11月26日 NHKBS1「国際報道2019」
韓国では教育を通じて
日本の植民地支配は非常に過酷な抑圧だったという歴史認識が形成されているが
そうした認識に多くの異論を投げかける本が韓国で出版されてベストセラーになっている。
タイトルは「反日種族主義」。
11月21日 都内で記者会見をしたソウル大学元教授 イ・ヨンフン氏。
「反日種族主義」の日本語版の発売に合わせたものである。
(ソウル大学元教授 イ・ヨンフン氏)
「『反日種族主義』は
韓国現代文明に沈潜している“原始”や“野蛮”を批判したものです。」
韓国で今年7月に出版されたこの本。
“歴史をめぐって続く強い対日批判には事実に基づかないレッテル貼りが少なくない”
と主張する。
隣国の日本を先祖代々の敵だとしてとららえる感情
あらゆる嘘が広まっているのはこの“反日種族主義”によるものだ
韓国の経済史が専門のイ・ヨンフン氏。
他の研究者と協力して膨大な資料や統計を分析し
韓国における多くの定説を本の中で否定している。
たとえば徴用に関して
“炭鉱で働いていた朝鮮人は民族に基づく差別によって賃金は低く抑えられた”
と韓国では教えられてきた。
しかし
賃金は基本的に「成果給」であり
日本人と朝鮮人には分け隔てなく正常に賃金が支給された
賃金の差は
勤続期間の差
経験と熟練度の差から発生した
“民族差別による賃金の違いはなかった”とし
定説に異を唱えている。
「反日種族主義」は
“1万部売れればヒット”とされる韓国で
10万部以上を売り上げる入れのベストセラーになった。
ただ評価は真っ二つに分かれている。
大手ネット書店のレビューでは
評価が高い 5は52,3%
もっとも低い 1が42,5%である。
読んだ人たちに話を聞いても
(肯定派読者)
「衝撃を受けましたね。
自分が漠然と知っていたことと反対の内容がとても多かったので
自分の中にあった常識とは異なるものでした。」
(否定派読者)
「ゴミのような本だと思います。
この本に反感を覚える理由は
著者の結論ありきでそれに当てはまる資料ばかり言及しているためです。」
Q,「反日種族主義」はタイトルからして刺激的ですよね。
韓国でこのような本を出版しても大丈夫かと心配はしませんでしたか?
(ソウル大学元教授 イ・ヨンフン氏)
「正常な議論・客観的な判断や審判が成されていない
韓国の歴史学会の風土を何度も経験しながら
“そうかこれは反日種族主義なのだ”と考えるようになりました。
その上でムン・ジェイン政権が露骨な反日政策をとるのを目の当たりにして
この本を具体的に編集し
出版せねばならないと決断したのです。」
これまでにも歴史をめぐる韓国の定説に異を唱えた本はあった。
2013年に出版された「帝国の慰安婦」はその1つである。
著者のパク・ユハ教授は
元慰安婦の女性たちへの聞き取りを重ね
さまざまな資料も分析し
“女性たちは旧日本軍と同志的な関係にあった”などと記述した。
するとパク教授は名誉棄損で在宅起訴され
出版は差し止められた。
今回「反日種族主義」がそうした訴訟沙汰になることもなく
ベストセラーとして注目を集めているのはなぜか。
イ・ヨンフン氏は背景に韓国社会の成熟があると指摘する。
(ソウル大学元教授 イ・ヨンフン氏)
「広い視野で国際的な感覚を持って歴史を理解し隣国を理解する。
そうした現象が若い世代から広がっていると思います。
以前までは“あなたは親日派だ”と攻撃されると韓国人は反論できずにいました。
しかし今は“親日派”と攻撃されると
“それならあなたは反日種族主義者なのではないか”
“そうした言動はやめろ”
という主張がネットなどで広がりを見せています。
いい方向へ成熟していく姿が見られ始めているのです。」
韓国社会で歴史認識をめぐって多様な主張が許容され始めているとしても
徴用をめぐる日韓の対立は深刻である。
解決策はあるのか。
Q.韓国最高裁の判決は確定しそれを取り消すことはできません。
日韓双方はどうすれば今の対立を解決できるでしょうか。
(ソウル大学元教授 イ・ヨンフン氏)
「請求権協定によると協定をめぐる解釈で両国の対立が起きた場合
第三国に仲裁を受けることになっています。
実際にそうすれば済む話だったのです。
しかしムン政権は動きませんでした。
今の韓日の対立は司法ではなく行政の責任だと思います。」
イ・ヨンフン氏はまた
韓国の研究者たちが学説の間違いに気づいても修正できないのは
歴史研究も政治の深い分断に巻き込まれているためだと説明する。
保守派と革新派が激しく対立する韓国の政界で
相手側から“親日的だ”と責められるのは大きな打撃である。
その構図は歴史の分野にまで及び
研究者が過ちを認めて日本の主張に理解を示せば“親日”と糾弾されてきたのである。
(ソウル大学元教授 イ・ヨンフン氏)
「研究者も自分の所属する政治勢力のj利害にかかわる場合が多いため
いったん誤った主張をすると撤回できないわけです。
政治に翻弄されるのは後進国の歴史学です。」
一方でイ・ヨンフン氏は“日本の植民地支配を肯定しているのではない”という。
Q.この本を読んで
“日本の韓国併合は何ら問題なかった いいことだった”と
考える人が出てくるのではという懸念も指摘されますが。
(ソウル大学元教授 イ・ヨンフン氏)
「歴史を具体的かつ責任をもって考察すれば
日本の朝鮮支配は表面的な結果がどうであれ正当化できないものです。
日本自体も不幸になっていったわけでしょう。
韓国を踏み台にして
満州や中国に進出し
結局は世界大戦に巻き込まれ
国が廃墟同然になる大きな悲劇に見舞われたわけですから。
20世紀前半 東アジアの歴史がどうだったのか
歴史全体を見たうえで皆が責任感を持って考察すべきです。
重要なのは
今後どういう未来を開拓すべきかです。
東アジアの明るい未来
総合的な経済市場
永久の平和体制を共に築いていくことなのです。」