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ミンナエガオの道

2011-12-30 16:42:41 | 編集手帳



  12月30日付 読売新聞編集手帳


  戦後まもないころ、
  画家の安野光雅さんはバス停で朝鮮人のおばあさんと一緒になった。
  その人は言った。
  〈ヒトリダマリノミチナガイ 
   フタリハナシノミチミジカイ…〉

  近著『絵のある自伝』(文芸春秋)に書いている。
  「わたしはそれまでこのように美しいことばを聞いたことがないし、
   これからも聞かないであろう」。
  生涯忘れられない言葉が誰にもある。
  今年、
  震災のなかで出会い、
  胸に刻んだ言葉の幾つかを。

  〈ままへ。
   いきてるといいね 
   おげんきですか〉
  (4歳の幼女、昆(こん)愛海(まなみ)ちゃんが津波で行方不明の母親にあてた手紙)

  〈(もしも病気に負けた)そのときは必ず天国で、
   被災された方のお役に立ちたいと思います。
   それが私の務めと思っています〉
  (55歳で死去した“スーちゃん”、女優の田中好子さんが生前に録音したメッセージ)

  〈こころざしをはたして
   いつの日にか帰らん
   山はあおき故郷(ふるさと)
   水は清き故郷〉
  (唱歌『故郷』)

  ふるさとを離れ、
  なじみの薄い土地で年を越す人たちがいる。
  迎える年がヒトリダマリではなくフタリハナシ…いや、
  ミンナエガオの道でありますように。
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