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業(ごう)

2011-12-15 13:52:37 | 編集手帳



  12月14日付 読売新聞編集手帳


  落語家の立川談春さんは中学生の頃、
  落語に親しむ学校の催しで東京・上野の寄席を訪れた。
  のちに師匠となる談志さんが高座に上がった。

  談春さんの『赤めだか』(扶桑社)によれば、
  談志さんは四十七士の討ち入りを引いて落語論を語ったという。
  「でもね赤穂藩には家来が300人近くいたんだ。
   総数の中から47人しか敵討ちに行かなかった。
   残りの253人は逃げちゃったんだ」

  理性ではどうすることもできない心の働きを「業(ごう)」という。
  「逃げた奴等(やつら)はどんなに悪く言われたか考えてごらん。
   落語はね、
   この逃げちゃった奴等が主人公なんだ」。

  駄目な奴を認め、業を肯定するのが落語だよ、と。

  「たまには落語を聴きに来いや。
   あんまり聴きすぎると無気力な大人になっちまうから、
   それも気をつけな」。
  最後は、得意の毒舌で締めくくったらしい。

  〈熱(あつ)燗(かん)や討入りおりた者同士〉(川崎展宏)。
  被災者の身の上を思えば、
  どんな苦労にも耐えられると理性では分かりつつ、
  身勝手や怠け癖の“業”に震災後も負けつづけて迎えた「義士討ち入りの日」である。
  熱燗と、
  心優しい談志節が腹にしみ渡る。
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