12月3日 海外ネットワーク
10月から12月にかけてオーストラリアは
羊の毛を刈るバリカンの音が風物詩である。
羊は毛が伸びすぎると虫がついて病気で死んでしまうこともあるため、
毎年1回、毛を刈り取る必要がある。
大きい羊は体重50kgを超える。
仰向けにして、動かないよう足で抑えながら一気に刈り上げていく。
熟練の職人が1匹にかける時間はわずか1分足らず。
この技を覚えるには数年もかかる伝統の技術である。
オーストラリアは長年にわたって世界の輸出量の約半分を生産してきた。
100年以上の歴史を誇る産業を支えてきたのが毛刈り職人たち。
しかし、鉱物資源の世界的な需要に高まりを受けて、
よりよい賃金を求めて鉱山に転職する人は増える一方。
職人の数はピークだった20年前の1万人から
現在、4,000人以下にまで減っている。
職人
「この業界で働いている職人は高齢化してきている。
30年前はもっと若者がこの業界に来ていた。」
毛刈りを効率化させようとこれまでもさまざまな取り組みが試みられた。
1980年代には毛刈りの自動化が目指されたが、
逆に時間と手間がかかってしまい普及しなかった。
そして今行なわれている取り組みが、
日本のしょうゆメーカーとオーストラリアの会社が共同で開発した注射。
もともと羊の体内にある成分で出来ていて
注射をすると一時的に毛の成長が止まり毛が抜けるので、
まるでコートを脱ぐかのように毛がきれいに取れる。
農場主
「羊の負担も少ない。
良質の羊毛がとれるのはすばらしいし非常に役立つと思う。」
オーストラリア政府 動物医薬品担当者
「政府として安全性を確認している。
生産者にとっても大いに役立つだろう。」
危機感を持った業界は後継者の育成に乗り出している。
研修に参加したのはほとんどが10代から20代の若者である。
嫌がる羊を相手にバリカンをうまく動かせず大苦戦で、
羊もたまったものではない。
ようやく開放された羊たちは
職人育成のためとはいえ傷だらけの痛々しい姿になってしまった。
深さが足りず同じ場所を何度も刈り直すと、
毛は細切れになり商品価値が下がる。
職人になるにはまだまだである。
オーストラリアの羊毛産業の未来を担う若者たちの挑戦が続く。