9月6日 編集手帳
「ネタ」という言葉を辞書で引くと、
「種(たね)」の倒語と出ている。
読みは逆さまだが、
「もとになるもの」「材料」といった意味はそのままで、
「話のネタ」などと使う。
作家の林望さんは10年前に上(じょう)梓(し)した『帰宅の時代』で、
家庭の会話を畑の植物に見立て、
その畑を日頃から耕しておくことを「会社一辺倒」でやってきた人々に勧めた。
〈日ごとの手入れを怠って草ボウボウにしておいた荒れ畑には、
会話の花など咲きはしない〉
国家公務員の始業と退庁を早め、
夕方からの自由な時間を増やす「ゆう活」が先週の月曜で終わった。
国会の会期延長の影響もあり、
政府の狙い通りには定着しなかったようだが、
長時間勤務を見直す機運を世の中に呼び覚ます効果はあった。
日のあるうちに電車に乗り、
夕餉(ゆうげ)の畑にまく 「話のネタ」をあれこれ考えながら家路を急いだ方もあろう。
実りの秋とはいうけれど、
夏に種をまき始めたところである。
いまは収穫のことなど考えずに「継続は力」と思い切るときだろう。
日が沈んだら家の外に用はない。
そう発想を変えて、
日照時間の短くなっていく季節を過ごすのもいい。