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生きる情熱と生命力を感 じさせてくれる山よ

2015-09-19 11:20:20 | 編集手帳

9月15日 編集手帳

 

 夏目漱石は迷子になったらしい。
句稿に、
「阿蘇の山中にて道を失い終日あらぬ方にさまよう」と前書きがある。
〈行けど萩(はぎ)行けど薄(すすき)の 原広し〉。
1899年(明治32年)9月、
第五高等学校の同僚と阿蘇山に登った、

ちょうど今頃の季節だろう。
小旅行はのちに短編『二百十日』として実を結ぶ。
その作品を収めた文庫本を旅の道連れに、
今週末からの大型連休は「行けど萩、行けど薄」の秋景色に出会う予定の方もいたはずである。

黒い噴煙が火口か ら激しく上がるニュースの映像に見入った方は多かろう。
熊本県の阿蘇山が噴火した。

関東・東北地方を記録的な豪雨が襲ったばかりで、
死者・安否不明者は20人を超えている。
地上の豪雨と堤防決壊だけで、
人々の胸にある悲しみの容器はすでに満杯だろう。
せめて地底の異変は穏便に鎮まってほしい。

吉井勇の歌 がある。
〈君にちかふ阿蘇のけむりの絶ゆるとも万葉集の歌ほろぶとも〉。
その名前が恋歌のなかに置かれて違和感がない。
仰ぐ人々に生きる情熱と生命力を感 じさせてくれる山である。
どうか、
ご自分の印象を裏切らないで――と、
山の神に祈る。

 

 

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