杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

テレビ夕刊の反響

2009-02-14 11:59:55 | 吟醸王国しずおか

 今日はバレンタインデーですが、一日おこもり原稿書きで、外に出て(公私ともに)男性に会う予定もありません。ちょっと前なら、そんなバレンタインデーの過ごし方をわびしいなぁと感じたものですが、今日がバレンタインデーだということもさっきまで気づかずにいて、あ、今日は外出しないからチョコで散財せずに済むと安堵した自分に、「これが年を取って開き直るオバサン化現象か」と笑えてきます。

 

 先月24日の静岡経済同友会新年会で風邪をこじらせて以来、3週間経って、昨日やっと病院へ行きました。先生は私の年齢を見て当然のように「お子さんや旦那さんや職場の人から感染した?または感染させた?」と聞きます。「独り暮らしで個人事業者です」と答えたとき、あぁ自分のような生き方というのは、やっぱりマイノリティなんだとちょっぴり痛く感じました。

 

 バレンタインデーに贈る相手がいないことよりも、お医者さんからそういう質問をされるほうが堪えるものですね。何も好んで独りでいるわけではなく、ライターという職業で自立するために必死にもがいて気がついたら20数年経ってしまったわけですが…お医者さんの悪気のない問いに傷つくあたり、まだまともかな(苦笑)。こういうことにも不感症になったら、おひとりさま人生を全うするしかない!?

 

 

 昨夜は、6日(金)にSBSテレビ夕刊Eニュースで放送された「静岡の酒を映画に」を、1週間遅れでやっと観ました。仕事の都合でオンタイムに観られず、ビデオで留守録をセットしておいたのですが、20年も使っている故障持ちのビデオで、案の定留守録に失敗し、この1週間の間にいろんな人から反響をいただいたのに空返事をするしかなく、水野涼子さんに泣きついたら録画コピーを送ってくださったのでした。

 

Dsc_0004  まず驚いたのは時間。この時期は各局のニュースで「新酒の仕込み真っ最中」といった話題が流れるので、日本酒が季節的に旬だからその一環のニュースとして取り上げてくれたのかなと思ってました。ところが放送を観た地酒研の会員から「すごい特集だったよ。あんなに時間をかけて取り上げるなんてローカルニュースでも珍しい」と言われてびっくり。実際に観てさらにびっくり。5分近い特集で、最後には資金カンパまでアナウンスしてくれて、公共の電波を使わせてもらって申し訳ないやら恥ずかしいやらでした。

 

 内容は、我々の磯自慢酒造での撮影を、SBSのカメラが追うとともに、静岡の酒がサミットの晩さん会の酒に選ばれたほどレベルの高い酒であることを、磯自慢を通して伝えようとしたもの。さすがニュース番組、洞爺湖サミット晩さん会でブッシュ大統領がおいしそうに呑んでいる表情が冒頭に使われ、「静岡酒の話題に世界の首脳の顔が使われるようになったのか…」とジーンとしてしまいました。

 

 続いて、磯自慢の洗米作業の実写映像に移り、そこでカメラを回している成岡さんと私の画に移り、長年この世界を取材しているライターが映像で記録することに挑戦しているという流れに。とくにこの蔵では、多田信男杜氏の麹造りが比類なき神業であるという点に焦点を置いて撮っていることを、私のインタビューをかぶせながら紹介してくれました。

 

Dsc_0020

 パイロット版の映像では、成岡さんと私が「サーカスだ!」と目を見張った上半身を使った酛造りと、蒸し米を運ぶ寺岡社長や蔵人さんたちの映像が使われました。

 

 寺岡さんが収録現場で、「一麹、二酛、三造りと言われる重要な酒造工程は本来非公開だが、鈴木さんだから、各蔵とも信頼して撮ってもらっている」というコメントをしてくださったのには、多少のリップサービスがあったとしても感激でした。

 

Dsc_0014  

 

 この特集は、涼子さんがご自分で企画し、台本を書き、まとめてくれたものです。もし『吟醸王国しずおか』制作のことをまったく知らなかったディレクターが作ったとしたら、サミット酒で話題になった磯自慢の酒造りだからとか、テレビの取材ではカンタンには撮れない麹室内の貴重な映像があるからニュースにする、という作り方をしたかもしれません。

 

 ブログにも書きましたが、収録当日、蔵人の待井さんに前夜第一子が生まれたばかりですごく幸せそうな顔をしていた、その彼が実際にインタビューを受け、「子どもが大きくなったら、“お前が産まれたとき親父はこういうふうに頑張っていた”と話せます」とコメント。それもちゃんと使われていました。

