我が家には、使わなくなったパソコン(デスクトップ)が1台、ノートが2台、プリンターが2台、事業所用のコピー機(契約切れのリース品)が1台、無用の長物のまんま、狭いリビングを占領しています。お金を払って業者に引き取ってもらえば済む話なんでしょうが、ふつうの家電と違って、仕事に関するいろんな情報が往来したOA機器を、ゴミだからといって第三者に託すことに、どうも心理的な不安もあって(たんに面倒くさいだけなんですが)、あぁ~こういうときって個人事業者って不便だなぁと実感します。
昨日(12日)は、知っているようで知らない、パソコン・OA機器の“墓場”と“再生”の現場を、初めて、まざまざと見学しました。
(社)静岡県ニュービジネス協議会東部部会のトップセミナーで、訪れたのは愛知県三好町にあるシーピーセンター㈱。パソコン・OA機器を中心とした産業廃棄物処理の会社で、先日、2009愛知環境賞優秀賞施設に選ばれた会社です。
東名高速三好ICのすぐ近くにある、一見、ふつうのプレハブの物流センターみたいな社屋。1階には粉砕機や圧縮機と、解体・分別されたコンピュータやプリンター・コピー機などの“屍”が山積みされています。
こういう基盤に使われているレアメタルってバカにできないそうです。昔、コンピュータが1台何百万もしたのは、こういうところに金なんかを使っていたからで、パソコンが低価格になった一因とは、金に替って銅メッキなどで対応できる技術が発達したおかげ。とはいえ、日本国内でこういう形で眠っているレアメタルの量は、アフリカの鉱物埋蔵量よりも多いんですって!
2階はトイレ以外はすべての部屋の扉にセキュリティがかかっています。運び込まれたパソコンは、まず2階の専用ルームでデータの消去作業を行います。顧客(おもにOA機器リース会社、金融、メーカーなど)から依頼があると、自社トラックで引き取りに行き、1台ごとにバーコードを貼り付けて積み荷をし、ここへ持ち込みます。最初から自社トラックで完全管理をするというのが、セキュリティの第一歩なんですね。
データ消去の方法は2つあって、ひとつはハードディスクに穴をあけてマテリアル(鉄やプラスチック)に戻すというもの。穴をあける機械は可動式で、顧客のオフィスに持ち込んで目の前で穴をあけるなんてサービスもするそうです。
もうひとつはハードディスクに専用ソフトによる上書き消去。米国国家安全保障局準拠(NSA方式)の3回上書きで、機密データを完全に抹消し、パソコンとして再利用の道を図ります。
どちらの方法を取るかは顧客の希望(コストがかからない消去再利用のほうが多い)で、どちらにしても作業完了証明書を発行します。バーコードリーダとサーバをリンクさせているので、顧客は最新の処理状況を確認できます。
…と、まぁ、ここまでは、OA機器の処理方法としては至極真っ当かなと想像できましたが、この会社が素晴らしいのは、ハードディスクに穴をあけて素材化=リサイクルと、データ消去で再利用=リユースを徹底させ、リサイクル率98%を実現させたこと。デスクトップパソコンのCO2排出量を換算すると1台当たり120kg、ノートでは80kgだそうで、リサイクル率98%にすると約369haの森林保護に相当するとか。こういうふうに、可視化できる数値で地球環境保護意識を共有しているというのは、企業姿勢として清々しく思います。
もうひとつ素晴らしいと思ったのは、解体分解セクションでシルバー人材と障害者の若者と積極登用している点。社会経験豊富で人望のあるベテランのシルバーさんが、知的障害者を上手に指導しています。障害者といっても一つの作業への集中力は極めて高く、「まじめで能力が高く、健常者とまったく変わらないか、それ以上」と鈴木社長は言います。
訪問をコーディネートしてくれた旅行会社レイラインの小松みゆきさんが、後で、「あの社長は、障害者を健常者と同じ賃金で雇っている。障害者年金がもらえないから減らしてくれという親もいるそうだが、“あんたたちのほうが先に死ぬんだから、子どもに自活する力を付けさせるべきだろう”と説得し、家族の納得が得られた子を採用しているそうだよ」と教えてくれました。
視察の途中で、鈴木社長が「養護学校に通う障害者のうち、重度の知的障害者は5割ぐらい。残りは、家族が本気で支える気持があれば自立も不可能ではない子たち。家族が出資してNPOを作ってこういう作業所をあちこちで作れば、彼らが働き、自立できるチャンスはもっともっと生まれるのに…」と本音を漏らしていたのが印象的でした。
2011年の地デジ放送完全移行で、まもなく、不要になったブラウン管テレビが大量に産廃市場に流れ込んできます。一方で地球温暖化対策が叫ばれ、産廃処理場のリサイクル率向上が急務とされている中、不要テレビの処理はどうなるんでしょう。地デジ対応のテレビの買い替えを叫ぶボリュームと同じぐらい、鈴木社長のような事業者を一人でも多く支援することにも力を投入すべきではないでしょうか。
鈴木社長は、「家電リサイクル法が施行され、新しい商品を買うとき、消費者はリサイクル料金を上乗せされた金額を払わされるが、その料金がどういう使われ方をしているのか、消費者には知らされていない」といいます。
リサイクル事業を始めてから、産廃処理のあり方、高齢者や障害者雇用のあり方、障害者を持つ家庭のあり方など、陽の当たらない社会のはざまにある問題が、いろいろと見えてきたと語る鈴木社長。
ニュービジネス協議会では、これまで、どちらかというと、IT企業の最先端インテリジェントオフィスやら最新機器の展示会といった、陽の当たるところへの視察や見学が多かったのですが、今回の視察は、参加者が経営者として、さらには一個人、一家庭人として、考えさせられるものも多かったのでは、と思いました。
もっとも、遅いお昼をいただいた、あつた蓬莱軒本店のひつまぶしで、重い気分も吹き飛んでしまいましたが(苦笑)。