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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

中尾山・茶臼山ハイキング2011(妻女山里山通信)

2011-10-25 | アウトドア・ネイチャーフォト
 10月23日(日)は、川中島町の中尾山・茶臼山ハイキングのインストラクターをしました。友人のN氏が事務局長を務める「茶臼山トレッキングコース愛護会」が整備をしている約8キロ弱のコースです。当日は、雨の予報もあったのですが、曇りから晴れ間も出るまずまずの天気。秋の訪れが遅かったので、昨年に比べると紅葉は始まったばかりでしたが、タイミングが良かったのか途中でキノコを採った人が続出したのには驚きました。

 私が担当したのは「一本松コース」で、黒木学園--松仙閣--登山口--ろくろう坂--山の神--一本松--アルプス展望台--旗塚分岐--植物園--恐竜公園--交流会場というルートです。黒木学園から中尾山に向かってリンゴ畑の道を真っすぐに登って行き、松仙閣(日帰り入浴もできる温泉旅館)の前を左へ橋を渡ると、登山道入り口です。ここから一本松の峠まで約1時間が登り、あとは尾根伝いにあまり高低差のない林間の道を歩きます。今回は前日の雨で滑るので茶臼山山頂はパスすることになりました。まあ登っても眺望もないですしね。これが茶臼山の弱点といえば弱点です。切り開きが無理なら展望台が欲しいところですね。
 北アルプスが見える唯一の展望台からは、仁科三山(爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳、五竜岳)の中腹だけが見えました。晴れていれば右に白馬三山まで見えるので、ぜひ晴天の日にまた登って欲しいものです。

 キノコを採ったひとが大勢いたので鑑定をしました。ナラタケ、ムラサキシメジ、ムキタケ(カタハ)、クリタケ。そして、ジコボウ(ハナイグチ)と言っていたのは、落葉松林ではなく赤松の混合林だったので、おそらくヌメリイグチ。それから、皆さんがシロシメジと言っていたのは、シロノハイイロシメジでした。このシロノハイイロシメジは、当地ではけっこうたくさん生えていて、昔から食べている人が少なくないのですが、毒性があるので保健所では食べない様に指導しているキノコです。皆さんにはその旨を伝えました。昔から食べ続けている人は、まあ仕方がないということで。

 茶臼山山頂へ寄らなかったこともあり、予定より早くみな下山して交流会場に着きました。昼食後はインストラクターの講演です。私は「茶臼山の自然」というテーマで、四季で見られる花や果実、昆虫やキノコの話を、プリントアウトしてきた写真を提示しながら説明しました。世界三大毒キノコのうちドクツルタケとシロタマゴテングタケの二つが茶臼山にあるというのは受けたようです。ちなみに、最後のひとつはタマゴテングタケです。テングタケ科のキノコは猛毒のものが多いのですが、欧州の絵本には必ず登場するのがベニテングタケ。上田や菅平では、ベニテングタケを湯がいて冬まで塩漬けにし、流水で洗い流しながら塩抜きをして食用にする習慣が昔からあります。ただし、微量とはいえ肝臓に溜まる毒性分も含まれるため真似しない方がいいでしょう。ついでですが、クリタケも近年微量ですが毒性分が見つかったとして、欧州では毒キノコの仲間入りをしてしまいました。過食は禁物ということでしょう。

 展望台では、キノコの汚染状況と除染についてもお話ししたのですが、長野県が高濃度汚染地帯と世界から認定されているという事実を知らない人が多いのには驚きました。参加者には、キノコ汁の他に共和のリンゴ、秋映と長野牛乳がふるまわれ、大好評だったようです。しかし、原発事故以降、全ての食物に猜疑心を持って望まなければならなくなったことに、激しい憤りを覚えます。人類は長い歴史の中で、食べられるものと毒のものを選り分け、安全な食生活が営める様に時間を費やしてきたのです。それを原発事故が一気に原初の状態に戻してしまったともいえるのです。これからは、なにひとつ無意識に、無防備に口にしていいものは、何一つないことを肝に銘じないといけません。内部被曝は、非常に深刻な問題です。「気にしない。気にしてもしょうがない。食べて助ける」という人から淘汰されていく非常に冷酷な運命を、我々は背負ってしまったのです。

