がいるでしょう?画員が主役の展覧会ですからね」とニッコリ。なるほどと思い、隣の「東照社縁起絵巻」(日光東照宮宝物館蔵)に目を移すと、おなじみ清道の旗を先頭に正使や副使が端正に描かれています。

 

 正使の前に、本来なら国書を納めた御輿が描かれるはずですが、日光詣では、江戸で将軍に国書を渡した後の出来事なので、なるほど、国書の御輿はなかったわけです。この絵巻は初めて見るもので、さすが東照宮宝物館蔵の重要文化財だけあって、保存状態のよさに感心しました。

 

 

 

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 一番気に入ったのは、白隠禅師が描いた「曲馬(乗)図」。沼津の地酒・白隠正宗の大吟醸ラベルの原型になったような作品で、通信使の馬上才(馬乗りサーカス)が漫画チックに描かれていて、白隠さんの遊び心が伝わってきます。絵葉書になっていたので10枚も買いこんでしまいました。

 

 

 

 他に、映画の中で使った高麗美術館蔵の「馬上才之図」や、英一蝶の「馬上揮毫図」、葛飾北斎の「東海道五十三次・原」「同・由比」など、『朝鮮通信使』をご覧になった方には見覚えのある作品が次々と登場します。1週間ごとに展示替えするので、一度に見られないのが残念ですが、中国~朝鮮半島~日本と、絵画の世界でも大陸的なつながりがあって、アジアは一つの大きな文化圏であることを如実に実感できると思います。

 こんなに近くて影響し合っているのに、まったく異なる言語や独自の風土を堅持し、1300年代~1800年代の約500年間、大きな戦争をしなかったというのは、世界史的に見て本当に珍しい文化圏なんですね。

 

 

 静岡県立美術館の「朝鮮の絵画と日本」展は2月17日から3月29日まで。映像作品『朝鮮通信使~駿府発二十一世紀の使行録』の特別上映会は3月14日(土)13時30分から美術館1階講堂にて。入場無料です。未見のかたはこの機会にぜひご覧くださいまし!