12月10日付 編集手帳
「あれっ、おれの王将(おうさま)、どうした?」
「どうしたって、
さっき王手飛車取りしたら、
おめえ、どっこいそうは行くかって飛車が逃げたろ。
あんときもらった」
〈へぼ将棋 王より飛車をかわいがり〉
だが、
価値の軽重を取り違えるのは縁台将棋ばかりではない。
内閣にとっての「王将」とは法案の成立であり、
国会の審議である。
閣僚個々のメンツなどは、
それに比べれば“かわいがる”重みはさほどない。
国家公務員給与削減などの重要法案を積み残し、
会期延長もなく臨時国会が閉会した。
一川保夫防衛相と山岡賢次消費者相の問責決議案が可決され、
会期を延長しても野党の協力は得られないと野田首相は判断したらしい。
2閣僚のメンツに傷がつかぬよう当面は続投させ、
いずれ内閣改造で穏便に閣外へ送り出すのでは、
との観測もある。
法案を犠牲にしてのかばい立てならば「王より飛車を…」の誹(そし)りはまぬかれまい。
とくに一川防衛相の場合は資質に大きな疑問符がつけられているのに、
である。
〈長き夜をたゝる将棋の一ト手哉(ひとてかな)〉
(幸田露伴)。
身内をかばった一手が政権の命運に祟(たた)らなければいい。