12月1日付 読売新聞編集手帳
畠山みどりさんの『出世街道』にある。
〈やるぞみておれ 口には出さず
腹におさめた一(いち)途(ず)な夢を…〉(詞・星野哲郎、曲・市川昭介)。
短く、
簡素な口上に、
その歌詞を重ねた。
四字熟語はない。
「大関の名を汚さぬよう精進します」。
きのう大関昇進が決まった東関脇の稀勢の里関(25)が、
日本相撲協会の使者に述べた言葉である。
先月、
先代師匠の鳴戸親方(元横綱隆の里)が59歳で急逝した。
書斎から、
口上の言葉を考えた30~40枚のメモが見つかったという。
「大器」と言われつつ足踏みのつづいた愛(まな)弟(で)子(し)の晴れの日を、
いかに心待ちにしていたかが分かる。
昇進の目安である直近3場所の勝ち星合計33勝に1勝足りなかった。
安定感を評価されての昇進だが、
本人は1勝の欠落を我が身に当てる鞭(むち)として「やるぞみておれ」の心境に違いない。
日本人横綱の誕生を待ちわびるファンは多かろう。
2年前の春、
本紙「よみうり時事川柳」に載った一句がある。
〈稀勢の里君(きみ)が何とかせにゃいかん〉(東京・後藤克好)。
君と琴奨菊関(27)が――と読み替えて、
“出世街道”に旅立つ人へのはなむけとする。