11月2日 読売新聞「編集手帳」
東京・神保町は古書店が並び立ち、
「本の街」として知られる。
何年か前のことだが、
レジですこしばかり驚いたことがある。
店員さんに本を渡すと、
パラパラとめくってページの開き具合を調べたり、
奥付をのぞいて発行年を確かめたり…次に包装紙を引っ張り出す。
本を空気の隙間がないように包み込み、
受け取るときは駅で買う弁当のような姿でレジから出てきた。
古書は接着剤が弱まると持ち運ぶ際に崩れることもあるため、
しっかり梱包こんぽうするのだという。
丁寧な仕事ぶりに感心させられた。
神保町は今、
読書週間恒例「古本まつり」の最中だが、
そこにいささか残念なニュースが流れた。
東京五輪のマラソン・競歩が札幌に移ることが正式決定した。
商店会では猛暑と沿道の応援の人出を見込み、
涼のとれる「ミストシャワー付きベンチ」を先ごろ設置したばかりだった。
屋根付きのそれはスギやヒノキで造られ、
外観にも趣向を凝らす。
資金集めなど設置に奮闘した方々はどんな思いだろう。
町に根付くおもてなしの気持ちが、
大会開催のレガシー(遺産)として人の心に残ることを願わずにいられない。