宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

重元素が超新星爆発で作られるシナリオは“r過程”にあった

2015年07月08日 | 宇宙 space
理化学研究所などの研究チームが、
中性子を大量に取り込んだ原子核110個を人工的に生成し、
その寿命(半減期)を高精度で測定することに成功しました。

このことは、爆発的天体現象で金やウランなどの重い元素が一気に作られる、
“r過程”を解明する重要な鍵になるようです。
超新星爆発から、さまざまな重元素が形成・放出される(イメージ図)。


重元素を作り出す“r過程”

自然界に安定して存在する元素で、鉄よりも重いものの約半数は、
超新星爆発で合成されると考えられています。

高温高密度の環境で、
原子核に取り込まれた中性子がベータ崩壊して陽子に変わり、
金やウランなどの重元素になります。

急激に進むこのプロセスは、
rapid(高速)の頭文字をとって“r過程”と呼ばれています。

ただ“r過程”は、
超新星爆発ではなく中性子星合体で起こるという説もあるんですねー


原子核の寿命

その時間スケールや重元素の生成量を理解するためには、
原子核の寿命(半減期)を知ることが重要になります。

でも、“r過程”で生成される中性子過剰な原子核を、
人工的に大量生産することは難しく、寿命の測定は困難でした。

そこで理化学研究所の研究チームを中心とする国際共同研究グループでは、
埼玉県にある重イオン加速器施設“RIビームファクトリー”を利用。

ルビジウム(原子番号37)から、
スズ(原子番号50)までの中性子過剰な原子核を生成し、
原子核110種の寿命の測定に成功したんですねー

そのうち世界で初めて寿命が測定されたものは40個。

この結果から、
特に“r過程”による重元素の合成過程において、
鍵を握る銀やカドミウムなどは従来の標準理論予想より、
30~35%程度速く崩壊することが、明らかになりました。


超新星爆発の元素合成シナリオと一致

さらに、今回得られた高精度のデータを“r過程”の理論計算に取り込み、
実際に観測される太陽系や、金属欠乏星(重元素が少ない古い星)の組成比と比較。

すると、超新星爆発における元素合成シナリオと、
矛盾しない結果が得られたんですねー

これまで“r過程”で生成される重元素の存在比には、
普遍性があると考えられていました。

ただ今回の測定でも、それが示された元素がある一方で、
一部の元素では、“r過程”の時間スケールによって、
生成量が大きく変わることも分かることに…

このことは、
「重元素存在比の普遍性が、当てはまらないケースがある」
ことを示す最初のけっかになり、
今後の観測での検証が待たれることになります。

今回の測定や、実験で得られた他のデータは、
“r過程”のシナリオと、そのメカニズムを特定する上で重要なものです。

今後、核構造や元素合成の解明に関する、
多くの成果が得られることが期待されますね。


こちらの記事もどうぞ ⇒ 金やプラチナは、中性子星の合体で生成された?

トラブル前の最新画像が公開。 冥王星探査機“ニューホライズンズ”

2015年07月08日 | 冥王星の探査
冥王星に向けて航行中の探査機“ニューホライズンズ”がとらえた、
冥王星の最新画像が公開されました。
冥王星の白黒画像。
下のイラストは冥王星の北極と赤道、子午線を示している。


鮮明に見えるほど謎が増えていく

画像はトラブルが発生する前に撮影されたもの。

上の画像の左は7月1日に1490万キロの距離から、
中央と右の画像は7月3日に1350万キロと1250万キロの距離から、
望遠撮像装置“LORRI”で撮影されています。

左の画像で、表面の右側に見える巨大な明るい領域は、
7月14日の最接近時に、クローズアップ観測されるそうです。

赤道の周りにある、
黒く帯状に広がっている部分の全体が見えているのですが、
なぜ黒くなっているのかは、まだ分かっていないんですねー

また、この黒い部分の東側は、
明るい部分との境界がくっきりしているのに対して、
西側は途切れがちに続いています。

この部分は、
今年6月下旬に“ニューホライズンズ”による観測で、
初めてとらえられたもの。
今回の画像でより鮮明に見えるようになっています。

段々に続く黒い部分は、1つあたり数百キロほどの大きさがあるんですねー
なぜこのようになっているか? こちらもまだ分かっていません。
望遠撮像装置“LORRI”による白黒の観測データに、
可視光と赤外線撮像装置“Ralph”によるカラーデータを
合成して作成された冥王星のカラー画像。

色のついた画像は、7月3日に“LORRI”で撮影された白黒画像に、
赤外線撮像装置“Ralph”で得られた色の情報を足して、
カラー画像として加工されたものです。

全体的に茶色く、まだらになっている部分や、
黒い領域も見えています。


そしてメインイベント最接近へ

“ニューホライズンズ”は最接近を10日後に控えた今月の4日に、
一時的に通信が出来なくなるという問題が発生しています。

今回の写真は、その前日に撮影されたものなんですねー

その後、問題の原因が突き止められたので、通常の運用に戻ることになっています。
最接近時の観測には影響はないそうです。

9年間にわたって宇宙を航海し続けた“ニューホライズンズ”が、
冥王星に最接近するのは、約1週間後の日本時間7月14日20時49分57秒です。

このときの観測では、より高精度の画像が撮影できるので、
謎の解明に期待が持てますね。


こちらの記事もどうぞ ⇒ 冥王星の観測は問題なし! ニューホライズンズは7日に完全復旧