2021年2月10日 読売新聞「編集手帳」
島崎藤村の詩「別離」に季節の花と向き合いながら、
どこかせっかちになってしまう人の心情をつづる一節がある。
<梅の花さくころほひは
蓮さかばやと思ひわび
蓮の花さくころほひは
萩さかばやと思ふかな>
(「ころほひ」は古語で「時節」の意)。
春の梅から夏以降の花にそわそわと気持ちが移っていくが、
細かくいえば、
梅の次に桜、
桜の次は藤といった思いも隠れているだろう。
去年、
春の花々と戸惑いながら向き合ったのを思い出す。
桜の名所で宴会が禁止になり、
藤にいたっては初の緊急事態宣言のさなかに見頃が遭遇し、
紫に染まる枝を泣く泣く伐採した名所もあった。
民間の気象会社の開花予想によると、
今年のソメイヨシノは全国的に平年より早い地域が多く、
一番は東京で3月18日、
続いて福岡が20日、
名古屋21日、
鹿児島23日、
大阪24日…と開花していく。
西日本より東京が早いのは、
寒さが一定期間続くことで花芽の休眠打破が促されるためという。
桜が満開になるころ、
私たちはどうしているだろう。
舞い散る花びらのもと、
親しい人たちと車座になる景色は残念ながら浮かばない。
2021年2月9日 NHKBS1「国際報道2021」
いま中国で注目の職業は家政婦。
中国の都市部では誰もが気軽に家事をお願いする身近な存在で
地方から出稼ぎに来た人が掃除や洗濯などをこなしてきた。
その家政婦のイメージがいま生活が豊かになる中で大きく変わろうとしている。
家政婦派遣会社のPRビデオ。
本当の心・善・品質を提供します
アイロンをかけたばかりの服をネクタイ姿の男性が丁寧にたたんでいる。
この男性の職業は家政婦である。
大学を卒業した若者が心を込めてサービスを提供するとしている。
PRビデオを制作した家政婦派遣会社。
掃除などの家事にとどまらず
英語のレッスンや法律相談に家電修理など
さまざまなスキルを身につけた50人ほどの“スーパー家政婦”が在籍している。
利用者はそれぞれのニーズに合わせてオプションで選ぶことができる。
スーパー家政婦を頼むと割高となるが利用の申し込みが相次いでいるという。
(家政婦派遣会社 社長)
「今は多くの家庭が生活の質や子どもの教育を重視しています。
高級なサービスを提供できる家政婦の需要は今後も増え続けます。」
“スーパー家政婦”の1人 周さん(28)。
持っているスキルは
介護・産後ケア・子どものマッサージ・企業アドバイザーなど
合わせて13の資格。
周さんに最も求められている家事は中学受験を控えた長男の家庭教師である。
「slow downの意味は?」
「スピードを落とす。」
「そのとおり」
共働きの両親は勉強を見ることができないことから
大学を卒業している周さんの学歴を高く評価している。
さらに保育士の資格を持つ周さん。
2歳の長女の相手も手慣れたものである。
「鍵はどれかな?
そう ドアを開ける鍵ね。」
家族は月に約25万円を支払って週6日のサービスを利用している。
一般的な家政婦にかかる費用の倍はするが
家族にとって周さんは欠かせない存在だという。
(依頼主)
「多くのお金を払っていますが
たとえ人から高いと言われても
彼女にはそれだけの価値があると思っています。」
(“スパー家政婦” 周さん)
「スキルを生かし
雇い主の悩みを解決することは喜びです。」
“スーパー家政婦”になれば高収入が約束される。
家政婦はいま若者たちの間で注目されている。
河北師範大学では需要を見込んで2019年に家政学部を新たに開設した。
(講師)
「湯飲みのお湯を捨てる時は上に持ち上げてから捨てます。」
約70人の学生が
掃除や洗濯といった家事から妊婦のケアや高齢者の介護など
幅広い専門的なスキルを学んでいる。
「シーツの折り目がこのようにまっすぐになるように。」
(学生)
「もっと勉強して
若い力で家政婦業界を引っ張っていきたいです。」
(河北師範大学 家政学部 王副学部長)
「高い技術を持った人材はまだまだ足りていません。
優秀な人材を育成し
家政婦業界をさらに発展させていきたいです。」
これまでは掃除や洗濯で家庭を陰で支えてきた家政婦。
家庭のにニーズが多様化するなか
進化を遂げ
需要がますます高まりそうである。
2021年2月9日 NHKBS1「キャッチ!世界のトップニュース」
一昨年 政府に対する大規模な抗議活動が行われていた香港。
しかし
去年6月に施行された反政府的な動きを取りしまる香港国家安全維持法により
