昔、(私が中学生くらいだったから50年以上前)「赤ん坊は生まれてから一週間くらいはものが見えない」と言うのが定説だった。
その理由は「赤ん坊は目を開けていても外界の物事に対して眼球を動かし、追いかけようとしないから」と説明された。
「これは『赤ん坊はものが見えていない』という証拠である」
以前にも書いたように、生まれた瞬間、外気の中に放り出された赤ん坊はびっくりして身体を縮めるが、次の瞬間には身体を縮めた時に吸い込んだ外気の冷たさにびっくりして外気を吐き出そうとする。その際の「泣き声」を産声と言う。
この時には、まだ何が起こったか分からないからただひたすらに「びっくり(驚該)」だけで慌てふためいている。外気を吸ってびっくりし、泣き、息が切れてまた吸い、またびっくりして吐き出す。
しばらくこれを繰り返す(しばらく泣く)うちに外気や呼吸時の空気の冷たさに慣れる。慣れてしまうと泣き止む。哺乳と睡眠で「初めてのびっくり」の壁を超える。
「眼」は皮膚が感じた冷たさや初めての呼吸で驚いた時ほどの刺激は体験しない。だから、一週間ほどで眼球が色んな物事に興味を示し活発に動き回る(見る)ようになって、「あ、目が見えるようになったんだ」と周囲は判断する。
実際はただ「見える」から、意図的に「見る」行動を取るようになった(学習した)だけで、そしてそれは身体に刺激をもたらすわけではないから、赤ん坊にとって特別大事なことではない(「驚該」の範囲外)。
周囲の大人はそれを外見から判断するしかないから「あ、目が見えるようになったんだ」と判断をする。「見えて」は、いたのだ。「見よう」という意思は一週間近くかかって形成されたということだ。
数日で身体の内外が外気に慣れた頃、「見える」外の景色を「見る」余裕が生まれる。生まれた瞬間から「感情」を身に着けるための学習は始まっているということであり、その結果が一週間後の「見る」という意思の形成になっている、ということになる。
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「パンばかり食べているとバカになる」は、本当だ。
日本敗戦の朝、米国人がどやどややってきた。
今もそうだけれど彼らは日本人に比べてかなり知的レベルは低い。
例えばGHQスタッフのレオン・ベッカーは、日本は米国に比べ遅れていて、だからまだ奴隷がいると頭から信じていた。
彼はさんざ探して北海道の炭鉱をタコ部屋という名の奴隷工場とみなし、警察を使って「1万3000人の奴隷を解放した」(週刊新潮編集部『マッカーサーの日本』)。
彼らは24時間働かされていた、立派な奴隷だったと彼は報告したが、当時は黒いダイヤのブームだった。昼夜三交代で夜も掘っていた。
現にこのタコ部屋摘発のあとGHQは「石炭増産のために24時間操業をせよ」(同)と指令している。
俄かに奴隷にされた炭鉱夫も吃驚(びっくり)しただろう。
米国人はまた日本語の読み書きも文化が遅れた一因と見做した。
だってアルファベット26文字の米国人の識字率はやっと60%台。日本人は1万以上の漢字に仮名とアルファベットも使っているから「日本人の85%は新聞が読めないだろう」(同)と推測した。
「それが日本の民主化を遅らせている」「まずローマ字化し、ゆくゆくは英語化すべきだ」と。
そんなバカな連中を諭すため文部省は昭和23年、子供から老人までを対象に全国規模の日本語読み書きテストを実施した。
結果は識字率98%。担当したGHQ将校ジョン・ベルゼルが「識字率を攻めて米国人並みに改竄してくれないか」と日本側に哀願した話が残っている。
米医学会も低レベルで新生児は「生後二年半は植物状態」と信じていた。
だからGHQの医療担当官は早い時期から添い寝する母子を見て驚愕する。
添い寝は危険で不潔だからとGHQは産院に母子分離を命じ、ために不幸な取り違え事故が何十件と起きた。
母子添い寝が赤ん坊の情緒安定にいい影響があることを米国人が知るのは80年代にWHOが公認してからだ。
(続く)
新潮文庫
「変見自在 トランプ、ウソつかない」
高山正之著 より