11月28日 読売新聞「編集手帳」
何年か前、
本紙歌壇を眺めていて、
旅情をくすぐられてメモに書き留めた作品がある。
<駅弁のはしの袋を栞しおりにしローカル線に詩歌しいか読みつぐ>
(高萩市 工藤要五郎)
じつは去年秋にもこの歌を思い出した。
駅弁5社がパリのリヨン駅で駅弁をひと月間、
販売するというニュースだった。
手応えがあったのか5社の一つ、
秋田県のJR大館駅の名物「鶏めし」をつくる会社がリヨン駅構内への出店を申し込んだという。
米所から美食の国に打って出る小さな会社の冒険にわくわくする。
できれば、
はしを入れる袋は紙にして、
駅弁の旅情も一緒に輸出していただきたい。
萩原朔太郎の詩とかさねてしまう。
<ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背広をきて
きままなる旅にいでてみん>。
気ままなる旅とは、
いかにも駅弁がお供になりそうである。
列車に揺られて本を読みながら、
はし袋を栞に使ったかもしれない。
今は交通手段が便利になり、
遠かった国がはるかに近くなって駅弁まで買えそうなこととの比較がたのしい。
泉下の朔太郎さんが知れば、
びっくりするだろう。