 

 寺岡さんも私もインタビューではいろんな話をしましたが、どのコメントを使うかでニュースのトーンはガラッと変わります。この作品が挑戦しているものや目的を、涼子さんがちゃんと理解しているからこそ、そういうコメントを使ってくれたのだと思います。

 

 ニュース特集をキャスター自身が考えて作るということは今回初めて知りました。そしてこの特集が、静岡酒のファンで、『吟醸王国しずおか』の制作を最初から応援してくれた涼子さんの手で作ってもらえたことは、本当に幸せだったと思います。この場を借りて、涼子さんとSBSテレビ夕刊スタッフの皆様に心からお礼申し上げます。

 

 

 さて、放送後の反響ですが、せっかく連絡先の案内アナウンスをしてくださったのに、残念ながら一般視聴者から「応援する」のメッセージはゼロ。仕方ありません、酒屋や飲食店など実際に酒を商売にしている人からも十分な理解や協力がないんですもの。放送時間帯(18時30分)からして、酒飲みが見られる時間じゃありませんでしたし…。

 留守番電話には2件、一般視聴者と思われる人からメッセージが入っていて、1件は「劇団をやっているが俳優を使ってくれ」というもの、もう1件は「口に入るものを作るのに帽子やマスクもしないなんて不衛生だ、あんな映像を見せられると酒を飲みたくなくなる」というクレーム?でした。

 

 …杜氏や蔵人が体を張って造る姿は尊く美しいと、我々地酒ファンは当たり前のように思っていたのですが、一般の人は必ずしもそうじゃないんですね。初めて気付かされました。「テレビってどんな見方をされるかわからない、こわいですねぇ」と涼子さんに伝えたところ、「クレームの類はタイヘンなもので、我々は慣れていますが、真弓さんにはかえってご迷惑をかけてしまって…」と気を遣ってくださいました。

 

Dsc_0030  カメラマンの成岡さんがちゃんと紹介されなかったことに、成岡さんの周辺からは不満があったようです。

 中には「鈴木ばかりがなぜ目立つ」「鈴木は成岡への感謝のひと言もない」「成岡は鈴木にいいように利用されている」という辛辣な声もあったとか。成岡さんは「いや、真弓さんは会報誌やブログで自分のことをたててくれているよ」と答えたそうですが、活字媒体でいくらアピールしても、映像業界の人には伝わらないんでしょう。

 

 収録前には「2人で一緒に作っているので成岡さんにもインタビューを」とお願いし、当日も「風邪で体調が悪いから寺岡社長や成岡さんへのインタビューを中心に」とお願いしたのですが、「限られた時間内では難しい」と言われました。もともと涼子さんが考えていた構成に口をはさむつもりはなかったし、成岡さんの会社はSBS番組の制作を請け負う立場でもあったので、私が強要して何か支障があってもと思い、おまかせしました。

 

 それでも、成岡さんびいきの人が見たら面白くなかったんでしょう。ただでさえ、作品の内容に対する批判やクレーム、撮影・制作の段取り、資金集めの矢面に立って眠れない日が続いているのに、こういう反響が来るとは・・・はぁ~と脱力。社員や身内や仲間にそういう心配をしてもらえる成岡さんに比べ、独り身で個人事業者の自分には味方がいない…なんてひがんだりして。

 

 冷静になって考えれば、成岡さんがそれだけこの作品に一生懸命力を注いでいる姿を、周囲が認めているという証拠でもあるわけで、その努力にちゃんと報いてやってくれ、というメッセージだと受け止めました。

 

 涼子さんには「成岡さんサイドからこういう反響があった」と報告し、想像したとおり「SBSでお願いしている制作会社の社長さんをニュースで取り上げることに、社内でコンセンサスが得られませんでした。真弓さんのお気持ちに応えられず申し訳ありませんでした」と丁寧なお返事をいただきました。

 

 この作品の作り方は、従来の映像制作の常識とは違うと思いますし、成岡さんも、今までの下請け業務とはまったく異なるやり方に、戸惑い、手探りながらも、被写体である酒蔵の世界に魅力を感じ、映像に残す価値を実感して果敢に挑戦してくれています。

 このブログをご覧の成岡ファンのみなさま、どうかその点をご理解いただき、成岡さんの意欲を削ぐのではなく、背中を押すメッセージをくださいまし。

 

 

 涼子さんからは「あの特集のとき視聴率がピンと上がり、終わったら下がり、同時間帯の各局視聴率ではナンバーワンでした。山になったグラフを見て嬉しくなりました」という報告もあったことを、付け加えておきます。