 茶臼山の中腹にある恐竜公園の交流会場からは、善光寺平が一望できます。そして正面に見える百名山の四阿山が、福島第一原発からの放射性物質をブロックしてくれて、この篠ノ井、屋代、松代は奇跡的に高い汚染から免れたのです。それをお話ししました。しかし、まったく汚染されなかったわけでもないと。半減期というのを説明する時間はありませんでしたが、半減期をもってしても、人間が注意を払い続けるには余りにも長過ぎる時間です。核種によっては、ほぼ永遠と同じ。やはり、原発=核発電は、人類が手をつけてはいけない技術だと思うのです。原子力で動く鉄腕アトムは、結局彼の母である核融合の太陽へ還って行くしかなかった。同じ様に原子力で動くどらえもんも同じ運命を辿るでしょう。我々人類は、原子力とは手を切るべきです。原子炉は太陽だけでいい。

 来年のハイキングが実施できるかは分かりませんが、もしできるならば、茶臼山に棲息する国蝶オオムラサキについてお話ししようと思います。善光寺平周辺の山には、たいていどこにもオオムラサキはいるのですが、里の人はほとんど知りません。それは、暑い夏に発生することと、彼らが山中にいて決して里には下りて来ないことに起因します。ですから、彼らに会いに行くには、蒸し暑い中を汗をかきながらオオスズメバチや蛇や熊、鬱陶しいクロメマトイのいる山に登らなければなりません。でもそこには、市街地にはない里山の豊かな自然の営みが見られるのです。その魅力を伝えたいと思います。

 また、里山はその地域の郷土史とも密接な関係にあります。電気やガスがなかった頃は、里山が命をつなぐ元でした。里山がなければ人は生きられなかった。神は山にいて下って水の神になった。現在の害獣問題や過疎問題は、そういう人と密接な関係にあった里山を忘れたツケとして、現在我々にのしかかっているとも思えるのです。経済効率からだけ里山を見ると必ずしっぺ返しをくらいます。それが現在の状態なのではないでしょうか。今必要なのは里山に対するリテラシー(読解力)だと私は思っています。そして、それを養うには知識だけではだめで、実際に色々な角度から里山に馴染むことが重要だと思います。ただ登るだけでなく、写真を撮るとか、工芸の材料を集めるとか、昆虫採種、山菜採り、俳句、絵画などなど。なんでもいいから山中に滞在すると、色々なものが見えてきます。

 知り合いに、同じ里山に毎週の様に登る人がいます。季節のゆっくりとした、しかし確かな移ろいが見えてくると言っていました。大きな風景や樹木だけでなく、センブリやゲンノショウコのような小さな花。粘菌やイヌセンボンタケのような小さな生物。コナラやミツバアケビの実生。ザトウムシ。小さなものに目をやると、一本のブナの大木には4000種類の生物がいるという、里山の途方もない複雑な構造の一端が見えてきます。

◉この中尾山や茶臼山も掲載の拙書『信州の里山トレッキング東北信編』川辺書林が発売中。平安堂やAmazonで。カラー668枚の写真と分かりやすいと評判のコース地図とガイド。初心者からベテランまで38山、74コースを収録。信濃毎日新聞の記事と書評に次いで新潮社『SINRA』の本のコーナーでも高い評価を頂きました 。2015年7月10日初版

★【MORI MORI KIDS(低山トレッキング・フォトレポート)】茶臼山トレッキングは、2009年に三本あります。キノコの汚染と除染については、このブログの二つ前の記事をご覧ください。

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★ネイチャーフォトのスライドショーやムービーは、【Youtube-saijouzan】をご覧ください。粘菌や森のあんずのスライドショー、トレッキングのスライドショーがご覧頂けます。冠着山アップしました!

★ネイチャーフォトは、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。キノコ、変形菌(粘菌)、コケ、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、森の動物、特殊な技法で作るパノラマ写真など。
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