民主派の活動家が次々と逮捕されるなど
抗議活動がほとんどできない状況になっている。
“新たな法律は社会の安定をもたらした”と
中国・香港の政府が胸を張るその影で
市民の失望感は深まる一方である。
そんな香港市民の思いが込められた本がいま反響を呼んでいる。
去年11月
古い住宅が立ち並ぶ街の一角で開かれた本の展示会。
「100人の物語」と題され
真っ白な表紙の本100冊が並んでいる。
抗議活動を経て感じる無力感や将来に対する不安など
100人の普通の市民の思いが吐露された
市民ひとりひとりが主人公の小さな物語である。
(本より抜粋)
香港国家安全維持法やコロナ禍
さまざまなことが起き
心が病みました
「読めば読むほど打ちひしがれます。
でも“じぶんだけじゃないんだ”と感じられます。」
「“香港には希望がないが香港人には希望がある“
という言葉がありました。
無力感はありますが
頑張ろうと思えます。」
訪れた人は2週間余で2,200人。
入場まで1時間待ちという日もあった。
展示会を開いたのはアーティストの含畜さん(33)。
友人とともに市民100人にインタビューし
それぞれの物語を1冊ずつ本にまとめた。
(アーティスト 含畜さん)
「予想以上の反響です。
抗議活動が落ち着き
自分の気持ちと向き合い始めたのです。」
6年前から創作活動を行なう含畜さん。
白い背景に
黒いサインペンで無表情の人を描くのが特徴である。
「100人の物語」のアイデアは
激しい抗議活動が続いた香港の人たちを癒したいとの思いから生まれたという。
(アーティスト 含畜さん)
「みんな まず自分の理念を夢中で話し
次に抗議活動
そして日常を語ります。
私は日常の話を採用しました。
彼らの生活や
どんな問題に直面しているかということを伝えたいのです。」
本になった1人 林さん(41)。
音楽や映画に関わる仕事を続けながら
自分でも映画を撮りたいと準備を進めているが
今の香港では思うように表現できないと感じている。
香港で創作活動は不可能だと思いました
仕事をする私は死んだも同然でした
「これはヘルメット
あとゴーグルを使いますがあまり有効ではありませんでした。」
林さんは一昨年以降 抗議活動に熱心に関わってきた。
しかし自分たちの意見を聞き入れようとしない政府の態度に失望し
そのうえ抗議の声を押さえつけようとする法律にも怒りを募らせていた。
(林さん)
「これほど大きな圧力がかかると将来の展望を失います。
半年後の自分や
社会がどうなってほしいのか
わからなくなりました。
これが一番心が折れます。」
含畜さんと同じように香港の人たちの心の内を表現したい。
林さんはそのためには香港を離れることもいとわないと考えている。
香港を離れることと
みんなだ闘うことは
相反しないと思いました
これは一時避難なのです
自由を味わった人はー
理念を譲ることはできません
行き場のなくなった市民の思いをすくい取りたい。
含蓄さんは
香港の人たちがどんな思いで生活しているのか
多くの人に知ってもらいたいと話す。
(アーティスト 含蓄さん)
「抗議活動や新型コロナなど
皆さまざまな問題に直面しています。
かつての日常には戻れませんが
共に歩いている気持ちを伝えられたと思います。」
2021年2月7日 読売新聞「編集手帳」
NHK大河ドラマはひとつ前が「いだてん」で、
テーマは五輪と日本人だった。
続いて明智光秀の生涯をたどる「麒麟がくる」。
制作発表を聞いた頃、
変に納得した。
ゴリン、
キリンなんだと。
内心、
光秀で共感は広がるのかとも案じた。
謀反に及び、
主君・織田信長を討った男だ。
ただし、
動機は諸説入り乱れる。
歴史ファンは推理に駆られ、
しかるべき事情もあったかと思えば、
同情する向きも多いらしい。
信長から無理を言われ、
しかも辱められたからとの見方は根強い。
作家の菊池寛は
〈一生を悲劇に終始するやうに生れついた、
憐むべき運命の子〉
と記す
(「少年日本武将合戦物語」)
NHKは戦国の世をスマホに映し出す妙なミニドラマ「光秀のスマホ」も流していた。
信長配下のストレスとネット空間のそれを重ね、
笑わせた。
息苦しい上下関係がある限り、
日本人は光秀を愛するのかもしれない。
大河ドラマ本編は主要キャストの交代、
コロナによる撮影中断に翻弄され、
異例の越年に。
今夜、
ついに最終回。
麒麟が来るかどうかはともかく、
折から気になることがもう一つある。
五輪は来るのか。